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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第63章 多生の縁編

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第1235話 途中経過

 榊原家の一角にある『夢幻洞(むげんどう)』という迷宮(ダンジョン)。それは冒険者ユニオンの創設者の一人である『榊原 花凛』が修行したとされる地だった。

 そこに足を踏み入れていた瞬であったが、ひとまず第一階を楽々と突破する。そんな彼は第一階突破後は道具を手に入れてコツを掴んだ事もあり、少しだけペースを上げて先へと進んでいた。

 そうして、彼が『夢幻洞(むげんどう)』へと潜入して体感時間としておよそ一時間。およそ第八階層へと足を踏み入れていた時の事である。戦いを終えた彼の目の前に、半透明の板が唐突に浮かび上がった。


「なんだ?」


 探索の最中であった瞬は唐突に目の前に浮かんだ半透明の板に僅かに警戒感を覗かせる。まぁ、ここは彼からしてみれば未知の迷宮(ダンジョン)だ。何か迂闊にも触ってしまって罠が発動した、という事はあり得る。が、そう警戒する必要は無かった。

 というのも、半透明の板に文字が浮かび上がり、そこには『ソラ』という名が刻まれていたからだ。しかもご丁寧な事に連絡が入ったという事まで記されていた。後は半透明の板にある『イエス・ノー』のボタンを押すだけで、ソラから入ったという連絡が取れる様になっていた。


「ふむ……」


 何かは分からないが、おそらくこれはソラが何らかの魔道具を手に入れて使ってみたという所なのだろう。瞬はそう判断すると、小休止を取っていた事もあり応じてみる事にする。


「ソラか?」

『あ、先輩。そっち、大丈夫っすか?』

「ああ。だから応じたんだが……お前も来たのか」

『うっす。なんか『通信符(つうしんふ)』って道具手に入れたんで、試しに使ってみたんっすけど……いや、取ってくれて助かりました』


 案の定、通信の先はソラだった。どうやら手に入れた物をとりあえず使ってみて、使い勝手を確認していたという所なのだろう。瞬に分かるのは声だけであるが、どこか安堵した様な気配があった。


「だが……何故俺だ?」

『あ、いえ。どうやらギルド単位で通信出来るらしくて、先輩が取るとは思ってなかったんっす』

「うん?」


 ソラの明言に瞬は首を傾げるが、それにソラが少し照れくさそうに明言した。


『いや、すんません。これ、どうにも上下5階分しか届かないらしいんっすよね。で、先輩達先に入ってたって事なんでもう10階ぐらいまで行ってるんじゃないかな、とか思ってたんっすよ』

「あはは。流石に俺もそこまで無理はせんさ」


 ソラの言葉に瞬は笑う。これでも未知の所とわかっていれば、流石に彼も慎重さを表に出す。故にまだ全力は出していないし、ここで出すのはよほどのバカだけだろう。


「今は……ああ、八階層だ」

『あー……俺より三階程下っすね……』


 やっぱりあちらの方が早かったか。ソラは言外にそんな感じだった。とは言え、先に入っていたのは瞬だし、彼の場合は武器を最初から手にできていたという有利も付き纏う。この程度の差で済んでいるのが十分にすごい事だろう。と、そんな所に更に声が混じった。


『ソラ?』

『あ、アルか?』

『ああ、やっぱり君か。こっちで妙な板が出てね。何かとは思ったけど……ごめん。戦闘中だったからさ』

『あ、わっり。そこらの選択性無いっぽいんだよな、これ……』


 アルの言葉にソラが慌てて謝罪する。まぁ、この階層なので問題は無かったが、更に下にまで移動して戦闘中に不意に通信が入ると不測の事態にもなりかねないだろう。

 それを考えれば、油断していても問題にならないこの階層で試していてよかったのかもしれない。というわけで瞬とソラはアルを混じえて一度少し情報を共有する事にした。


「ふむ……ということは全員地図は手に入れられているのか」

『うん。僕は二階でね』

『俺もっすね』

「ということは一階で手に入れられた俺は幸運だったわけか……」


 二人からの言葉に瞬はそう呟いた。これ以外にも会話の最中で参加したルーファウスやリィルらからも同じ事を聞けており、全員遅くとも三階までには手に入れられているらしい。

 ドロップアイテムである以上、やはりばらつきは出るのだろう。不思議はない。と、そうしてふと疑問に思ったのは、これを一つしか見ていない事だった。


「そう言えば……お前達、この地図は他にも見付けたか?」

『あ、やっぱそっちも一個だけっすか?』

「ああ、そうなんだが……その様子だとそちらもか」


 ソラからの返答に瞬は自分だけではない事を理解した。ソラとアルの様子から見てこの地図のドロップ率はそこまで低くない様子であるが、それ故に二個目が落ちていない事に疑問を得たのだ。と、そんな所に今度はリィルの声が交じる。


