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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第63章 多生の縁編

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第1234話 地下を目指して

 榊原家の一角にある半人造の迷宮(ダンジョン)・『夢幻洞(むげんどう)』。命の危険が無いというそこへと、瞬は足を踏み入れていた。着の身着のままで良いという話なのでそのまま足を踏み入れた彼であるが、そんな彼が『夢幻洞(むげんどう)』へと入ると気付けばその指に一つの指輪が嵌っていた。


「これは……ふむ」


 瞬が脳裏にその指輪の事を思い浮かべると、自動的にその指輪の情報が流れ込んできた。どうやらこれが件の『啓示の指輪(けいじのゆびわ)』らしい。使い方もその名前もしっかりと彼の頭の中に入っていた。というわけで、瞬はその教えられた使い方に従って試しに使ってみる事にする。


「ここは……第一階層という事で間違いないのか」


 指輪にはきちんと漢数字で壱の文字が浮かび上がっており、瞬が全く動いていない事を指し示していた。と、そんな瞬であるがふと、腰に帯びていた筈の小袋はそのままになっていた事を思い出す。


「あ、しまった……あれ?」


 常に持っているのでうっかりそのまま持ち込んでしまい、中身を含めて全ロストか、と慌てた瞬であるが見てみれば瞬の腰にはそのまま小袋が吊り下がっていた。それにひとまず安心した瞬であるが、中身を確認してそれが早とちりであった事を理解する。


「む……」


 小袋は確かに無事だったが、中身は全て空だった。どうやら没収されたらしい。


「ふむ……どうしたものか……いや、没収されて消滅とも思えんか」


 瞬は僅かに焦りを浮かべるものの、単に一時的に使えない様にされているだけなのだろう、と思う事にする。持ち込み禁止という類の迷宮(ダンジョン)は初だが、かといって持ち物が全て消え去ったという話は聞いた事がない。であれば、それは失われずに何処かに保管されており、外に出れば戻ってくるのだと考えた方が自然だった。


「さて……では、行くか!」


 瞬はぐっ、と力を入れて周囲の状況を確認する。どうやらここは何かの小部屋らしく、四方はおよそ高校の教室程度、高さは20メートル程度の広さだった。その壁際に、瞬は立っていた。更に彼から見て左右の壁には穴があり、そこから別の部屋へ繋がる様子だった。

 一対一で戦うなら問題無い広さだが、大量の敵を相手にするには苦労する広さと言える。構造材は岩。岩の詳細は不明だが、硬そうではある。が、所詮は岩だ。無茶は出来まい。そう言う面からも、大出力で押し切るのではなく技術でなんとかするべきなのだろう。


「まずは……良し」


 瞬は部屋から移動する前に魔力で槍を編み出した。兎にも角にも武器が無ければ戦えない。素手でも戦えるが、やはり武器がある方が格段に戦いやすい。その点、これは彼に有利だったという所だろう。


「ふむ……」


 武器を創り出してとりあえず戦える用意を整えた瞬はひとまず、周囲をしっかりと見渡してみる。と、すると部屋の中ほどから少し離れた所に一つの小瓶が落ちている事に気付いた。


「おっと……これは幸運だな」


 小瓶は見たところ回復薬と見て間違いないだろう。毒薬等の可能性もあるが、流石に低階層からそんな物騒な物があるとは思えない。というわけで、瞬はそこまで歩いていって小瓶を回収して、折角なので小袋の中に仕舞っておく。

 まだ魔力に問題はないが、いつ戦いがあるともわからない。しかもここは未知の場所だ。回復薬をいの一番に手に入れられたのは僥倖と言っても過言ではないだろう。と、彼が部屋の中ほどにまで移動したからだろう。通路から彼が見えたからか、右側の通路から物音が響いてきた。


「っ」


 物音はかなり軽く、しかも人間ではない様子だった。そしてここは迷宮(ダンジョン)。お一人様向けだ。自分以外に味方は特例を除けば居ない。つまり、敵だった。そうして、程なくして物音がした通路側から、ゴブリンが姿を表した。


「……」


 敵か、それとも敵対しないか。瞬は状況を安易に判断せず、ひとまず敵の動きを待つ事にする。下手に行動を起こして厄介な事になるのは避けたい。が、どうやらあちらは敵だったらしく、殺意を放出してこちらに迫ってきた。


