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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第63章 多生の縁編

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第1231話 古き者たち

 冒険者ユニオン協会。それはエネフィアにおいて一千年程昔に作られた、冒険者達の為の共同体だ。やはり冒険者達の我が強いのは昔からだ。故に、よく揉めては殺し合いに発展し、周囲に迷惑を掛ける事が多々有った。そんな冒険者達の状況を見るに見かねて、当時のユニオンマスターが音頭を取り議会を開いたのが、ユニオンのきっかけだった。

 とは言え、それは当たり前の話になるのだが、当初はそこまで巨大な組織ではなかった。今でこそエネフィア全土を覆い尽くす規模にまで発展していたが、当初はカイト達の所属する冒険部が組んでいるギルド同盟の少し大きい版と言っても過言ではない。

 故に所属していたのも当時から世界を股にかけて動くギルド幾つかと、ラエリアを中心として活動していた<<天翔る冒険者ヴェンチャーズ・ハイロゥ>>――当時のユニオンマスターが率いていたギルドでもある――を筆頭として幾つかの有力なギルドのみが参加していた。

 そのトップ達の事を現代では、『オリジナル・メンバー』と敬意を表する事が多い。その中の一人に、中津国出身である『榊原 花凛』もまた存在していた。その子孫は今も、中津国で榊原家として面々脈々と続いていた。


「カリン。ラエリアでの活躍、耳にしています」

「ありがとうございます、大婆様」


 一人の老齢の女性の言葉に、カリンが頭を下げる。カリンの目の前に居たのは、800歳以上という龍族としても古株の女性だった。そして同時に、今の榊原家を裏で取り仕切る長老でもあった。

 裏からなのは、表向きは一応当主が居るからだ。彼女もその当主の顔を立てているので、決して表に出る事はない。とは言え、彼女の意向には逆らえない程の存在だった。そしてそれ故、流石のカリンも彼女の前でだけは武家の女としてしっかりと振る舞う。


「ラエリアの地での新聞は拝見しました。榊原家の武人として、その名に恥じぬ活躍。見事でした」

「ありがとうございます」

「して……カイト殿もご帰還との事」


 本題に入ったか。カリンは内心で僅かに厄介な、と苦渋を滲ませる。まぁ、カイトが榊原家を知っている様に、この大婆様もカイトの事を把握している。

 先の盗賊の一件もあるので、カリンを通して一度アポイントを取ってもいる。カイトが最終的に榊原家へ向かう事を決めたのにも、そこらの兼ね合いがあった。一度顔を見せておこう、と思ったのだ。


「はい……先に大婆様に述べた通りです」

「聞いています。どこぞの賊が狙うやもしれぬとの事。流石に呪具たる『裏八花(うらはちはな)』を狙うとは思いませんが……」

「そうだとは、思いますが……あの後あの賊徒がどうしたかは不明ですが、数人の手練れが消されていると燈火殿より伺っております」

「ふむ……」


 カリンは試験運転の最中に一度話し合いを持った燈火からの情報を大婆様へと伝えておく。このために、彼女は一度帰ってきたらしい。まぁ、あんな性格の彼女だ。こんなかたっ苦しい実家に寄り付きたいとは思わないだろう。

 それでも、厄介事が目に見えているのに報せないという道理はない。そうして、そこらの情報を受けた大婆様は少しだけ、対処を黙考する事にした。


「……かつての事件がある故、『裏八花(うらはちはな)』は狙わぬやもしれませんが、同等と評される『表八花(おもてはちはな)』を狙わぬとも限りません」

「それは……確かに。その可能性はございましょう」


 大婆様の言葉にカリンは素直に同意する。『表八花(おもてはちはな)』と『裏八花(うらはちはな)』は以前カイトとの話し合いで出されていた。

 『裏八花(うらはちはな)』は途轍もない呪いを持つ道具だということで、現に少し使っただけでカリンの養父は呪いを受けて子孫断絶の憂き目にあった。が、それ故にその性能もまた、とてつもなかった。


