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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第62章 南の国の陰謀編

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第1211話 撤収

 カイト達が討伐軍の足止めを担っていた頃。それを背に、コルネリウスは単騎己の陣営へと取って返していた。理由は言うまでもなく、カイトの助言に従う為だ。その為にも急がねばならなかった。

 カイト達は寡兵。確かに力量差から彼らを殺す事は無理でも、それを大きく迂回すればエルリック一派の野営地へと攻め込める。既に事ここに至ってはシャルマンとて遠慮はしないだろう。容赦なく、こちらは焼き払われるものと考えて良かった。


「総員! 今すぐ……」


 陣営の門戸が開くのを待つのもまどろっこしく、コルネリウスは強引に蹴破って陣へと入る。もう一刻の猶予もないし、これからすぐに撤退するのに門戸は必要がない。が、そんな彼の見たものは、秩序だって動く兵士達の姿だった。


「な……に……?」


 父は毒に倒れて生死の境を彷徨っていて、更にはこの地からの逃避行を決めたのはついさっきの筈だ。なのに何故、既に撤退の準備が始まっているのか。理解が出来ず、コルネリウスは思わず目を瞬かせる。と、そんな彼を出迎えたのは、老齢の男性だった。


「帰ったな」

「親父!?」


 出迎えた男性を見て、コルネリウスは大きく目を見開いた。親父。彼がそう言うのだ。この男性こそがコルネリウスの父、エルリック将軍と呼ばれるハンニバル・エルリックだった。顔立ちは良く似ており、誰が見ても親子だと認識出来た。


「今は詳しい事を語っている暇は無い。状況は理解している。お前も即座に旗艦の始動準備を急がせろ。側近達は既に向かうように指示してある。私は避難を渋る村人達の説得と撤退の陣頭指揮を行う」

「え、あ、おう」


 何故、毒に倒れて生死の境を彷徨っているはずの父がここに全快した様子で立っているのか。しかも撤退の準備を既に始めているなぞ。状況は彼の居なくなった十数分の間に一気に流転しており、即座には理解できない状態だった。とは言え、理解している暇は無い。ここで理解する意味もない。

 重要なのはここから一刻も早く避難する事だ。国外にさえ出れば、後はなんとかなる。それ故、大凡を把握していたハンニバルは即座に息子の尻を蹴飛ばした。


「急げ! 時間は無い! 彼らが防げるのにも限りがある! 更には道中他の貴族からの妨害も考えられる! 可能な限り、敵に準備が整うよりも前に出なければならん! 準備を急がせろ!」

「っ! 了解! 親父! どこへ向かう!」

「南だ! 海へ出ろ!」


 父の言葉にコルネリウスは一つ頷くと、状況の理解を投げ捨ててその場から即座に移動を開始する。陣頭指揮を父が執るというのであれば、安心だ。自分は兵士達を十全に動かすべく、活動するだけだ。そうして戻った旗艦の艦橋には、ハンニバルに言われて既に待機していた彼の側近達が控えていた。


「中佐!」

「お待ちしておりました!」


 コルネリウスは側近達の様子を見て、何故父が復活しているのかを彼らが理解している事を理解する。であれば、迷う必要はない。考えるよりも前に、動くだけだ。


「現状を教えてくれ」

「はっ! 将軍が指示し、既にメインの動力炉は起動済みです! 現在は出力の安定を行っている最中です! 飛翔機も問題なく動かせるとの事です!」

「出せる出力は?」

「機関士長の言葉では、安全マージンを含んで50%程度と。が、限界で言えば巡航速度の70%までなら可能との事です。それ以上は保証出来ないとの事です」

「そうか」


 コルネリウスはカイトが何故飛翔機を万全にしたかは理解できないものの、ミランダの言葉が正しいのならひとまず十分に飛び立てるようにはしてくれているのだと理解する。であれば、問題は無い。


「発進準備を急がせろ。おそらく敵の追撃部隊とミリックス伯の妨害部隊による挟撃を受ける事になる。船の操艦と村人達を落ち着かせる為の人員を除いて、出れる人員は砲撃と白兵戦に備えさせろ。そこらは親父にも助力を頼め」

「はっ。将軍と共に即座に人員の選定に入ります」

「急げよ。敵とこちらの飛空艇の性能差は無い。が、旗艦の飛翔機をやられている分、こちらの方が圧倒的に不利だ。追撃部隊には乗り込まれると考えて準備を行え」


 ミランダの応諾にコルネリウスは更に注意を促しておく。出来れば旗艦を捨て置きたい所であるが、残念ながら村人達を乗せる事を考えればそれも出来ない。確かに過疎化していた村の村人達で、そのうちの一つは半壊と言って良い様な被害を受けていたが、それでも人数は百を優に上回る。

 兵士やその武装、一隻に乗せられる食料、彼らに割り振るべき居住スペース等を考えれば、幾ら野営の用意をそのままにしておくとしても全ての村人を一隻に乗せられる量ではなかった。

 勿論、国を捨てる事を厭う村人も居るので全てを連れていけるわけではないだろうが、それでも確実に半分以上は乗り込むと考えて良い。どうしても、旗艦も持っていかねばならなかった。となると必然として、旗艦の速度に周囲も合わせる必要がある。村人を守る為には一隻たりとも、轟沈させてはならないのだ。


