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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第63章 多生の縁編

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第1246話 月夜の下で

 少しだけ、場面は移り変わる。カイト達が各々の敵と戦っていた頃。リィルとホタルはというと、実は巴の居ると思われる森を目指して超高速で地面を蹴っていた。

 これはティナの指示で、巴の狙撃を根本から断つ為にはそれしかなかった。森の中からの狙撃だ。外部からは発見し難く、ホタルのレーダーに頼るのが一番と考えたのである。

 二人なのは僧兵もどきの特異性を考えて、こちらの狙撃手にも何か特殊な力があるのでは、と危惧したのである。更には狙撃手だ。レーダーを展開している最中にホタルが襲撃を受けてしまう可能性もある。リィルはその護衛でもあった。


「リィル様。本機のレーダーによれば、この先数百メートルの所です」

「わかりました」


 地面を蹴りながらリィルはホタルからの報告を聞いて僅かに気を引き締める。数百メートル先と言ったが、それは彼女らの戦闘時の速度で考えればたった数秒の距離にも等しい。もう僅かな時間で接敵だった。そしてどうやら、相手も超高速で向かってくる彼女らに気付いたらしい。いつの間にか、カイト達を狙撃する弓弦の音が止まっていた。


「ここら辺の筈です」


 ホタルはそう言うと、再びレーダーを最大限に使用して巴の居場所を探る。それに、リィルは油断なく周囲を見回して援護する。が、その必要は無かった。僅かに離れた所に巴は平然と立っており、普通に彼女は歩いてきたからだ。


「別に探す必要はありません」

「っ」


 唐突に掛けられた声に、リィルが僅かな警戒感を滲ませる。が、そうして現れた巴を見て、わずかにリィルは訝しんだ。何処かで見た顔だと思ったのだ。

 覚えていなかったのは、単に巴と話さなかったからだろう。彼女と話したのはクズハ達だ。そこで和気藹々と話している事は知っていても、彼女はそれに関わっていない。それを覚えておけというのは酷な話だろう。とは言え、だからなんなのだ、と言う話でもある。故にリィルは一応念のためとして、巴へと問いかけた。


「貴方が、矢を放っていたのですか?」

「はい」


 巴は一切隠す必要なぞ無い、とでも言わんばかりに問いかけに頷いた。いや、隠す必要が無いというより、隠すつもりもないのだ。彼女は顔を一切隠して居なかった。

 背には弓を背負い、手には薙刀を携えている。身に纏うのは、まるで日本の侍大将の様な武者鎧だ。その姿に、リィルはもはや問答無用と判断する。何よりも彼女の姿が雄弁に問答無用と語っていたからだ。


「はぁ!」

「はっ!」


 リィルと巴が同時に槍と薙刀を振りかぶる。そうして、一瞬の後。両者の得物が衝突して、リィルが吹き飛ばされた。巴もまた、並の腕前ではなかった。今のリィルがまともに戦って勝てる相手ではなかったらしい。


「っ!」


 吹き飛ばされながら、リィルは巴が想像以上の猛者である事を理解する。そしてであれば、と即座に思考を同じ女を相手にするものから敵を相手にするものへと切り替えて、地面に足を着けて強引に制動を仕掛け<<炎武(えんぶ)>>を始動させる。と、それとほぼ同時。レーダーを切って戦闘モードに入ったホタルが地面を蹴った。


「来なさい」


 リィルの接敵までまだ時間があると見た巴は、ホタルに向き直る。彼女にとってみれば、これは一対二の戦いだ。上手く立ち回る必要があるだろう。それに、ホタルは刀を構えると無言で襲いかかる。


「……む?」


 そんなホタルに巴が僅かな違和感を得る。とは言え、これは仕方がない違和感だ。ホタルはゴーレム。巴も猛者である以上読み取っている相手の呼吸等生命活動が感じられなかったのだ。とは言え、別に読み取れないからと戦えないわけではない。無いなら無いで、それを前提として戦えば良いだけだからだ。


「はぁ!」


 襲い掛かってきたホタルに対して、巴は気合を入れて薙刀を振りかぶる。そうして両者の得物が激突するが、今度もまた勝ったのは巴だった。それに、ホタルが思わずという感じで目を瞬かせる。結構本気でやったらしい。それでも、押し負けたのである。

