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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第62章 南の国の陰謀編

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第1204話 密かに

 貴族達の前で己の知恵を披露する事により、彼らを見事に己の術中に陥れる事に成功したカイト。彼はその時はまだ、馬車の中だった。そしてそれ故、彼はどうやら村で母を救った事で己に懐いたらしい少年――カイトにタックルした少年――を抱きかかえながら、密かにほくそ笑んだ。


「ふぅ……」

「成功?」

「ああ……敵が賢くて助かった」


 長時間の移動で疲れたらしい少年が寝ていた為、小声でのユリィの問いかけにカイトは頷いた。ここでの賭けは敵が賢いか否かだった。もし誰もがバカでこちらの献策を受け入れない様子であれば、それが一番困った。他の村をこちらに纏める手段が無くなる。

 とは言え、それについてはシャルマンがこちらの思惑通りに動いてくれた為、他の貴族達もカイトが述べた作戦を取る事で了承してくれた。これで、数日後にはここと同じく食料を手土産に村の人達がこちらに来るだろう。

 それでも自分の意思で残ると言う場合は、もうカイトでも手に負えない。諦めるしかない。確実に死ぬと明言しておいて自分の意思で死ぬという者を救える程、カイトは凄い人物ではない。


「これで、更に数日は時間が稼げるか……」


 カイトは安堵の吐息を漏らした。おそらく、明日あたりにでもシャルマンか誰かが唐突に体調を崩した事になるだろう。軍を率いる貴族の一人が体調を崩したという理由は、エネフィアではまだ十分に不戦の理由になりえる。そうして村人達をエルリック一派の所に向かわせるつもりなのだ。


「後はどれだけ手早く証拠を手に入れられるか、だね」

「そうだな」


 ユリィの言葉にカイトも気を引き締める。これで、時間は稼げた。後はどれだけ手早く次の行動に入れるか、だ。それはカイト達の腕に掛かっている。


「ん……んん……」

「っと……」

「兄ちゃん……?」

「ああ、大丈夫だ。ここに居る。母ちゃんも寝てる。お前も寝とけ」

「うん……」


 寝ぼけ眼でカイトの言葉を聞いた少年がカイトの言葉で再び眠りに落ちる。と、そんな様子を見て、横の老婦が僅かに笑みを零した。


「お兄ちゃん、随分となつかれるのねぇ。あんな危ない仕事はやめて、皆で暮せば良いのに」

「あはは……危ない事は危ないですが……オレ、冒険が好きなんです。こいつと一緒に色々な所を見て回りたい。昔からの夢なんですよ。なのに今回みたいに色々と持ち込まれて、と。ついこの間もあれだ」

「そう……残念ねぇ」


 老婦はカイトの言葉に少し楽しげながらも本当に残念そうにため息を吐いた。そうして、彼女は僅かな不安を覗かせて問いかける。


「でも、本当に良かったの?」

「ええ……死なないで良いのなら、誰も死なない方が良い。冒険者をやっていますが、本当なら、殺したくはない。ただ、守る為に殺すだけです。話し合いで通じるだけが、世の中ではないですから。何時の世も、綺麗事では終わらない」

「そう……あまり怖い感じのしない方で良かったわ」


 老婦はユリィと肩を寄せ合うカイトを見て、彼は粗野な者の多い冒険者の中でも安全な人種なのだろう、と思ってくれたようだ。そうして、そんな会話をしていたからだろう。自然とカイトは輪の中に溶け込んでいた。


「うーわっ……人誑し……」


 そんなカイトを見て翔が頬を引きつらせる。確かに彼も人見知りではないが、それでもカイトのように即座に、かつ自然に溶け込めるかというと無理だ。まさに、勇者の一面と言って良い様にはただただ呆れるばかりだ。と、そんな会話をしていると馬車がエルリック一派の野営地へと近づいた。


「中は?」

「けが人です。なるべく、小声で」

「わかった……ん?」


 避難民達を受け入れていた兵士の一人が、馬車の中には明らかに不相応なカイトを見付けて首を傾げれる。基本的に無事な者達は外で歩いていた。カイトは一件無事――翔はバレないように馬車の下に潜り込んでいる――なのに、馬車の中に居たのだ。故に兵士は訝しみながらカイトへと問いかけた。


「君は……どこか怪我をしているようには見えないが……」

「ああ、すいません……オレは無事なんですが……こいつがその……」


 兵士の問いかけにカイトは自分にしがみついて僅かに眠りから覚めつつあって顔を顰めていた少年を指差した。それに、兵士も少年がしがみついて眠っている事に気付いた。そうして、事情を納得した兵士は僅かに声のボリュームを落として問いかけた。


