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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第63章 多生の縁編

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第1226話 子育て

 桜らが各々の家族についてのお話をしていた頃。カイトはというと、クズハ達を連れて武蔵達が宿泊している所にやってきていた。


「おぉ、お主らに会うのは久しいのう」

「お久しぶりです、武蔵さん」

「お久しぶりー」


 相好を崩した武蔵に対して、クズハとアウラが挨拶する。一応言うと別に何年ぶりというわけでは無いが、武蔵が立ち寄るのがやはりマクスウェルでも冒険部だという所とクズハ達が常には公爵邸に居たり、もしくはどこかの領地に出かけていたりする事が多い事が何よりもの原因だろう。直接は数カ月ぶり、と言う所であった。


「うむ、息災変わりなき様で善き哉善き哉。で、どうした?」

「いえ、こちらに来たという事ですので、ご挨拶に。こいつらとも随分会っていらっしゃいませんでしたし……」

「そうかそうか。それはわざわざすまんのう」


 カイトの言葉に武蔵が頷いた。実のところ午前中に挨拶出来れば良かったのであるが、残念ながら武蔵の側がお参りという事で出掛けていたのである。

 そもそも、アニエスは今年生まれたばかりだ。というわけで、少し離れた所にある大きな神社にお参りに行っていたのであった。折しも今は乱世に近い。乳飲み子が無事に成長しますように、と祈るのは良い事だろう。


「それで、ミトラさんは?」

「どうにも環境が変わったからか夜泣きしてのう。少々、昼寝じゃ。なるべく無理させぬようにお主から良い飛空艇を借りたわけじゃが……まぁ、それでも負担は負担。とは言え、儂の子であれば、この程度は耐えねばのう」


 カイトの問いかけに武蔵が襖の奥を顎で示した。それ故、彼の声はいつもより僅かに小さかった。


「ま、それも既に1時間程寝ておったからのう。そろそろ起きる頃じゃろう」

「あっと……ではお昼はまだで?」

「ああ、いや……ヤマトとアニラは食って既に出掛けておるが、儂はまだじゃ」


 武蔵は一応、間違いの無いように言い含めておく。なお、彼の子供二人であるが、そちらは武蔵達が来るよりも前からこちらに滞在していた。榊原家にしばらく滞在させてもらっていて、そこで修行させてもらっていた。有名な流派の師範代という事もあり客将扱いで武術の稽古に参加させてもらっていたそうだ。

 が、やはり弟の無事を祈るお参りという事で武蔵らに合流し、折りを見て再び榊原家へと向かう事にしていた。それに合わせて、カイト達が向かう事へのアポイントを取ってくれるらしい。


「そうですか……ああ、そう言えば。鮎が丁度旬でしたよ」

「おお、そう言えばそんな時期か。これは後で散歩がてら釣りにでも行くかのう」


 カイトからの情報に武蔵が笑みを浮かべる。日本に居た時代からも分かるかもしれないが、彼はかなり多趣味だ。故に釣りも嗜んでいたらしく、現に大陸間会議の時も自分で釣ってカイトの所に持ってきて共に調理していた。というわけで、やはり旬の魚になると興味を抱く様子であった。


「その様子じゃと、食ったか。どうじゃった?」

「美味しかった」

「そうですね。丁度油の乗りもよく……」


 武蔵の問いかけにアウラとクズハが答える。と、そうしてしばらくの歓談をしていると、襖の先からうごめく音が聞こえてきた。それから間を置かず、襖が開いて中からミトラが顔を出した。


「ふぁー……あ、おはよう」

「あ、おはようございます」


 起き抜けであくびをしたミトラであるが、そこでカイト達に気付いて僅かに照れた様子で挨拶する。と、その更に後ろから赤ん坊がずり這いで動いてきた。

 その動きは若干ハイハイにも近いがまだギリギリ、ずり這いと言う所だ。あと少しすれば、ハイハイし始めるという所だろう。と、そんな赤子に、武蔵が笑みを浮かべて抱き上げた。