 とは言え、彼女の身体はゴーレムだ。故に並列で起動させた思考でそれについての考察を行う事にして、別の一つで身体の制動を掛けて地面に着地する。


「ホタル!」

「問題ありません。が、リィル様。彼女の戦闘力……いえ、馬鹿力にはお気をつけを」

「ば、馬鹿力……」


 ホタルの注意喚起に対して、巴が僅かに落ち込んだ様子を見せる。やはり女の子として、馬鹿力呼ばわりされるのは嫌だったらしい。

 が、ホタルが思わずそう言いたくなるのも無理はない。巴の力は単なる出力だけであれば、ホタルをも上回っていたのである。おそらく現段階で120%の出力を出したホタルと同格だろう。間違いなく<<炎武(えんぶ)>>を使用したリィルを遥かに上回っていた。


「……」


 リィルはホタルの注意喚起を受けて、一度足を止める。別に彼女が無理をして倒す必要はない。ホタルが居るのなら、その補佐を務めるのも手だ。そしてそれ故、ホタルと僅かに頷きあった。


「どうぞ、ご自由に」


 そんな二人に対して、巴に迷いはない。先程の落ち込んだ様子はどこへやら、薙刀を掴むその手には一切の容赦が込められていなかった。


『ホタル、そちらがオフェンスを。こちらは支援します』

『お願いします』


 ホタルとリィルは即座に念話で作戦を練る。そうして、二人は同時に地面を蹴った。が、突撃の速度はホタルの方が遥かに早かった。

 同時に戦ったとて、リィルが足を引っ張るだけだ。連携というのは両者が近しい実力でこそ意味を為す物だ。格が違う者同士での連携は互いの足を引っ張る事にしかならない。であれば、ホタルがメインで戦闘し、彼女が押し負けたタイミングでリィルが出てホタルへの追撃を避ける事にしたのである。


「なるほど」


 巴はそんな二人の行動から、どういう戦術を練ったのかを理解する。であれば、別に気にする必要もない。敢えて言えばホタルとの一対一の戦いになるというだけだ。彼女としてもそちらの方がやりやすいといえば、やりやすい。単に安易に追撃が出来ないというだけだからだ。


「はぁ!」


 突撃してきたホタルに対して、巴が再び薙刀を構えて迎撃する。が、今度はホタルも中々に本気だ。故に僅かに後退したものの、吹き飛ばされる事にはならなかった。そうして、今度はホタルも返す刀で斬撃を放つ。


「ふふ」


 巴が楽しげに笑う。そうして、彼女は薙刀を器用に操ってホタルの刀と打ち合いを始めた。が、その打ち合いも数度だけだ。出力では巴が上だ。故に一撃の威力は巴の方が上で、一撃毎にホタルは僅かにバランスを崩している。

 それを即座に立て直して攻撃に転じている彼女の技量は見事としか言い得ないわけであるが、それでも限度がある。故に、十度にも満たない打ち合いの後にホタルが大きく姿勢を崩し、再び吹き飛ばされる事になる。が、それは既定路線だ。


「っ!」

「はぁ!」

「この程度!」

「つぅ!?」


 追撃に入ろうとした巴の横から、<<炎武(えんぶ)>>を纏ったリィルが攻撃を仕掛ける。流石に横から攻撃を仕掛けられては巴とて追撃を諦めるしかない。

 そうして急制動を仕掛けて立ち止まった巴はそのまま薙刀でリィルの槍を叩き落とす。やはり、戦力差は歴然だ。リィルでは一撃も保たなかった。

 が、それで良い。その間にもホタルは姿勢制御を終えており、転移術で転移して巴を射程内に収めていた。そして巴とてホタルを片手間にしてリィルを倒せるわけではない。今度はリィルへの追撃を諦めるしかない。


「はぁ!」


 再び、ホタルが巴との打ち合いを開始する。そうして、森の中で女の戦いが続く事になるのだった。




 さて、一方その頃。巴の支援の手を潰し与四郎からの銃撃も無くなったカイトはというと、僧兵もどきと戦っていた。が、やはり痛みを感じない敵というのはかなりやりにくそうだった。


「ちぃ!」


 カイトは幾度目かになる斬撃を僧兵もどきに叩き込んで、苛立ちで顔を顰める。既に常人なら瀕死の重傷の筈だ。だというのに、この僧兵もどきは一切痛痒を感じていなかった。


「うゔぉおおおおおお!」


 再び僧兵もどきが吼える。そうして、僧兵もどきは遮二無二カイトへと突進してきた。


「おいおいおいおい! いい加減倒れろよ!?」


 自らの傷も感じているだろう痛みも無視して己に突っ込んできた僧兵もどきに対して、カイトは思わず恐れ慄いた。いくらなんでもここまで怪我を気にしないで戦われては多くの超常の敵と戦ってきたカイトとしても不気味にも程があった。