「ああ、なるほど……その子に怪我は?」

「無いはずですが……歩き疲れた様子で。ぐずったので母親の側で、と」

「そうか……っと。ご婦人は大丈夫か?」

「んぅ……あれ……?」


 兵士が母親とはまた別のけが人を気遣って僅かに場所をずらしたのをきっかけとして、僅かに姿勢を崩したカイトに釣られて少年が目を覚ます。そうして寝ぼけ眼で周囲を見回して、偶然にも近くの兵士を見付けてしまう。


「ひっ! びぇえええええん!」


 やはり寝起きに自分の母親を襲ったのを同じ装備の兵士を見てしまったからだろう。正常な判断が出来ず、思わず少年が泣き出してしまう。これには流石にカイトも大慌てで、少年を抱き寄せた。


「ああ、大丈夫だから! な!? このおっちゃん達は大丈夫! それに兄ちゃん強いから! な!?」

「ひっぐ……」

「わ、悪かった……」


 兵士も少年が泣き出した理由は自分である事はわかったようだ。そして横の怪我をする女性が頑張って手を伸ばして頭を撫ぜていたのを見て、彼女が母親である事もきちんと理解した。

 故に彼は後ろの女性兵士にかなり慌て気味に合図を送って、カイトを外に出すように指示を送る。それに促されてカイトはけが人達の怪我に触らないように少年を抱っこして、その場を急ぎ足に離脱する。


「あー、よしよし」

「やっぱりお兄ちゃんと一緒だと安心するんですね」

「あはは……すいません、こんな時に……」

「いえ、幼児退行をしているのでしょう。お母様は医務室にすぐにお送りしますので……」

「お願いします。落ち着いたら、こいつと一緒にそちらに顔を出しますから……」


 どうやら、女性兵士はカイトがこの少年の兄だと思っているらしい。実際には顔を見ればすぐに違うとわかるはずなのだが、少年が泣き顔だった事とカイトが抱きかかえていた所為でわからなかったようだ。それにわかった所でこの状況だ。血の繋がりがなかろうと疑問には思わなかっただろう。笑顔でカイトを通してくれた。


「それが良いでしょう……二人をこのままどこか眠れる部屋へ」

「はっ……こっちへ」


 女性兵士の言葉にまた別の兵士が僅かに笑いながらカイトの案内を開始する。そうして、カイトは一先ず案内された場所へと移動する事にする。


「こちらをお使いください」

「良いのですか?」

「ええ……お母上の怪我がありますから、こちらを……それに急な事でしたから、その子の寝る為のスペースも無いので……」

「……ありがとうございます」


 カイト達が通されたのは、飛空艇の内部にある一つの個室だった。けが人は本来病室に入れておきたい所だが、そちらには兵士のけが人や今後も来るだろうけが人が予想される。後に聞いた所では、とりあえず出来る治療が終わった患者は個室に移すことにしているとのことだった。

 と言っても確かに個室ではあるが、それは一人向けの個室だ。そこに家族単位で入るわけだ。なのでかなり狭いが、そこは我慢してくれ、というわけなのだろう。


「ほら、とりあえずここに座れ。ユリィ、人形劇とか出来るか? オレ、最近のはまだ網羅してなくてさ」

「あ、ちょっと待って。準備してみる」

「うん……」

「あっと……すいません、ありがとうございました」

「いえ、では」


 泣きじゃくっていた少年をカイトは椅子に座らせる。そうして兵士にカイトは一礼してユリィと共に少年をあやすのに戻り、それを見届けて兵士は何とも言えない苦々しい顔でその場を後にするのだった。




 それから、数時間。不安から自身から離れようとしない少年の手を握りながらも動けるようになる時間まで暇を潰しつつ、カイトは翔と合流していた。


「なるほど……それで、そんな感じか」

「流石に放置は出来まいよ。夜には、母親もこちらに移されるらしいが……」


 とりあえずの状況を翔へと話しながら、カイトは自分の横でご飯を食べる少年の頭を撫ぜる。あの後医務室に通された母親であるが、軍医いわくカイト達の処置が早く一命は取り留められたらしい。既に峠は越えていたそうだ。

 とは言え、やはり完治には時間が掛かるようだ。出来ればどこかの大病院に移した方が良い、との話だった。勿論、そう言う軍医の顔は苦く、それが難しい事を如実に示していた。


