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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第63章 多生の縁編

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第1232話 榊原の地

 温泉街での二日目を終えた翌日。カイト達は当初の予定通り希望者を募って冒険者の聖地の一つ、『オリジナル・メンバー』の一人『榊原 花凛』の実家にしてその墓のある榊原家のあるとある街へと、やってきていた。


「名前はあるそうなんだが……もう誰も『榊原(さかきはら)』としか呼ばないらしい」


 街に降り立ったと同時。カイトがその街の名前を告げる。いや、名前というよりもあだ名か。本来の名前はカイトも知らないそうだ。冒険者達を中心として今はもう街の人々も『榊原(さかきはら)』と言うからだ。


「『榊原(さかきはら)』?」

「ほら、あの大きな木。見えるか?」

「あれ……もしかして榊?」


 カイトの指差す方向を見た灯里が頬を引き攣らせる。そこには一本の大きな――と言っても流石に100メートル級ではないが――榊に似た木が植わっていた。

 榊といえば低木を思い浮かべる者は多いだろうし、地球では大きくても12メートル程度が精一杯だ。これは優にその5倍はありそうな巨木だった。確かに葉の形状を見れば榊の一種であるが、確実に地球には無い別種だろう。灯里が頬を引き攣らせたのも無理はなかった。


「ここら一帯のご神木だそうだ。あれがこの街の……いや、榊原家の由来だ」

「うっはー……何年ものだろ」

「さぁ……一千年前には既に榊原という名があったんだから、それよりも前からあったんだろうさ」


 あまりに神々しい榊の木に、灯里が圧倒される。カイト達にもわからない程に昔からある木だった。それをこの街の住人はご神木と崇め、そしてその名にあやかって街人達はこの街の事を『榊原(さかきはら)』と呼ぶのであった。もう正式名称でも良いのかもしれないが、そこはそれという所なのだろう。


「で、灯里さん。呆ける前に仕事」

「へ? あ、そかそか」


 カイトの指摘を受けて、灯里が慌てて館内放送用のマイクを手に取った。飛空艇で移動したので到着を報せると共に、自由行動の許可を与える必要があったのだ。

 カイトでも良いし天桜学園ではない冒険部のギルドメンバーを考えればそちらが良いだろうが、やはり中心となるのが天桜学園である以上は教師を差し置いて生徒が号令を掛けるのもなんだろう。故にカイト達の引率をしている――事になっている――灯里が、というわけであった。


『皆さん、『榊原(さかきはら)』に到着しました。節度を守って行動してください』


 灯里の許可に従って、飛空艇から三々五々に人が散っていく。一応空港であるが、今回は領内での移動だ。そしてカイト達の身元は榊原家と中津国の政府から保証されている。そしてこちらに泊まるのは大半が一泊だけなので、荷物は必要最低限だ。手荷物だけ、というものも見受けられた。即座に行動に移れたのである。


「さて……じゃあ、オレ達も行きますか」

「おっしゃー……と言っても、私達だけなんだけど」

「なんだよなぁ……」


 カイトは灯里の言葉にため息を吐く。今回、榊原家の当主に呼ばれているのはカイトだけだ。とは言え、それだけだとやはり天桜学園として外聞が悪い。なのでカイトの側が事情を把握出来る灯里を指名して、彼女と共に行く事になったというわけであった。

 とは言え、そこまでは一緒で良い。そして上層部は榊原家へ来意を告げているので、用意されている宿泊地は榊原家の中にある。荷物を置く事を考えても、一緒に向かうべきだろう。というわけで、二人は上層部一同と合流する。


「というわけで移動するわけなのですが……先輩。どうした?」

「いや……これはすごいな……」


 カイトの問いかけに対して、瞬は目を見開いて周囲を見渡していた。まぁ、カイトも言っていたがここは冒険者達にとって聖地の一つにも等しい。

 となると、必然街を歩く人達の中には大量の冒険者が混じっていたわけである。勿論、聖地での戦いは彼らも避ける。そしてそう言う者たちぐらいしか聖地巡礼なぞしないだろう。故にどこか、全員武人に近い雰囲気が滲んでいた。それを、彼は見て取っていたわけだ。そしてそれ以外にもそれを見抜いた者は居た。


「ふむ……アル、あの方、見覚えがありませんか?」

「うん……5年ぐらい前にコフル隊長に挑んでた人だ。相当な腕利きだった筈だよ」

「また、腕を上げている様子ですね」


 まず当然であるが、リィルとアルの二人は既に腕利きを見抜いた上に、見たことのある武芸者まで見つけている様子だった。アルもこの場の雰囲気に触発されたからか、武人としての性質が僅かに表に出ていたようだ。珍しく真剣な目だった。そしてもう一人、見抜いていた者が居る。アルと同等と評される天才のルーファウスである。


