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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第63章 多生の縁編

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第1239話 狙われるは

 榊原家当主剛拳との挨拶代わりの一仕合を終わらせた後。カイトはというと再び酒を飲みながら剛拳を相手に話を交わしていた。基本、やはり剛拳とカイトは顔見知りなので話はカイトが執り行うのが筋だろう。

 そして灯里にしても流石にこの場と相手は弁えている。彼女は通常のおちゃらけた態度は素であるが、賢いが故に自分がどう振る舞うべきかきちんと分かっていた。故に適当に――この場合は正確にという意味で――相槌を打つ程度にとどめていた。


「あはは。そうですか。それで、ミントの奴が……」

「ええ。彼女もあの頃に一皮むけた模様でしてな。八十五階層にまで到達した様子です」

「まぁ、道理でしょう。月花の奴が確か……九十階でしたから、それぐらいは到達せねば格好がつかないとでも思っていたのでしょう。意地でも八十までは、と言う所なのでしょうね」

「あはは。そうなのでしょう」


 カイトの言葉に剛拳も笑いながら同意する。二人の話し合いであるが、やはりこれとなると話の中心は武に関する事だった。どちらにせよ灯里も口出し出来る内容ではなかった。


「にしても私もまだ七十階層という所なのですが……いやはや、あそこ以降は実に恐ろしい」

「あっははは。まぁ、それはそうでしょう。あそこ以降はまさに地獄の有様。特に九十階を超えるともう笑うしかない」

「あっははは。笑っていられるだけマシというものでしょう。常人なら笑う事さえ出来はしますまい」

「いやいや。存外、常人故に笑うしかない。もうここまでぶっ飛ぶと、と言う所」

「いやぁ……それでも常人では笑うより前に絶望するでしょう」


 剛拳はカイトの言葉に笑いながら、道理を説いた。そもそも瞬達が到達した五十階層の段階でランクSに届くか届かないか、という領域だ。そこが伝え聞こえる限りで折り返しである事を考えれば、最下層と言われている百階層が如何程なのか、と言うのは誰にも想像が出来なかった。と、そんな会話をしていたからか、ふと剛拳が何かを思い出したかの様に口にする。


「にしても……古文書を読み解いて最下層に何があるかは存じ上げておりますが……あれは事実なのですか?」

「ああ、あれですか」


 二人は二人にしかわからない事を口にする。それに、カイトは思わず笑いを零した。


「事実ですよ。いや、先にああ言いましたが、実のところ三人揃ってここで全員笑って帰ろう、と言った程です」

「あっははは。流石にお三方もあれ以上は嫌でしたか」

「おそらくかの女傑、花凛殿もそう思われたのでは?」

「いやはや。お見通しでしたか。彼女の日記によれば直筆でやってられるか、との一言が」

「あっははははは! それはそうでしょうね!」


 楽しげな剛拳の言葉にカイトもまた笑って頷いた。さて、二人はわかり合っているので何も言わなかったが、これは実は『夢幻洞(むげんどう)』の話だ。実のところ、『夢幻洞(むげんどう)』は全百階層だという触れ込みなのであるが、それは真っ赤なウソだった。

 と言うより、カイト達やオリジナルメンバーの花凛がそこで揃って帰還しているのでそう思われているだけで、実はあそこは単なる中継地点に過ぎなかったのである。カイトも故に百階層だと言われているが、としか言っていない。最下層は百階だ、なぞ一度も言っていないのである。

 とは言え、百階層で帰ってくるのだから当然、そこには何かがある。その何か、というのは敢えて言えばセーブポイントの様な場所だった。ここまでたどり着けた者は次からはここから続けられるのである。というわけで、実はカイトは更に進んで百二十階層ぐらいまで進んでいたらしい。

 それ以降は流石に面倒だし、今のまま無補給で進むのにも限度があると諦めたそうだ。流石の彼も百二十階層を駆け下りた後にこれ以上進むのは愚行と悟る程の領域なのだそうである。