「『裏八花(うらはちはな)』……貴方は轟鉄(ごうてつ)の話は聞いていましたね」

「はい。養子入りする際に」

「それ故、これに手を出したとて碌な結末にはならない。故に、こちらを狙ったとて好きにさせなさい。かつての事件の折り、あの剣士さえこれは使い物にならぬと匙を投げた武器。もし使えるとすればそれはかの剣士をも超えたカイト殿のみ。末路が見えているのであれば、こちらに利にしかならないでしょう。そしてそれを知ればこそ、あの者達も狙わない」


 大婆様はカリンに対して、『裏八花(うらはちはな)』については好きに狙わせる事を明言する。彼女らは確かに『八花(はちはな)』を管理しているが、実はその管理はある意味おざなりと言える。

 というのも、『裏八花(うらはちはな)』はあまりに危険過ぎて並の使い手では持つだけで死にかねないからだ。それ故、狙った所で賊徒に容赦する必要も無し、と武器に殺させる事にしていたのである。

 それ故、厳重に封印してはいるものの警備はそれほど厳重では無いらしい。そしてそれは榊原家に属する以上、そして彼女らが探し回っている以上、カリンもよく理解していた。


「なるほど……確かに300年前に痛い目を見ている以上、裏は狙いませんか。わかりました」

「でしょう。それで、『表八花(おもてはちはな)』。こちらについては、カリン。貴方が半数を保有しておきなさい」

「半数?」


 大婆様の言葉にカリンは首を傾げる。確かに、この考えとしては妥当な物だとカリンも納得する。榊原家の門弟達が守ってはいるものの、実力としては300年前の大戦においてエース級と言われていたカリンには束になっても敵わない。故に彼女に預けておこう、というのは無理のない話だ。が、半数というのが、イマイチ理解出来なかった。それに、大婆様が頷いた。


「ええ……先ごろ、カイト殿より連絡がありました。数日中にこちらに来るそうです。彼にもう半分を預けるつもりです」

「ああ、あいつも来るのね……そういや、来てるって話だったか……っと、失礼しました」


 カリンは大婆様から睨まれて、慌てて謝罪する。睨まれた理由は口調が悪かったからだ。と、言うわけで本来ならここでお説教が入るはずであったのであるが、今回は事態が事態である事もあり大婆様は話を進める事にした。


「まぁ、良いでしょう。とりあえず貴方は今まで通り名刀『壱の花(いちのはな)』とそれに加えて無刀『四つ葉(よつば)』を持っておきなさい。どちらも、万が一の場合には使用して構いません」

「良いのですか?」

「ええ……敵の協力者は相当な手練れと聞いています。『八花(はちはな)』を使うに足る敵でしょう」


 驚いた様子を見せたカリンに対して、大婆様がはっきりと許可を与える。『八花(はちはな)』とは榊原家の家宝だ。それ故、榊原家がそれを抜く事は滅多に無い。

 が、やはり武門の名家という事なのだろう。相手が強敵であり、そして悪に与するのであれば使うことを許可される事がままあった。カイトが『(ゼロ)』を有しているのも、その理由だ。300年前の大戦において絶望的な状況を覆そうとした彼にそれを与えるには十分な理由に成りえたのである。


「ありがとうございます」

「はい……ああ、それと。カイト殿が来る時に貴方も出席しておきなさい。貴方が居た方が話が早い」

「わかりました。その間、ギルドのメンバーに休息を命じても?」

「それは貴方が判断する事です」

「ありがとうございます」


 大婆様の許可にカリンが頭を下げる。確かにあまり滅多な事は出来ないが、それでも彼女にとってもここは実家だ。居心地が悪いわけではない。

 それに最近ラエリアの内紛だと色々と忙しかった事もあり、ギルドメンバー達に碌な休みを与えられていなかった事もある。折角カイト達も居る事なのでしばらくここで骨休めをするのも一興だろう、と判断したのであった。


「では、失礼します」

「はい」


 大婆様の許可を得て、カリンは再度頭を下げてその場を立ち去っていく事にするのだった。




 さて、その一方のカイト達はというと、休暇も二日目に入り相も変わらずのんびりとした時間を過ごしていた。とは言え、昼食時には全員が集まった。今日の朝の会話で旅館の料亭の食事を頂こう、という事になったのである。と、いうわけで全員で集まって和気あいあいと話しながら食べていたわけであるが、やはり話題は明日の榊原家の事になっていた。


