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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第63章 多生の縁編

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第1243話 男二人と小さな相棒

 カイトの魔の手から逃れた盗賊が最後の必要となる何かの回収を終えてから、数ヶ月。カイト達は中津国の榊原家に寄宿させて貰い、一時の骨休めを行っていた。


「ととと……お前、いつもこんな風に飲んでるのか?」


 ソラがふと、カイトへと問いかける。夜空にはまんまるのお月さまが二つ並んで浮かんでおり、それが中庭の池に映し出され、なんとも言えない様相を呈している。酒を飲むには最高の状況と言えた。


「んー……まぁ、良い月が見れる日だと、そんな事が多いな」


 カイトは水面に映る月を見ながら、ソラの問いかけに頷いた。その横には、カイトに並んでユリィもお酒を飲んでいた。とは言え、居るのはこの二人だけだ。桜達は後ろで騒いでいる。男二人がこんな風に静かに飲んでいるのだ。察するぐらいは桜達にだって出来る。唯一、椿がいつも通りお酌をしてくれているだけだ。

 ユリィはまぁ、そういうものだろうとして誰しもに受け入れられている。故に、居ても不思議はなかったし、カイトもソラも気にしなかった。


「良い月だ……物思いに耽るには、丁度よい」

「お前、考える事あんのかよ」

「おいおい」


 ソラの楽しげな冗談にカイトが笑って僅かに視線を向ける。当然、彼だって考える事はある。それは勿論、ソラだってわかっている。カイトは勇者カイトであり、マクダウェル公カイトでもある。考える事は山ほど、それこそソラ達全員を合わせた以上にあった。


「まぁ、でも……こんな月の日には昔の女の事を思い出す事が多いかな……」

「そだねー……」


 カイトのつぶやきにユリィも応じて、懐かしげに目を細めた。そうして、二人並んで水面の月を眺める。


「……随分とまぁ、オレ達も落ち着いたもんだな」

「落ち着きなかったのカイトだけだよ」

「お前が言うな」

「あははは」


 カイトとユリィは肩を寄せ合わせ、ただ穏やかな様子で笑い合う。お互いに本来はそこそこ良い年なのだ。落ち着きがあっても、不思議はなかった。と、そんな所にふと、ソラが問いかけた。


「……昔の女って?」

「月の女神様だ……お前も前見ただろ?」

「あれが?」

「ああ……多分……そうだな。弥生さんとは別の意味で、オレにとっては初恋の相手だ」


 カイトは穏やかだった。もう苦しい事は無い。ただ、その時を待つだけだ。だから今はもう、語る事に苦しみは無かった。それに桜達は既に知っている。別に男友達に語った所で困る事は無かった。


「……にしても、オレはほとほと月か金星に縁があるもんだ。それ以外は死神ってのは、笑い話かねぇ……」


 ふと、カイトは思う。地球でも何人かの女神と彼は懇意にしていた。そのうち多かったのが、月の女神と呼ばれる女神や死神だった。これはカイトとしても意図したものではない。

 だが、結果としてまるで彼が月の女神の神使である事を本能が分かっていたかのように、月や死を司る女神と多数関わる事になっていた。思い直せば、奇妙な物と思うのも無理はなかった。と、そんなカイトにソラが問いかける。


「例えば?」

「そうだなぁ……エレシュキガルってし……らねぇよな。当然、姮娥もわからん、と」

「悪いかよ。誰だよ」

「あっははは」


 堂々と、悪びれる事なく知らない事を明言したソラに対して、カイトは一つ笑う。とは言え、悪いわけがない。エレシュキガルの名を知らないからと困る事はないし、そもそも現代人で知っている方が少数派だろう。もう現地でさえ殆ど信仰もされていないだろう女神だ。知っている方が可怪しいとさえ言える。姮娥については、かぐや姫に似た感じといえば彼にもわかったかもしれない。


「姮娥は中国の月の女神。エレシュキガルは……メソポタミア文明は知ってるだろ?」

「あー……なんだっけ。お前が先生とか言ってた人……ぎ……ぎ……ギルガメシュだ。世界最古の文明だろ? そういや、夏の時に来てたっけ?」

「それ。ギルガメシュ、もしくはギルガメッシュ王。その彼が属する神話の死神。地球最古の死神と言っても良いかな。それが、エレシュキガル。ヒステリックでダウナーな死神だ」


 ソラの確認に頷いたカイトは、そのままざっとしたあらましを語る。と、そんな話を聞いてユリィが僅かに驚いた。彼女も少し話は聞いていたが、そんな女神とは思いもしなかったのだ。