「……死ぬ気か……自分で言った以上、やらせてもらおうか」

「中佐。お話が」

「なんだ」


 一人決意を滲ませたコルネリウスへと、側近の一人が幾人かの戦士を連れてやって来た。そうしてそちらを見た彼に向けて、側近がその戦士達の事を報告する。


「冒険者が協力したい、と申し出ています」

「ふむ……彼らは……」


 コルネリウスは冒険者というらしい若い戦士達の顔を見る。その中にはルミオ達も一緒だった。そしてそれで、大凡を思い出した。


「確か避難した村の出身者だったか」

「はい。それ故、事情を聞いて協力を」

「……そうか。よろしく頼む。装備等必要な物があれば、出来る限り融通するようにしておいてくれ」


 裏は無いだろう。コルネリウスはカイトの立てた筋書きを読んで、これもまた彼のこちらへの支援の一つだと理解する。なお、カイトとしてはここは流石に賭けに近かったが、やはり自分の知り合いが多いのだから協力しようという申し出が多いだろうとは読んでいた。正解とは言い難いが不正解とも言い難い所であった。


「どの艦に案内しましょうか」

「旗艦がおそらく激戦になると思われる。旗艦になるべく多くの人員を割り振ってくれ。その代わり、兵士の数は減らせ。彼らと俺でなんとかする。そちらの詳細はミランダに指示を仰げ」

「はっ……では、こちらへ」


 コルネリウスの指示を受けてルミオ達がミランダの所へと案内されていく。コルネリウスには全体の指揮がある。冒険者の割り振り等はミランダに一任するつもりだった。


「良し……問題は……無いな」


 コルネリウスはここまでなんとか十分な指示を飛ばした事を自分で確認する。いつもならミランダに確認を頼んでいる所であるが、現状はその彼女も独自に動いてもらわねばならない状態だ。些か不安だが、とりあえずは問題無いと思われた。


「モニターに彼らを出せ」


 コルネリウスは僅かに空いた時間を使い、オペレーターに命じてカイト達の状況を映し出させる。やはり軍の兵士達はかなり浮き足立っており、寡兵にも関わらずカイト達が圧倒的に優勢と言って良い状況だ。更にはカイトと日向の二人が居る所為で戦線は横にかなり伸びており、上手く迂回出来ている様子はない。

 が、この流れを予想していたシャルマンの命令で飛空艇の艦隊の半数程度が既に陣地を後にして、大きく迂回しているのが察せられた。おそらくその半数の半数はエルリック一派の野営地を横合いから襲撃し、更に残りの半数程度は彼らの進路上に立ちふさがるつもりだろう。


「彼らはどうしますか?」

「飛空艇はある様子だ。後で追いついてくるだろう」


 コルネリウスはオペレーターの問いかけに対して、言外にカイト達を置いていく事を明言する。カイト達は殿だ。そして彼らは独自に飛空艇を持っている。この筋書きを書いた彼だ。その飛空艇もおそらく並大抵の飛空艇ではない事がコルネリウスには察せられる。

 更にそこからカイトの筋書きではコルネリウスらが撤退を終え、自分達が追いつけるギリギリになる程度まであそこで足止めを行う事にしているのだと推測された。ならば、彼らはその筋書きに沿って彼らを置いていくのが筋だろう。と、そこらの推測や幾つかの準備を整えていると、外とやり取りをしていたオペレーターが報告を入れた。


「中佐。将軍と共に外で人員の選定を行っていたミランダ少尉より村人達の避難を終えた、との報告が。現在少尉が将軍と共にこちらに向かっているとの事です」

「そうか。食料や武器の積み込みは?」

「それについても、完全に終了したとの報告が」

「良し。であれば、もう後は捨てて問題はないな。では、離陸させろ!」


 コルネリウスは全ての準備が整ったのを聞いて、即座の離陸を命ずる。かなり急いだ感はあるが、ハンニバルが彼の帰陣よりも前から撤収の用意をしてくれていた事、けが人達を万が一に備えて予め飛空艇の内部に収容していた事が功を奏した。彼の帰陣からおよそ30分程で全ての用意を終わらせる事が出来ていた。


「了解! 全艦艇、発進準備が整い次第離陸せよ!」


 コルネリウスの号令を受けて、オペレーター達が他の飛空艇に向けて離陸を通達する。そうして、全ての飛空艇が離陸して艦隊の陣形が整えられている最中に、ハンニバルが艦橋へと入った。


「陣形は……良し。整っているな」

「親父……身体の方は?」

「うむ……今はなんともない」


 コルネリウスの僅かに心配そうな視線に、ハンニバルは問題が無い事を明言する。とは言え、やはり事情がわからない以上、無理をしているのではないか、と疑念はあった。

 そしてそれがわからないハンニバルではない。彼は一度状況を確認し接敵までまだ時間がある事を把握するとざっとあらましを語ってくれる事にした。そんな彼は一応念のため、という事で密かに横に付き従っていた翔へと確認を取る。


「時間は……あるな。翔くん、だったね。語っても?」

「あ、はい。一応、カイトから大凡の事は語って良い、と聞いています」

「そうか……」


 カイト。コルネリウスはその名で、この見ず知らずの少年がカイトの手勢に近いのだと把握する。そうして、ハンニバルは翔の許可を得て手短に何があったのかを語り始める事にするのだった。

 お読み頂き有難うございます。

 次回予告:第1212話『閑話』

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