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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第62章 南の国の陰謀編

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第1196話 危急存亡

 大賢者リルとの出会いから、翌日。カイト達は再び巡回に出ていたわけであるが、この日向かう先はロザミアの故郷だった。そこは幸いロザミアが帰ってきた事に驚くも、気の良い村長や村民達に迎え入れられ、物見櫓は既にあるという事でカイト達の申し出は必要がないという事で辞退という事になった。どうやらここの出身の兵士がやってきた際にその隊長の好意で修理してくれていたらしい。


「ふむ……これなら大丈夫だな」


 物見櫓は既にあったが、万が一に備えてカイトはルミオ達の故郷と同じ様に糸電話を設置していた。これについては村からも非常にありがたがられ、カイト達はしばしそこに滞在する事になっていた。

 というわけで、カイトはその糸電話の設置作業を行いながら、ユリィの帰還を待っていた。理由は勿論、タバコの汚染がどの程度進んでいたか調べる為だ。やはり妖精は純真無垢の存在と思われている。なので勝手気ままに飛んでいても不思議には思われない。警戒されにくいのだ。その特徴を存分に発揮してもらっていた。


「ただいまー」

「おう、おかえり~。どうだった?」

「……だーめ。ここもアウト」


 カイトの問いかけにユリィがため息を吐いた。どうやら、ここにまでタバコ屑が出回っていたらしい。おそらくかつて鉱山に食料を提供していた村全てを動員していたのだろう。タバコの畑と村の人口規模等から考えれば、それが妥当だと思われた。


「……厄介だな……」


 時間はおそらく、もう無いだろう。カイト達がガラハドに聞いた所によると、週末に貴族達が兵を率いてやってくるという。であれば、その頃かそれよりも前には村を襲う手はずを整えているはずだ。

 表向きは貴族達が来るので野営地の警備を厳重にする為に巡回の冒険者達を戻して、その穴を突かれたとでも言えば筋は通る。多少無理でもそこは貴族。統治者だ。嘘も賄賂もまかり通る。


「どうする?」

「……わからん。時間が足りなすぎる。王国側がどこまでこの案件を把握しているのか等色々と不明な点が多すぎる。最悪は中央の大物が関わっている可能性もあるしな……」


 ユリィの問いかけにカイトは首を振るしかなかった。救えるのなら救うが、その救うための筋道は立てられていない。今回はそもそも密偵が任務だ。村人を救う為の手立てなぞ用意してきていないのだ。

 それに本来なら、今のカイト達の立場なら見捨てるべきだ。それを見過ごせない、というだけでやろうとしている彼らがバカなだけである。


「やれる限りはやってみるが……」


 おそらく、犠牲は避けられないだろうな。カイトはウィルやティナに鍛えられた戦略家としての心の一部で、そう諦観を滲ませる。彼は神ではない。しかもここは他国だ。エンテシア皇国に属する者が大々的に動けば、それこそもっと悲惨な事にもなりかねない。出来る事は限りがある。それを、彼も理解していた。


「……まぁ、それでも。救える分は、確実に救ってみせるさ」

「だね」


 カイトの言葉に肩に腰掛けるユリィが同意する。そうしてカイト達は作業を終えて、ロザミアの村で少しの歓待を受けて野営地へと戻る事になるのだった。




 その日の夜。カイト達も寝静まった頃だ。彼らの危惧した通り、事態は一気に悪化の一途を辿る事になっていた。


「おぉ、閣下。お久しぶりでございます」


 ライアードはモニターの先に映る30代後半の男に対して深々と頭を下げる。男より年上にも関わらずライアードが謙るということは男がよほどの傑物か、地位が上の場合だけだろう。そしてこの場合は、後者だった。


『うむ。久しいな、ミリックス伯』

「ええ……それで、どうでしょうか」

『ああ。なんとか、賄賂を握らせる事に成功した。これで動いて大丈夫だろう』

「そうですか。それは良かった。いや、かたじけのうございます」

『ははは。いや、何。この案件は我がラフネック家が持ちかけた事だ。この程度の骨を折る事は苦にもならんよ。それに、この案件はどちらのミスとも言い難い。誤って将軍に手紙が届けられてしまったのは、配達人のミスだ。うっかり開けてしまった彼のミスもあるがね』


 ラフネック侯がライアードの言葉に笑って首を振る。カイト達が見通していた通り、ラフネック家とミリックス家はグルだった。ミリックス家が土地を提供し、ラフネック家が技術と機材、販売等を取り仕切っていたのだ。今回の討伐軍に参加している貴族は全てがその流通に関わっている者達だった。

 そしてそれは実のところ、周辺の大半の貴族と断じて良かった。全てが出来レース。エルリック一派を貶める事になったのも、全員承知の上での事だった。なので説得もそもそもするつもりは皆無だった。