「ダウナーな死神って……カイト、似た人に浮気は流石に怒られるよ?」

「あっははは。ま、でも……見てらんなかった。そう、だからこそ見てらんなかったんだよ」


 ユリィのどこか茶化す様な言葉にカイトは笑いながらも、そうだからこそと明言する。彼の愛した月の女神(シャルロット)はダウナーな死神だった。その彼女が不意に被ったのである。


「彼女は奪われ続けた人生だった……そして最後は、愛する者に見送られて死ぬと覚悟を決めていた」

「……」


 ユリィはカイトの言葉を聞いて、何故カイトがシャルロットを思い出したかを理解した。どこか、その情景は自分達が別れた時に似ていたのだ。似ていたからこそ、不意に思い出してしまったのだろう。それは彼がシャルロットを愛していたからこその事だった。


「あれ? でもお前、確か救ったんだよな?」

「ああ、救った」


 ソラの問いかけにカイトは僅かな誇りを見せる。それは本当に珍しい事でもあり、故にソラが僅かに驚いていた。そうして誇りに思っていたからだろう。彼はふと、一振りの剣を取り出した。それはかつて、奇しくも中津国で一度だけ取り出した事のある名も無き剣だった。


「……<<無銘(星の剣)>>。こいつはその時に手に入れた物だ」

「……なんだよ、それ」


 ソラはカイトが手に取ったそれがあまりに平凡な見た目であるにも関わらず、物凄い代物である事をひと目で理解した。それこそ彼が思わず息を飲む程だ。それほどまでに、この武器は圧倒的な威容を誇っていた。が、そんなソラの問いかけにカイトは首を振った。


「さぁ……実はオレも詳しい事はわかんねぇんだよ」

「お前が持ってるのに?」

「ああ……というのも、これは強制的に持たされた物でな。持たなくて良いのなら、持っていたくはない」

「え? じゃあ」

「やめとけ。当時の話とは言え、オレが一発で疲れたぐらいだ。ティナぐらいじゃねぇと使えねぇよ」

「お前がかよ……」


 カイトが真実無限にも等しい魔力を保有している事はソラも知っている。それ故、ソラは少し手を伸ばそうとしていた手を慌てて引っ込める。碌なことにはならなそうだった。

 そして、それが正解だろう。ソラが即座に手を引っ込めた事でカイトは語らなかったが、この剣はどんな剣よりも平凡な見た目でありながら、どんな優れた武器よりも持ち主を選ぶ。そしてその剣が今まで主と認めたのは、カイトと彼が師と仰ぐギルガメッシュその人だけだった。


「あっははは。ま、それぐらいの代物だ……まぁでも……あのおかげで、オレは悪夢をまた一つ振り払えた」


 カイトは<<無銘(星の剣)>>に対して僅かな感謝を滲ませながら、こつん、と側面に額を当てる。この剣はカイトとしても出来れば使いたくない。が、使わないわけではなかった。


「……待っていろよ、シャル」


 小さく、カイトが決意を語る。もう、繋いだ手を離すつもりはない。その為になら、これだって使うだけだ。そうして再び愛を語ったカイトに対して、ソラも気を取り直して告げた。


「お前……その内誰かに殺されるんじゃね?」

「あっははは……マジでな」


 ソラの冗談に対して、カイトは思わず素面で答える。こればかりは彼としても懸念事項の一つだった。多数の少女を抱える彼だが、それ故にかその中には所謂ヤンデレと呼ばれる部類の少女も含まれていたのである。と言うわけで、そんなカイトに対してユリィが笑いながら告げる。


