表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第63章 多生の縁編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1271/3931

第1253話 過去から蘇りし者達・3

 藤堂が口から血を吐き出す事になる時から、少しだけ時は遡る。ヤマトの交戦エリアから少し離れて、冒険部の交戦エリア。そちらでは果心と新介の二人が冒険部と相対していた。


「ふぅむ……いや、実に見事見事」


 果心の繰り出す幻術を見ながら、新介が感心した様に頷いていた。果心の生み出した幻術はどういう事もない。単に童女が舞い踊るというだけのものに過ぎない。とはいえ、単なる童女というわけではなく、薙刀を持った童女だ。それが舞い踊っていたのである。


「はぁ!」


 と、そんな新介に対して、瞬が一気呵成に攻め込んだ。相手が自分より格上である事は彼も把握している。こんな状況でなければ出来れば<<原初の魂(オリジン)>>を使いたい所であるが、そうも言えない状況だ。

 それに今回はラエリアの内紛の時よりは支援も多い。敢えて暴走の危険性がある技を使う必要がなかったといえば、なかったとも言える。が、それでも油断して勝てる相手ではない。故に初手から<<雷炎武・参式(らいえんぶ・さんしき)>>を使っていた。


「ふぅむ、お主は少々直情的じゃのう」


 そんな瞬に対して、新介は見る事もなく槍筋を見極めて回避する。この程度はどうという事も無い、とでも言わんばかりだった。


「っ!?」


 見てさえ居ないのに回避した挙げ句、自分の戦闘の方向性まで見抜いた事に瞬が驚きを浮かべる。が、その驚きは彼の手を鈍らせる事はなかった。故に彼はそのままなぎ払いへと攻撃を繋げる。


「はぁ!」

「おぉおぉ、そうであろうな。槍で最も怖いのは、そのなぎ払いよ。刺突なぞ所詮は一直線。なぎ払いの一撃は怖い。うむ、武器を良く理解出来ておる」

「翔!」

「はい!」


 なぎ払いを一歩後ろに下がるだけで回避した新介に対して、瞬は即座に翔に支援を申し出る。これは試合ではない。殺し合いだ。卑怯も何もありはしない。

 故に、翔は即座に新介の周囲を取り囲む様に十数体の分身を生み出した。手には勿論、魔銃がある。そんな無数の分身を見て、新介が楽しげに笑った。


「おぉ、お主は公儀隠密の類であったか。どれ、少々、老体の準備運動に手を貸してもらう事にするかのう」


 一斉に開始された魔銃の掃射を受けて、新介は軽い様子で全てを避けきっていく。その姿に一切の迷いはなく、本当に軽い運動という様子さえあった。


「まぁ、駄目だろうな! わかっていたさ!」


 そんな様子の新介を見ながら、瞬は当たり前か、と再び身体に力を入れる。そもそも真っ向勝負で勝てない事を理解していたからこそ、翔に支援させたのだ。別にこれで仕留めきれるとは思っていない。


「赤羽根! 支援を!」

「わかった! 藤堂、一条! どっちも当たるなよ!」

「ああ!」

「おう!」


 瞬と共に藤堂が攻め込んでいく。そしてその更に背後から、赤羽根が弓矢を使って援護を開始する。


「行くぞ!」

「ああ!」


 瞬と藤堂は頷きあうと、そのまま地面を蹴って翔が放つ魔弾の雨の中に突っ込んだ。この魔弾の雨は翔が制御している。故に万が一直撃しそうな場合にはきちんと消滅出来る様に彼も訓練していて、問題は無い。