『それで……例の手紙についてはどうなっている?』

「それが……まだ、奴らの手の中に……」


 ラフネック侯の言葉にライアードは申し訳なさそうに謝罪する。とは言え、彼は慌てて補足説明を入れた。


「と、とはいえ。偶然にも有力な冒険者が来ましたので……討伐についてもさほど時間はかからない事でしょう。彼奴らが戦っている間に、密偵を後ろから入れる手はずになっております」

『ほう……有力な、かね』

「はい……エンテシア皇国より討伐軍の依頼を見た冒険者と」

『ふむ? わざわざエンテシア皇国から?』


 ラフネック侯はライアードの言葉に首を傾げる。まぁ、たしかに可怪しいといえば可怪しい。が、ここらはカイト達の腕の見せ所で、公爵と伯爵、大国の格の違いを見せつけていた所だった。


「はい。どうやらハイゼンベルグ領のユニオンに伝手があるらしく……情報屋より裏もきちんと確認しております」

『なるほど……エンテシア皇国随一の国際都市であれば、不思議もないか』


 ラフネック侯はライアードの報告に深く頷いた。カイト達とて怪しまれる事はわかっている。が、流石にそこまで大御所が絡んでいるとは思いもしないだろう。本来、そこまで大事にはならないはずだからだ。偶然にもカイトが気付いて、彼がクズハの為と動いたのが全ての原因だ。読めなくて当然である。

 流石にこの時点では彼らも皇国が誇る5公爵が動いている事は読めなかった。おまけに今回は情報屋ギルドも巻き込んでいる。故にそこには一切の穴が無く、彼ら程度に露呈するはずがなかった。


『ふむ……腕は確かなのだな?』

「はい……ギルドマスターの弟子がコルネリウスと打ち合い、互角の勝負をしたのだと現地の指揮官より聞いております。その師も一緒。であれば、問題はありますまい」

『そうか。であれば、討伐には問題も無いか。だがくれぐれも、悟られるなよ』

「心得ております」

『うむ。では、そろそろこちらも行動に移る事にしよう』

「はい。こちらの用意は大方出来ております」


 ラフネック侯の言葉にライアードは準備の完了を改めて明言する。当たり前だが、どこの貴族だって秘密の特殊部隊の一つや二つ抱えている。伯爵ともなれば、幾つも抱えていた。その特殊部隊を動かす予定だった。そして勿論、ラフネック家も動かすつもりだ。


『よろしく頼んだ……我々も明後日には出発し、夕刻には到着しよう』

「お待ちしております」


 ラフネック侯の予定を聞いて、ライアードが深々と頭を下げる。それを受けてモニターの映像が切れて画面がブラックアウトして、密かに伯爵達が動き始めるのだった。




 さて、夜が明けて翌朝。カイト達は巡回任務に赴くよりも前に、討伐軍総司令のガラハドから呼び出しを受けていた。


「ギルド<<女狼の牙(ウルフズ・ファング)>>ギルドマスター・オルガマリー様、サブマスター・カイト様。お越しになられました」

「入って貰ってくれ」

「はっ」


 ガラハドの許可を受けて、カイトとオルガマリーの二人が指揮所のテントの中へと通される。そうして、オルガマリーが口を開いた。


「ギルド<<女狼の牙(ウルフズ・ファング)>>。参りました」

「ああ、来てくれたな……今日呼んだのは他でもない。本格的な行動開始の予定が定まったので、君たちに報せておこうと思ったのだ」

「そうでしたか……ここ数日、見回りばかりでして……腕が鈍ってしまうのではないか、と危惧していた所ですわ」

「ははは。それは失礼をした」


 オルガマリーの冗談にガラハドが笑う。そうして一通りの挨拶を終わらせると、ガラハドが一転真剣な顔で本題に入った。


「さて……それで今朝の事であるが、ミリックス伯より連絡があった。どうやら各地の領主達も兵を整え、準備が出来たそうだ。明日の朝に出発し、夕刻頃には到着されるということだ。なので明日は朝一番よりこちらに待機。できれば、領主達が来られた段階でこちらに来てもらえると助かる」

「わかりました」


 オルガマリーの言葉を聞きながら、カイトはかなり事は急を要すると理解して、内心で苦渋が滲む。貴族達が来るということは、遠からず村へ襲撃を開始するという所だ。もう幾許の猶予も残されていないだろう。


