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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第62章 南の国の陰謀編

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第1206話 カイト・介入

 ユリィにコルネリウスの指揮所での偵察を任せていた一方その頃。カイトはというと、次の動きを考える為にエルリック一派の立て籠もる陣営の各地を見て回っていた。

 幸いと言うか、やはりカイトの動きに迷いが無いからだろう。彼がスパイだと気付いた者はおらず、あんな奴居たかな、と疑った者が少し居る程度だ。とは言え、兵士としてここに長居するつもりはない。問題は無いと判断していた。そんな彼は飛空艇の状況を確認する為、あの映像の中の兵士に破壊されたという旗艦の飛翔機の確認を行っていた。


「ふむ……」


 カイトは旗艦の飛翔機を観察する。どうやら魔導炉を破壊する事は無かったらしく、魔導炉そのものは無事だった。これは当然だったのだろうが、魔導炉を破壊すれば下手をすると破壊した工作員さえ死ぬ可能性が高い。そんな工作任務を受ける奴は居ないだろう。

 そしてものの道理として、幾つもの仕掛けを一人で全部こなすのは今回の事件の準備期間を考えても無理だ。あまり無茶をさせてもエルリック一派に寝返る可能性さえある。脱出可能な程度の破壊に留めたのは当然の事だった。


「が……飛翔機はボロボロだな……」


 とは言え、カイトの目の前にはかなり無残な姿を晒す飛翔機の姿があった。なんとか半月程の修繕で見た目こそ比較的取り戻せているものの、基盤となる刻印の部分がかなり損傷している様子だった。

 見た目を修復した所で魔道具は動かない。刻まれている刻印の修繕をせねばならないのだが、これはこんな僻地でどうにかなる問題ではない。故に機関士達もそこに頭を悩ませている様子だった。


「おい、わけぇの! 邪魔だ! んなとこでぼさっと突っ立ってんじゃねぇ!」

「あ、す、すいません!」


 どうやら、足を留めて観察していたからだろう。機関士の中でもおそらくトップと思われる年かさのドワーフの男性に怒鳴られる。まぁ、突っ立っていては作業の邪魔という彼の意見は非常に正論だ。故にカイトも謝罪するしかなかった。そうして、カイトはその場から僅かに離れて再び観察を開始する。


「ふむ……」

「……坊主。興味深そうだな。機関士志望か?」


 と、そんなカイトに再び声が掛けられる。それに、再度振り向いて見れば先程のドワーフの男性だった。彼はカイトがあまりに真剣な目で観察していたので、ふと興味を持ったらしい。本当は何時までそんな所でぼさっと突っ立っている、と怒鳴るつもりだったらしいが、あまりに真剣なので逆に興味が沸いたそうだ。


「え、あ、まぁ……昔囓った事があって。これさえなんとなかれば、ここから出られるのに、と」

「ははは……そうだなぁ……」


 カイトの言葉にドワーフの男性が僅かな申し訳無さを滲ませつつも笑って同意する。彼らの仕事は壊れた物を修理すること。それが満足に出来ず仲間が苦境に陥っているのだから、笑みの裏にある彼の心痛たるや察するにあまりある。そんな彼はカイトへと完全にすっぽりと失われた刻印の中でもまだ無事だった一部を指し示した。


「見てみろ。あの中心……大昔に魔王ユスティーナ様が考案されたブラックボックス部分だ。彼女の考案した部分。あれが一番重要な部分でな。あそこが無事だったのは幸いだってんだが……」


 そう言うとドワーフの男性は苦い顔でガシガシと頭を掻いた。大本が300年前のティナの術式だ。しかもここは皇国ではない。ブラックボックス化されていたとは言え、かなりの簡略化が見て取れた。故に今のティナが作る物よりも遥かに乱雑に近かった。


「あそこに、どうにかして刻印を繋げなけりゃなんねぇ。が、ここらは工廠の奴らがやる事でな……こんな道具も資料も無い所じゃあ、どだい無理って話だ。ちっ……この裏に爆弾仕掛けられなけりゃ、なんとかなったんだが……真裏に仕掛けられちまったからなぁ……見抜けなかった俺の不明だ。すまねぇな」

「ふむ……」


 ドワーフの男性に釣られて、カイトもまた魔術刻印をふと観察する。確かに、ここの部分は無事だった。元々ティナが設けていた保護回路が働いて、この部分は破壊活動に対して防御機能が働いたのだ。が、それでもここが重要とわかっていたが故に一番手酷くダメージを受けており、周辺の刻印は完全に消し飛ばされていた。

 そしてそこが、一番重要なのだ。ティナのブラックボックスと今の技術を繋げる架け橋。それが無いと飛翔機は動かない。が、それは200年もの年月を掛けて世界最高峰の技術者達が解析して、ようやく出来た事だ。一介の技術者でどうにかなるものではなかった。


「はぁ……どんな大天才かは知らねぇが、あまりに複雑過ぎる」

「……」


 ドワーフの男性の愚痴を聞きながら、カイトは己の持つ知識を総動員する。兎にも角にもこの飛空艇はカイトの目的から言っても非常に有用だ。飛び立てるようにはしておきたい。


