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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第62章 南の国の陰謀編

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第1221話 最後の一仕事

 マリーシア王国からの難民達の為の資材の搬送を行った翌日。カイトは今度は村人達の輸送を担う事になっていた。


「これで、全員か」


 カイトは移動するメンバーのリストを見ながら、名簿に漏れが無い事を確認する。今回の移送は馬車だ。主導するのはマクダウェル家。人員なので公爵家が主導する、というわけだ。それでも護衛がカイト達なのは、単に200人もの大人数になるからだ。護衛もそれ相応に多くなるのである。


「よし……こちらカイト・天音。人数のチェック終了」

『了解した。ご苦労だった』

「いえ……では、引き続き作業に戻ります」

『頼んだ』


 カイトはヘッドセットで輸送隊の統括を行う軍の士官と手短に話し合いを終わらせる。これでひとまず話し合いは終わりだ。


「おーい。カイト」

「ん? ああ、ルミオか。お前らも、これに同行するんだったな?」

「ああ。しばらくは向こうを中心として活動するよ」


 カイトの問いかけにルミオが頷いた。実力としてもそれが丁度よいぐらいだ。しばらくの活動資金を貯めるにしても、感覚を養うにしても丁度よい所だろう。


「まぁ、それならしばらくは別行動だが……それが普通か」

「あはは……ああ、そう言えば。ロザミィのご両親、探してくれてありがとな」

「オレが探したわけじゃねぇよ」


 ルミオの感謝にカイトが笑って首を振る。ここらはユニオンと情報屋の伝手を頼って、ロザミアの両親を探してもらったのである。帰ってみれば村が無いでは困るだろうし、娘がどうなったかわからないのも困るだろう。そこらでカイトが情報屋との渡りをつけたというわけだ。両親とはユニオンの通信を介して話していて、こちらに居る事を把握していた。


「あはは……おっと。じゃあ、行くよ」

「ああ。またな」

「ああ」


 片手を挙げてルミオに、カイトもまた片手を挙げて応ずる。今回、流石にカイトがそんな何時間にも渡る輸送隊の護衛の隊長を、というわけにもいかなかった。彼も他にやることが幾つかあり、そちらとの兼ね合いで隊長はソラに任せたのである。ということで、動き始めた輸送隊の中頃に居たソラがこちらに来た。


「カイト。じゃあ、ちょっくら行ってくるな」

「ああ……悪いが頼む。お前が一番手隙きだったからな」

「うるせぇよ」


 カイトの言葉にソラが笑う。彼が一番手隙。それは実は理由があって、これは彼が付き合っている事に由来する。この間も言われていたが、中津国へ休暇に出かける時期が近い。その用意があるのだが、ソラはそれを由利とナナミに任せる事が出来た、というわけだ。では瞬はどうなのだ、と言われてもリィルがやってくれるわけもない。

 勿論カイトも出来るが、彼の場合は天桜学園等の代表として幾つもの手続きを行う必要がある。しかもこの直近だ。残留組との間で色々と詰めねばならない問題もある。なので彼はこちらに残留というわけだ。なお、残留組と言ったが彼らは単に時期をずらすだけだ。なので休み無しというわけではない。


「っと、じゃあ、とりあえず夜には戻るな」

「ああ。夜道には気を付けてな」

「わかってる」


 ソラはそう言うと、そのまま歩き出す。もう輸送隊は出発を始めている。何時までものんびりとしているわけにはいかなかった。そうして、カイトは輸送隊を見送ると街の中心へ向けて歩き出す。


「さて……」


 カイトは輸送隊を見送りながら、次にすべき事を思い出す。とは言え、さほど考える必要もない。


「まず病院に行っておくか」


 カイトはそう呟くと、そのまままずは中央の病院に足を向ける。今回輸送されるのは、けが人以外だ。まだ治療の終わっていないけが人達については、そのまま残留する事になっている。

