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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第63章 多生の縁編

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第1244話 襲撃者達

 少しだけ、時は遡る。瞬達が『夢幻洞(むげんどう)』へと挑んでいた頃の事だ。与四郎の所には複数の人影が集まっていた。と、そんな所にまた一つ、影が合流する。


「よぅ、源次(げんじ)さん」

「なんだ、その名は」


 与四郎から源次と呼ばれた人物は奇妙な呼び方だったらしく、何か妙な感じで首を傾げる。が、それに与四郎はただただ呆れ返った。


「お前さんの名前だろうに」

「……そう言えば、そんな名もあったか」

「あんた自分の名だろうに……ま、そりゃ良いか。で、お目当ての人物は居たのかい?」


 源次なる人物の言葉に呆れた与四郎であるが、気を取り直して問いかける。それに、源次は困惑にも似た表情から一転、真剣な目で頷いた。


「……ああ。遠き遠き過去に忘れた主の血も感じたのは、因果なものかもしれん」


 どんな感情と言い表せば良いのかは、誰にもわからない。憐憫や歓喜、怒りや親愛、そういう相反する様々な感情が滲んだ複雑な表情を源次が滲ませる。それに、与四郎が僅かに穏やかな顔で頷いた。


「そりゃぁ、良かった。こちとら想い人に出会えてんのに、そっち出会えなきゃ寝覚めが悪いねぇ」

「……その趣味は無いぞ」

「俺にもねぇよ。そういうことじゃねぇさ。言っとくが老いてなお盛んっていうのが俺の触れ込みだぜ? 伊達に老いてからもエロ本執筆したわけじゃねぇよ。あ、死んだ嫁さんだけは勘弁なー。マジで怖いでやんの」


 与四郎は笑いながら変な勘違いをした源次にそう告げる。男色家等と勘違いされたようだ。確かに、そう思われても仕方がない土壌はある。が、彼とてそう言う意味で言ったわけではない。単に冗談や言い回しの一環としてそう告げただけだ。


「ま、だがあんただってやりきれないからこそ、俺の話に乗ったんだろう?」

「……」


 源次は無言で与四郎の問いかけに同意する。そうして、彼はある種の万感の想いを込めて、口を開いた。


「でなければ、なんなのだ。義理も人情も道理も人道も栄誉も主君への義理立ても全てを捨て、ただただ今一度、あの日々を取り戻したい。その為だけに、俺は俺である事を曲げた。喩えこの身が空蝉や夢幻の如くなれど、であればこそ、死ぬまで戦わせて貰う」

「そうかいそうかい。あんたの事情は聞き及んでるさ。ま、好きに為さんな」


 万感の想いと金剛石よりも固い決意を滲ませた源次に対して、与四郎が笑いながら良しと頷いた。道化師より呼ばれた彼らは、各々が各々の事情で戦うつもりだ。

 そして道化師もそれについては関与しない事を明言し、関与するつもりはない。所詮利益が合致しているからこその協力関係だ。その程度で良い。そしてだからこそ、彼らも道化師と手を結ぶ事を良しとした。自身の結末は誰にも関与しないし、彼らも仲間内であれ関与するつもりは一切無かった。


「そうさせて貰う」

「ああ、それで良いさ。ああ、と言ってもきちんと指示にだけは従ってくれよ」

「委細承知している」


 与四郎のどこか冗談めいた言葉に源次もまた頷いて承知を示す。喩え先にああ言ったとて、根っこは変わらない。故に彼の生来の生真面目さはそのままだった。


「さぁて……全員、覚悟も準備も良いな? ま、二人程既にうずうずしてるって阿呆も居るが、そこはそれ。存分に楽しもうじゃねぇの」


 与四郎は奇妙な縁で結ばれた今の仲間とも言い得ない仲間達の顔を見る。全部で、7人。思惑も事情も来歴も何もかもが違っている。

 統率なぞ取れるはずも無い。音頭を取る与四郎も取る気はさらさら無い。道中というか最後の目的が偶然にも同じ道で達せられるというだけで、協力すると言うだけだ。


「さぁて……じゃあ、お仕事と行こうじゃねぇのよ。御大将……久しぶりに、遊ぼうぜぇ」


 与四郎が獰猛に、それでいて楽しげに笑う。そうして、遂に。歴史の闇に沈んでいた者達が表舞台へと戻って来るのだった。




 そんな闇の会合から、少し。時は進み、夜の榊原家。襲撃を受けた気配を察したカイト達冒険部一同は応戦の準備を整えると、即座に防衛の準備を整えていた剛拳の下へと馳せ参じていた。


