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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第62章 南の国の陰謀編

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第1219話 数日後

 マクダウェル領マクスウェルに帰還して、数日。大急ぎでけが人の収容と治癒に奔走していたカイト達であるが、それが終わればエルリック一派や村人達は暫定的な保護を行う為に難民申請をさせる事になっていた。

 それらについては予め準備を整えていた事、マリーシア王国がエンテシア皇国へと一時的な保護を依頼した事もあり、その日の内にエンテシア皇国も申請を受理。ひとまず、彼らは近衛兵団と共同でマクダウェル家の監視下の下に置かれる事になる。


「ふぅ……とりあえず、これでなんとか、か」

「ちかれたー……」


 カイトの肩の上で、ユリィが疲れたようにため息を吐いた。兎にも角にも彼らは帰還後も大忙しだった。唐突な事で事態が飲み込めない村人達の難民申請の手続きの協力を行い、エルリック一派と公爵家の仲介役として間に立って、としていたのである。

 そして彼らの処遇が決定したからとて、終わらない。今度は難民申請を終えた村人達の今後をどうするか、彼らを守ってこちらまでやって来たエルリック一派はどうするか、等をマリーシア王国との間で話し合う必要があった。そんなことをしていればあっという間に時間なぞ経過するわけである。疲れるのも当然である。と、そんな大忙しの業務を終えて部屋に戻った二人の所に、シアが顔を出した。


「おつかれね」

「ああ、シアか。そらぁ、この数日ひっきりなしに動いていたからな。疲れもするさ」

「それもそうね……私の古巣から、続報よ」


 シアはそう言うと、一つの書類をカイトへと提出する。それは皇国の諜報部が手に入れたマリーシア王国のその後の動きだった。


「とりあえず、シャルマン・ラフネック侯爵らは全員逮捕。エルリック一派の冤罪は確定だそうよ」

「やはり、か」


 シアの言葉にカイトはさして驚く事はなかった。あの逃避行の中でも見ていたが、部隊の中にはハーフか純血かはわからないがエルフの血を引いている者が数名見受けられた。更には伊勢も彼らからタバコの匂いがしない事を明言していた。彼らがタバコを栽培していない、というのは明白だった。


「それで、大麻は?」

「見付かったそうね。場所は貴方の推測通り、鉱山の奥深く。ただし、また別の廃棄された坑道だそうよ」

「なるほど……場所そのものはずらしたわけか。盲点だった」

「そうね。灯台下暗し、と日本では言うそうね」

「だな」


 シアの言葉にカイトは笑いながら頷いた。カイト達は当初、誰もが鉱山ではなくラフネック領のどこかに新たなタバコ畑があると推測していた。それ故、タバコ畑を調査するとそれでそこは終わったと見做して、そのまま候補から外してしまっていたのだ。

 まさに、シアの言う通り灯台下暗し。流石に彼らもまさか別坑道とは言え同じ鉱山の奥深くに別の畑を作ろうとしていたとは、考えもよらない事であった。そこは流石に王国の中枢の調査員も気付くだろう、と思って手抜きにしたのが、まずかった。


「それで、主犯格のラフネック家とミリックス家は最悪はお家取り潰し。よくても降格の上、良い者に跡目を相続させた上での改易は免れないそうよ」

「まぁ、妥当な結論か」


 シアからの報告にカイトは妥当だな、と頷くだけだ。最悪は、というのはこれからどこまで彼らの悪事が出るか次第、という所だ。が、こういう場合に最悪が出る事はまずない。なので妥当な線としては改易処分という所だろう。それでもまだ死刑にならなかっただけ良かった、という所である。

 大麻栽培は死刑もあり得た。良くも悪くもエルリック一派が栽培を開始した時点で嗅ぎ付けてしまった事で、その栽培は中途半端な所で終わってしまっていた。これがもし密売まで行けば、お家取り潰しは確定。シャルマンら首謀者達は死刑だっただろう。


「それで、村人の様子は?」

「やはり、あまり芳しくはないわね。それでも暴動等が起こらないのは自分達がしてしまった事をきちんと理解しているから、という所かしら。それに……まぁ、どちらかというと怯えている、という方が強いわね」

「怯えている?」


 シアの言葉にユリィが首を傾げる。安全は確保されている。だというのに何に怯えるか、というとよくわからない。故に彼女はとりあえず思いつく事を口にする。


「自分たちがこれからどうなるのか、という所?」

「当たらずとも、遠からじ。そんな所ね」

「あー……」


 シアの答えでユリィも大凡を理解した。結局、彼らも知った知らないの差はあれど犯罪に加担している。それだけは言い逃れが出来ないのだ。


「裁かれる、という所を恐れているわけね」

「そういうことなんだろう」


 ユリィの推測にカイトも同意する。やはり彼らも望む望まざるに関わらずタバコの密造に関わっていた。情状酌量の余地はあるが、それでも罪は罪。罰は免れない。それに怯えるのは真っ当な感性の持ち主であれば、自然な事だっただろう。


