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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第63章 多生の縁編

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第1245話 悪い癖

 少しだけ、時は遡る。襲撃者達の襲撃を受ける直前の事だ。与四郎は幾つかの指示を仲間達へと与えていた。まぁ、当たり前な話なのであるが。与四郎が敵に属している以上、その同行者として一緒に居た新介も新次郎も全員揃ってその身内である。というわけでお鶴もまた、その中に含まれていた。


「そうそう。とりあえず御大将が前に出てくれば狙撃してくれりゃ良いから」

「総大将が前へ?」

「そういう奴なのさ、御大将は」


 与四郎は親しげにお鶴へと明言する。が、これにお鶴は顔をしかめた。


「総大将が前に出ては駄目でしょう」

「あっはははは! いや、本当になぁ! ずーっと駄目だって言われてんのに、待つの面倒、自分で見た方が早いだの何だのと言って前線に出やがる」


 楽しげな与四郎は声を大にして笑う。お鶴の指摘はあまりにも最もだ。カイト自身何度も注意を受けているが、本来彼の役割は総大将。最前線で戦ったり殿として敵を食い止めたりするのは愚挙にも程がある。が、それでもやるのが彼であり、それを与四郎も知っていた。


「挙句、敵を殿で食い止め云々……あぁ、懐かしいねぇ。御大将が本気で逃げてきたのを見た時は、流石に俺も肝を冷やしたもんさ」


 与四郎は懐かしげに目を細める。そうして、なればこそ、と断じた。


「だから、だ。御大将はいつも前に出たがる。性根として、御大将は他人が傷付くのに慣れちゃ居ないのさ」

「他人が?」

「ああ、いや。こりゃぁ、ちょいと間違った話かねぇ。自分の側に居る奴らが、って話さ。ちょっとでも知ってる奴が傷付けられそうになりゃ、御大将はブチ切れる」


 与四郎はカイトの事を正確に言い当てる。殆ど会ったこともないはずなのに、彼の見立ては正確だった。


「泣き寝入りはしない。そういう奴なのさ、御大将ってのは。その癖、自分が傷付けられても平然としてやがる。難儀なお人さ。ま、だから周囲にあそこまでの好漢達が居たんだがね。あの方は自分の身を顧みない。その代わりに、周囲がなんとかしてやらないと駄目なのさ」

「……つまり、周囲に猛者が多いと?」

「だろうねぇ。何時の世も、御大将のやる事は変わらない。バカは死ななきゃ治らないって言うらしいが……バカは死んでも治らねぇのさ。だから、巴ちゃんの命令なわけさ」


 お鶴である筈の少女に対して、与四郎は巴と呼んだ。が、これにお鶴は疑念を挟まなかった。それ故、彼女は一つ頷いた。


「良いでしょう。では、そのとおりに」

「おう、頼むぜぇ……で、巴ちゃん一つ聞いておきたいんだけどよぉ」

「なんでしょう」


 お鶴改め巴は与四郎の問いかけに足を止めて問いかけた。そうして、与四郎の目が先程の懐かしさとは別の意味で細められる。


「巴ちゃん、なんで俺達に協力するわけ? 巴ちゃんだけは、彼らに何の縁もゆかりも無いでしょうよぅ」

「……」


 与四郎の問いかけに巴が口を閉ざす。巴が何者なのか、というのは与四郎も聞いている。であればこその疑念だった。


「……わかりません。もしかしたら、私は私の名に支配されているだけなのかもしれません。荒々しい女の名に。この血の滾りが、胸の鼓動が私を導いているのかもしれません」

「ふーん、そ。ま、とりあえず途中で裏切らなけりゃ、それでいいぜ。なにせ裏切りは俺の専売特許だもんよぉ」


 与四郎は巴の言葉に嘘が無い事を理解すると、即座に興味を切って捨てる。別に彼としても裏切らなければそれで良いのだ。裏切られると作戦に狂いが出る。どうせこの場の面子は全員目的も思惑も全てが違う。仲良しこよしが出来てもその程度だ。裏切りさえ無ければ、どうでも良いのである。