「ご当主! 一宿一飯の恩義により、助太刀させて頂く!」

「おぉ、カイト殿! かたじけない! 街の外に魔物の群れが現れましてな! 客人達は出払いましたが、貴殿らにも此方をお頼みしたい!」


 カイトの来訪を受けた剛拳は即座に指示を出す。カイトらの中にはソラら重武装の者も居る。そして街側の旅館に泊まっていた者も少なくない。そういった者達との連携等を考えていると、若干出遅れた様だ。とは言え、だ。どうにせよこれが陽動の可能性もある。であれば、カイト程の戦力はまだ出すべきではなかっただろう。


「さて……総員、待機」


 カイトは率いている冒険部の人員30人程に待機を命ずる。これで単なる魔物の襲撃なら、よくある事なので問題は無い。が、もし敵であれば、警戒怠れない。


「……」


 カイトは少しだけ、気配を探る。クズハ達には既にここと逆側を頼んでいる。彼女らとて成長していた。誰が相手でも時間稼ぎぐらいなら、なんとかなった。


「やはり、陽動か」


 カイトは闇夜に紛れて忍び込まんとしていたいくつもの気配を感じ取る。


『クズハ、もし奴らであれば引け。オレが出る』

『分かりました』


 気配を読む限りでは、この敵奴ら(死魔将)では無いと思う。が、そう思わせておいて、という様な事ぐらいあの道化師であればやってくる。


『舞妓……?』


 クズハが訝しむ。どうやら、やはり『死魔将(しましょう)』達と違うことは違うらしい。であれば誰なのか、と気にはなるところであるが、問いかけている時間は無さそうだった。


「来たか」


 カイトは目を開いて目の前に現れた巨躯を見る。見た目としては、何処かの僧兵。そんな印象を受けた。が、その大きさは尋常ならざる様相だ。背丈は3メートル程。頭には角が生えている。鬼の僧兵だった。


「来た、ようですな」

「やはり陽動と言うわけでなのでしょう」


 剛拳の言葉にカイトも応ずる。既に周囲は慌ただしく、迎撃の用意が早急に整えられていた。


「全員、遠巻きに射かけて近寄るな!」


 剛拳が声を荒げる。見て、わかった。少なくともこの僧兵もどきの大男は並みの戦士ではない、と。最低でも五十階を踏破出来るだけの猛者だ。並の戦士では鎧袖一触とばかりに吹き飛ばされるのが関の山だ。


「あの剣士達は……まだか?」


 カイトが思い出したのは、先の武闘大会で相見えた二人の剣士だ。彼らの気配は感じられない。これが別とは思えない。魔物を陽動に使っているのだ。十中八九で道化師が協力しているだろう盗賊の関連だろう。


「剛拳殿。どうされる?」

「……」

「……」


 側にいた客将の一人の問いかけに剛拳はわずかにカイトと視線を交わして頷きあう。どちらもまだ伏兵が居ると考えていた。


「私が行こう」


 剛拳はそう言うと、側に控えさせておいた家人から刀を受け取った。まだもう一段階ぐらいは陽動がありそうだった。であれば、カイトは温存だ。


「おぉおおおお!」


 剛拳が雄叫びを上げて僧兵もどきへと突撃して行く。それに、僧兵もどきもまた薙刀を構えて吼えた。


「ぐぅおぉおおおおおお!」


 まるでそれは凶戦士の雄叫び。地響きさえ伴う程の大音声だ。その圧力たるや、剛拳の支援に放たれた矢を全て吹き飛ばすほどだった。そしてその狂気さえ滲んだ咆哮に、剛拳でさえも身を固くする。


「ご当主!」


 確かに剛拳でさえ怯ませた咆哮であるが、この程度であればカイトにとっては子供の癇癪に等しい。故に咄嗟に両者の間に割って入り、僧兵もどきの大薙刀を食い止める。

 その威力たるや凄まじく、もしソラであっても万全の上に全力でなければ防御ごと一刀両断されかねない威力だった。そうして、カイトと僧兵もどきとの間で鍔迫り合いが展開される。


