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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第63章 多生の縁編

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第1249話 墓所

 『死魔将(しましょう)』達の言葉を受けて、榊原家の伝説の女傑『榊原・花凛』の墓所へと向かう事になったカイト。彼は状況から冒険部に対して指示を与える事が出来ない為、残留組――と言うより桜やクズハら自分の家族――をティナに任せると、相棒たるユリィのみを連れて剛拳の所へと参加の意を示しに来ていた。


「ご当主」

「おぉ、カイト殿。貴殿も共に来てくださるか」

「ええ。彼らは墓所に来いと言った……それは誰でもない。オレへ向けた言葉だ。つまり、オレだけは行かねばならないだろう」

「……かたじけない」


 剛拳とて、この敵が『死魔将(しましょう)』である事はわかっている。故にこの場の面子で勝てるのはカイトとティナしか居ない事もよく理解していた。


「……お前も本気か」

「そりゃね。私も流石にあいつら出てくりゃ、本気にもなるさ」


 剛拳の横。ラエリアの内紛でさえ身に纏う事のなかった専用の戦装束を身にまとったカリンが立っていた。彼女も本気という事なのだろう。その姿は豪奢でありながら同時に彼女らしい艷もあり、そして何より非常に強力な力を宿していた。

 これをカイトが見たのは、あの300年前の最終決戦以来では初めてだ。あれ以来何度も激闘があったにも関わらず、彼女がこれを使う事は無かったのだ。源次でさえ、あの力量だ。油断は一切出来ない状況なのはわかっていた。


「……あんたの所はどうするんだ?」

「自由にさせる。流石にオレがオレ(勇者)として命ぜられるならまだしも、そうでないのならどうしようもない」

「お互いこれは流石に予想出来ていなかった、ってわけか」

「としか言えんな」


 カイトとカリンは互いに僅かに自嘲気味に笑い合う。ここまで大事になったのはまず何より、お互いにカイトが居るから安心だろう、という所があった事だけは否めない。とは言え、これは当然といえば当然の話ではある。

 敵にとって最大限に警戒すべきはカイトとティナの二人だ。その二人が同時に居て襲撃をしてもそれはまぁ、失敗しかなり得ない。喩え今の様に一時的に勝てても、それは一時的。態勢さえ立て直されれば終わりだ。そしてそれは彼らとてわかっている。わかっていればこそ、『墓所で待つ』と言う言葉なのだろう。


「バカどもを連れてこれればよかったが……」

「今頃飲んだくれてるか」

「流石になぁ……部隊の半分以上はマクスウェルに残ってるし……」


 カイトはカリンの言葉に同意して、ため息を吐いた。今回、『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』も休暇に来ていた。が、その大半がこちらに来ていない。

 冒険部の様にこちらに来て観光や修行というのならわからないでもないが、そんな事をする者は殆ど居ない。休暇は休暇と割り切っているし、榊原家と関係のある者は多くはない。

 故に今回は普通に向こうで温泉に入っていたり飲み屋街を冷やかしていたりしたのである。おそらくまだこちらでの事件は届けられてさえ居ないだろう。それに今から呼び出しても来れるのは数時間後だ。どう頑張っても、間に合わなかった。


「でも仕方がなくはあるよ。現状、私達は昔の強襲部隊って言うより迎撃部隊って所だから……」

「なんだよなぁ……」


 ユリィの指摘に、カイトはため息を吐いた。何より一番の要因はそこだ。昔のカイト達はその機動力を活かして攻める事を目的としていた強襲部隊だ。遊撃隊と言っても良い。

 それ故数は一千人でどうにでもなっていたし、それ以上多ければ逆に機動力が削がれるので意味もなかった。そしてそれ故に今でも遊撃隊として活用出来るわけなのであるが、かつてと違う所が一つある。それは今度は此方が攻められる側だという事だった。攻められるのを待たねばならないのだ。故に、どうしてもそのタイムラグだけは避けられない事だった。


「しゃーない。それでも出来る奴が出来る事をやりましょう、ってわけで」

「そーするしかないね」


 カイトの言葉にユリィも同意する。そしてそのために、二人が一緒なのだ。この状態でなら負けない自信があった。そんな他愛ないようで、意味のある会話をしている間にも追撃部隊への参加者が集まって、部隊が整っていた。と、そんな中に彼女も居た。