「そもそもカイトのハーレムだって二人ヤバイの居るしねー。あ、一回ぶすっとやられた後だっけ?」

「やめて、それ言わないで。あいつ浮気してないのにガチで刺すんだもん……」


 ユリィの言葉にカイトは耳を塞ぐ。この二人とは一番古い付き合いなのであるが、その二人が一番やばかった。


「カイトと長く付き合ってると人間的に狂うのかな?」

「あっはは……かもな」


 カイトは若干楽しげにユリィの冗談に同意する。と、そんな彼女の冗談に今度はソラが冗談を告げた。


「でもそれならユリィちゃんが一番なげぇんじゃねぇの?」

「ぐぅ……」


 忘れてた。ユリィは過去世にも視点を当てていた所為ですっかり忘れていた事を思い出す。確かに現世であれば彼女が一番長い付き合いだった。


「だ、大丈夫……うん、大丈夫。私まだヴィヴィ並じゃない」

「どうだか……」

「いや、大丈夫だって……うん。あいつ程後ろからぐっさりが似合いそうなの居ない。もしくはのしかかってぐっさり」

「似合うか、あいつ? 確かにちょっと怖い時あるけど」

「知らないって怖いなー……」


 ユリィがため息を吐いた。どうやら、色々と色々あるらしい。とまぁ、そんな会話をしながら三人で飲んでいると、ふとソラが再び口を開いた。


「っと、そだ。そいや、この間の飯屋、サンキュな」

「ん? ああ、それか。ま、良いってことよ」


 ソラの感謝にカイトが笑って首を振る。カイトが今日の昼にデートに出かけていた様に、ソラもまた彼女持ちである以上はデートに出かけている。

 とは言え、やはり人生経験であればカイトの半分を更に下回る彼だ。そして故に時折相談に乗る事があり、やはりここなので食べ歩き等が多くその際に良い店を教えてやったのであった。


「で、どうだった?」

「んー……由利よりナナミの方が興味持ってたっぽい」

「そか」


 なら、良いか。カイトはソラがしっかりと両者の事を見れている事を良しとして、何かを言う事は無かった。ハーレムを築く上ではバランスが重要なのだ。その中できちんと見れているかどうかは重要だった。この点に掛けてもカイトは先達だ。ソラよりも経験値が高かった。


「ふぅ……」


 ソラがカイトから注いでもらった酒を一口口にして、一息吐いた。こうして飲むのも悪くないな。ソラとしては飲めや歌えの宴会ぐらいしか経験した事が無かったが、それ故にこうして飲むのは無かった。また妙な、敢えて言えば侘び寂びとでも言うような奇妙な感慨があったらしい。


「……いろんな事があったんだなー……」


 ソラがふと思ったのは、そんな事だ。ここまで長かった。確かにエネフィアとしては一年も経過していないが、地球換算で考えれば既に二年近くもの月日が経過しようとしていた。こうして静かに飲んでいると、それが思い出される様だった。それにカイトが少しだけ苦味を浮かべた様な、それでいて穏やかな顔をする。


「……そんな事を思いながら飲むのさ。酸いも甘いも飲み下せ……どっかの大馬鹿の一人が、そう言ってな」


 カイトは今は過去に消えた誰かを思い出す。彼は彼自身が認める通り、たった三年で人生を駆け抜けた。普通の人間なら一生を費やしても経験し得ない様な苦い経験も、どれだけの財を費やしても得られない様な甘い経験も得ていた。

 今はその幸運にも残っていた第二の人生をのんびりと――勿論、彼からすればだが――歩いているだけだ。故にその実年齢にも関わらず、どこか老成した感があった。

 勿論、これはもしかしたら彼の中にいる『もう一人のカイト』との融合が始まっているからなのかもしれない。が、それは彼にもわからない事だった。そしてもちろん、ソラにもわからない。


「……わり。わっかんねぇわ」

「あっははは。そりゃ、分かっても困る。オレだってこんなバカみたいな道のりを歩いた結果の今だ。それを、たかだか十数歳のガキが手に入れられていてもな」


 カイトはどこか神妙な顔で幾つもの意味のある返答を行ったソラに対して笑いながら頷いて、己に寄り添うユリィの頬を撫ぜる。そうして、今度は穏やかな空気が流れ始める。が、そんな時だ。唐突に場の雰囲気が変わったのを、二人が、いや、全員が知覚した。


「……カイト」

「はぁ……どんなバカだ。気持ちよく飲んでるってのに……」


 先程までの穏やかな様相とは打って変わって真剣そのものの顔で警戒感を滲ませるソラに、カイトはため息を吐いた。とは言え、気付いた以上は出ねばならないだろう。曲がりなりにも世話になっているのだ。一宿一飯の恩義がある。


「カイト」

「ああ……全員、榊原家に助力する! 楽しい宴会はここまで! 準備を整えて、当主殿の所へ行くぞ!」


 瞬の問いかけにカイトは立ち上がり、状況の確認をすべく動き始める。これがカイトや剛拳達の懸念していた敵かどうかはわからないが、少なくとも世話になっている以上は恩に報いる必要はある。

 これがカイト達が懸念する敵であればそのまま出れば良いし、逆に単なる物好きが名家榊原家に喧嘩を売りに来ただけであれば、瞬ら望む者が一仕合やってみるも良いだろう。

 が、とりあえず座視というのは悪手だ。冒険部の上層部の名に傷がつく。そうしてカイト達は楽しい宴会を邪魔する無粋な者達を懲らしめるべく、用意を整えて剛拳の下へと急ぐ事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1244話『襲撃者達』

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