「ちぃ!」


 仕方がない。カイトはこのまま戦っても埒が明かない事を理解して、魔銃を構える。離れてこそ見える事もある。一度距離を取って状況を見直そうと考えたのだ。そうして、最大までチャージした魔弾を放った。が、そうして彼は驚くしかなくなった。


「はいぃ!?」


 魔弾が僧兵もどきの数十センチ先まで到達すると、いきなり消失したのだ。確かに魔弾を無効化出来る障壁等は存在しているが、これはそういう障壁とも全く違っていた。敢えて言うのであれば、それは魔物の持つ遠距離攻撃無効化等の概念的な守りに似ていた。


「ちょ! それマジかよ!? お前、マジなんだよ!?」


 魔物ぐらいしか持ち合わせていないだろう防御術を見て、カイトも流石に焦るしかなかった。無痛症にも似た痛みを無視した行動に、不可思議な防御術。狂戦士というよりも凶戦士だ。と、そうして思わず足を止めたのが、運の尽きだ。既に回避も防御も出来る距離ではなかった。


「うぉりゃぁあああ!」


 というわけでカイトは仕方がないのでしっかりと地面を踏みしめて気合を入れてタックルしてくる僧兵もどきを両手で食い止める。が、やはり準備不足が尾を引いた。僅かにカイトの身体が後ろにずれたのをきっかけとして、そのまま押されていく。


「ちぃ!」


 カイトは僧兵もどきに押されるも、とっさの判断で跳び箱の様にして僧兵もどきの上を飛び越える。それに対して僧兵もどきはやはり急に減速出来るわけではなく、かなり大きく移動した所で停止した。そうして僧兵もどきの身体から湯気が上がり、わずかに動きを停止させる。


「……おいおい、マジかよ」


 停止した僧兵もどきを見て、カイトは思わず頬を引き攣らせる。今まで何度もカイトが斬撃を叩き込み傷跡が刻まれていた僧兵もどきの肉体であるが、それが湯気を上げながら修復されていっていたのだ。

 停止していたのは、大方傷の治癒があるからなのだろう。もう何がなんだかわけがわからなかった。こんな能力は見た事も聞いた事もなかった。確実に彼の敵である道化師達の手による何らかの改造が施されていたと考えてよかった。


「まさか一撃で消し飛ばさないと駄目ってか……?」


 それはやりたくないんだが。カイトはほぼほぼ傷の修復を終えた僧兵もどきを見ながら、どうするかを考える。だが、敵の技量を考えれば攻略法はそう多くはなかった。

 確かに彼なら僧兵もどきを一撃で消し飛ばす事は簡単だ。それは彼の出力を考えれば難しいはずはない。が、そうなってくると今度は面倒な話がいくつも付き纏う。

 まず正体の露呈の可能性は大きくなってくるだろうし、そしてそれは当然、こんな町中で出来る事でもない。この一切自分の身体を顧みない凶戦士をなんとか町の外まで追い出さねばならないだろう。彼の出力で消し飛ばす場合、この僧兵もどき次第では町ごとになってしまうからだ。それでは本末転倒である。


「何人ぐらい居るかね……」


 流石にこの僧兵もどきを一人で討伐するのは状況を鑑みて厳しい。カイトはそう判断すると、まだ敵が動きを見せないのを良い事に一度敵数を把握する事にする。


(街の中に……五人って所か。外に弓兵が一人……)


 クズハ達が交戦しているのが二人。こちらで自分達が交戦しているのが三人。計五人。それに加えて巴が居るので六人というのが、現状で判断出来る敵の数だ。

 なお、クズハ達が交戦しているこの二人の内片方は新介である。それに加えてクズハが舞妓と呟いた女が、彼女らと戦っていた。やはりカイトをも唸らせた剣士は凄まじく、クズハらを相手にしても一歩も引いていない様子だった。魔物の対処もある以上は彼女らが何処かの支援というのは、厳しいだろう。


「……あっちがなんとかなるのを待つしかないか」


 カイトはティナの魔術の乱打を受ける新次郎を見る。やはり遠距離から攻撃出来るという有利がある。そして相手はティナである。かなり押し気味だ。長くは保たないだろうと想像される。

 であれば、それを待って僧兵もどきをティナにこの僧兵もどきを封殺してもらうのが最善だろう。何処かで一体でも倒せればこちらの勝ちだ。なので焦る必要はない。


「しゃーない。もうちょっと頑張りますか」


 カイトは諦めて僧兵もどきとの戦いのに戻る事にする。何処か欠けてもまずいのはこちらも同じ。僧兵もどきを抑えねならなかった。そうして、カイトは再び僧兵もどきとの戦いに戻ることにするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1247話『ひとまずの終焉』

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