「まぁ、とは言え……あそこはオレも何時か踏破したい所の一つですよ。十年後か、二十年後か……神陰流を完璧に極めた暁には、あそこにまた挑まさせて頂きます」

「それは楽しみだ」


 カイトの言葉に剛拳が笑顔で頷いた。300年前の時にカイト達が揃って突入した時以降、ルクスもバランタインも理由も無かったし奴隷制度撤廃等カイト達が主導した政策が大陸全土に広がり始めていた事もあり、あんな長大な『夢幻洞(むげんどう)』に本腰を入れる事の出来る時間も取れなくなっていた。

 それ故、彼らの晩年でどこまで至れたかはわからない。が、少なくともそれ故に一つだけ言える事がある。それは、誰も踏破した事の無い迷宮(ダンジョン)だという事だ。

 そう言われてはカイトとて心が疼かないはずがなかった。ならば、と今度は万全を期して入るだけだった。と、そんなカイトにそれ故に灯里が問いかけた。


「あれ? じゃあカイト。今回入る気無いの?」

「無いな。次に入る時は全部制覇してやる、って決めてるからな」

「今でも無理って思ってるってわけ?」

「んー……」


 灯里の問いかけにカイトは己がかつて到達した百二十階層の事を思い出す。既にあの領域にまでたどり着くと、魔物の強さは殆ど変わらなかった。例えるのなら今までが一階層毎にレベルが一つ上がるとするのなら、百階以降はレベルが上限に到達してしまっている様な感じだった。

 ある意味、ここまでたどり着くと『夢幻洞(むげんどう)』と挑戦者の根比べに近くなる。故に、当時のカイトでも上手くやれば最下層にまでたどり着ける可能性は十分にあった。敵には勝てるのだ。が、スタミナを切らさずに最後までたどり着けるか、という所で問題が出てくる。


「……多分、行ける。けどまぁ、時間足んないわ」


 カイトは仕方がない、と肩を竦める。おそらく未熟な段階の今でも踏破は可能。カイトはそう見立てを立てていた。あの当時はカイトの経過時間としてはおよそ10年程前の事だ。

 その当時の自分と今の自分を比べると、今の自分の方が遥かに強いと断言出来る。どちらかと言えば力に偏っていたエネフィア時代の彼に対して、地球では技を学んでいた。それを考えた時、あの当時よりも遥かに低燃費で進めるだろう。が、それでもまだ完成はしていない。しっかりと休み休みを入れつつの行動になるのだろう。


「そんなに難しいの?」

「まぁ、難しい……けど、だ。流石に桜達連れてきてんのにオレが一人どっか行くのは可怪しいでしょうよ」

「あ、あー……」


 灯里も思わず納得するしかなかった。今から突入すれば、カイトもおそらく明日の帰還までの間には最下層まで踏破出来ると考えている。が、それは本末転倒というか、旅行の意味がない。

 今回のカイトの目的は湯治、つまりは休暇だ。桜らやらとイチャイチャしに来ているのに、わざわざ疲れに行くつもりはなかった。もし疲れたければ彼女らとイチャイチャしておけば良いだけの話である。

 なんだったら部屋を貸し切って朝から晩まで愛し合うのも良いだろう。相手は多い。それもまた一興と言える。が、それ故にこそ、ここで『夢幻洞(むげんどう)』に突入する意味が見出だせなかった。


「ま、というわけ。折角休暇に来たのにバトるのもなんだ。休みは休みとして、しっかりと取るさ」

「それが、武芸者にとっても肝要ですからな」

「そういうことでしょう」


 カイトは剛拳の言葉に頷いた。今回は休暇だ。一応それでも腕を落とさぬ程度には修練は積んでいるが、その程度だ。敢えて言えば、見直しをしていると言っても過言ではない。彼は瞬達とは違いある程度まで進んでいるのだ。ならば、これ以降は急ぎ足で進むではなく後ろを見直すのも大切になっていた。と、そんな会話を続けてしばらく。剛拳がふと思い出した様に、本題に入る事にした。


「そう言えば」

「どうされました?」

「いえ……カイト殿がお知らせくださった賊の事です」


 剛拳はそう切り出す。カイトはカリンを通じて榊原家に注意喚起だけは促している。それ故に続報を報せておこう、という事だろう。それにカイトに残る二つを預けておきたいという考えもある。というわけで、カイトが僅かに姿勢を正す。


