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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第63章 多生の縁編

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第1262話 墨染の女

 戦いの後。弥生は桜へと戦いの最中であった、一つの出会いを語り始めていた。それは、ソラ達を巻き込んでのものだった。


「どうすっかね……」


 ソラは果心を見据えて、攻略方法を考える。厄介なのは迂闊に近寄れない事だ。ソラ達にとって、近接戦闘ができないというのは致命的だ。基本、彼らの主力は近接戦闘だ。

 が、果心に近づけば<<墨染の桜(すみぞめのさくら)>>によってバフを消される。それは致命的だ。特に格上を相手にするのにバフが無いというのは拙い。格上とはまともに戦って勝てないからこその格上だ。


「ふふ……」


 それに対して果心は妖艶に微笑むだけだ。彼女には焦りも何もない。待ち構えるだけだ。が、そんな彼女の周囲には墨染の桜の花びらが舞い踊っており、もし彼女が扇子を翻すと、それだけで敵へと襲い掛かるだろう事を察せられていた。


「……これ、切った方が良いかしらね」

『やめておけ。精神的な高揚感は消せておらん。そちらが消えて潰走すると厄介では済まんぞ』


 弥生の呟きに八咫烏は苦い顔で首を振る。ただでさえ戦闘力の減少という厄介な事態に成りかねないのだ。普通なら、それだけで潰走してもおかしくはない。八咫烏の加護とでも言うべきこのバフ効果は冒険部にとっては切り札に等しい。それが封殺されるというのは、十分に潰走しても可怪しい話ではなかった。


「そう……にしても本当に厄介ね」

『ふむ……確かに厄介であるが……』


 八咫烏は果心を見据えながら、少しだけ眉をひそめる。確かに厄介は厄介だ。が、攻撃力は皆無に等しい。どれだけ守りが固くとも、攻撃出来なければ敵は倒せない。

 もちろん、これだけの術者だ。攻撃系の魔術は常備していると見て間違いはない。が、それにしたって今もって攻撃しないのは疑問が残る。何かを企んでいると考えて良いだろう。


『小娘』

「なぁに?」

『万が一に備えて、お主の過去世とやらを展開出来る様にしておけ』

「いやね、その展開は……」


 八咫烏の助言に対して、弥生は顔を顰める。確かに最適は最適だが、この場には久秀もカイトも居る。そんな事をすれば確実に気付かれてしまう事は請け合いだろう。出来るだけ、やりたくはなかった。と、そんな弥生の心情をもちろん、八咫烏も見通していた。


『はぁ……人の子は色恋沙汰が絡むと途端に物分りが悪くなる……が、仕方があるまい。幻術は薄く展開してやろう。あれとて現状では気付くまいよ』


 八咫烏は無数の魔弾の応酬を行う久秀とカイトを見る。どうやら久秀も何か特殊な事が出来る様になっていたらしい。カイト自身が本気で戦えないという事情を差っ引いたとしても、平然には程遠かろうと応対可能だった。


「信じるわよ。もし無理だったら、後でヒメちゃんに言いつけるから」

『好きに致せ』


 弥生の言外の応諾に八咫烏が肩を竦める。とりあえず応じてくれたのなら、それで良い。バレたらバレた時だ。約束を破った事には他ならない以上、後は好きにさせれば良い。


「さて……じゃあ、ソラくん!」

「なんすか!」

「こっちで万が一には備えてあげるから、思いっきりやりなさい!」

「……うっす!」


 弥生の言葉にソラは少しだけ、考える。とはいえ、実はこの時の彼には一つ考えていた事があったのも事実だ。しかしそれを試すには、指揮官という立場が邪魔になる。が、それをしなければならないタイミングでもあった。やるしかないというのもまた、事実であった。


「じゃあ、やるか! 全員、敵から距離を取って桜の花びらには注意! 試したい事がある!」

「行けるのか!」

「わかんねぇから、やるんだよ! 結果次第って所!」


 ソラはギルドメンバーの言葉にそう答えを返す。わかっていれば最初からそれを指示している。わからないからこそ、己が身を挺してやるのである。そうして、ソラが気合を入れる。


「うっし! すんません、一応、手加減しますけど、痛かったらマジすんません!」

「あら、あら……」


 ソラの謝罪に果心が楽しげにコロコロと笑う。殺し合いをしている相手に謝罪だ。お人好しと言えば良いのか馬鹿と言えばよいのか、判断は分かれる所だろう。とはいえ、ソラにしてみれば相手は敵でも女性だ。そして根っこは地球人の彼である。妙なフェミニストの様な感覚があっても仕方がない。その一方、ソラは総身に力を入れて、目を見開いた。


