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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第63章 多生の縁編

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第1258話 カイト防衛戦

 遠く。遠く過去の事だ。カイトがカイトではなく、『もう一人のカイト』として世界中を巡って世界に起きた異常の解決に乗り出していた頃の話だ。その月日は宇宙の一生が瞬く間に感じる程、長い月日だった。と、そうなると当然、その当時の彼でさえ倒せない様な化物達と無数に戦う事になった。


「っ! これも、駄目か! 星一つを余裕で吹き飛ばす一撃だぞ!?」


 ある時、そんなカイトが戦っていたのはありとあらゆる攻撃を吸収して反射してしまうある意味では無敵の存在だった。吸収の許容量は非常に高く、その当時のカイトでもやはりどうする事も出来なかった。


「ちぃ!」


 カイトが舌打ちする。が、勝たねばならない。このまま放置していれば、いつかはこの宇宙を、この世界全てを滅ぼしかねない。


「神格解放!」


 カイトはかつての肉体に宿っていた神の力を解放する。半神半魔。それが当時の彼の肉体だった。それ故に何かを司った訳では無いが、それ故にこそ、並みの神以上の性能を持ってもいた。


「行くぜ」


 神としての己の力を解放して、再度魔物へとカイトは突撃して行く。負けられない。その想いだけが、彼を立たせている。負ければ世界が、いや『世界』が壊れるのだ。そこに生きる者たちを守る為、数多の罪を犯す事を決めた彼にとって、それは許容出来る事ではなかった。


「はぁ……はぁ……」


 戦いは、カイトの勝利で終わった。幾つもの星を食らおうと、幾つもの星を滅ぼそうと、これは過去。最後には世界のシステムが修繕され改修されている。だから、それは確定している。


「……今で、何年が経過した……?」


 激闘を終わらせたカイトが息も絶え絶えと言う具合で、誰ともなく問い掛ける。超光速で戦っていた。そしてこの当時は時乃がいなかった。つまりは、時系統魔術は存在していない。相対性理論に基づいて、とんでもない時間が流れていた。


「数年か。まだそこそこという所だったか……」


 カイトは僅かな安堵を滲ませる。二度と立ち寄らない世界だとは思っている。が、それでも僅かな時間で長い年月が経過すれば、悲しくはあった。


「お前らは、何を思ってこんな奴を創ったんだ……?」


 カイトは僅かなやるせなさを滲ませながら、何処かの星の残骸を見る。こんな光景を山ほど見てきた。自分達の技術に驕ったのか、それとも誰かが意図的に滅ぼしたのか。それはついぞ彼には分からない事だった。誰かが生き延びてくれていれば、と思うだけだ。


「……」


 誰も居ない宇宙の虚空の中で、カイトは虚しさだけを残してその場を離れていく。何一つとして、残っていなかった。彼はそんな戦いを無数に繰り返した。そんな中で、もっとヤバい敵と戦う事があった。


「なんだ、こいつ!?」


 あまりの不可思議さに、カイトは思わず笑いが出た。が、その笑いは決して楽しいが故に出たものではない。もう笑うしかないから出た、ある意味では絶望的な状況に感覚が麻痺したが故に出る笑みだった。


「斬っても突いてもぶっ叩いても粉微塵にしても消し飛ばしても全部無効化!? なんだそりゃ!? まーた無敵系ですか!? もう止めてくれませんかね!」


 今回の相手は、敢えて言えば彼の言う通り無敵系の敵だった。まぁ、無敵系と系統に分けて言うように、カイトはこういう相手と何度も何度も戦っている。それこそ、両手の指では事足りない程だった。

 そしてそれ故、彼はそう言う無敵の存在にも幾つもの種類がある事を見抜いていた。それ故、彼は無敵系、と言い表していたのである。と、そんな中でも今回の敵はひときわ、やばかった。


「ちぃ! 神格解放!」


 カイトは己の中に眠る神の力を解放して、敵へと応戦を決める。とはいえ、それでも足りなければ、更に覚醒を進める事にしていた。


「これでも駄目だと!? なら! 双龍紋(そうりゅうもん)解放! 魔龍覚醒! 神魔(しんま)融合!」


 これが、彼に眠るもう一つの血。神と魔。その二つの血を受け継いだのが、その当時の彼だった。そもそも現代のカイトとはスペックシートからして違うのである。まぁ、その当時の彼もこの旅に出るまで自らの出生を知らなかったのだから、結局は一緒なのだが。

 これはカナンと一緒だ。使えても使える事を知らなければ、使えないのだ。と言ってもこの時にはすでに使えるわけで、そして使っている。が、今回はそれでも駄目な場合だった。