「ふむ……あれは俺以上か……瞬殿。確か貴殿もランクBだったな? あの御仁について、どう見られる?」

「彼か……俺と同等……いや、少し上か。カイトよりは数段下だな」

「やはり、そう見るか……」


 こちらはやはり根っこが武人という事もあるからだろう。瞬と二人で武芸者達の腕がどの程度か、というのを見極めている様子だった。なお、どうやらサウナで話して仲良くなったらしい。

 当人達は周囲から朴念仁と言われる性格だ。類は友を呼ぶ、というわけだったのだろう。どちらが呼ばれたかは、誰にもわからないだろうが。そんな彼らに、カイトが声を掛ける。


「おーい、そこの武人共。とりあえず荷物置きに行くぞー。修練場もあるんだから、早目に行かないと帰ってきたら日が暮れるぞ」

「「「あ」」」


 やはり武人としての性と言う所なのだろう。カイトの指摘に全員が気を取り直して、先に歩き始めていたカイト達の後へと続く事にする。そうしてそんな彼らと合流したカイトは10分程歩き続けて、一つの武家屋敷の前にたどり着いた。が、そこにたどり着いて、瞬が大きく目を見開いた。


「……すごいな。俺を遥かに上回っている」

「……ルーファウス。恥を忍んで聞くけど僕と姉さん、そして君が同時に打ちかかって勝てると思う?」

「……無理だな。あれは俺達とはもはや修練の格が違う」


 アルの問いかけにルーファウスが真剣な目で首を振る。いつもの彼らであれば、強がった可能性もある。が、そんな事が出来ないぐらいに、この榊原家は違ったのだ。

 そんな彼らが見ているのは、稽古中の武人ではない。単なる門番だった。門番で、この腕前だ。ここの家人達の腕前を察するにあまりあった。なお、敢えて言うが門番なので腕利きだ。実際にはこれ以下も何人も居る。が、もちろん、これ以上も山程居た。


「中津国は魔境、と教国で口さがない者は言い表したが……なるほど。これは道理だ」


 ルーファウスは僅かな尊敬を滲ませながら気を引き締める。彼にも今回の来訪がどこか観光旅行の一環であった感が無いではない。そして異族に対する若干の拒絶が無かったわけでもない。

 が、ここの武人達は異族云々を忘れさせる程に、素晴らしかったのだ。一人の武人として思わず尊敬を抱かずには居られなかったのである。と、そんな門番の横に立っていたヤマトがカイト達の元へとやってきた。


「カイト殿。お待ちしておりました。榊原家の当主がお待ちです」

「ああ、かたじけない……彼女らは」

「伺っております。ご当主がお呼びなのはお二人だけです。お二人は私に続き、他の方はそのまま中にお進みください。そちらに榊原の家人が待っております。後は、その者に」


 ヤマトはカイトの言葉に頷くと、桜達は別行動可能である事を明言する。そもそも榊原家の当主もカイトとは顔見知りだし、向こうとしてもカリンに述べていた様にカイトと内々の話をしたいのだ。であれば、その話を聞かせたくない桜達は自由行動をしてもらっても良かった。


「わかった……桜、少しの間の引率は任せる。部屋に通されて自由行動が許可されたら、後は自由に。オレもまぁ、どこかで合流出来れば合流しよう」

「わかりました。とりあえず私達は少しお茶をしておこうと思います。カイトくんも間に合えば」

「ああ、楽しみにさせてもらう」


 桜の言葉にカイトは笑って頷くと、そこで桜らとは別れてヤマトについていくことにする。と、そうして桜らが去ったので、カイトは元の口調に戻す事にした。ルーファウスとアリスが居るからカイトは敢えてヤマトに謙っただけだ。本来はその必要は皆無だった。


「にしても……随分と腕を上げたな」

「あはは……兄上は300年前から随分とお強かった。それに、数日に一度はまだボコボコにされていますよ。残る数日もさっぱり勝てません」

「おいおい……勝手に人を訓練相手にするんじゃねぇよ」


 ヤマトの言葉にカイトは大いに笑う。と、そんな分かる者には分かる話をされて、灯里が首を傾げた。


「何の話ー?」

「そう言えば……兄上。彼女は?」

「ああ、彼女は灯里さん。オレが日本で世話んなってた女性だ。アウラともう一人の姉って所か」

「いぇーい……てか、彼誰?」

「おい! 知らねぇんなら、先それ聞けや!」


 いつもの如く軽い挨拶をした灯里に対して、カイトが思わずツッコミを入れる。そもそも灯里がカイト達――あくまでも達というだけでカイトや弥生単体との関わりはあった――と関わる様になったのは、あの夏の終わりの修行の間の事だ。