「ふむ……どの程度が妥当かね……」


 やはり罪は罪である以上、裁かれねばならないだろう。それが、けじめというものだ。故に領主として、カイトはその裁きを考える。先にも言ったが、ここらは情状酌量の余地がある。故に厳格に法律に照らし合わせて、というわけにもいかない。法律を絶対視して遵守しても世の中は上手く回らない。ある程度の人情は必要なのだ。それが、世の中だ。


「まぁ、それは後で考えるか」


 とりあえず、今は何かを考えるにしても状況の推移を見守る必要があるとカイトは判断する。なにせ彼が裁けるのは彼の領民だけだ。難民としてそのまま留まる事を選択した者だけしか、裁けない。おまけにその裁きにしてもマリーシア王国と話し合った上だ。彼一人での早急な決定なぞ無理だった。


「それで、エルリック将軍らについては?」

「それについてはしばらく応対を考えたい、という事よ。とは言え、あの様子だと悪いようにはしないでしょうね」

「まぁ……それはそうか」


 マリーシア王国の国民達にとって、今回の出来事は英雄に降り掛かった災難だ。国民達は彼らに同情的と言える。故に国民達からしてみれば彼らの帰還を拒む者は居ないだろう。

 とは言えカイトも言った通り、あれだけ派手に暴れまわったのだ。軍に早急に復帰を、と言ってもそれはそれで難しい。軍からしてみれば彼らは仲間を斬った奴らだ。理性で納得出来ても感情で納得できない者は居るだろう。軍の一部を宥める為にもしばらくこちらで預かって欲しい、というわけなのだろう。


「それでそれを伝えた後、彼らはなんと?」

「それについてはしばらくは難民達を守らせて欲しい、と申し出があったわ」

「そうか……その申し出を受けさせておいてくれ。勿論、監視もおいてはおくが」

「それは当然ね。わかった、とりあえず処遇は伝えておきましょう」


 カイトの指示に頷いたシアはそれを覚えておく事にする。彼らを遊ばせておく道理はない。そして彼らはマリーシア王国の国民にとって英雄だ。村人達も見ず知らずの兵士に守られるより、エルリック一派に守られた方がよほど良いだろう。


「ふぅ……とりあえずは、こんな所か」


 一通りの対処を終えて、カイトはため息を吐く。後はマリーシア王国との相談次第、という所だろう。そうして、カイトはそのまま少し疲れたので寝る事にするのだった。




 さて、それから更に一週間程。カイト達がタバコ密造を掴んで実際に動き始めて半月より少し経過した頃だ。この頃には難民達の処遇も決まり、大凡の対処が定まっていた。

 そしてこの頃には流石にカイト達も忙しくなくなっており、平常業務に戻りつつあった。とは言え、報告は受けねばならぬ立場なのだし、ソラ達も気になった事もありカイトからひとまずの結果を聞いていた。


「ふーん……じゃあ、半分ちょい、こっちに残る事にしたのか」

「ああ。とりあえずはな」


 ソラの言葉にカイトが再度明言する。まず村人達なのだが、こちらはやはり領主に騙された事が尾を引いている様だ。200人程がこちらに残る事を選択し、裁きもマクダウェル領にて受ける事になった。これについては、マリーシア王国も同意した。

 帰るのはリルによりひとまず強制的に避難させられた格好に近い彼女の居た森付近の村の住人が大半で、逆に残留で多いのは襲撃に遭った村の住人だ。そうして村人達の対処を聞いた後、翔が問いかけた。


「で、コルネリウスさん達はどうしたんだ?」

「彼らか。彼らはとりあえずは、一時的にこちらの預かりになったそうだ」

「一時的?」

「ああ……やはり軍での仲間殺しはご法度だ。即座に復帰、と言っても如何ともし難い事がある。一年か、二年か……まぁ、長くとも十年ぐらいはこちらでほとぼりが冷めるのを待つ事になる、という所なんだろう。後は、その時の現状次第、という所だ」


 翔の問いかけを受けたカイトは表向き公爵家から聞いたという体で翔へと情報を伝えておく。と、そんな話を聞いて、翔が更に疑問を呈した。


「家族はどうするんだ?」

「ひとまず、マクダウェル家の軍人と同じ扱いにするそうだ。なのでこちらに来る事を望む者は、という所だな」

「実質的には、彼らも難民というわけか」


 カイトの言葉に瞬がそう口にする。実質としては、そう言っても良いだろう。やはり仲間殺しは大罪だ。そんなすぐにわだかまりが解ける事はない。

 であれば、長い時間が必要なのは彼らも覚悟の上だった。後はそれでも帰国するという者はそれでも良いだろうし、このままこちらに鞍替えする、というのもそれはそれで仕方がない。マリーシア王国も今回の一件は十分に出奔足り得る理由と判断しており、自分達が貴族の統率を取れなかったと納得するしかなかった。


「そうだな……とは言え、仕方がない。これについては、諦めてもらうしかない」

「そっか……早目に帰れると良いな」

「だな……」


 翔のつぶやきにカイトも同意する。こればかりは、彼も素直に思う事だ。若干自分達にも非がある村人達とは違い、エルリック一派は純粋に被害者と見て良いだろう。その彼らが割を食うのはカイトとしても悲しい事だった。と、そんな風に考えていたカイトへと、ソラが問いかけた。