「<<風よ>>」


 ソラは小さく口決を唱えて風の加護を起動させると、それを放つではなく鎧の各所に纏わりつかせる。自分にしかわからない程に薄くだが、同時に自分を中心とした極僅かなエリアでは強力な力を持たせた。

 果心はあの花びらを風で操っていた。であれば同じ風ならば吹き飛ばせるかもしれない、と考えたのである。そうして、密かに竜巻にも似た力を纏ったソラは一気に地面を蹴って、花びらが舞い踊る桜吹雪の中に突入した。どうやら単に数枚だけだと八咫烏の加護の力が上回っていて、効果が失われる事は無いようだ。


「あら……無策というわけではなさそうですね」


 果心はそんなソラを訝しみながらも、先程と同じ様に扇子を操って風を手繰る。そうして、再び桜の花びらを集めて今度は自身を覆い尽くす様に分厚い壁を作り出した。


「さぁ、無策に突っ込めば力は失われる。如何なさいますか?」


 柔和で妖艶な笑みで、果心は問いかける。相手はもちろん、一見すると無策にも突っ込んできているソラだ。そんなソラは問いかけに答える事はなく、そのまま一気に墨染の桜の花びらで出来た壁へとタックルを繰り出す。


「おら! っ!」


 一瞬、嫌な感触がソラの身を襲う。が、それと共に一気に風の加護を最大に展開して、彼の身体に纏わり付こうとしていた桜の花びらを吹き飛ばした。ソラの想像通り、一枚だけで力を奪えるという事は無いようだ。流石に神の力がその程度とは思えなかったソラの推測であったが、正しかったらしい。


「吹き飛べ!」

「あら……風の加護を持っていた事は存じ上げておりましたが、まさかここまで使いこなせていたとは」

「おっしゃ! やっぱか!」


 ソラは己の目論見が当たった事で笑みを浮かべる。これなら、少なくとも風の加護を持つ者達は普通に突っ込んでも大丈夫そうだ。であれば、その者達を中心として戦術を構築するだけだ。


「風の加護を持つ奴が先頭! それ以外の奴は周囲の魔物の相手をしながら、援護を!」

「「「おう!」」」


 ソラの言葉に冒険部のギルドメンバー達が頷いた。別に加護を持つ者が彼一人というわけではない。確かに多くは無いが、それでも冒険部はカイトの兼ね合いもあり組織としての加護持ちの所属数は平均的なギルドよりは多い方だ。それ故、ソラ一人が突破口となる必要もなかった。


『ふむ……立て直したか』

「そう……みたいね」


 ソラを起点として立て直しに成功したのを見て、八咫烏と弥生が僅かな安堵を滲ませる。これでとりあえずもしバフが消え去っても、潰走は避けられるだろう。潰走というのは決定的な敗北が見えた時に起こる現象だ。少しでも勝機が残っているのであれば、後は指揮官の腕次第と言う所である。それを考えれば、今回のソラは悪くなかった。


「あらあら……どうしましょう」


 そんな冒険部一同に対して、果心は相も変わらず余裕の笑みを崩さない。これが素なのか否かは誰にもわからないが、少なくとも余裕は見え隠れしていた。そして、これは素ではなく単に負けると思っていないからだった。


「さて……」


 あれで引いてくれればよかったのだが。果心は内心でそう思う。実のところ、果心は冒険部と積極的に戦いたくはなかった。単に義理や仕方がなく戦っているだけだ。

 というよりも。彼女に戦うつもりは無いと言っても良い。彼女とて彼女の理由で久秀、ひいては『死魔将(しましょう)』に協力している。そして彼らの依頼は時間稼ぎ。カイトを怒らせろだったり、カイトの大切な物を破壊しろ、という事ではない。そもそも彼らの目的の一つはカイトの成長。激怒しては成長の芽を潰す事にもなりかねないので、慎重を期して行う事になっていた。

 つまり、彼女からしてみれば別に殺す必要はどこにもないのだ。カイトが少し後に明言していたが、石舟斎も果心もどちらも冒険部の子供を殺すつもりは皆無だったのである。

 まぁ、これは冒険部がその程度の存在と思われていたからでもある。が、事実は事実。故に、ソラはここで致命的なミスを少なくとも一つは犯していた。


「おし! 全員、俺に続け!」

「「「おう!」」」


 ソラは石舟斎と戦う面子を除く全員に号令を掛けると、自らが先頭に立って突撃態勢を整える。彼がやることは一つ。風の加護を使って味方に迫りくる墨染の桜の花びらを吹き飛ばす事だ。