「ああ、彼ですか……その後、何か掴めましたか?」

「ええ。とりあえずあの後も彼らは何度か大会の参加者を狙っていた様子です」

「それは……真ですか?」

「ええ……燈火殿より、書状が届いております」


 剛拳はそう言うと、懐から燈火の書いた書類を取り出してカイトへと差し出した。これはカリンが持ってきた物だ。


「ふむ……」


 カイトはしばらく剛拳より手渡された書類を見る。と、そうしてふと、眉をしかめた。


「これは……ふむ……」


 襲われた人数は確認出来ている限りで4人。が、これだけでは無いだろうというのは、察するに余りある。なにせあの道化師が裏で操っているのだ。人数を誤魔化すぐらいは容易く出来るだろう。

 とは言え、それも大人数にはならないだろう事が察せられる。あまりに多すぎると流石にバレる。今はまだカイト達が偶然見付けたから良かったものの、という程度だ。

 こうでないのなら、おそらくまだ気付けなかった可能性は十分にあった。とはいえ、流石に限度がある。最大でもこの倍には至らないだろう。そんなしかめっ面のカイトに剛拳がその気になる部分を口にする。


「……刀使い、薙刀使い、槍使い……」

「やはり、お考えはそれで?」

「ええ……おそらく残り三人か四人、殺されていると思っています」


 剛拳はカイトの言外の言葉に頷いた。カイトとしてもそう考えていた。何故彼らが疑問を得たのかというと、その殺された者達の得物の事だ。

 実のところ、この武器種はすべて榊原家が保有している『八花(はちはな)』に合致していたのである。であれば、『八花(はちはな)』が狙われている可能性について考慮しないはずがなかった。


「とは言え、裏は使える者達は居ないでしょう。ご忠告くださった死人を使ったとて、それは無理だ」

「ふむ……」


 剛拳の言葉にカイトは僅かに頭を働かせる。確かに死霊術(ネクロマンス)で死者を操り『八花(はちはな)』を使わせる事は可能だ。が、それもすぐに使えなくなる事は目に見えていた。

 やはり途轍もない呪いを持つ『裏八花(うらはちはな)』だ。喩え一時的に使わせられても、すぐに武器からの拒否反応とでも言うべき力で遺体は損壊してしまうのである。それらを複合的に考えれば、死体を使って死霊術(ネクロマンス)で動かしたとて長くは使えない。使えてせいぜい一時間。それもカイトの参加した予選大会で奪われた遺体程度なものだろう。他は30分も保てば、良い方だ。


「そう……ですね。裏であれば、何が目的かがわからない。が、そうなれば今度は死人を使う意味がわからない」

「ええ……とは言え、裏ならば別に構いません。あれを遺体に使わせるのは、どうしても無理だ」


 先と同じく、剛拳は『裏八花(うらはちはな)』については問題が無い事を明言する。もしあの盗賊が使おうとしたとて、それは土台無理な話だということになる。

 彼ではどう頑張っても力量が足りない。そこは喩え道化師の助力があっても変わらない。狙われた所で、問題はないだろう。問題があるとすれば、それは道化師の方だ。故にカイトはそこを指摘する。


「とは言え……道化師が動いている。そこは如何お考えで?」

「それですか……そうですね。貴方だから、お明かし致しましょう」


 剛拳は少しだけ考えて、カイトに僅かばかりの秘密を明らかにすることを決める。そしてそうなると、ここからは大婆様を交えるべきだと判断した。


「大目付を」

「かしこまりました」


 剛拳の命令に従って、家人が頭を下げる。既に述べられていたが大婆様は長老ではあるが、同時に表立って動く事はない。剛拳が当主である以上、顔を立てている。

 なのでこの会合にも参加せず、同じくカイトを立てているクズハらと裏で会合をしていた。とは言え、それも必要があれば、と言う所だ。そうして、話は本題に入る事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1240話『榊原家の秘宝』

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