「っ!」


 わけがわからない。当時のカイトは圧倒的な戦闘力で敵を追い込んでいるはずなのに、何故か苦境に立たされていた。とはいえ、それも仕方がない。


「何故だ? 何故、復活出来る……?」


 ありとあらゆる力を叩き込んだ。敵は抵抗も出来ていない。一方的に、ある意味ではなぶり殺しにされていると断言しても良い。だと言うのに、どんな攻撃を叩き込んでも殺せないのだ。


「死を与えてもみた……消し飛ばしもした……中性子星をぶつけてやりもした……痛みを感じている様子はない。が、ダメージは入っていた……」


 カイトは敵を見据えながら、今まで己が叩き込んだ攻撃を思い出す。その大半がどこかの星にぶつければ簡単に吹き飛ばせる様な一撃だ。

 そして現に敵は何度も何度も吹き飛んでいる。構成する体組織どころか、魂の一欠片も残さずに消し飛ばされている。なのに、敵は死なない。今までの無敵系とは違う無敵系だった。そんな困惑を露わにする彼へと、『世界』達が情報を与えた。


『……魔法だ』

「……魔法? おとぎ話の、じゃないよな?」

『然り……その生命体の創造主たる魔法使いが我らを改変し、復活のコマンドを書き込んでいる』

「おいおい……」


 それは無理だ。世界のシステムとして自動復活されるのでは、どんな攻撃をしても無意味だ。本当に笑うしかない状況だった。が、何時までも笑ってもいられない。倒さねばならないのだ。そして倒してもらいたいから、カイトを呼び寄せている。だから、『世界』達も協力を惜しまない。


『奴を倒す力を授けよう……』

『それを使い、倒せ……』

「んなんあるんだったら最初に渡せ!」


 このタイミングでの申し出に、カイトは思わず怒鳴る。いや、これは彼でなくても怒鳴りたくなるだろう。とはいえ、その力を手に入れた彼はその後、魔法を使って不死身を手に入れた者達を相手にしても負ける事は一切なかった。

 それどころか、魔法を使い不死身になったと驕った者達だからこそ、カイトの一撃を不必要に受けてしまう。ある意味では、どんな弱者達よりも余裕でさえあった。そうして彼はその新たな力を手に、更に旅を続ける事になるのだった。




 さて、時は移り変わり、今のカイト。彼はダオゼを前に、それを思い出していた。


「……まぁ、やれるっちゃぁ、やれるんですが」


 あの力は一度与えられれば、失われる物ではなかった。所詮力というものは大半が技術だ。故に『もう一人のカイト』に授けられた『無敵殺し』ないしは『チート殺し』とでも言うべき力は、そのまま今のカイトにも残されていた。が、それは受け取ったのが『もう一人のカイト』である以上、今すぐに使えるわけではなかった。


「……しゃーない。やるっきゃないか。ソラ! 全員の指揮を取れるか!」

「あ!? まぁ、出来るけど! どうすんだ!」


 ソラは相も変わらず地下神殿に放たれた魔物の群れと戦いながら、カイトの言葉に応ずる。これについてはアルやルーファウス、瞬のフォローもありなんとかなっている。何より弥生によるバフもあるのだ。ランクB程度までの魔物なら、なんとか戦える様になっていた。


「少し時間を稼いでくれ! ご当主!」

「うむ! 総員、あの男に一気に打って出る! 彼が攻撃に入るまで時間を稼ぐ!」


 剛拳は鎮痛作用のある魔術によって強引に立ち上がると、武芸者達を率いてダオゼの食い止めに入る事にする。戦えなくても指揮は出来る。と、その一方のソラは驚きを露わにしていた。


「俺達が時間稼ぎ? お前のか?」

「そう言ってんだろ。お前らしか出来る奴居ないんだから、お前らに頼む」

「え、あ、お、おう……」


 ソラは平然としたカイトの言葉に、思わず呆気にとられる。カイトは勇者カイトだ。それが自分達を頼るなぞということがあるのか、と思ったのだ。が、だからこそ、ソラには何よりも己の成長を実感出来る事だった。


「なんだよ」

「いや、なんでもねぇよ」


 首を傾げるカイトに対して、ソラは嬉しげだ。やはり今までソラにはカイトの力になれない、というある種の負い目にも近い所があった。友人として、守られているだけというのは何か嫌だったらしい。


「ほーん……まぁ、良いか」


 そんなソラに対して、カイトは即座に切り替える。今はそんな事を気にしていられる状況ではないのだ。そもそもダオゼが妙な力を使ってきたが故に彼に掛かりきりになってしまっているが、武蔵は今も宗矩と交戦中だし、いつの間にか此方を楽しげに見ている久秀を除いて石舟斎や巴達全員が居なくなっていた。