「ほう……そんな所があるのか」


 瞬が興味津々、という様子でカイトからの情報に僅かに身を乗り出す。語られていたのは、榊原家にあるという訓練場の事だ。そこはオリジナル・メンバー以外の事で少し有名な所で、瞬が興味を持つのも仕方がない所だった。


「ああ。訓練場、と言ってもかなり本格的な所だそうだ。死にはしないそうなんだが……危険は危険だ。武蔵先生のご子息が今、そこで訓練されているそうだ」

「ああ、彼か……」


 カイトからの情報に瞬はヤマトの事を思い出す。やはり彼は流派が違うし、そして剣道部でもない。ヤマトとの関わりは言うほど、深くはない。

 とは言えヤマトはカイトを兄と慕っているわけだし、カイトも弟分として可愛がっている。なので繋がりが無いわけではない。敢えて言えば会えば気軽に少し話をする友人、と言う所だろう。


「ああ。だから今でもランクSの冒険者も例外じゃなく、時々そこに篭って修行をする武芸者は多いらしい」

「だというのに、俺達でも大丈夫なのか?」

「らしいな」


 瞬の問いかけにカイトは頷いた。勿論、彼はその訓練場の事は知っている。何度か腕試しに入りもした。が、アリス達も居る前でそこを言うのは可怪しいだろう。


「どういう事なのかはオレも知らん。行って見て確かめてみるしかないだろう」

「そうか。それは楽しみにさせてもらおう」


 瞬はぱんっ、と手を鳴らす。先にカイトも述べていたが、ここら一帯の魔物は平均的に強い魔物が多い。故に外に出て鍛錬、という事はあまりやり難いのだ。というわけで、彼としては残念なのだが休暇の手前大怪我を負うわけにもいかないので若干の手持ち無沙汰を感じていたりしたわけであった。


「そうしておけ。ま、良い腕試しにはなるだろうさ」

「カイト殿は行かないのか?」

「まぁ、やってみても良いが……そこそこ時間も掛かるだろうからな。時間はずらすさ」


 ルーファウスの問いかけにカイトは少しだけ遅れて参加する事を明言する。というのも、やはり彼は沢山の恋人達を抱えている関係でそちらの時間も都合する必要がある。

 まぁ、流石にこういう場なので全員で楽しむ様な感じにはなるが、それでも多大な時間を費やす事には変わりがない。それに、まだ理由もあった。


「それに……先方に来意を告げると向こうも会いたいとの事でな。どうにせよここまで大人数で押しかけるんだし、これからまた別途に何人か行く可能性もある。榊原家のご当主に挨拶もせにゃならん」

「あ……そうか」


 ルーファウスはカイトの言葉にそれはそうだ、と納得する。こちらの風習に染まっていたりしてルーファウスとしても時折地球人である事を忘れそうになるが、カイトは実際には地球人でそしてその組織の幹部でもある。冒険部として見ればトップだ。世話になる可能性があるのであれば、挨拶の一つにでも出掛けねばならないだろう。


「ま、挨拶は流石に大人数で出かけるわけにもな。既に許可は取っているから、興味があればお前も行ってみると良い」

「わかった。考えさせて貰おう」


 カイトの言葉にルーファウスが頭を下げる。確かに冒険部が中心となっている行事ごとに彼が挨拶に出向くというのは可怪しい話ではある。それにルーファウスとしても待つ必要性は無いとわかっている。律儀に待つより、先に入って終わらせて後に続く者に場を譲るのが良いだろう。


「そうだな……というわけで他に行ってみたい奴は適時、好きなように。気にならないって奴は榊原家の庭でも見せてもらって、のんびりお茶でも飲ませてもらえば良いさ。あそこには良い枯山水があるという話だからな。たまさか、日本の雰囲気が味わえるだろう」


 カイトは一同に向けて、明日の予定をそう通達しておく。明日は榊原家の好意に甘える事にして、一日あちらで宿泊する事にしている。なので時間は十分にあるといえるが、逆に言えば明日しかない、というわけでもある。そして流石にカイトの恋人達にしても、各々行きたい所は分かれる。基本は好きにさせる事にしていた。そうして、カイト達は明日に備えて今日は少し早いうちに眠る事にして、今日の探索を終える事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1232話『榊原の地』

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