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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第63章 多生の縁編

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第1241話 榊原家の秘宝

 榊原家大目付である大婆様により語られた、榊原家が保有する大秘法『八花(はちはな)』の来歴。それの最中に偶然にもオリジナルメンバーと呼ばれた榊原・花凛がカイトと同じく数多の武器を魔力で編み出す事が出来る稀有な能力を持っている事が判明する。と、そんな話も一段落した所で、『八花(はちはな)』の来歴を語った大婆様がカイトへと一つの頼み事を行う事になった。


「さて……それで、です。カイト殿。旧縁を頼りに、しばし頼まれては貰えないでしょうか」

「なんでしょう」


 カイトは大婆様の頼みを聞いて、先を促す事にする。カイトは榊原家には『八花(はちはな)』の試作品でもあり、同時に現代では『八花(はちはな)』に数えられる無貌<<(ゼロ)>>を譲ってもらった恩がある。であれば、聞くのは吝かではなかった。


「ええ……先にお話になられていたご様子ですが、賊徒が『八花(はちはな)』狙いである可能性はあり得る。であれば、それに対処しようというのは道理な考え」

「でしょう。私としてもこちらに滞在中であれば、榊原家への協力は惜しみません」

「ありがとうございます」


 カイトの協力の明言に大婆様が頭を下げる。というわけで、大婆様が依頼を告げる。


「それで、です。賊徒にはかの四人の将軍が何らかの所以により協力していると伺っております。相違ありませんか?」

「はい。私もかつての大会の折り、偶発的ではありますが道化師と相見えました。おそらく何らかの策を講じていると考えて良いでしょう」

「そうですか……であれば、です」


 大婆様は剛拳に向けて一つ頷いた。ここからは剛拳が語るべきだろう、と判断していたのだ。


「カイト殿。それで一つ、『表八花(おもてはちはな)』の半分を御身が守ってはくれまいか」

「表を、ですか?」

「ええ。残りの半数はカリンが」


 カイトの問いかけを受けた剛拳の明言にカリンが頭を下げる。彼女とて300年前の大戦ではエースの一人として活躍していたのだ。確かにその腕前は『死魔将(しましょう)』達には及ばないが、それでも彼らとて即座に倒せるレベルの戦士ではない。

 特に今は『表八花(おもてはちはな)』の半分を保有している。やはり『八花(はちはな)』が最も相性が良いのは榊原・花凛と同じ才能を持つカイトか、榊原家の家人達だ。その性能を十全に発揮出来る。少なくとも複数同時に攻めかかる事が無い限りは、半日は耐えられる。

 万が一を考えた場合、榊原家で保有しておくよりカリンが保有しておいた方が遥かに守り抜ける可能性は高かったのだ。榊原家にとって最も守り抜かねばならない秘宝である事を考えれば、妥当な判断だとカイトも理解出来た。


「なるほど……わかりました。そういうことでしたら、半数を私が保護しましょう。榊原家にとって最も重要なのはやはり『八花(はちはな)』。それが奪われる事は避けねばならないことでしょう」

「かたじけない」

「ありがとうございます」


 カイトの応諾を受けて、剛拳と大婆様が頭を下げる。カイトの場合はカリンとは違いよほど裏を掻かれない限りは全員総出で来た所で守り通せる。もしカリンに万が一があったとて、半数は無事に出来るのだ。榊原家としてはこれ以上無い防護策だっただろう。と、そんな話を出した後、カイトが問いかけた。


「それで……裏はどうなさるのですか?」

「裏はそのままで構いません。あちらは使おうとして使える物ではない」

「ふむ……」


 大婆様の明言にカイトは僅かに眉をひそめる。先程剛拳とも話し合っていたが、『裏八花(うらはちはな)』は使おうとして使えるものではない。それは『死魔将(しましょう)』達とて変わらないだろう。あれはカイトがまともに使う事を諦める領域の代物だ。

 使いこなせれば確かにすごい武器になってくれるだろうが、使いこなせるという方法が見付からない。なにせあまりに強力過ぎるし、呪いそのものも強すぎる。『死魔将(しましょう)』達とてこれを使おうとは思わないだろう。ティナをして自分と同程度の技術水準であると言わしめる彼らならば、もっと良い武器があるからだ。とは言え、懸念は懸念。故にそんなカイトの顔を見た大婆様が明言する。


「……確かに、カイト殿の懸念もわかります。が、かつての事はご存知でしょう?」

「……まぁ、たしかに……」


 大婆様の問いかけにカイトも僅かに苦慮を見せる。かつてのこと。これはカリンと大婆様の会話でも出ていた事だ。とは言え、それがわかっているのはカイト達だけだ。故に灯里が小声で問いかけた。