「っ」


 とん、と瞬は軽く地面を蹴って、ゴブリンの背後へと回り込んだ。そうしてそのまま一気にゴブリンを串刺しにして、最低限の力で消滅させる。


「……おおよそ、全て敵と考えて問題なさそうか」


 瞬はゴブリンを楽々討伐すると、この迷宮(ダンジョン)の魔物はほぼ全て敵と考えて良いだろう、と決める。まぁ、そうでなければ何なのだろうか、という話にはなるが、下手に動くのが問題の場合もある。正しい判断と言えよう。


「良し。じゃあ、行くか」


 瞬はそう言うと、再び歩き始める。とは言え、目印なぞ何も無いのだ。というわけで、手始めに彼はゴブリンが現れた側の通路へと進んで見る事にする。こちらから来たということは少なくともこの先に何かの部屋があるか、通路が続いている事だけは確かなのだろう。


「……」


 瞬はひとまず、警戒しながら進んでいく。通路の広さは高さは先程の部屋の半分程、広さは2メートル程度と槍使いである彼にとっては若干やり難い幅だ。

 もし戦闘があるのなら、敢えて引いて先程の部屋に取って返すのも手だろう。前が行き止まりで後ろから回り込まれた場合は、運が悪かったと諦めるしかない。とは言え、そうはならなかった。幸いな事に3分程歩いた先にはまた部屋があり、今度は四方の壁に通路が見て取れた。


「ふむ……」


 大体こんな形の部屋が幾つもあるのか。瞬は通路から少しだけ顔を覗かせて部屋を見て、おおよそのこの迷宮(ダンジョン)の形状を理解する。中には数体の魔物が居て、まだ此方に気付いた様子はなかった。魔術師なら速攻を仕掛けられるだろう。とは言え、やはり中津国だからなのか瞬にも見たことがない魔物が数体潜んでおり、迂闊には攻撃したくない所だった。


「地図が欲しい所だが……」


 おそらく階層ごとに形状は異なっているのだと思われる。であれば、迷わない様にするためにも地図が欲しい所だ。とは言え、持ち物の持ち込みが禁止されている以上、それは叶わないとかんがえられる。そしてそれなら、と瞬は一つのことに考えが至っていた。


(確か……こういうランダム性の高い迷宮(ダンジョン)だと何処かに自動で地図を記載してくれる魔道具があるんだったか)


 瞬はウルカでシフより教えられた内容を思い出す。やはり冒険者のメッカということで向こうでは盛んに迷宮(ダンジョン)攻略が為されていた。勿論、<<(あかつき)>>の冒険者達も頻繁に足を踏み入れていた。

 なので瞬もリジェとシフに誘われて迷宮(ダンジョン)に何度か挑んでおり、その中で聞いた事があったのだ。あの時はそんなのがあるのか、程度だったのであるが今にしても思えばもしかしたら、ここの事を言っていたのかもしれないと思っていた。


(なんとかして手に入れたい所だが……)


 瞬は部屋の魔物達を観察しながら、一先ずその魔道具の入手を目指す事にする。やはり地図もなく迷宮(ダンジョン)に挑めば、それは自殺行為に近い。補給は殆ど無いのだ。

 迷って連戦になってしまえばジリ貧に追い込まれる。それは避けるべきだし、その為にも形状を自動で記録してくれる地図の様な魔道具は重要だと言えた。となると、その為にもまずは目の前の敵を倒す必要があった。


「っ」


 瞬は部屋へと突入すると、それと同時にこちらに気付いた魔物たちの内最も近い一体に向けて槍を投げる。見たこともない魔物だったが、ゴブリンに似た形状からおおよそゴブリンと同程度の戦闘能力と見ていた。そしてどうやら正解だったようだ。相手は反応する事も出来ず、完全に吹き飛ばされていた。


(少々、力みすぎたか。とは言え……これなら階層が上がる毎に敵の力量が強くなる古典的なパターンか)


 瞬はこの迷宮(ダンジョン)の魔物の系統をそう推測すると、今まで使っていた<<雷炎武(らいえんぶ)>>を停止させる。この階層の魔物は外で言えば最低位に位置する程度。今なら、もうブースト無しでも十分に倒せる程度の敵だった。それ故、瞬は素の状態で一気に敵を貫いていく。


「……良し。敵の増援も無し、か」


 敵を全て蹴散らした後、瞬はひとまず呼吸を整える。基本的な迷宮(ダンジョン)の構成は持ち物の持ち込みが禁止以外は一般的な物と変わらなそうだった。これなら、問題なく進めるだろう。と、そうして最後の一体を始末した所で、目の前で魔物だった存在が変換されて一つの指輪が地面に落下する。