「弥生さん!?」

「私も行くわ」

「……一応、聞いておくんだが。わかって言ってるか?」


 カイトは僅かな怒りと真剣さを滲ませて弥生へと問いかける。そして勿論、彼女も分かっていっている。そして勿論、カイトに心労を掛けるつもりは無かった。


「あら、わかってるわ。勿論、前に出る気は一切無い……これよ、これ」


 弥生はそう言うと、<<布都御魂剣(ふつのみたまのつるぎ)>>を取り出した。


「後方支援しかしないわ。前には一切出ない。私じゃ足手まといにしかならないものね」

「……勝てないな、あんたには」


 カイトは完全敗北を肩を竦める事で示した。彼女以外にも何も知らないが故に義侠心を見せて参加を示した冒険部のギルドメンバーは居る。その支援の為にこれを使い、所謂バッファーとなる事にしたのである。

 確かに彼らも中心となった者達に勝てない事はわかっているが、魔物相手になら戦える。少しでも支援しようという事だったのだろう。カイトからするとそれも止めて欲しい所であるが、下手に事情を明かせない以上は仕方がない。


「まぁ、これを使っているから後ろに居ても誰も不思議には思わないでしょう?」

「そうしてくれ。でも、本当に危なくなったら逃げてくれよ」

「大丈夫よ。女はいくつも秘密を持って、綺麗になるものだもの。逃げる為の道具もいくつか持ってるわ」

「そりゃ、安心だ。が……」


 カイトはそう言うと、目を少し閉じて意識を集中する。そうして、三匹の半透明の蒼い蝶が生まれた。


「行け」


 カイトの命令に従って、三匹の蝶が弥生の周囲に浮かぶ。一応、『死魔将(しましょう)』達との戦いが始まった時点でメルやシアと同じく彼女らにも半永続の蝶を与えている。

 こちらは半永続ではないものの、カイトの力がある限り対象を守ってくれる力を持っていた。勿論、こちらもカイトが愛する者でなければ使えない。が、それを守る為に使うのだから、それで十分である。


「万が一には防御壁になってくれる。上手く使ってくれ」

「あら、ありがと」


 弥生は三匹の蝶を有難く受け入れておく。こうでもしないとカイトも安心出来ないのだろう。それならそれで良かった。カイトが安心して戦ってくれるのが一番良いのだ。と、そんな所に瞬が来た。


「カイト、俺とソラも向かう」

「はぁ?」


 流石にこの申し出にはカイトも顔を顰める。確かに瞬とソラであれば、まぁ、与四郎達を相手にしてもなんとかはなるだろう。が、それも与四郎が精一杯。僧兵もどき以上はまず無理だ。『死魔将(しましょう)』なぞ夢のまた夢どころではない。まず出てはならない相手だ。


「……まぁ、俺達も一人で抑えきれるとは思ってねぇよ。でも、さっき戦ってみて思ったのは、全員で束になれば一人ぐらいは抑えられる。それに、もしそうでなくても雑魚を討伐する際の指揮ぐらいは可能だろ?」

「……」


 ソラの申し出にカイトはわずかに考える。確かにソラの言うことは間違いではない。ソラだけではなくアルやルーファウス、リィル達が束になって戦えば、僧兵もどきが相手でも勝ち目が無いわけではなかった。それが出来ないでも冒険部の指揮をさせればそれだけ、他のギルドメンバー達の生存率は高くなる。彼らも彼らなりに判断しての事だったのだろう。


「……そうか」


 カイトはソラが由利を残していたのを見て、彼の覚悟を理解する。男が仲間の為に命を張るというのだ。であればその心意気を汲んでやるのもまた、友としての有り様だろう。

 そしてどちらにせよ、カイトが敵と戦うのに集中するとなると冒険部の指示は出せない。『死魔将(しましょう)』とはそんな事をして勝てる相手ではない。そしティナも居ない。剛拳に指揮を任せるつもりだったが、ソラと瞬が担うのであれば、そちらの方が安心だ。剛拳とて全体の指揮がある。細かやな指示は飛ばせない。


「……わかった。二人に冒険部の指揮は任せる……が、わかっているな?」

「ああ。わかってるって」


 おそらくソラはかなり気丈に振る舞っているというのが、カイトには察せられた。故にか口調はいつもより明らかに、それこそ強敵を相手にするにしては少し高すぎると言える程に陽気さが滲んでいた。