「おお、お前も起きとったか」

「もう動けるんですか?」

「うむ。もう30ヶ月ぐらいにはなるからのう。そろそろ、ハイハイで動き回る頃じゃろう」

「まだ早いわよー」


 上機嫌に同じく上機嫌な赤子を抱き上げた武蔵の言葉に対して、ミトラが微笑ましげにそう告げる。地球ではおよそ5ヶ月頃で早い赤子は寝返りを打ち始め、七ヶ月でハイハイを始めるそうだ。

 勿論赤子の事なので、決して比較してはならない。遅い者は九ヶ月で寝返りを打つ。とは言え一年が地球の四倍の長さであるエネフィアで考えれば、そろそろ動き回っても十分不思議はなかった。どうやらこの子は比較的早い方の様子だった。と、そんな武蔵がふと、カイトを見た。


「そういや……抱いとって思うたんじゃが……」

「なんすか?」

「お主、赤子とか抱っこしたことあるか?」


 武蔵は少しだけいたずらっぽく、カイトへと問いかける。確かに、今までカイトは子供は居ない。隠し子騒動はよく起きているし今でも一年に一度ぐらいは起きるが、とりあえず事実は事実として彼には実子も養子も居ない。故に武蔵は彼が赤子を抱いている所――遊ばせている所は何度も見ていたが――を見た事が無いのであった。


「まぁ、何度かは……ウチ、父方が大家族なんで。親父の従兄弟とか色々来てたりしますよ。で、そうなりゃ普通に赤ちゃん連れてくる様な人も居ましたんで……」

「なんじゃ、つまらんのう」

「いや、つまらんと言われましても。これでも現代だと多分無茶苦茶珍しい部類っすよ、ウチ」

「じゃから、つまらんのじゃろうに」


 カイトの返答にに武蔵が不満げに口を尖らせる。ハイハイが近い事からも分かるが、アニエスは既に首は座っている。故に多少不慣れでも丁寧に扱うのであれば、十分に子供を抱っこさせることは出来る時期だった。

 故にカイトに抱っこさせて焦る様を見ようとしていた様子だった。というわけで、武蔵は次に標的を定める。それはティナ――マクダウェル家で挨拶に来たので実はアリス達と一緒に居るのは分身――であった。他の三人は普通に子供を抱いている所を見た事があるが、彼女だけは見た事がなかったのだ。それに対して、ティナは口を尖らせた。


「……なんじゃ。何故余を見る」

「いや、お主はどうじゃろうと思うてな」

「……別に赤子ぐらい抱いた事はあるわ。伊達に300歳超えとらん」


 武蔵の言葉にティナは珍しく若干自信なさげであるが、抱いたことがあると明言する。ただし、ここには但し書きが入った。


「オレの田舎で、だけどな」

「うるさい。それでも抱いた事はあるぞ」


 むっすー、とティナが頬を膨らませる。ここら、おかしなようで可怪しくない話であるが、実はカイトの方が若干、本当に極わずかだが子育て経験は豊富なのだった。まぁ、武蔵やミトラから言わせればどんぐりの背比べ、と言えるのだろうが。


「なんじゃぁ、二人してつまらんのう」

「いや、でも面白い見世物ではありましたよ」

「う、うるさい。お主が妙に慣れとるのがいかん。何故子もおらぬのに手慣れておる」


 ティナが恥ずかしげにカイトに対して愚痴を言う。ここらは本当に彼の実家が現代の都会では稀な程に親類縁者の仲が良いという特殊な事情がある。

 それは彼とて意図したものではなかったし、出来るものではない。ティナがそうである様に、生まれは選べない。とは言え、それ故に彼はこども好きだったし、子供が欲しいという女達の願いには積極的――若干積極的過ぎる気もしないでもないが――に叶えてくれようとしている。単に全体的な状況が許さないだけだ。


「だーって子供好きだしー。うりうり」


 カイトは楽しげにアニエスの頬を突っつく。どうやらアニエスの側もカイトを受け入れてくれたらしく、楽しげに笑っていた。と、そんな様子を見ながら、ミトラが満足気に頷いた。


「うーん……これならまだ安心ね」

「後は、実際に苦労するだけだもんねー」


 ミトラの肩の上、ユリィが彼女の言葉に応ずる様に楽しげにそう口にする。これは所詮、他人の赤子だ。故に最悪は親になんとかしてもらうという切り札が使える。

 が、これが自分の子供になると、そうも言ってられない。理想と現実はかけ離れている。そこを、孤児達の面倒を見てきていたユリィは把握していた。が、そんな事はつゆ知らずのカイトは相変わらず、赤子をあやしていた。