『おそらく、所持制限が掛けられているのだと思います』

「所持制限?」

『ええ。迷宮(ダンジョン)へ一度の潜入につき幾つまで、もしくは人数に応じて、という所の制限です。おそらく二人組で入れば、これも二つ手に入れる事が可能だと思いますよ』


 瞬はリィルの言葉になるほど、と思う。それにそもそもこんなものが二つも三つもあった所で邪魔なだけだ。指輪なので常に指に嵌めているし、この迷宮(ダンジョン)ではこれを常に使って移動している。無くす事は無いと言って良いだろう。


「なるほど……ということはこれは無くさない様にしないとな……まぁ、無くす事は無いと思うが……」

『まぁ、全員指に付けてるだろうからね』

『だな……ってか、そう言えば……おーい、カイトー。居んのかー』


 アルの言葉に同意したソラがふと、カイトへ向けて呼びかけてみる。既に入ってからそこそこ良い時間が経過している。榊原家の当主との話し合いは終わっているだろうし、時間が掛かる事を考えれば彼もそろそろ突入していそうな頃合いだった。

 そして彼程の実力者がソラからの通信を無視する事もないだろう。であれば会話に参加していないだけで聞いている、という事はあり得た。が、そんなソラの呼びかけに返事はない。


『あっれ……居ないっぽいのか……? って、あれ!?』


 カイトからの返答が無い事を訝しんだソラが唐突に声を上げる。それに全員何事か、と首を傾げた。


「どうした?」

『いや……先輩、確か腕時計してますよね?』

「ああ……ん?」

『あれ……?』

『おや……』

『む……』


 ソラの言葉に通話に参加していた全員が各々持ち合わせていた時計を見て、僅かに目を見開いた。というのも、想定以上に時間が経過していなかったのだ。

 体感時間として瞬であれば既に一時間程度潜っていたつもりだったのであるが、まだ実際にはその半分程度しか経過していないのであった。そして更に可怪しい事がある。秒針の進みが妙にゆっくりなのだ。というわけで、瞬は試しにリィルに聞いてみる事にする。


「……リィル。そちらの秒針はどうだ?」

『やはり、そちらもですか。ええ、こちらもです』

「ということは、俺のだけが狂っているというわけではないか……」


 瞬はリィルとおそろいの腕時計を見ながら、これが正しい現象である事を把握する。おそらくこの空間は外に比べて時間の経過が緩やかになっているのだろう。迷宮(ダンジョン)では稀にある事だった。

 というわけで、それならカイトが居なくても不思議はない、と一同は納得する事にする。外ではまだ三十分程だというのだ。挨拶をして即座にさよなら、というわけにもいかないだろうから、最低でも一時間は見て良いだろう。


「ふむ……そう言えば入る前に榊原家の人が言っていた特殊なアイテムというのを手に入れた奴は居るか?」

『ああ、それなら僕は手に入れたよ』

『こちらも手に入れた』


 瞬の問いかけにアルとルーファウスが入手を明言する。こちらは10階層毎に一度しか使う機会がない。故に試しても居なかったのだろう。


「それも一度使っておくか? 使い方は」

『ああ、それなら把握している。アルフォンス、貴様、今何階だ?』

『今? 今僕は……七階だよ』

『ふむ……こちらが一階下か』


 アルからの情報にルーファウスが僅かに考え込む。なお、これは別に両者の腕の差というよりも運の差が大きい。ここまでの階層の魔物は彼らからしても雑魚と言える。腕の差は表れない。

 次の階層への出入り口が見つかるのは運だ。そして地図を入手出来るのも完全に運である。運要素が大きいのに比べるだけ無駄だろう。なのでアルもルーファウスも気にする事は無かった。


『そちらに頼む』

『うん、分かった。じゃあ……』


 アルは今までの自分のペースから考えて、更には後続となる者達のペースを考える。そうして、おおよその見込みを告げた。


『良し。大体今から二十分後に使うよ。これを使って特定条件に合致した者は十分間の間だけセーフポイントで合流出来るそうだよ。だから……11時25分から10分間かな。僕が使えば冒険部の関係者が通る第九階の穴が白から青に変わるから、それを確認して、突入で』

「わかった。じゃあ、二十分後に」


 瞬はアルの言葉に頷くと、通話を終了させる。二十分後と言ったが体感時間としてはもっと遅いだろう。とは言え、それは後続を考えれば妥当な時間と言える。というわけで、瞬は実時間としておよそ5分後には第九階のワームホールの前にたどり着いていた。


「ふむ……しばらく休んでおくべきか。いや、折角だからこの階層を隅から隅まで確認しておくか」


 既にワームホールは見付かっている。地図にもワームホールは記されている為、迷う事はない。そしてこの階層の魔物であれば、妨害を受けても遅れる事はない。怖いのはローグライク系のゲームにありがちな強制的に階層を移動させられる罠だが、今のところそんな物を発見したという報告は聞いていない。