「かつての事って?」

「……前に一度、『死魔将(しましょう)』……それも剣士の方が『裏八花(うらはちはな)』を狙って襲撃してるんだよ。その際、奴がこれは使い物にならない、と明言して去ってるんだ」

「使い物にならない?」


 先程の話が正しいのであれば、カイトが一度使っているはずだ。そしてその結果はカイトをして尋常ならざると言わしめている。であれば、灯里の疑問はもっともだ。


「……そうだなぁ……轟鉄殿の一件、お話しても?」

「構いません」


 カイトの頼みに対して、大婆様は許可を示す。それを受けて、カイトは灯里に剛拳の弟・轟鉄の話をする事にした。


「カリンの義理の親父さんの轟鉄って人。実は一度『裏八花(うらはちはな)』の一つを使って戦ってるんだ。その際、呪いに蝕まれて因子を完全に喪失させられてるんだ」

「因子を……喪失?」


 初めて聞いた現象に灯里が首を傾げる。詳しい事はカイトも知らないのだが、とりあえずそういう結果になったということだけは彼も聞いている。そしてそれは一度は使った彼だからこそ、実感として正しいと理解出来ていた。


「ああ……どうやら『裏八花(うらはちはな)』は持ち主の因子を食らって力に変えているらしくてな。故に強大な力を発現してくれるものの、使えば使うほど単なる人間になっていくんだ。勿論、それでも一度や二度の使用なら問題はない。でも何度も何度も、それこそ百度も振り回せばほぼほぼ根こそぎ持っていかれる事になると言っても過言ではない」


 カイトは灯里に向けて、『裏八花(うらはちはな)』の危険性を語る。これ故、『剣の死魔将(つるぎのしましょう)』もこれは使えない、と断言したのである。そしてこの発言を考えるに、彼は何らかの異族である事は間違い無いのだろう。

 如何に彼らとて流石に因子を奪われては一大事だ。これは使えない、と断じたのも無理はなかったし、以降優れた武器とされても『裏八花(うらはちはな)』が彼らから狙われる事は一度もなかった。それを今更、しかもその危険性を知る彼らが狙う道理はどこにも無い。


「でも因子って奪える物なの?」

「わからん。が、不可能ではないんだろうな。現に数人、『裏八花(うらはちはな)』を使って単なる人間になっている。その一人が、轟鉄さんってわけだ」


 灯里の問いかけにカイトが肩を竦める。現実問題として、結果が横たわっているのだ。であればそれを素直に見るしかないだろう。


「ふむ……『代償呪法(サクリファイス)』に近い物なのかも……」

「ティナもそう述べていた。自分の意思で刃を振るう、という行為で擬似的に契約を成立させているのでは、という話だ」

「ふむ……」


 カイトの話から灯里もそれが不可能ではない、と判断する。そしてそれ故、解呪も難しいらしい。何かを対価にして力を与えるというのは厳密には呪いとは言い難いからだ。

 そして呪いでなければ真っ当な方法での克服は出来ない。何故そんな性質を持ったのかは剛拳が述べた様に今もって不明であるが、少なくとも危険と断ずるには十分な理由だった。と、そんな事を考えていた灯里であるが、ふと気付いた。


「……あれ? でもカイトは大丈夫だったんだよね?」

「ん? ああ、それか」


 灯里の問いかけにカイトは笑って頷いた。勿論、何事にも例外は存在している。その例外がカイトだった。


「オレはまぁ……強引に屈服させられたんだよ。今にして、何故かはわかったけどな」

「ああ、なるほど……」


 カイトの言葉に灯里も何故出来たのか、という所について納得する。先に大婆様が述べていたが、カイトと榊原・花凛の間には魔力による武器の創造能力という共通点が存在している。

 そして元々『裏八花(うらはちはな)』も『表八花(おもてはちはな)』も共に榊原・花凛の武器だ。そして変質していようと、それは彼女の為に作られた武器だ。根っこまで変質はしていないだろう。主と似通った性質のカイトなら、強引に屈服させられても不思議はなかった。もしくは、似通った性質ゆえに武器の側が代償を求めなかった可能性もある。そこらは詳しく調べていないのでわからない。


「というわけで唯一オレなら、と言う所だ。勿論、よほど強力な使い手になると強引に押さえ込む事も出来るんだろうが……死魔将(奴ら)でも匙投げる武器だ。と言っても奴らなら、強引に屈服も出来るんだろうがな。そんなのやりながら戦う必要は皆無だろう」