「かかか。良い良い。儂の準備運動に手を貸してくれるのじゃな」


 そんな瞬らに対して、新介は楽しげだ。それはまるで意に介していない様でさえあった。


「さて」


 新介は楽しげに、左右から突っ込んでくる瞬らを見る。勢いなら瞬。技量なら藤堂。新介は一瞬で二人の違いを見抜いていた。


「二呼吸程、ずれておるな。ふむ」


 まず、初手に仕掛けたのはやはり瞬だ。身体スペックであれば藤堂よりも瞬が遥かに高い。であれば、それが順当な結果だ。


「雷と炎。ふむふむ。二つ纏うということが出来るとはのう。面妖ではあるが……ま、そもそも儂らがおる時点で面妖なも何もあるまいか」


 新介は笑いながら、まずは瞬に向き合う。そうしてしっかりと彼の動作を見極めた上で、新次郎と同じく必要最低限の動きだけで回避を行う事にした。


「ほいよ」


 ただ、半歩横に。新介は軽々と瞬の突き出した槍を回避する。速度は先に見たし、別に見ないで回避出来る彼にとって、槍が出るタイミングさえわかっていれば回避は容易いことだ。と、そうして彼の見通した通り、二呼吸置いた所で藤堂が新介を間合いに捉えた。


「うむ、次はお主であろうな」


 新介は今度は藤堂を視界に捉えながら、にこやかな笑顔で頷いた。そうして、藤堂が振るった袈裟懸けの一撃を更に回転するだけで回避する。そしてまるで裏拳の様にして、瞬の横っ面を吹き飛ばした。


「ほれ」

「ぐっ!?」


 まるで流れるように、というのが一番正しい言い方だ。それ故、そんな一撃に瞬は驚きながらも、それ以上に威力が込められていない事に驚いた。

 彼ほどの戦士だ。やろうとすれば喩え<<布都御魂剣(ふつのみたまのつるぎ)>>の補佐があろうと、瞬程度の頭蓋骨なぞ簡単に砕けるはずだ。なのに、普通にはっ倒された程度の痛みしかなかった。殺意が込められていなかったのだ。


「かかか! 阿呆。同じ土俵に登らせて貰えると思うてか」


 新介は楽しげに笑いながら自らの一撃を受けて困惑する瞬へとそう告げる。それは言外に身の程を知れ、と言っていた。とはいえ、それで止まる二人でもない。


「はぁ!」

「はっ!」


 瞬が立て直すと同時に、二人は再びほぼ同時、しかし瞬が一歩先んじて攻撃を開始する。それに、新介は先と同じ様に回避するに合わせて、ただそのまま流れる様に殴打を繰り広げていく。

 が、この結果は一緒だ。先程と同じ様に新介は回避すると共に二人へとカウンターを繰り出していた。明らかに、技量が段違いだった。


「はぁ……はぁ……」

「は、ははは……」


 何度も殴打され、二人が流石に肩で息をする様になる。これで翔の乱射の中を一発も当たらずに、カウンターを叩き込むのだ。藤堂はもはやあまりの技量に笑いさえ出ていた。そうして、彼が問いかけた。


「これでも……まだ……刀を抜かないのですか……」

「むぅ? かかかかかか! 儂はこの道ウン十年。小僧共では到底及ばぬ領域に立った者じゃて。師よりは一国一人の称号も頂いた。その様な儂が小僧相手に本気を出してはあまりに大人げない」


 呵々大笑。そんな様子で新介が笑う。が、これが現実だ。所詮彼からしてみれば瞬達の振るう武芸というのは、子供のお遊びと言うに他ならない。いや、それどころか。彼にとってみれば、それどころの話ではなかったのだ。


「そういや、なんぞ島津の若造の話が出ておったか。あれでもまぁだ、小姓という所よ。坊主でさえ、後10年修行が足りんわ」

「ぐっ!」

「かかかかか! ほぉれ。この程度で内側に眠る滾りに冒される。お主は後二十年修行が足りん」


 己を侮辱された事で目覚めかかる豊久の力に翻弄され、瞬が膝を屈する。それに新介は大いに笑い、そして忠告と、助言をくれた。


「馬鹿者。己を確かにせよ。そして喩え己より年上とて、強く命ぜよ。お主はそれが出来ておらん。年上だからと遠慮しておる。それが、お主がその滾りに冒される原因よ」

「っ……」


 カイトからも何度も注意を受けていた事を、瞬はここでも指摘される。が、それをすぐに出来れば、苦労はしていない。何より瞬には年上に対して命ずるというのが、難しい。いや、瞬だけではなく藤堂らも無理だろう。

 どうしても彼らは根っこに部活生、それもスポーツ部の生徒という根幹がある。年功序列の精神だ。これが、邪魔だった。年上に命令する、ということが精神的に難しいのである。