 というわけで、瞬は第九階の隅々を見て回る事にする。何か良いアイテムが手に入る可能性もあるのだ。時間があるのなら、探しておくのは良い事だろう。


「ふむ……そこそこ集まったか」


 瞬は魔物を軽々と倒しながら、アイテムを収集していく。家人が言っていた『帰還符(きかんふ)』というのも何枚か入手出来た。他にも、彼には必要無い幾つかの装備――例えば剣等彼が使わない装備――は手に入れられている。必要とする者が居れば、それに譲ったり何かを交換して貰うのはありだろう。そして何より、彼にとってありがたかったのはこれだった。


「よし……槍が手に入ったのは幸運だったな」


 瞬は実体を持つ槍を握り、感覚を確認する。素材は鋼だが、使えないわけではない。何度か実物は触っている。魔力で編まない槍でも使いこなせた。勿論、彼の腕から考えれば鋼製では本気は出せないが、ここら一帯で戦うだけなら十分だろう。スタミナを温存する事が出来る。と、そんな風にしていれば十五分なぞあっという間に経過するわけで、彼の目の前で白かったワームホールが唐突に青色に染まった。


「これで、良いのか……まぁ、行けばわかるか」


 瞬は覚悟を決めると、青色に染まったワームホールへと突入する。と、その先にはやはりアルが待っていてくれていた。とは言え、彼だけだ。どうやら瞬が一番乗りというわけなのだろう。


「ああ、瞬。来たね」

「ああ、アルか。どうやら、使えた様子だな」

「うん。これでこれから十分の間に来た人とは合流出来るはずだよ」


 アルの言葉を聞きながら、瞬は己が入ってきたと思われる側を見る。すると、そこには一つの門があった。おそらくこれから出て来たという事だろう。今までの階層には無かったが、この階層がセーフポイントとして設定されているが故に特別にあるというわけなのだろう。

 と、案の定その目の前でルーファウスが現れた。タイミングとしてはほぼ同時に近いので、彼も第九階にたどり着いて青色に染まったのを確認して、飛び込んだと見て良い。


「ああ、ルーファウスか。そちらも無事な様子だな」

「ふむ……瞬殿にアルフォンスが居るということは、上手く行ったわけか」

「の、様だ」


 ルーファウスの言葉に瞬も同意する。と、そうしてしばらく待っていると、続々と冒険部のメンバーが現れる。まぁ、全員集まって何を、というわけではない。単にこういうものなのだ、と確認しただけだ。低階層で余裕がある内にやっておくのが一番良いだろう。とは言え、折角集まったのだから、と一度全員で持ち物を確認する事にする。


「ああ、瞬。それでしたら槍を貰えますか? 片手剣と盾は何本か見付かっていたのですが……」

「ああ、新品が一つある。それを使ってくれ」

「ありがとうございます」

「あ、姉さん。盾、何個か見付かってるんなら、それ一つ貰える?」

「あぁ、リィル殿。悪いが俺も貰えないだろうか」


 やはり各個人装備が違う上、どうしても手に入るアイテムは基本ランダムだ。故に必要のある装備、必要のない装備というのが生まれている。これがソロでの突入なら別に捨てても良いわけであるが、折角ギルドとして集まっているのだから持ち寄って必要な者に融通するのが上策だろう。

 というわけで、全員で一度持ち物を整理して足並みを揃えた後、一斉に立ち上がる。まだここからも先があるのだ。挑むのなら、じっとしているわけにはいかないだろう。そうして最後にソラが確認を取る。


「良し。じゃあ、今度は20階で。一条先輩は30分後を目処に通信をお願いします」

「ああ……もしそれで10分無ければ、ソラ、お前に頼む」

「うっす」


 瞬の言葉にソラが頷いた。ここまで余裕だったからとこの先が余裕であるとは限らない。幸い『通信符(つうしんふ)』は複数枚見付かっており、それなら何人かで万が一に備えておく事にしたのであった。そうして、確認を取った後。全員が一斉に次の階層へと移動する。


「まぁ、ここからは別か」


 瞬も同じく移動したわけであるが、その先ではやはり一人だった。どうやら同時に移動したからといって、同じ所に繋がるわけではないらしい。と、そうして移動した第十階であるが、そこは体育館程度の広さの部屋が一つあるだけだった。そしてそのど真ん中には、魔物が一体。


「トレント……の亜種か? まぁ、今までの敵よりもワンランクは上か」


 この程度なら余裕か。瞬はそう判断しつつも、亜種なので万が一に備えて僅かに警戒しておく。そうして、瞬は第十階のボスとの戦いに乗り出す事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1236話『夢か幻か』

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