「そういや……村人達の罰ってどうなるんだ?」

「ん? ああ、それか。それはまぁ……労役を課す、という事で一致した。服役でも良いんだが……まぁ、マリーシア王国とのやり取りの中でそうなったらしい。どちらにせよ、向こうでも労役になるだろうしな」

「そうなのか?」

「ああ。こちらに残る事にした200名は新たに村を作る事になる。流石に200人もこの街で受け入れるのは難しいからな」


 ソラの問いかけにカイトはマリーシア王国との間で決定していた内容を告げる。これは別に隠す必要もないし、ソラも村人達の所で聞けば普通に知れる事だ。敢えてソラは村人達の前では触れないようにしていた、というだけだ。そうして、カイトはその罰とやらを明かした。


「その村へ続く街道を分岐点から全て整える事。そしてさらに、マクスウェルまでの既存の街道の整備。これを行う事が、彼らへの刑罰だ。機材等は貸し出すけど、基本的には彼らが自分で道を整える事になる」

「街道整備か……労役では基本か」

「あ、教国でもそうなの?」

「ああ、やはりな」


 アルの問いかけにルーファウスが頷いた。労役となると、やはり人々の役に立つ仕事が一番多い。そう言う意味で言えば、多くの人が使う街道を整備する、設置するというのは最も労役で多い仕事だった。それはどうやら、教国でも変わらないようだ。と、そうしてカイトがそれに頷いて、更に話を続ける。


「だろうな……とは言え、そういう感じで労役に課される事になるようだ。まぁ、大凡半年かそこらもあれば、きちんとした街道になるだろう」


 二人の言葉に応じつつ、カイトは大凡の見立てを語る。やはり、労役だ。機材についても一応は貸し与えられる事になるが、それは罰則の為のものだ。高性能でもなければ高級品でもない。

 これについては、そういうものと飲んでもらうしかなかった。そして村人達にしてもそのぐらいで済むのか、と胸を撫で下ろした。不満は無さそうだった。と、そんな風に話し合っていると、ふと瞬が疑問を呈する。


「そう言えば……お前らが会ったと言う冒険者達は?」

「え? ああ、ルミオ達ですか?」

「ああ、そいつらだ。ふと、どうするのだろうか、と思ってな」


 翔の問いかけに瞬が頷いて問いかける。これについてはカイトらは関わっているので知っていたが、それ故に誰も口にする事はなかった。なので瞬が疑問を得た、というわけなのだろう。


「彼らはこちらに残るそうです。どうやらルミオの兄貴がこちらで一から商売をやり直したい、とやる気になっているらしくて、親を説得したそうです。で、親たちは戻るらしいですね。向こうで商売を畳んだりする必要があるらしいので……その後、店を畳んできっちりけじめを付けて、こちらに来る事にしたそうです」

「そうなのか」

「他も、孤児で育ての親がこっちでしばらく滞在する事を決定したので別に異論はなかったり、親が皇国に来てたりで問題はないそうです」


 瞬の言葉に翔はさらに詳しい所を説明する。なお、一人言及されなかったミドであるが、こちらも残る事にしたらしい。村人の多くが残る事を選択した為、村長筋の彼の家族もこちらに残る事にしたそうだ。彼らはしばらくはヤハら自警団と共にコルネリウスらの下で協力して、村を守る事にしたらしい。

 どちらにせよ彼らにとっても新天地だ。しばらくはここらの魔物等に慣れる必要がある。慣らし運転、という所だろう。彼らにはきちんと、依頼料も振り込まれる事になっているらしい。


「まぁ、今度の休み明けにでも天桜学園の少し北に行ってみろ。その頃には村の基礎ぐらいは出来ているはずだ」

「学園の北?」

「お隣さんになる」


 瞬が驚いた様子を見せたのを受けて、カイトが僅かに笑いながらそう明言する。土地として空いている所は多いマクダウェル領なのであるが、彼らは事情が事情だ。更にはエルリック一派の事もある。マクスウェル近郊に新たに村を作る事にしたのであった。

 それにマクスウェルは大陸最大の都市だ。食料はどれだけ有っても足りないぐらいだ。なにせ馬車で数日のミナド村からも輸送する程だ。最近天桜学園が来た事とレーメス伯爵領の治安が回復した事で西側の街道の往来も増加。それに伴い街道も整備され、天桜学園側の草原にも新たに村を作れるようになったらしい。丁度良いので彼らにはそこに村を、というわけであった。

 ゆくは更に北西に街道を整備しつつ、そちらを発展させていくつもりだった。そのきっかけとして、彼らは丁度良かったらしい。やはりカイトも公爵というわけなのだろう。きっちり、利益を得ていた。


「そうなのか……では、落ち着いた頃にでも一度向かってみよう」

「そうしろ。どちらにせよ、校長らも一度向かう事になっているからな。その護衛にでも志願してくれ」


 段々と天桜学園の近くも発展してきているな、とどこか感慨深げな瞬の言葉にカイトも笑って頷いた。そうして、しばらくの間は彼らはその話題で盛り上がる事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1220話『後日談とこれからと』

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