 まぁ、それがなくともそもそもそんな簡単に出来るのであれば、多くの冒険者がランクSに到達出来ているだろう。故にしばらく彼は暴走しそうになる魂を押さえつけるべく、そちらに集中する事になってしまう。それに新介は筋は良い、と頷いた。


「かっかかか。とはいえ、わかりはしたか。今、島津の小僧が出てこればお主は死ぬ。今の儂は小僧らが相手であるが故に、加減した。が、大人が出れば話は変わろう」


 轟々と、新介から先程までの遊ぶとはまた別種の強烈な気配が放たれる。それは先程までは意図的に抑えていた、所謂剣士としての風格だ。

 敢えて今までを言えば、好々爺が孫を相手に遊んでやっているようなものだ。老人が身体の調子を確かめられる様にリハビリをしていたとも言える。その前提はあくまでも子供が相手だから、という所だ。そして間違いなく、豊久は大人だ。故に侮辱されて怒っていたわけであるが、それ故、出てはならなかった。


「さて……これで後はお主一人じゃのう。ま、他にも色々とおるが……この程度問題はないのう」

「っ……」


 藤堂は新介を前にして、流れ落ちる汗を拭う。おそらく、敵側の誰もが新介の顔を立てて瞬には手出ししないだろう。せっかく新介が手を貸したのだ。それを無為にする事はしない。


「さてさて……では、爺にどこまで出来ておるか見せてみせい。なぁに、こっちで勝手に採点する故な。好き勝手に打ち込んでくるが良い」

「っ……では、参ります!」


 藤堂は新介をしっかりと見極めると、一気呵成に突っ込んでいく。それに、新介はやはり好々爺の笑みを崩さない。どちらにせよ攻撃しない限りは勝てないのだ。藤堂も行くしかなかった。


「良し良し。その流れは良い流れよ」


 切りかかった藤堂に対して、新介は最適な動きを選択して回避する。両者の力量差は歴然だ。であれば、迷いなぞない。彼の言う通り、一方的に採点をするだけである。


「はっ! たっ!」


 そんな新介に対して、藤堂は最適な動きを探し続ける。基本的に、彼がやる事は攻撃時も防御時も変わらない。敵の動きからそれに対する最適解、つまりどう動けば敵が最も動きにくくなるか、という答えを導き出すのだ。それは勿論、防御時より攻撃時の方が遥かに難しい。ある意味、剣士としての彼の技量が問われる所だった。それ故にこそ、新介もこれを選んだのだ。


「ふむ、ふむ」


 楽しげに新介は藤堂の太刀筋を見極めていく。


「うむ、生真面目な太刀筋よ。あれもよう似ておったなぁ……」


 懐かしげに、新介が遠くを思い出す。だというのに、彼の足運びには淀みがない。まるでそれは全てが見えているかの様でさえあった。


「っ!」


 これは、拙い。完全に自分の動作が見切られている。藤堂はカイトとの交戦の経験から、それを理解する。見切られていては相手の動きを誘導、なぞ出来るはずもない。そしてそうした場合、どうすれば良いかはカイトが教えてくれていた。


「お?」


 唐突に止まった攻撃の手に、新介が思わず僅かに目を丸くする。まぁ、それで良いのだ。流れが自分に不利ならば、その流れを断ち切れば良い。

 そしてそれをするにはどうすればよいか。それは簡単だった。こちらが一方的に攻撃しているのであれば、それを止めて間合いを離せば良いのだ。所謂、仕切り直しである。それ故、新介は喜ばしげに幾度も頷いた。


「おぉおぉ、よう気付きおったな。そうよそうよ。お主がまともとやっても今のままでは儂には打ち込めん。打ち込めんであれば、その流れはお主自身が断ち切らねばならぬ。であれば、逃げるも戦術。善き哉善き哉」

「はぁああああ!」


 好々爺の笑みで笑う新介に対して、藤堂は再び、しかし今度は冒険部の支援をもらいながら一気に攻め込んでいく。とりあえず流れを断ち切れたのだ。何度かやっている内に瞬も復帰するだろう、と考えたのである。が、これは少々、まずかった。それと、同時だ。