「さて、じゃあ、頼んだ。さぁ、後は全員所定の手はずに従って動くだけだ」


 与四郎は楽しげに地面を蹴る。そうして、彼らは襲撃を開始したのだった。




 というわけで、時は進んで僧兵もどきとの戦いを行っていたカイトであるが、彼の動きは完全に読まれていた。と言ってもこれは体捌きという意味ではない。行動という意味だ。


「ほらな。御大将はいつも自分で出てくるのさ。周囲が止めたって聞きはしねぇ」


 楽しげに与四郎はカイトが奮戦する様子を見ていた。そしてその横には、以前の盗賊も一緒だった。


「……本当に大丈夫なのか?」

「おう、大丈夫大丈夫。ま、あんたはさっさとやるべき事をやりなって」

「……任せたぞ」


 盗賊は若干疑念を得ていた――剣士達とは違って与四郎とは初見――様子であるが、それでももう既に事を起こしている段階だ。であれば、もうやるしかないと腹をくくった。


「さて……じゃあ、こっちも御大将へちょっかい出す事にしますかねぇ」


 駆け足に榊原家の奥へと向かっていった盗賊を見ながら、与四郎が懐に手を突っ込んだ。そこにあったのは魔銃だ。道化師より武器として貰っていたのである。勿論、性能はカイト達の持つ物と遜色ない。そんな上物だ。


「さて……ま、もうちょっとびっくりは先にしてほしいわけで」


 与四郎はそう言うと、顔を隠して榊原家の屋根の上に立つ。そして今まで隠していた気配を僅かにだが、露わにした。


「っ!」


 気配が現れたからだろう。カイトが即座に与四郎の気配に気付いた。それに、与四郎は楽しげにフードの内側の顔を歪める。


「ちぃ! まだ増援が居るのか!」


 流石にカイトもここに来て更なる未知の増援には、顔を顰めるしかなかった。と、そんな彼の所に起き上がった僧兵もどきが突っ込んで来る。


「っ! やっぱてめぇら味方諸共かよ!」


 与四郎が魔弾を放つ手を一切緩めないのを見て、カイトが目を見開いた。巴もそうであるが、与四郎もこの僧兵もどきに対しては一切の容赦なく攻撃を放っていたのだ。

 が、たしかにカイトを相手にするのであれば、それは当然だったのかもしれない。カイトを討ち倒すのなら犠牲ありきで戦略を構築しなければ駄目だ。それをしていただけと判断すれば、カイトとしても別に不思議はなかった。

 と、そんな三人から寄ってたかって攻められるカイトを見て、ルーファウスがアルと頷きあう。この状況だ。しかも敵は生半可な強さではない。二人が連携して戦わねば、勝ち目なぞ皆無に見えた。いや、それでもまだ、足りなかった。


「アルフォンス!」

「わかってる! ソラ、僕らはあの屋根の上の敵を仕留めるよ! あっちはまだ一段か二段は落ちる! 瞬、君は僕らと共にオフェンス! ソラは魔弾を防ぎながら周囲に被害が出ない様に! ティナちゃん、ブーストお願い!」


 アルはカイトが指示を与えられないのを見て、即座に自分が指示を出す。与四郎その人も言っていたが、与四郎の戦士としての腕は新次郎達より数段劣る程度だ。まだアル達でも数で攻めればなんとかなる領域だった。


「わかった!」

「おう! 全員、オフェンスは三人にまかせてこっちは遠巻きにして、援護するぞ!」


 瞬が地面を蹴ったアル達と共に屋根へと向かい、一方のソラが冒険部総員に指示を出す。数段劣ると言ってもやはり実力差は明白だ。ソラ達で近接を挑むのは愚行というものだろう。ソラもそれは今の戦いでよく理解出来た。だから、彼は指揮と防御に専念する事にする。


「……」


 来た来た。与四郎は内心でほくそ笑む。こう来るだろうと思っていたのだ。カイトが前線に出れば必ず、周囲はそれを守る様に動くのだ。それは今までもずっとそうだったし、これからもずっとそうだろう。それがわかっていれば、予想は容易かった。


「はぁああああ!」


 先手を取ったのはルーファウスだ。彼はアルよりも遥かに高い飛空術の練度を活かして突撃すると、そのまま与四郎へと斬りかかる。それを与四郎はしっかりと太刀筋を見た上で、魔銃のフレーム下部に取り付けられた刃を使って滑らせる様にして回避する。


「っ」


 やはり、使い手か。ルーファウスは滑らせる様にして無効化された自らの斬撃を受けて、内心でそう判断する。ここは中津国。腕利きが多い土地とは聞いていた。故に、驚きはない。

 そしてそれがわかっていたのであれば、ここからも迷いはない。交差するようにしてすれ違ったルーファウスはそのまま、背後で氷の鎧を纏っていたアルフォンスへと声を掛ける。


「行け、アルフォンス!」

「はぁああああ!」


 ルーファウスの背後から、アルフォンスが突撃する。実は直線距離であれば、アルの方が速い。魔力保有量であればティナの訓練がある分、アルの方が数段上なのだ。故にその有り余る力を全部直線的な行動に使えるタックル等の攻撃であれば、アルの方が遥かに強いのである。