 そして彼は偶然ではあったが、怪我を負った母親を持つ少年と知り合っている。その見舞いをしておこう、というわけだ。そしてそれ以外にも、伝えておくべき事はあった。


「あ、兄ちゃん」

「よう」


 病院に到着するなり、病院の遊戯スペースで遊んでいた少年を発見する。投薬治療のおかげもあり大分と落ち着いたのか、随分と笑うようになっていた。


「母ちゃんは?」

「検査」

「そうか……なら、少し待つか」


 カイトは少年の頭を撫ぜると、そのまま一緒にそこで待つ事にする。と、そうしてしばらく待っていると、看護師がこちらにやって来た。


「あ、カイトさん」

「お久しぶりです」

「ええ……ニーアくん。お母さんの検査、終わったよ」

「うん」


 看護師に言われて、ニーアという名前だったらしい少年がカイトの手を引く。やはりあれからしばらく一緒に居たからか、懐かれていた。とは言え、すぐに行くわけにもいかない。


「先行ってろ。ちょっと看護師さんと話しないといけなくてな」

「えー」

「悪い。後で行くから……すいません。こいつ、頼みます」

「はい。じゃあ、行こっか」

「はーい……」


 カイトの言葉にニーアが不満げにまた別の看護師に手を引かれて母親の病室へと向かっていく。と、その一方でカイトは看護師に問うべき事を問うていた。


「あはは……それで、彼のお母さんの容態は?」

「ええ。怪我については後一ヶ月もあれば、退院出来るかと。流石は、と言うしかありません」

「そうですか……それは良かった」


 ひとまず、カイトは母親の容態に安堵しておく。峠は越えていたが、やはりかなり重傷だった。あと一歩遅ければ間に合わなかった、と軍医も述べていた。魔術や回復薬を併用しても即座に完治というわけにはいかず、二ヶ月程度の入院は余儀なくされたようだ。

 とは言え、それでも地球であれば全治一年や二年と診断された上、酷いリハビリを行わなければならなかっただろう。後遺症は確実と言われる程の容態だった。そこを勘案すれば、後遺症も殆ど残らず命が助かって良かったと言うしかない。


「それで、精神面については?」

「そちらについては、医師から直接お聞きになられた方が良いかと。丁度医局に戻られているはずですから、行けばお話を聞けると思いますよ」

「そうですか……では、失礼します」


 看護師の提案を受けて、カイトは一度医者達が控える医局へと顔を出す。そうして、所定の手続きに従って母親の担当医を呼び出してもらう。既に医師とは顔なじみなので、向こうもカイトと分かって即座に応じてくれた。


「ああ、天音さん。今日はお見舞いで?」

「ええ、半分、と言う所はですが……半分は別用で」

「別用……そう言えば新聞で……」


 どうやら、医師も大凡の内容を推測出来たようだ。今回の一件、やはりどうしても事の性質から新聞報道は為されていた。カイトも近々インタビューを受ける事になるし、何らかの形で報奨を、という話もある。少し彼も注視していたのだろう。


「わかりました。では、精神的な容態をお聞きに?」

「ええ」


 カイトは少しだけ物悲しげに医師の言葉に頷いた。既にマリーシア王国に戻る事を決めた者達は一週間程前に帰国しており、色々と続報が届いていたのだ。その中の一つに、親子に関係ある事も含まれていたのである。それを、カイトが口にする。


「共同墓地という形ですが、墓が設けられたという事でしたから……それを伝えねばなりません」

「そうですか……ああ、それで容態でしたね。今なら、受け止められるでしょう」

「そうですか。ありがとうございます」


 カイトは医師の言葉に頭を下げると、立ち上がる。先にも言ったが、カイトの目的はこれだ。これについてはマリーシア王国が主導して行ったらしく、きちんと遺体は回収されて弔われたようだ。

 あの時は一刻を争う事態だった。そして迂闊な事が出来ない状況でもあった。野ざらしにしてしまったのを、カイトも悔いていた。

 そこで向こうに掛け合って、きちんと弔われるようにしてもらったのである。というわけでカイトは病室に向かうと上体を起こしていた母親へと、彼女の夫がきちんと弔われた事を語る。


「と、いう感じです。これについてはマリーシア王国が引き受けて下さいました。なので、もう大丈夫でしょう」

「そうでしたか……何から何まで、ありがとうございます」


 ニーアの母親は穏やかな顔で、カイトからの言葉に礼を言う。彼女は大凡年齢としては、20代半ばという所だろう。とは言え疲れや色々な精神的な影響からか、今は少しだけ年老いて見える。

 なのでニーアの年齢やマリーシア王国の農村での平均的な結婚年齢を考えれば、実際にはまだ20代前半かもしれない。少なくとも10代という事はないだろうし、逆に30代という事も無さそうだ。あくまでも、見た目相応と言う所だろう。