 カイトは肩をすくめてそう明言する。先にも述べたが彼らにはもっと良い武器が山ほどあるのだ。こんなわざわざ武器に気を遣って戦わねばならない武器を使う必要はどこにもなかった。

 そして彼らが使わないのであれば、狙う必要もない。現在ではカイトか彼ら以外には使えない道具だ。というわけで、灯里が確認を取った。


「あくまでも、その領域に居ながら使える武器が無い場合に、と言う感じ?」

「そんなとこ。これを使わせる方法があるのなら狙うだろうが、って所だな。あるのなら、と言う話だが」

「思い……つかないわねー」


 流石に灯里もこれには匙を投げたようだ。流石に因子を奪われていくのでは対処のしようがない。因子は異族にとって力の源にも近い。確かにコアが失われるわけではないので激減なぞという事にはならないが、それでも戦闘能力としてかなりの減少になる事には変わりが無い。

 獣人であれば例えば人間の数倍の身体能力は奪われるだろうし、龍族であれば属性攻撃に対する耐性が奪われるわけだ。

 そして減れば減るほど、『裏八花(うらはちはな)』に対抗する事が出来なくなるのだ。もうこうなっては対処のしようがなかった。明らかにメリットとデメリットが見合っていなかった。カイトの様な才能を持っていない限りはそもそも使わない、という手が一番の対策だった。


「ま、そういうわけでな。流石に狙っても良いけど逆にそうなると奴らにとってもメリットが無い」

「そういうわけなのです」


 カイトの言葉に大婆様も同意する。そういうわけなのでカイトからしても榊原家からしても、『裏八花(うらはちはな)』を狙う理由が見当たらなかったのだ。この認識は『死魔将(しましょう)』達も共有している。そして同じ結論にも至っているだろう。だというのにこの武器を狙いに来る道理が無かった。


「でも本当に狙わないの?」

「ま、そりゃわからん。奴らなら武器として使う以外に狙う可能性はあるからな」


 灯里の問いかけに対してカイトはそう明言する。そしてこの認識は榊原家にも共有されていた。とは言え、だ。それでも放置を決めたのだから理由があった。それを大婆様が明言する。


「とは言え、です。先にも言いましたが、これを使うのは多大なデメリットありきのお話。もし『死魔将(しましょう)』達であったとて長くは使えない。他の者であれば何をか言わんや。常人なら一振りが限度。呪いに対する耐性が強い死体を操り使わせたとて、十度も振るえば自滅する。ならば、その後に回収してしまえば良いだけの話です」

「は、はぁ……」


 酷といえば酷な対策を明言する大婆様に灯里が思わず頬を引き攣らせる。とは言え、それで良い。もし『死魔将(しましょう)』達が使うのならそれだけ力を削ぐ事が出来るわけだし、よしんばそうでなくとも敵が自滅して遠からず戻ってくる。

 彼らとて無駄にこんな危険物を抱え込みたくはないというのは共通認識の筈だろう。使い終わればさっさと榊原家に委ねたいはずだ。現に300年前には使えないとわかれば早々に興味を無くし、榊原家に返却――と言っても収奪を諦めただけだが――している。そして戻ってくるのであれば榊原家としては問題がなかった。困るのは紛失される事だ。どんな被害が生まれるかわかったものではないからだ。


「というわけで……カリン」

「はい、大婆様」

「例のアレを」

「かしこまりました」


 一先ずの解説を終えた大婆様の命令を受けて、カリンが持ってこさせていた二つの箱をカイトへと差し出した。


「『陸号(りくごう)』『八月(やつき)』です」


 カリンが箱の中身について明言する。槍と弓の二つを、カイトに預けたいという事であった。それを、カイトも受け取った。


「わかりました。こちらは私がしっかりと守らせて頂きます」

「かたじけない」


 二つの名品をしっかりと受け取って異空間へと保管したカイトに剛拳が頭を下げる。そうして、彼は更に大婆様がカリンにしたものと同じ事を明言した。


「もし必要とあらば、そちらでお使い頂いて構いませぬ。そちらには必要な物でしょうし、このような状況でこそ使うべき物。それが、その武器の本懐というものでしょう」

「かたじけない。必要に応じて、使わせて頂きます」


 剛拳の許可を受けて、カイトもまた頭を下げる。こうして、カイトは榊原家より榊原・花凛が使ったという『表八花(おもてはちはな)』の内の二つを保管する事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1242話『世界をめぐり』

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