「ほぅ」


 与四郎は自らの突撃してくるアルを見て、わずかに笑みを浮かべる。確かにこの速度でこの状況なら、回避も防御も難しい。が、別にその必要は殆ど無かった。


「っ! 桜ちゃん、ありがとう!」

「立て直しを!」


 突撃するアルと与四郎の間に、桜の作り上げた魔糸の壁が立ちふさがりアルの身体を柔らかく受け止める。そして、その直後。その数歩前を巴の矢が通り過ぎていった。あのまま突進していれば、確実にアルは頭を吹き飛ばされていただろう。そうでなくても確実に身体のどこかに大穴が空いた可能性は高かった。と、そうして巴の矢が通り過ぎた先に、瞬が降り立った。


「っと、こりゃ拙い」


 与四郎は瞬がルーファウスと連携してそのまま攻めてくるのを見て、このままでは不利になるだろうというのを理解する。とは言え、だからなんだと言う話ではあった。なにせ彼は一人でここに居たわけではなかったからだ。


「! 危ない!」


 瞬と新たな敵の間に、今度はアルが割り込んでその斬撃を防ぎ切る。が、これは不思議のある事ではなかった。


「……な……に……?」


 放たれた斬撃を見て、瞬は思わず心底肝を冷やした。そしてそれはアルも一緒だった。防げたのではない。防がせて貰ったのだとわかったのだ。


「っ……」


 これは、拙い。アルはフードを目深に被った新たなる敵を見ながら、想像以上に拙い事態である事を理解する。そうして、アルは己の所感を瞬へと語る。


「瞬……多分、こいつ……前の武闘大会で襲撃した奴の片方だ」

「っ!」


 瞬の顔に驚きが浮かぶ。武闘大会で襲撃した奴。それはあのクオンが即座に攻めきれなかった程の猛者という事だ。そしてそれはつまり、下の僧兵もどきよりも遥かに上の実力者であった。


「……」


 幸いな事と言えば、剣士――中身は新次郎――は攻めて来る気が皆無だという事だろう。が、それで十分だ。与四郎は未だにカイトへと銃撃を続けているし、アル達は新次郎の登場の所為で迂闊には攻め込めない。迂闊に攻め込めば死ぬと本能的に理解していたからだ。

 とは言え、これで万事休すというわけではない。新次郎は確かに猛者であるが、此方にもまだ一人彼とまともに戦える人物が一人居た。


「まぁ、こうなってはもう余の出番となるしかなかろうな」


 それは言うまでもなくティナだ。まだ増援があるかも、ということで彼女は最後の最後まで控えていたのである。そうして、彼女は久しぶりに少しだけ本気を出す事にする。


「一葉、二葉、三葉。お主らは余の周囲で待機。まだ第四の波があるやもしれん。それに備えよ」

「「「はい、マザー」」」

「アル! お主らはそのままその拳銃使いを相手にせよ! こちらは遠巻きからその剣士を相手にする!」


 ティナは即座にアルへと指示を飛ばす。この剣士に真っ向勝負を挑むのは如何に彼女でも避けたい所だ。と言うより、近寄って勝ち目はない。だが、これは殺し合い。相手の土俵で戦ってやる義理はない。であれば、魔術師として戦うのみだ。


「さて……ではちょっと、余の乱打に付き合ってもらう事にするかのう」


 ティナはそう言うと、杖でこん、と虚空を叩いた。そうして、無数としか言い様のない魔法陣が新次郎の周囲に顕現する。


「っ!」


 流石にこれには新次郎も驚きを浮かべた。が、それも一瞬だけだ。彼はそれに対して一瞬でざわめいた心を落ち着けると、今まで納刀していた刀を構える。


「ほう……逃げずに向かおうと言うか。その意気や良し。では、踊れ!」


 ティナはそう言うと、一斉に無数の魔術を放ち始める。それに対して新次郎もかっと目を見開いて、全てを切り捨てんと斬撃を放ち始めた。それを横目に、アル達は頷きあう。新次郎はこれで動けない。であれば、与四郎をなんとかすべきだった。


「行くよ!」


 アルはそう言うと、再び氷を纏ってタックルを仕掛ける。それに与四郎は魔弾を放って牽制するも、分厚い氷に阻まれてどうにかなるものではなかった。とは言え、勢いを削ぐ事は出来た。故にアルのタックルを回避する。


「瞬殿! 合わせてくれ!」

「わかっている! 行くぞ、参式!」


 アルの攻撃が回避された後すぐ。そのタックルを隠れ蓑に後ろから突撃していたルーファウスと瞬が頷きあう。そうして、再び冒険部対与四郎の戦いが再開する事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1246話『月夜の下で』

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