 入院患者故に化粧等はしていないが、見た目は悪くない。あの程度の村でなくても、周辺の村で噂になる部類の器量と言っても良いはずだ。さぞ、旦那も羨ましがられたと言えるだろう。だがそれ故に、兵士から狙われたのだろう。


「いえ……乗りかかった船と言いますか、私としても死者を野ざらしにはしておけませんでしたから」

「ありがとうございます」

「いえ……それで、お二人はどうするおつもりですか?」


 カイトは一応、彼女らの今後を聞いておく事にする。幸いというか流石に彼女らにまで罰が与えられる事はない。一応調書に拠れば夫の方はタバコ密造に関わっていたらしいが、彼女は逆に何かきな臭い物を感じていた夫によって遠ざけられていたようだ。

 更には丁度身重だった事もあり、タバコの密造には一切関わっていないらしい。一応しばらくはマリーシア王国より見舞金と補助金が支払われるが、その後の事は考えねばならないだろう。

 そしてまだ残るけが人達の行く末を最後まで見届ければ、カイトのこの仕事も終わりと言って良かった。これが、あの一連の事件から繋がる最後の仕事と言えるだろう。


「……こちらに残ろうかと。この子の事を考えれば、こちらに居た方が良いでしょうから」


 母親はそう言うと、カイトの膝の上で病院から与えられた絵本を読む息子を穏やかな顔で見る。こちらは真剣に絵本を読んでいる様子で、父親が死んだ事もあまり理解出来てはいなかった。


「そうですか……では、遺品等はこちらに届けられるように手配致しましょうか?」

「……いえ。彼は、あそこに残りたいでしょうから。あ、でも婚約指輪だけ、お願いしても……」

「わかりました。おそらく遺品は回収されているでしょうから、掛け合ってみましょう」


 カイトはおずおずと切り出した母親に対して、微笑みと共に頷いた。遺品についてはきちんと回収されている、とマリーシア王国から聞いている。であれば、その中にはあるだろう。無ければ探してもらえば良い。


「ありがとうございます」

「いえ、では……悪いな。ちょっと母ちゃんに頼まれた事、してくるな」

「あ……ばいばい」


 カイトは手を振る少年に見送られ、病室を後にする。なお、流石にカイトが関わるのはこの親子だけだ。なのでこれ以外はまたマクダウェル家の役人達がきちんと聞いていた。


「ふぅ……まぁ、仕方がないか」


 カイトは親子の事を思い出して、彼女も内心では帰りたかっただろうな、と僅かに悲しげに呟いた。だがやはり、こればかりは実益が関わってくる。これから彼女らは母子家庭として、生きていかねばならないのだ。そういった場合、やはり支援の手が豊富なのはマリーシア王国よりマクダウェル家になる。

 マクダウェル家の基本的な考え方が地球なので300年前から子育て支援等がしっかりと備えられているし、そもそもの発端から母子家庭や孤児にも理解が深い。酷い地域だと身を売って稼ぐ母親も多い。が、そうなるとやはり子供に良い影響は無いだろう。子供をしっかりと育てたいのであれば、この選択がベストなのだろう。


『どうするのだ?』

「うん? どうする、ねぇ……」


 ステラの問いかけにカイトは少しだけ悩みを見せる。職業紹介は領主の仕事だ。であれば、その斡旋はカイトがするべきだろう。


「まぁ、内職という所になるか。リハビリはしばらく必要だし、母親一人だと大規模な農家というのも難しい」


 カイトは大凡の予定を組み立てる。夫は確かに犯罪を犯してはいたが、その事情は止むに止まれぬ物と断じて良い。そして彼が死んだのは明らかにミリックス伯らの策略によるものだ。十分、遺族年金に近い補助金が支払われる理由には成り得た。


『そうか』

「どうした? お前が聞くのも珍しいな」

『少し昔を思い出しただけだ』

「そうか」


 カイトはステラの言葉にそう言えば、と思い出す。この兄妹は孤児だったが、兄が身を売って生きていた。故にそうならないように心配していたのだろう。そうして、カイトは親子の手配を幾つか終わらせて、冒険部へと帰還するのだった。

 お読み頂きありがとうございました。明日から新章です。

 次回予告:第1222話『臨時休業』

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