「それで……私達はどうすれば良いでしょうか」

「ふむ。それまではこれまでと同じ様に自由で構わん。が、そろそろ敵もかなり焦れているはずだ。各個撃破されぬ様、あまり遠出はしないように頼む」

「かしこまりました」


 ガラハドの指示にオルガマリーが頭を下げる。そうして、二人はその場を後にして、己の野営地へと戻る事にするのだった。




 ということで戻ると同時に、カイトはしかめっ面を隠さなかった。その顔に、オルガマリーは青いと思うだけだ。


「……」

「……どうするつもり?」


 オルガマリーがカイトへと問いかける。別に見ず知らずの村人が死のうと、オルガマリーに感傷はない。そこらは彼女は意外とドライだ。いや、冒険者としてはそれが普通だ。せいぜい少し顔を顰める程度だろう。故に、言外に手を貸すつもりはない、と言っていた。

 そして更に、あまり迂闊な事をするなよ、という掣肘の意思も含まれていた。これはカイト単独で受けている依頼ではない。リデル家も動いている。彼女の都合もある。勝手は、許されない。


「やれる事はやるさ」

「バレる事は駄目よ」

「わかっている……ちょいとやり方は考えている。仕事も忘れていないさ」


 オルガマリーはそう言ったカイトの目がかなり冷たいのを、見て取った。何かを切り捨てる覚悟をした者の目だった。

 そもそも、彼はマクダウェル公カイトなのだ。守るべきはここの民ではなく、マクダウェル領の領民達だ。ただこれは彼が嫌というだけでやっている事だ。出来る出来ないではなく、やってはいけないというどうしようもない領分がある。故に全てを救おうというのは、やってはいけない類の話だ。


「全部は、救えないのね」

「もう無理だろう。今から用意して、とやっていた所で確実に間に合わない。出発時刻、到着時刻。そういったものを複合的に考えれば……どう考えてもオレ達がたどり着けるのは襲撃の一発目の最中か二発目だ」


 オルガマリーの明言にカイトもまた、明言する。これは確定だ。もし村人達を全部救いたいのならアル達を介入させる事だが、そんな事は流石にして良い事ではない。より多くの血が流される可能性がある。外交問題にも発展するだろう。


「……とは言え、救える分は全て救うさ」

「それは、好きになさい。私はまた調査に出かけるわ。ラフネック領に少し気になる情報があるの。もしかしたら、そちらの手助けにもなるかもしれないわ」

「そちらは任せる。どうにせよ、こちらはそっちが動いた時は囮として有効に動けるからな。それに上手く動ければ、エルリック一派と接触を取れる可能性もある」

「なら、そちらは任せるわ。エルリック一派に接触出来そうなら、ティナちゃんを介して連絡を頂戴。私も戻るわ。色々と必要になる事もあるでしょう」


 オルガマリーはそう言うと、指笛を鳴らして相棒の巨狼を呼び寄せる。今日も今日とて彼女は調査だ。勿論、翔もそうである。そしてカイトもまた、ここまでと同じく動くつもりだ。


「……明日か、明後日か……はたまた、もう手遅れか……」


 ミリックス家とラフネック家のやり取りを知らないカイトはここからは賭けだな、と内心で呟いた。


「全員、出るぞ。今日は一番最果ての村に行くぞ」

「「「おーう」」」


 内心で忸怩たる思いを抱えるカイトに対して、それをつゆ知らずのソラ達は相変わらずルミオ達と楽しげに話し合っていた。そうして、カイトは内心でこれから起こるだろう悲劇に思い馳せながら、移動を開始するのだった。




 それから、数時間。ルミオ達の村の少し北、村が随分と近づいてきた頃だ。カイトは敵が予想より少し早かったのだな、と知る事になる。それに一番始めに気付いたのは、伊勢だった。


『……ごしゅじんさま!』

「ん?」

『火の匂いです!』

「……そうか」


 カイトはもう動いていたのか、とさほど驚く事はなかった。想定されていた事だ。とは言え、であればこそ、迷いは一切無かった。


「全員、急げ! 火事だ!」

「「「え?」」」

「カナン! どっちかわかるか!」

「あ、はい!……あっちです!」


 カイトの指示に若干血を覚醒させた鼻を鳴らしてカナンが指差したのは、カイト達の進路方向だった。やはり敵が動いていたということで間違いないだろう。そして指さされた方角に見えた黒煙に、ルミオ達が気付いた。


「あっちは……村の方だ! あの規模……ただ事じゃないぞ!」

「っ! 急ぐぞ!」


 ルミオの言葉にカイトは一同を急かす。もう結末もわかっているが、この様子ならまだ、天運は彼を見放していない様子だった。であれば、迷いは無い。


「日向! 上空から方角を!」

『ん』

「全員、日向に続いて移動だ! 遅れるなよ!」


 カイトが号令を下す。そうして、カイトはおそらく襲われているのだろう村へ向けて、駆け足で移動する事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1197話『わかっていた悲劇』

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