「やめよ、兼続ぅううううう! その御仁に決して刃を向けるなぁああああ!」

「っ」


 藤堂は横から武蔵の声が響いてきた事に気付いた。気付けば結界が解けていた。が、もう止まれる段階ではなかった。徒手空拳だから、攻めても安心。そうではないのだ。特に彼の流派においては、だ。


「かかか。まぁ、一気呵成に攻め込むは良い判断……が。相手が徒手空拳じゃからとお主、少々油断しとりはせんか」


 とん、とまるで軽い感じで上段から袈裟懸けに振り下ろさんとしていた藤堂の懐に新介が入り込む。そうして振り上げた藤堂の手を取ると、そのまま背負投げの様に地面へと叩きつける。そして、それと同時に彼の持っていた刀を奪取。それをそのまま、彼の胸に突き立てて、地面へと串刺しにした。


「……え? ごほっ」


 藤堂の口から血の泡が吹き出した。何が起きたかは、彼自身にもわからない程の手際の良さだった。それこそ、それを見ていた全員が何が起きたかを見ていながら、理解出来ない程の見事さだった。そうして、数瞬遅れて。全員が藤堂がやられた事に気付いた。


「藤堂先輩!」

「兼続!」


 胸に刀を突き立てられ、地面に串刺しされた藤堂に向けて冒険部のメンバーが慌てて駆け寄っていく。それに、新介はため息を吐いた。


「はぁ……ま、構わんがのう」


 まだ敵は健在なのだが。新介はそれ故、つまらなそうに口を尖らせる。が、もう用事は終わっている。別にこれ以上戦うつもりもないし、新介当人としても戦わせるつもりもなかっただろう。というのも、武蔵が此方にも敵意を向けていたからだ。流石に瞬と藤堂を同時に遊べた彼でも、武蔵を相手に遊びは見せられない。


「……やはり、御身か」

「おぉおぉ、お主が新免武蔵か」

「然り……カイト! いい加減にせぬか! 何時まで第六天魔王の好きにさせておる!」


 新介の問いかけを認めた武蔵が相変わらず怒りにかまけて久秀との打ち合いを行うカイトを叱咤する。まぁ、そう言ってもこれは武蔵も仕方がないと思っていた。ここの因縁も深いからだ。

 それが期せずして出てしまえば、こうもなる。が、これが敵の目的だったとすれば、筋は通った。そうして、カイトが強引に信長を引っ込めた。


「どうしました……って、どうなっている!?」


 武蔵に呼ばれて冒険部側を見て、更に地面に縫い付けられた藤堂を見てカイトが目を見開いた。新介には殺意はなかった。故にカイトは安心していたわけだが、それ故にどうしてこうなっているかわからなかったのだ。


「かかかかか。安心致せ。儂も、儂の後継者の一人を殺しては拙いからのう。心の臓は外しておる」

「後継者の一人?」


 新介はカイトへ向けて歩きながら、藤堂に対して問題が無い事を告げる。そしてこれに嘘はなかった。彼はあれだけの芸当を披露しながら、藤堂の心臓を外していたのである。そしてもう一つの言葉にも、嘘はなかった。


「さて……では、弟弟子に名乗るかのう。儂は石舟斎(せきしゅうさい)……わかりやすく言えば、柳生石舟斎よ」

「な……に……?」


 新介改め石舟斎の名乗りに、カイトが思わず困惑を露わにする。それに、武蔵が己が戦おうとしていた方を見た。


「こちらは改めて考えるまでもあるまいな……のう、但馬守(たじまのかみ)

「……」

「え?」


 但馬守。石舟斎を父と呼び、そう呼ばれる人物は一人しかいない。そして困惑するカイトに向けて新次郎が名を名乗った。


「柳生但馬守宗矩(むねのり)……少々の故ありて、この世に罷り越した」


 柳生但馬守宗矩。それは徳川幕府の三代将軍家光が懐刀として最も信頼した武の師範であり、知恵袋だ。そうして、ついに。カイトは本来は会えるはずのなかった過去に沈んだ筈の二人の兄弟子達との遭遇を果たす事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。これで三名の名前がわかりました。この三人についての解説は今日の活動報告ででも。

 次回予告:第1254話『過去から蘇りし者達・4』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