(確か……ティナの解析によればあいつの手が加わっていない物は無駄が多いんだったか)


 思い出したのは、まだこちらに転移してすぐの頃の事だ。彼女はようやく実用化に漕ぎ着けていた飛空艇を見ながら、あまりの技術の拙さに呆れ果てていた。そして彼女自身、何度か今の飛空艇を解析している。それを、カイトも聞いた事があった。そこでの会話にヒントはあった。


「……ふむ」

「ん、どうした?」

「あの左上の回路。あそこが魔導炉とつながっている部分でしたよね?」

「ああ。そうだな」


 カイトの見立てをドワーフの男性も認める。カイトの事を技術者志望の兵士ではないか、と見ていたのだ。そしてカイトも囓った事がある、と明言していた。故にそれを理解しても不思議はないと思ったようだ。


「だったら……いっそ、直結出来るんじゃないですか?」

「どういうことだ?」


 カイトの提案にドワーフの男性が一気に真剣さを滲ませて問いかける。ここらは、技術屋だ。下手なことを抜かすと容赦しない、という感じがあったが、同時に理に適っていれば聞こうという感もあった。


「いえ……魔王ユスティーナの開発した部分が無事だった、ということはおそらくそこに何らかの保護回路が入っている、という事でしょう?」

「多分、そうだろうな。俺達にゃわからんが」

「ええ……なら、それにいっそセーフティを預ければ、後は流量の調節をなんとかすれば良いのではないですか?」

「あ……そうか、なるほど……わざわざ外にセーフティを設ける必要がなくなるのか」


 カイトの提案にドワーフの男性がただでさえ大きな目を更に大きく見開いた。が、即座に首を振った。


「ってことは……いや、ダメだ。その場合、どの程度が限界値かわからねぇ。戦闘に耐えられるとは限らねぇぞ」

「そこは……まぁ、諦めるしかないのでは? 仕掛けられた爆弾の破壊力から、大凡の防御能力は推測できますか?」

「……可能だ。爆発の規模や仕掛けられていた爆弾の系統はわかっている。そこから、推測は出来る」


 ドワーフの男性はカイトの問いかけに少しだけ考えて、はっきりと頷いた。爆弾の威力等を計算する為の計算式は軍の技術屋として、彼の頭の中に叩き込まれてある。であれば、記録してある爆弾の被害を見れば、大凡は推測出来る。そして同様にそこを応用していけば、大凡だがこの刻印にどの程度の過負荷が加わっていたのか、というのは概算値ではあるが計算可能だった。


「なら、魔導炉の出力の側で流入を調節。過負荷がかからないレベルで流せるはずです」

「……賭けだな。しかも徹夜になる。何日も、な」

「ええ、賭けです。そして徹夜ぐらいで済むのなら、安い」

「……」


 カイトの明言にドワーフの男性はかなり長い間黙考する。これは二人が言うように賭けだ。ティナのコア部のみで飛翔出来るかどうかは、彼女しかわからない。そうして、彼は目を開いて真剣な目でティナの遺したとされるブラックボックスを見上げた。


「飛べるかどうかは、あのコア部だけで魔力の放出が可能かどうか……しゃーね。探すっきゃねぇか」

「では?」

「小僧! お前も手を貸せ! おい、てめぇら全員聞きやがれ!」


 ドワーフの男性はカイトを強引に引き入れると、声を荒げて作業を行う機関士達を呼び寄せる。


「一個思いついた! とりあえず修繕は取りやめ! 全員で魔王様の刻印を調べる!」

「何調べるんっすか」

「放出だ。それに関する刻印が無いか、総出で探す」

「で、それを見付けてどうするんっすか?」

「最後の手段だ……魔導炉とブラックボックスを直結しちまう。このままうんうんと悩んだ所で無駄だ。もう決戦は近い。なんとか、飛ばせるようにしちまう」

「機関士長、何考えてるんっすか!?」

「それ、飛翔機ぶっ飛びますよ!」


 魔導炉と飛翔機の直結と聞いて、機関士達が一気にどよめきを生み出した。が、それにドワーフの男性が一喝した。


「うるせぇ! これ以外にねぇ! ぶっ飛ばねぇように手は考えてる! 魔導炉の調整やってる奴は俺と一緒に来い! 小僧! てめぇのアイデアだ! てめぇが刻印部分を探る奴らを指揮しろ! 明日一日寝ててもコルネリウス様にゃこっちから言っておいてやる!」

「はぁ!? オレが!?」

「うるせぇ、やれ!」


 カイトの抗議の声に対して、ドワーフの男性は有無を言わさず一喝する。これはカイトも想定していなかったが、仕方がない所はある。そして、昔取った杵柄だ。見て分かる事もあるだろう。


「あー……なんってか……ご愁傷様っす」

「いや、良いんだけどさ……はぁ……」


 カイトは申し訳なさそうというか哀れそうな機関士の慰めの言葉にため息を吐いた。そうして、仕方がないので正体がバレる前に終わらせる事にする。手は考えていた。ただ、自分がやる事になるとは思っていなかっただけだ。