「ん?」


 ちん、という音と共に地面に落下した指輪を見て、瞬が訝しみながらもそれを拾い上げる。とは言え、このままでは使いたくないので、試しに先の『啓示の指輪(けいじのゆびわ)』と同じ様にひとまず確認してみる事にする。


「……」


 僅かに魔力を通すと、それだけで瞬の脳内に指輪の情報が送られてくる。それに、瞬が僅かに目を見開いた。


「これが、そうなのか」


 瞬の脳裏にインプットされた情報によると、この指輪こそがその地図を記してくれる魔道具らしい。元々シフ達からもそこまで珍しい物ではない、と聞いていたがどうやらその通りだったらしい。

 良くも悪くもここは修練場として使われている所だ。ある種の初心者救済システムの様な物があったのだろう。ランダム性が高そうだと判断していた以上、これは幸運だった。


「助かった……良し」


 瞬はとりあえず安堵すると、早速この指輪を右の中指に嵌めてみる。彼としては指輪は好まないのであるが、魔道具であれば話は別だ。実用性が無いのが嫌なのであって、実用性があれば喜んで使う。そうして、瞬は試しに指輪に取り付けられた青色の魔石に魔力を通してみた。


「ふむ……これは……この部屋か」


 瞬の見ている前で指輪から立体的な地図が浮かび上がる。とは言え、それはこの階層の全体図というわけではなく、今まで彼が通ってきたエリアのみだ。

 故に例えばこの部屋であれば通路の先は示されていないし、先程の部屋であれば瞬が通った通路と逆側は記されていない。持ち主が通ったエリアのみ記される様になっているのだろう。とは言え、これで十分だ。通った道と通っていない道が分かれば、それだけで迷わなくて良い。と、そんな地図を見ながら、瞬がふと笑う。


「まぁ……流石にゲームの様にどこまでの広さか推測するのは無理か」


 やはり迷宮(ダンジョン)とあって想像するのはゲーム類の事だった。さらに言えばこういう類の迷宮(ダンジョン)はローグライク系のゲームを思い浮かべやすい。そして実際、そのようなゲームで描かれる迷宮(ダンジョン)が現実に現れた様な形と言っても過言ではなかった。そしてそれ故にこそ、瞬にも馴染みやすかった。


「これでとにかく、先に進んでもなんとかなりそうか。こまめに食事を取らないと駄目、とかになると困るんだが……まぁ、現実にそういうことは無いか」


 瞬は一つ笑うと、先に進む事にする。早々に地図を手に入れられたのが幸運かそれとも普通なのかはわからないが、これでとりあえずの万全の態勢を整えられたと言っても良いだろう。

 であれば後は進むのみ、であった。そうしてこの階層を駆け抜けること、およそ10分。何度目かになる新たな部屋の発見の中で、瞬はとある不思議な物を発見していた。


「なんだ、これは……」


 瞬の目の前にあったのは、敢えて言えばワームホールとでも言うべき空間に浮かぶ白い穴だ。形状から見て、どこか別の所に繋がっているのだろうということは分かる。が、それ故に迂闊に触れるべきではないかもしれない、と考えて瞬はまだ触れていなかった。


「……とりあえず、棒で突っついてみるか……」


 君子危うきに近寄らず。しかし進まねば何も始まらないのも事実だ。故に瞬は少し長めの棒――槍の柄と同じと考えれば棒も創造可能だった――を魔力で編み出すと、なるべく遠くから棒で突っついてみる。そうして触れてみたが、穴に入った棒の先が消し飛んだり穴の側に異常が生まれたり、という事はなかった。


「ふむ……危険はないか。であれば、入ってみるしかないか」


 瞬は意を決すると、白いワームホールへと身体を進ませる。そうして一瞬意識が途切れる様な感覚があったが、次の瞬間には彼はまた別の所へと移動させられていた。後ろには通ったはずの白いワームホールは無かった。


「おそらく……」


 瞬は自分の想像通りならば、と『啓示の指輪(けいじのゆびわ)』を取り出して使ってみる。すると案の定、浮かび上がった数字は『弐』だった。先のワームホールが次の階層へ続く階段の様な物と考えて間違いないだろう。


「やはりか。そして基本は変わらない、と。さて……じゃあ、行くか!」


 おおよその感覚は掴めた。であれば、後は進める所まで進むだけだ。というわけで瞬は目の前で既に動き始めていたゴブリンに向けて突撃していくのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1235話『途中経過』

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