「ん……」

「はぁ……まーた面倒事を抱えちまった……」

「あははは。お前らしいな」


 頭をなぜられても元気なさげな少年を見て吐いたカイトのため息に、翔が笑う。とは言え、とりあえずこれでけが人達は安心は安心だ。そこは安堵出来る。この子の母親も助かるだろう。なので少し元気にはなっていた。


「翔。お前はわかってんな?」

「ああ」


 カイトの言葉に翔は頷いた。村人達はひとまずここで安心出来たが、ここからが本番だ。ここからなんとかしないと、彼らを救えない。今はまだ守っているだけ。救うのはここから先だ。と言っても、それはすぐにではない。


「ま、とりあえず……今はゆっくりするか」


 カイトは翔との相談を終えると、のんびりする事にする。その間、流石にカイトの部屋に誰かが来る事はなかった。そもそもここに居るのは兄弟と思われている若者と少年、そして若者と一緒に居た妖精だけのはずだ。下手に兵士が顔を覗かせて子供を怯えさせるわけにはいかない、とカイト達の状態を見に来た軍医や先の女性兵士達が時折様子を伺いに来るぐらいだった。

 そうして、更にしばらく。再び軍医がやって来て、ひとまずの処置を終えた少年の母親をこちらに搬送してきた。そんな彼女は息子を抱き寄せながら、か細い声ではあったがカイトへと礼を告げる。


「ありがとう……ございました。息子から伺いました……」

「いえ……こちらこそこの程度しか出来ずに申し訳ありません」

「いえ……それでも、この子を一人にしなくて良かった……それに、貴方のおかげでこの子も安心出来ていた様子ですから……」


 母親の横に来れたからだろう。落ち着いた様子で寝息を立てる少年の頬を母親が安堵の様子で撫ぜる。軍の兵士があの後一度だけやって来て、少年の為に廃材で作ったという小さめのベッドを渡してくれたのであった。これなら横で一緒に寝れるだろう、という事だ。

 その彼だがカイトには何もしてやれなくて申し訳ない、とだけ言うと、幾つかの激励を送ってすぐに去っていった。と、それはさておき。母親がカイトへと問いかけた。


「行く……のですか?」

「ええ……これ以上、無駄な血を流させない為に。戦うだけが、戦い方ではないのです」

「……がんばってください。随分、この子が懐いていましたから……貴方まで死ぬと、この子が悲しみます……」

「大丈夫ですよ。これでも、高位の冒険者なので。実は、コルネリウスとも互角に戦った程なんですよ」


 カイトは女性の激励に微笑みと共にそう告げて、立ち上がる。これからは、彼女らを死なせない為の行動だ。一切の油断は出来ない。


「ユリィ、行くぞ」

「うん」


 カイトの言葉にユリィが彼の肩に座る。ここからは、バレてはいけない戦いだ。とは言え、その為にも策は打っている。


「翔。そっちは?」

『こっちは着替えた。お前の着替え、置いておいたぞ』

「ああ」


 黒衣に着替えた翔の返答にカイトは自分も部屋に用意された更衣室の中へと入る事にする。そこには、ティナが密かに奪取したマリーシア王国軍の装備が入っていた。サイズも勿論、カイトにピッタリだ。


「良し……後は」


 カイトはマリーシア王国軍の正式装備を身に纏うと、その上で少しだけ過去の己の力を顕現させある程度まで髪を長くする。そんな彼の後ろに、ユリィが浮かんだ。


「カイト」

「おう、任せた」

「……どんなもんでしょ」

「良し、こんなもんだろ」


 カイトはユリィの言葉に頷いた。彼女が何をしたかというと、カイトの髪を梳かしてポニーテールに結ったのである。逆のような気はしないではないが、気にしない。そうして変装を終えると、カイトは更衣室を後にする。


『うっわ……マジで髪型一つでガラリと変わるな』

「髪型とかは変装の基本だぜ? さて……行くか」

『おう……じゃあ、そっちも気を付けてな』

「ああ……ユリィ」

「うん」


 カイトの求めを受けて、薄く隠形を施したユリィが扉を開けて外の様子を観察する。そうして、通路に誰も居ない事を確認すると、カイト達に合図を送った。


「行くぞ」

「おっけー」

『ああ』


 カイトの号令に三人が一斉に行動を開始する。ここからは、カイトとユリィは一緒で、翔は一人で単独行動だ。そうして三人は村人達を救うため、そして当初の目的であるタバコ密造を更に越えて大麻密造の証拠を掴むべく動き始めるのだった。

 お読み頂き有難うございました。

 次回予告:第1205話『若き英雄の苦悩』

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