「いないいない……ばあ!」

「きゃっ! きゃっ!」

「おぉ、嬉しそうじゃのう!」

「っと、そうだ! 確かこの中に……あった!」

「おぉ、デンデン太鼓か! 懐かしい物を持っておるのう!」


 楽しげに笑うアニエスに、それを見て上機嫌な武蔵、そしてデンデン太鼓を取り出したカイト。どうやら、異世界でもイクメンパパは普通になりつつある様子であった。そうして、そんな一同はそれからしばらくの間、家族団らんを楽しむ事にするのだった。




 さて、それからおよそ二時間ほど。武蔵とミトラが昼食を食べる間クズハらと共に必死で赤子の面倒を見ていたカイト達であったが、昼食を食べたアニエスを一眠りさせる為、御暇する事にしていた。


「期待してるわねー。カイト達もまたね」

「うむ、任せておれ」

「はい、では」


 アニエスを寝かしつけるべく抱っこしているミトラに見送られ、夕食の鮎を釣りに行くという武蔵とカイト達が部屋を後にする。


「さて……今年は良い出来と聞いておるが……どれほど釣れるかのう」

「とりあえず三人で朝から昼まで粘って十数尾連れましたよ」

「ふむ……であれば、程々に良い塩梅か。良し。であれば、調子さえ良ければ二時間もすれば人数分は確保出来るか。後は宿の料理人にでも任せて良いしのう」


 流石に武蔵も湯治に来てまで料理をしようとは思わない様子である。釣った後は旅館の料理人に任せる事にしたようだ。そうして彼は釣り竿片手に魚籠(びく)を腰に吊り下げる。これで後は川まで行けば、問題ない。


「ああ、そうだ。そう言えばウチの学校の校長先生が釣りやってるそうですよ」

「お、そうか。であれば並んで話し相手には困らなそうじゃのう」


 カイトからの情報に武蔵が相好を崩す。やはり釣りは待つ事が大半だ。故に話し相手が欲しくなる時はあるらしい。そう言う意味で言えば、本来は老成している武蔵なら桜田校長は良い相手だと思われた。


「では、行くかのう。お主らは?」

「オレ達は一度部屋に戻ろうかと。温泉、行きたいんで……」

「おお、あそこか。久しぶりに儂も足を伸ばしても良いじゃろうが……まぁ、アニエスはまだ入れんか。此度は諦めるとしよう。もしヤマトかアニラがおれば、飯までに戻る様に言うといてくれ」

「はい」


 カイトが武蔵からの言伝に頷くと、武蔵はそのまま近くの川を目指して歩き始める。その一方、カイト達は再び部屋に戻る事にしていた。と、その前にアウラが口を開いた。


「カイト、浴衣」

「ん? ああ、そういや、そろそろ決まってそうだな。オレ達も行ってみるか?」

「ん」


 カイトの提案にアウラが頷いた。一応、旅館にも浴衣を貸し出している所がある。なのでそこで借りても良いのであるが、どうせなので、と弥生達は浴衣を見に行っていた。やはり呉服屋の娘という事なのだろう。異世界の浴衣は少し興味があったらしい。

 既に店には話を通してあり、もし購入する事になっても費用は公爵家へ送られる事になっていた。と、言うわけで旅館近くの呉服屋へとカイト達は足を伸ばす。

 流石にこんな店には天桜学園の生徒も冒険部のメンバーも誰も来ておらず、来ているのは小粋な冒険者達と弥生達ぐらいだった。そしてこんな呉服屋へ来る様な小粋な冒険者故に、ナンパなぞはしない。弥生達も気兼ねなくショッピングを楽しんでいた。