 これは数ヶ月の基礎訓練で莫大な量の魔力保有量を得た彼こそが適役で、彼のモットーである壁役という立場の本領発揮が出来る所でもあった。が、それ故にこそ、彼の致命的なミスだった。


「行くぞ!」


 ソラが地面を蹴る。それに対して、果心は再度桜の花びらで出来た壁を編み出した。


「ふふ……」


 突っ込んできたソラを見ながら、果心が笑う。それにソラは一瞬、背筋に嫌な予感がした。が、もう止まる事も出来ない状態だ。彼一人ならまだしも、後ろの仲間は止まれない。このまま突っ込むしか手は無い。


「っ……<<風よ>>!」


 やるしかない。ソラは迷いを振り払うと、意を決して力を込めて風の加護を最大限に展開する。そして、それと同時。ソラは目を見開いて膝を屈した。力の行使の直前に唐突に性能が変化した事で身体に違和感が生じて、まともに力を行使出来なくなったのだ。

 そしてその影響もあり術技の発動の失敗の反動で力が抜けてしまった、というわけである。暴走しなかっただけ、儲けものと言う所だろう。


「あ?」

『何!? どういう事だ!?』


 膝を屈した己に困惑するソラに対して、驚いたのは八咫烏だ。ソラは確かに、全てではないものの一瞬は桜の花びらを吹き飛ばした。それに間違いはない。そしてこの直前までは確かに、ソラには彼の守護が効いていた。だというのに、唐突にソラから力が失われたのだ。どう考えても、道理にそぐわなかった。


「ふふ……何も私は桜しか描けぬというわけではありませぬよ」


 果心は困惑する八咫烏に対して、柔和に微笑んだ。そうして、彼女の眼の前を墨染の蝶が通り過ぎる。これがソラの身体にへばり付いていて、彼から力を奪ったのである。


『蝶……? いつの間に!?』


 果心が筆を手に取った様子はどこにも無かった。だというのに、墨染の蝶が墨染の桜吹雪の中を何匹も舞い踊っていた。


「一度目の突撃の時です」

『あの時か! あれは目くらましも兼ねたのか!』


 あの瞬間、果心の姿は完全ではないもののはっきりとは見えない程に桜の花びらで出来た壁の中に埋もれていた。それで彼女が手に持っていた物が扇子か筆か、という見極めは非常に難しい。ソラが無策ではない可能性を考えて、万が一に備えて新たに墨染の蝶を生み出しておいたのである。

 後は、ソラが突っ込んできて墨染の桜吹雪が吹き飛ばされたと同時に潜ませておいた墨染の蝶を彼の背中にへばりつかせて、然るべきタイミングで発動させるだけだった。


「彼のミスは二つ。指揮官であるにも関わらず初対面の敵に突っ込んで来た事と、あのまま攻め込まなかったという事です」

『……』


 言わんとする事は確かに道理だ。前者は言い訳のしようがない――敢えて言えばカイトに影響されてしまったという程度――が、後者はあのまま攻め込む事も出来たのは事実だ。

 そしてそうしていれば、後に続く者達も壊滅という被害は避けられた。よしんばソラの脱力が後だとしても、他の面子のバフの解除は避けられる。足並みを揃えようとしたのが、彼のミスだった。


『小娘! 仕方がない! 我が全員を下がらせる故、その間はお主が手を出せ!』

「しょうがないわね!」


 流石にこうなっては弥生もやるしかないと腹をくくる。もうバレたらバレた時だ。後は覚悟を決めて、カイトに打ち明けるだけだ。

 どうせここまで長々と長引かせていたのは、かつて帰蝶と呼ばれた女がウジウジと悔やんでいるからというだけだ。弥生としては明かしても問題はない。敢えて言えば、気恥ずかしいと言う程度だ。


「さぁ、覇王の代理として命じましょう! <<大火・覇王の墓(ほんのうじ)>>!」


 弥生は冒険部を守る為、己の過去世を呼び出す。が、それこそが、果心の望みだった。


「ああ、それは駄目です。私にだけは、通じません」


 まるで、恋い焦がれる様に。果心がそう呟いた。そうして、どういうわけか弥生の<<原初の魂(オリジン)>>がキャンセルされることになるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1263話『もう一人の女』

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