 つまり、彼らにとってはこの流れは規定だったということだ。なにかを企んでいるとは思っていたが、やはり企んでいてこのタイミング、カイトが動けないこのタイミングを狙っていたのだろう。早急にダオゼを倒して、石舟斎らの対処に入らねばならなかった。


「じゃあ、頼んだ」

「おう! 全員、カイトを中心として輪形陣を組め!」


 ソラは今までの苦境がどこへやら、という具合で気合を漲らせる。そうして、彼は今まで培ってきた知識を総動員する事にした。


「アル、ルーファウス、一条先輩! 三人は三角形の頂点になるように移動! 俺が中心から指示を出します!」

「ああ!」

「わかった!」

「引き受けよう!」


 三者三様にソラの指示に同意すると、一気に三人が前線へと躍り出る。この三人が部内で一番の強者だ。であれば、この三人を如何にして上手く運用して、敵を討伐するか。それが守る上で肝要だった。そしてそれを横目に、ソラは更に指示を出し続ける。


「弥生さん! 弥生さんはカイトの横、輪形陣の中央! バフ頼んます!」

「わかった。万が一の場合には、こっちで支援もするわね」


 ソラの申し出を受けた弥生がカイトの横へと移動する。彼女は基本、<<布都御魂剣(ふつのみたまのつるぎ)>>を使って全体をフォローしてもらわねばならない。このバフが切れれば一気にきつくなる。ならば、やはり彼女もカイトに次いで守るべき存在だろう。


「さて……じゃあ、俺は俺のやるべき事をやるか」


 ソラは必要な人員に指示を出し終えると、やる気を漲らせる。彼がやる事は簡単だ。無数の盾を生み出して、全員を守るのである。そのためには、攻撃はしていられない。

 これは集団戦だ。全員で勝てば良いのであって、彼が活躍する必要はない。そして彼の役目は、カイトの代理。主力となる事ではなく、全体を指揮して全員が100%の力を出せる様にすることだ。


「やる気だな」


 そんなソラを見ながら、瞬が思わず笑みを零した。圧倒的な強者であるが故に誰かの役に立ちたいと思った事のない――思った時点ですでに役に立てる力があったからだ――カイトにはわからなかったが、瞬にはソラの気持ちが少し理解出来ていた。


『だろうね』

「まぁ……それが友情というものなのだろう」


 ヘッドセットを介したアルの言葉に瞬が笑う。カイトとソラが友人だというのは瞬も同意する事だ。であれば、やはり役に立ってやりたいと思うのが人情だと理解出来た。そして瞬とソラもまた、アルとソラもまた、お互いに友人だと思っている。その友人がやる気なのだ。二人も必然、やる気を漲らせた。


「さて……せっかくソラがやる気になっているんだ。俺も本気を出すか……力を貸してくれ」


 瞬はここに来るまでの間密かにずっと待機させていた豊久へと呼びかける。そしてその呼びかけを受けて、彼の<<原初の魂(オリジン)>>が発動した。今まではこれでも勝てないと理解していたが故に使わなかったが、魔物相手であれば話は変わる。特に今はバフもあるのだ。こここそが、使い時だった。


「<<鬼島津(おにしまづ)>>!」


 どぉん、という音と共に雷が迸り、瞬の姿が角の生えた鎧武者へと変貌する。


「あ、あははは……まさか瞬の方が先だったのか……」


 そんな瞬に対して、アルが思わず苦笑する。瞬が使えるし練習していると聞いた事はあったが、直に見るのは初めてだった。それ故、自分よりも先に目覚めていた事に僅かな嫉妬があったのは、仕方がない事なのだろう。とはいえ、彼だって強くないわけではない。


「まぁ、でも……」


 最近、何かが見える事がある。記憶出来ているわけではない。わけではないが、時折朝目が覚めると何かを見ていた、と記憶している事があるのだ。それがきっかけなのだろう、とアルは思っていた。故に焦ってはいない。

 それに瞬がこれをずいぶんと前から用意していたのは、アルも分かっていた。であればまだ、アルの方が数段上の実力者と言っても過言ではなかった。


「おいで」


 アルは敵の数が多い事から、氷龍を生み出す事にする。今回は数を重視して、10体程生み出しておいた。


「さぁ、僕も僕に出来る事をしよう」


 アルはしっかりと前を見据えて、向かってくる数多の魔物に相対する。そうして、冒険部はカイトの防衛という何時もとは逆の戦いを開始する事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1259話『目には目を歯には歯を』

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