 その頃には既にヤマトは中津国で修行の真っ最中で、関わる事が無かったのだ。と、そんな灯里に呆気にとられながら、ヤマトはそう言えば自己紹介していないな、と思い出して立ち止まって頭を下げた。


「あ、は、はぁ……えっと、ヤマト・宮本と申します」

「あー……宮本さんのお子さん?」

「はい。カイト兄上とは彼が弟子入りして以来の付き合いになり、兄上と慕わせて頂いております」

「そかそか。じゃあ、私の事も姉上で良いよー」

「は、はぁ……では、姉上」

「従わんでえぇ従わんでえぇ」


 呆気に取られるもヤマトが素直に従ったのを受けて、カイトが思わずツッコミを入れる。昔の様な生意気さとやんちゃが無くなったのは良いのだが、逆に素直に成りすぎたのも考えものだった。


「えー」

「はぁ……さっさと行くぞ。ヤマト、アウラ達は?」

「あ、彼女らでしたら既に中へ。先に大目付と話をされております」


 カイトの問いかけを受けたヤマトがアウラらの情報を告げる。やはりアウラらはカイト達と一緒に来ていないので、表向きは合流は出来ない。というわけで別便でこちらに来ていたというわけであった。


「ああ、それと。シア様とメル様も既にご当主にお会いになられています。彼女らは朝にご到着されてすぐに。メル様はその後、修練場に向かわれました」

「あー……メルらしいか」


 ヤマトからの続報にカイトはただ頷くだけだ。メルの性質は父譲りの物で、武張った所が大きい。修練場ともなると興味があるだろう。と、そんな情報に灯里が首を傾げた。


「メル様? どうして彼女がここに?」

「メルは今、表向き『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』の監査官だからな」

「あー、表敬訪問ね」

「理解、早いですね」


 灯里の軽い態度からは想像できない理解の良さに、ヤマトが目を見開いた。監査官だから、という言葉だけで表敬訪問に繋がる者は少ないだろう。


「気をつけろよー。特にここの家系の女は女に肩入れするから、お前浮気したら一発で伝わるぞ」

「しませんよ! 彼女一筋です!」

「ほう……」

「……」


 カイトが目を細めたのを受けて、ヤマトがしまった、と表情を凍り付かせる。が、覆水盆に返らず、口が滑ったのはもう取り消せない。しかし、カイトはそこでの追求はしない。


「よーし。今日の夜はユリィ中心だなー」

「や、止めて下さい! 後生ですから!」


 ユリィにバレればどうなるか、なぞわかりきった話だ。大いに茶化されるにきまっている。それ故にヤマトは真っ赤な顔で必死にカイトに頼み込む。が、そんな彼の望みは意図も簡単に打ち砕かれる事になった。


「え? なんで?」

「なっ……」


 本当にいつの間にか居たユリィに気付いて、ヤマトが絶句する。本当に気付けばそこに居たのだ。


「い、いつの間に居たんだ!」

「うっへへへへ! ユリィちゃんを甘く見るな! 隠形隠れ身なんでもござれですぞ!」

「てーより、後ろから驚かそうとして忍び寄ってたのに気づかないお前が悪い」


 もう楽しくて仕方がない、という様子のユリィに対して、カイトはヤマト自身の迂闊さを指摘する。やはり彼はまだまだ修行中の身らしい。灯里とヤマトの騒動に隠れて忍び寄っていたユリィ――アウラらと共に先にお目通りしていた――に気付いていなかった。


「お前、ちょっと目先の武よりも気配やら風の流れやら読む方訓練した方が良いな。腕は良いが、流れを読む力がまだ弱い。まぁ、オレも信綱公に鍛えられたから、言える事なんだが……」

「しょ、精進致します……」


 カイトのアドバイスにヤマトが項垂れる。確かにヤマトは武人としての腕は良いのであるが、先見の明というべきか先の一手を読む力と言うべきか、そういう場全体の流れを読む力が若干劣っている様子だった。気付けるはずの気配に気づけていなかった。

 それは不測の事態だらけの戦場では死を招きかねない。要鍛錬という所だろう。そうして、そんなヤマトに案内されて、カイトらは榊原家の当主の所に案内される事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1233話『夢幻洞』

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