「そうか……では、冒険部各員はオレの指示が無い場合はソラと一条先輩の指揮に従え。アル、リィル、ルーファウス。三名も同様だ」

「「「了解」」」


 カイトの指示に冒険部一同と出向組が受諾を示す。と、そうして指示を飛ばしてカイトはルーファウスに問いかけた。


「ルーファウス、アリスは残留か?」

「ああ。あれはまだアリスには早い相手だと判断した。悪いが、置いて行かせてもらう」

「それで良い。何よりそちらはそちらで判断する事だ」


 カイトはルーファウスの指示を良しと認める。彼ら二人は教国からの出向組だ。カイトに強制する権限はない。


「ご当主。こちらの準備は完了だ」

「かたじけない……では、後は任せる。出発だ!」


 剛拳はカイトの報告を受けると、家人達に後を任せて号令を掛ける。基本的に彼が全体の指揮を取り、前線で戦うのはカリンになる事になる。カリンと剛拳ではカリンの方が遥かに強い。しかし、指揮力で言えば剛拳の方が遥かに高い。そうするのが現状では一番良い判断だった。そうして、一同は少し北にあるという墓所を目指して進む事にするのだった。




 さて、襲撃からおよそ一時間程。移動時間としては20分も経過していないだろう。その頃に追撃部隊はオリジナル・メンバーの一人にしてギルド<<粋の花園(すいのはなぞの)>>初代頭領『榊原・花凛』の墓所を視界に捉えていた。

 そこは基本的には古墳の様な墓所と言って良い。現代日本の様なこじんまりとした墓石があるわけではなく、かなり大きな物だった。勿論、偉大な祖先の墓という事できちんと整備もされていたし、『剣の死魔将(つるぎのしましょう)』の意向でここはあの大戦期にも荒らされる事はなかった。一千年前当時の状況が残されていたと言って良い。それ故、少し遠目にでも見える状態だった。


「あれが……?」

「デカイな」


 ソラが驚きで目を見開いた横、瞬が率直な感想を口にする。確かに個人の墓としてはかなり巨大な規模だ。今でこそユニオンが全世界規模の組織となり偉大な人物として言われているので不思議はないだろうが、当時からすると単なる一ギルドマスターで、その墓としては異常と言えた。そんな二人に、カリンがざっと教えてくれた。到着までにはまだしばらくの時間がある。緊張を解す意味もあったのだろう。


「大婆様……『榊原・花凛』の姪も何故こんな規模の墓を建造させたかは知らないらしい。突然、この規模の墓を造れって命じてね」

「ということは……生前から作ってたんっすか?」

「そうらしいね。大婆様が生まれたのが、この時期だそうだ」


 カリンは大婆様から聞いていた話を語る。どうやら当時の大婆様はまだ幼かった所為で、詳しい事は知らないそうだ。そして彼女が知らない時点で現代の榊原家では誰も知らないと断じて良かった。そしてそれは、今に限った話ではなかった。


「場所も建造方法も全部、彼女が指示してやってる。故に詳細は榊原家の誰も知らない。当時も知られていない。相当、秘密にしたかったそうだね。中には、当時のユニオンの創設者達なんかの縁を頼って建造していたりしたらしんだがね。もう今となっちゃぁ、中に何があるのかさえ誰にもわかんないさ」


 カリンは呆れる様にそう話した。実際、墓所に来いという道化師の言葉を聞いた彼女はまず即座に大婆様の所に向かって確認を取った。が、この状況でも大婆様は何も知らない、と明言していた。つまり、本当に彼女も知らないのだ。そしてであれば、知る術も無いということだ。


「……だから、私達にゃ疑問なのさ。何故そんな墓へ来いって話なのか、ってね」


 建造の手配をして、管理している榊原家が知らないのだ。なのに何故、わざわざ敵はそこを指定したのか。カリンはその点を訝しむ。そしてそれはこの墓所の詳細を知る者であれば、全員が共通して持っていた疑問だった。


「敵は知ってるかも、って事っすか?」

「考えらんないんだけどねぇ……」


 ソラの問いかけにカリンは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる。確かに、あり得なくはない。が、あり得るとは普通は言えない話だろう。とは言え、一番可能性が高いのはそれだ。が、そうなると情報の出処が気になる所ではある。


「……ま、気をつけな。こっからは私が前に出る。魔眼を使えば大抵のトラップはなんとか出来るからね。何かがあっても、任せときな。あんたらはこの前と同じく、無茶しなけりゃそれで良い」

「うっす」

「はい」


 カリンの激励と指示にソラと瞬が頷いた。前にも彼女とは共闘している。その腕前はよく分かっていた。素直に頼りにさせてもらうだけだ。そうして、そんな話をしている間にも一同は墓所へと近づいていき、ついに到着する事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1250話『一度は眠り、目覚めた者達』


 2018年7月25日 追記

・誤字修正

『姪』が『銘』になっていた所を修正しました。

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