「っ!?」


 鍔迫り合いの直後。カイトは己が誘い込まれたことを本能的に理解する。が、それ故にこそ得たのは驚きだ。


「諸共!? ティナ!」


 誰も間に合わない。故に彼は最も信頼する己の伴侶へと支援を申し出る。そしてそれとカイトの前に障壁が生まれるのは同時だった。


「ちぃ! 狙撃か!」


 カイトは更に飛来する無数の矢に気付いた。どこからかはわからないが、相当な力による狙撃がされているらしい。


「ティナ! 場所は!」

「……東10キロ! 相当な使い手じゃ! 森の中に隠れて外からではわからん!」

「ちぃ!」


 ティナからの情報にカイトは顔を顰める。森の中はどうしても木々が邪魔で遠くからは見えず、フロド達でも狙撃は出来ない。しかも闇夜に覆われた森の中だ。まともに当てろというのが無茶な話だった。とは言え、狙撃を狙撃する事なら出来る。


『フロド、ソレイユ。悪いが狙撃は頼む』


 このまま狙撃され続けるのは非常に有難くない。カイトは即座に狙撃に対しての対抗策を打っておく。が、その念話が繋がる事は無かった。


「……ちっ。やられたな」


 どうやら、完全に分断されたらしい。負けたとは思わないが、それでも念話を途絶されていた。連携は取れないと見て良いだろう。となると、後は手は限られる。


「ご当主! すまないが、狙撃の対処は頼む!」

「任されよう!」

「おぉおおおおお!」


 カイトは剛拳の応諾を受けて、鍔迫り合い状態だった刀に力を込める。このまま鍔迫り合いをしても狙撃を食らうだけだ。相手の力量を考えれば、剛拳達でも全部は対処しきれない。


「はぁ!」


 カイトは僧兵もどきを仰け反らせて、そのまま返す刀で一撃を叩き込まんと容赦なく速度を上げる。これは敵だ。しかも『死魔将(しましょう)』達に繋がっている可能性が非常に高い。

 であれば、容赦するつもりなぞ微塵も無かった。が、そうして斬撃を叩き込んで驚いたのは、叩き込んだ側のカイトだった。


「ゔぉおおおお!」

「何!?」


 完璧に障壁は砕け散り、僧兵もどきの胴体に一撃を叩き込めたはずだった。現に僧兵もどきの衣服は切り裂かれ、血が吹き出している。だというのに僧兵もどきは痛覚なぞ無いかの様に傷を気にしていなかったのだ。

 そうしてそんな有り得ない状況に思わず驚きを浮かべたカイトに向けて、僧兵もどきは問答無用に斬撃を叩き込んできた。これには流石のカイトとて、わずかに反応が遅れた。


「カイト!」

「っ!? すまん、助かった!」


 横合いからタックルで僧兵もどきを吹き飛ばしたアルに対して、カイトが感謝を述べる。流石にこれは仕方がなかっただろう。が、そうして吹き飛ばした僧兵もどきに対して、カイトもアルも追撃を仕掛ける事は無かった。


「……」


 何なんだ、こいつは。吹き飛ばされて激痛が走っているはずなのに、まるで痛痒を感じていない様子で立ち上がる僧兵もどきに対しては、流石にカイトも敵の状況を観察するしかなかった。というわけで、カイトは試しにティナへと問いかける。


『ティナ。何かわからんか?』

『……すまん。まだ情報が足りん』

『ということは少なくとも魔術では無い、と……』


 痛覚を消せる魔術というのは、エネフィアには存在している。元々は拷問用だったり、人道を無視した戦士を作り上げるのに使われていた魔術だ。後者であれば、古くからの風習を受け継ぐ部族では今も使われている。それを使えば、痛覚を無視した戦士というものは作れる。なので知る事も十分に可能だ。

 が、それを使っていないということは即ち、この僧兵もどきというのは痛みを感じているはずなのだ。だというのに、この僧兵もどきは痛みを感じていない様子だった。であれば、また別の可能性が浮かび上がった。


『……無痛症か?』

『……ありえはしよう。そうなると厄介じゃが……』


 無痛症というのは、痛みを感じない症状の事だ。その存在そのものはエネフィアでも広く知られている事だ。先の魔術は元々これがあって開発された物でもある。が、ティナは何か妙な違和感を感じていた。


『ふむ……』


 無痛症にしては、攻撃に対して鈍感ではなかった。ティナは先程の一幕を見ていてそう思っていた。無痛症の戦士はどうしても痛みに対して鈍感になってしまい、敵の攻撃を無視しやすい傾向がある。が、僧兵もどきはアルの攻撃に対してしっかりと受け身を取っていた。


『気をつけよ。なんぞ厄介な可能性はあるぞ』

『だな』


 カイトはティナの促しを素直に受け入れておく。負けるとは思っていないが、簡単に勝てる相手でも無さそうだった。そうして、カイトは起き上がり仁王立ちする僧兵もどきとの戦いに戻る事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1245話『悪い癖』

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