「機関士長! ちょっと調べるのに無茶やりますよ!」

「おう、構わねぇ! それで調べられるんなら、存分にやっちまえ!」


 カイトの申し出にドワーフの男性は豪快に笑いながら許可を下ろす。こういう作業では彼はコルネリウスより偉いのだ。であれば、彼の許可が全てだった。


「良し……なら、手はあるさ」

「どうするんっすか?」

「8割の人員は、少し遠目からブラックボックスを確認してくれ! 後、数人はあの接続部の真横の所に回復薬を頼む! 残る二割は飛翔機の出力の調整を!」


 機関士の問いかけにカイトは預けられた全員に向けて指示を飛ばす。手が無いわけではない。コア部はまだ動くのだ。であれば、実際に動かして確認するだけだった。が、それが出来ないから苦労しているのだ。だから、彼の指示には全員が首を傾げた。


「は、はぁ……」

「何するんだ……?」


 とりあえずはカイトの指示だ。そしてそれに従うように、というのが機関士長の言葉でもある。であれば、機関士達はそれに従うだけだ。そうして、一通りの用意を整えさせたカイトは刻印の左上にある魔導炉との接続部に手を当てた。


「……良し。全員、オレが魔力を通す! そこから、どう動作しているか確認しろ!」

「あ……そういうことか……」

「そうか……自分自身を魔導炉に……」


 カイトが何をしようとしているのかを聞いて、機関士達が目を見開いた。今コアが動かないのは、魔力が流れていないからだ。そして何故流れないのかというと、刻印が魔導炉につながっていないからだ。

 であれば、カイト自身が魔導炉の代わりに魔力を流してやれば、原理的には動くはずだった。そして別に飛べる必要はない。確認すべきは飛翔機を動かせるか否か、というだけしかない。ブラックボックスの詳細はわからないでも、その機能が搭載されているか否かだけなら誰にだってわかる。


「良し……じゃあ、始めるぞ! 明かりを消してくれ!」

「「「おう!」」」


 どんな微細な動きも見逃さないように、機関士達は目を皿のようにしてティナの遺したブラックボックス部分に注視する。そうして、それを受けてカイトは目を閉じて己の魔力をブラックボックスへと通していく。


「流入確認……流入不安定……コア部、駆動確認……さすが天才ユスティーナか。が、流入が不安定だとリミッターが働いて動かないぞ」

「そこはこっちで手動でなんとかする。とりあえず出力0.1%を設定」

「了解。出力0.1%を設定。と言っても無いから手動だけどな……良し。出力設定! 動くぞ! 薄く、ならこれでも見えるはずだが……」


 飛翔機の出力等の調整を行う機関士達はカイトに影響が出ない程度で、それでも飛翔機の動きが目を凝らせば見える程に設定する。

 こちらもこちらで非常に大変な作業ではある。カイトの流入は当たり前だが人力だ。故に出力は安定していない。そこを逐一調整しながら、万が一が起きないようにしなければならないのだ。コンソールを叩く手はかなりせわしなかった。


「「「……」」」


 一方、目を皿のようにして飛翔機の動作を目視確認する機関士達もかなり難しい作業だ。カイト個人が流している魔力という事で、流れ込んでいる魔力はかなり低い。ブラックボックス部分がギリギリ動く程度だ。それだって普通の兵士からすれば1分が限界ギリギリで、精一杯の事だ。文句は言えない。

 おそらく出ていても何処か一部からほんの僅かという所で、機械としての確認は想定外の難しいレベルだ。そしてそれ故、もし出ていても真っ暗闇の中でようやく見付けられる程だろう。それを目視で見つけねばならなかった。そうして、10分程。何度かの休憩を挟んで諦めが蔓延し始めた所で機関士の一人が声を上げた。


「……あった……あったぞ!」

「どれだ!」

「右下! コアの一番近い部分! 数秒に一回だ! 僅かに火が溢れている!」

「……あった」

「あったぞ!」


 機関士達が歓喜の声を上げる。やはりというかなんというかティナは万が一に備えて、ブラックボックス部分にも飛翔可能なバックアップを設けていた。

 そこはカイトも聞いてはいなかったが、ティナとの長い付き合いだ。万が一に備えて大凡安全に着陸出来る程度の機能はコア部分に予備の回路を設けているだろうと考えていたのである。


「ふぅ……」


 歓喜の声を上げる機関士達を見ながら、カイトは尻もちを着いて冷や汗を拭う。賭けではあったが、これは今までの賭けの中で一番分の良い賭けだった。どちらかというと何時自分が潜り込んだ非正規の兵士とバレるかという方が冷や汗モノだった。


「後は任せるぞー……流石に疲れた。もうバレる前に帰る」

「おう! 後は任せろ!」

「おつかれー!」


 ドワーフの男性にバレるより前に帰ろうとしたカイトに対して、機関士達は快く送り出す。そもそもカイトはどう見ても技術屋ではない。そして反応やそれまでを少しでも見ていれば偶然話していて巻き込まれただけだとわかっている。であれば、これが普通だと思ったのだ。そうして、カイトは少し遅れてユリィとの合流ポイントへと向かう事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1207話『カイト・暗躍中』

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