「あら、カイト。どうしたの?」

「いや、オレ達も折角だから浴衣見ようかな、とな。まだ終わらなかったのか?」

「ええ。やっぱり前も思ったけど、異世界には異世界の浴衣があるんだなー、って。やっぱりこっちの方が本場だから、品揃えが段違いなのよ」


 弥生は楽しげに、そして僅かに真剣味を覗かせて浴衣を観察していた。そうして彼女は気になった浴衣に触れてみる。


「特殊な生地、だそうね」

「ああ。防具にもなる優れものだ……まぁ、こんなのを着るのは、よほど腕に自信があって小粋な奴ぐらいだな」

「着こなせれば、相当格好良さそうね」


 カイトの言葉に楽しげな様子で応じながらも、弥生は浴衣のデザインを真剣に観察する。地球で着物に使われる物とは生地から違うし、それ故に仕立て方も色々と異なる。

 自身も異族の末端に名を連ね地球に帰還後も異族達と関わっていく事が確定している弥生にとって、こういう風に異族達の為の着物というのは将来的にも重要な情報だった。故に、これまでずっとここに居たというわけなのだろう。と、カイト達が来たからだろう。ふと、弥生が顔を上げて同じく浴衣を見ていたアウラを見た。


「そう言えば、アウラさん……」

「何?」

「浴衣、着るわよね?」

「ん、そのつもり」


 弥生の問いかけにアウラははっきりと頷いた。残念ながらマクスウェルではあまり着物は着れない。マクダウェル家は多彩な執事やメイド達は沢山居るわけであるが、着物の着付けが出来るメイドは数少ない。そして流石にアウラ達とて理由もなく着物を着るわけもない。が、ここでは雑踏に溶け込む意味でも浴衣を着るつもりだったようだ。


「羽根……どうするの?」

「んー……店員さん」

「はい、なんでしょうか」

「天族対応?」


 アウラは店員を呼び寄せると、この店の着物が天族に対応しているかどうかを問いかける。それ次第で買う品を考える必要が出て来るからだ。


「はい。当店で取り扱っている品は全て、お客様の種族にも対応しております」

「ん、ありがと」

「いえ。また御用があればお声がけください」


 アウラの感謝に店員がその場から立ち去った。というわけで、それを確認して弥生へと告げる。


「基本はこの服と同じように因子に反応して背中が開いてくれる」

「なるほど……便利ねー」


 アウラからの情報に弥生はどうなっているのだろうか、と見ながら何度も頷いていた。と、その一方でカイトは邪魔にならない様にクズハ達の所に居た。


「おぉ、これはこれで凄い似合うな。てか、有り。そうか、エルフに着物は有りだな……」

「もう、お上手なんですから」


 カイトの称賛に浴衣を着たクズハが照れかえる。とは言え、これは非常に似合っていた。一見するとエルフ――クズハはハイ・エルフだが――といえば西洋ファンタジーの象徴にも等しい存在だろう。

 故に東洋も日本で発展した着物や浴衣とは最もかけ離れた存在と言える。が、それ故か妙にぴったりと似合っており、思わずカイトが着物を常備するか、と悩む程だった。


「ふむ……昔から浴衣姿は見てたけど……なるほど。クズハなら、着物も似合いそうだな……」

「……お兄様? それはもしかして一部を見ておっしゃってませんか?」

「ちょ、おい! 穿ち過ぎだ! って、それはおいておいても。ふむ……」


 クズハの僅かな抗議の声を慌てて宥めたカイトであるが、その後は真剣な目でクズハの浴衣姿を観察する。と、そんな真剣なカイトには流石にクズハが照れた。


「あ、あの、お兄様。そんなジロジロと見られては……」

「あ、ああ、悪い悪い。本当に似合うからな……んー……いっそ、燈火に頼んでマクスウェルに一軒呉服屋作ってもらうかな……これがここ限定なのはなんかもったいないな……うん、着物も良さそうだし……あ、桜もそう言えば私服が着物か……着付け、習わせるか……?」

「ちょ、ちょっとお兄様!? 嬉しいですが、少々大きくなりすぎです!」


 いつの間にかクズハの為だけにマクスウェルに呉服屋を作ろうと考え始めていたカイトに、慌ててクズハが制止する。こういう時、本当にカイトならやりかねない。基本この男は義理も実も関係なくシスコンなのである。浴衣姿のクズハが相当気に入った様子だった。

 そうして、この後はクズハが照れるやらカイトが暴走しかかるや、それにアウラが拗ねるやらそれにティナが呆れるやら、最後には着替えていた皐月達がやって来て場を引っ掻き回すやら、とてんやわんやの時間を過ごす事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1227話『大温泉』

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