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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第62章 南の国の陰謀編

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第1194話 森の魔女

 タバコの密造者の尻尾を掴むべく行動を行っていたカイト達は、密造者達の尻尾を掴むべく密かに動くオルガマリーと翔の囮となるべく巡回任務に出ていた。

 そんな中、付近が故郷であるというルミオ達の村へと警戒を促そうという事になり次はメイとラムの村、となったわけであるが、そこを追い出された彼らは近くの森の奥深くにあるという彼女らの育ての親の邸宅を訪れていた。

 が、その育ての親というのがどうやらこのエネフィアでは最古に近い魔女だったらしく、偶然の出会いによりカイトはその偽装を見破られる事になってしまう。そうして、しばらくの間、彼はいくつかの嘘で覆い隠しつつ、今回の依頼の本当の目的をルミオ達に語り聞かせる事になっていた。


「じゃあ……マクダウェル家からの依頼って事なのか?」

「ああ。やはりハイ・エルフということで領内にタバコが入り込んでいた事にクズハ様が大層気を揉んでいらっしゃってな」

「日本人、ねぇ……マジで居たんだ……」


 ルミオの言葉に頷いたカイトに対して、ミドが大いに目を見開いて驚きを露わにしていた。天桜学園の事もこの間の大陸間会議の事も、彼ら末端からしてみれば殆ど雲の上の出来事だ。故にまさかこんな所で出会う事になるとは、と大いに驚いている様子だった。


「はー……それで、むちゃくちゃ強かったわけか……納得」

「頼むから、言わないでくれよ。バレたら確実に大立ち回りで外交問題、おまけにお前らも確実にスパイ容疑で御用だぞ」

「「え゛」」


 ルミオとミドが揃って目を瞬かせる。どうやら、ここまでは考えが至っていなかったらしい。それに、ラムがため息を吐いた。


「当たり前でしょ……そもそもこんな話聞いてどうするのよ。チクったらマクダウェル家から暗殺者。暗殺者が来なくてもミリックス伯から確実に監視されるわね」

「その代わり、守っては?」

「クズハ様には言ってみる。流石にこれはオレ達も不慮の事故だからなぁ……」


 ラムに続けて、メイがカイトへと問いかける。どうやら、このギルドではルミオが方針を決める事は決めるらしいが、知恵を出すのはこの二人の見習い魔女達の様子だった。

 なお、ここで魔女に出会う事だけは、流石にカイト達も想定していなかった。カイトから報告を受けたティナもユスティエル以上の古株と聞いて大いに驚いていたぐらいなのだ。こんな所に隠れ潜んでいる事を想定しろ、という方が無理な話なのである。そんなカイト達を見ながら、森の魔女は妖艶に笑っていた。


「あらあら……相変わらず世の中楽しい事だらけね」

「貴方も、厳に口止めを頼む」

「良いわ。ユスティエルの弟子に免じて、口止めに応じましょう」

「なっ……」

「あわわわわ! カイト、気をつけなよ!」

『おっとと』


 森の魔女の言葉にカイトは思わずティーカップを取り落とす程に驚きを――ユリィと日向が慌てて取ったので問題はない――浮かべる。ユスティエルの弟子。それは言うまでもなく、ティナである。

 彼女はどうやらカイトの付近に滞空させている魔道具に気付いたのだろう。そしてその上で、その設計思想とその源流を読み取ったのだ。少なくとも、無為に長く生きている様子ではなさそうだった。


「ユスティエルって……お祖母様が昔言っていた魔女ユスティエルですか?」

「そうね……懐かしい術式だわ」


 森の魔女はラムの問いかけに懐かしげに頷いた。どうやら、彼女はユスティエルと知り合いらしい。それに、気を取り直したカイトが名を問いかけた。


「っと……そう言えば失礼した。私はカイト・天音。出来れば貴女の名を聞かせて頂きたい」

「あら……そう言えばそうね。私はリル。もっと長いのだけど……それ以外は名乗らないわ」

「リル……?……まさかあのリルか!?」

「赤みがかった黒い長い髪……えぇえええええ!? 本物!?」

『なんじゃとぉ!?』


 名前を聞いたと同時に、カイトとユリィ、更に魔道具のカメラ越しのティナが大いに驚きを浮かべる。その名を、三人は知っていた。一度は彼らが探したことのある人物だったからだ。その一方、わかったのはこの三人だけだ。ルミオ達や弟子のメイ、ラムの二人は勿論、ソラ達も全員首を傾げていた。


「「「?」」」

「あら……どのリルなのかしら」


 その一方で、おそらくわかっているのだろうリルは妖艶に笑いながらカイトへと問いかける。それに、カイトは慌てて椅子から降りて跪いた。肩の上のユリィも降りて跪く。この相手には、その価値があった。


「失礼致しました。まさかその慧知、深い海が如くとまで言われる賢者リル殿とはつゆ知らず……名を問いかけたご無礼をお許し下さい」

「賢者だなんて……そんな大それた者ではないわ。ただ、弟子達が持て囃すから困るのよね」


 カイトの恭しい態度に、リルがただ笑う。実のところ、リルの本当の名は誰もしらない。弟子その人が知らないと明言していた。リルが愛称なのかそれとも偽名なのかも、だ。知られている――それでもごく一部だが――のはただリルと名乗っている赤みが入った黒い長髪の魔女が居る、というだけだ。

 リーシャも知らないし、ユスティーツィアとユスティエルの姉妹も知らない。神様達だって知らないだろう。マルス帝国の歴代の皇帝が何とかして召し抱えようとした――勿論、出来ていない――程の大賢者だった。


「いえ……伝え聞く限り、そして考え得る限り、貴女の手腕は間違いなく賢者。敬うに値する女性です。間違いなく、私は貴方が居なければ生きていなかった……まさかこの様な所に隠れ住んでいらっしゃったとは……」

「「「???」」」


 名前を聞くなり唐突に跪いたカイトに、全員が揃って首を傾げる。一体なぜそんなに慌てるような事があったのか、とわからないらしい。

 とは言え、それはそうだろう。それを知るのはユスティエルと繋がるカイトとティナぐらいなものだ。というわけで、カイトは少しだけ彼女の事を教える事にする。


「彼女こそユスティーツィア様と魔女族族長ユスティエルさんの師匠だよ。そしてさらに言えば、リーシャのお師匠様でもある。オレがリーシャに出会ったのはユスティエルさんの紹介なんだよ」

「「「えぇええええ!?」」」


 カイトの説明で理解出来たソラ達の絶叫が狭い邸宅内に響き渡る。ユスティエルにリーシャの腕前は当然、冒険部に所属していれば誰もが知っている。後者は誰もがお世話になっているし、前者はティナを見ればその力量もわかろうものだ。

 なお、カイトはリーシャと出会ったのがユスティエルの紹介と言ったが、実際には更にそこにイクスフォスを介したサフィールの紹介も入っている。と、それはさておき。そんな暴露にソラが大いに声を荒げながら問いかけた。


「え、えぇ!? なんでそんな人がこんな所に!?」

「だから、オレも慌てたんだろ。まさかこんな僻地に……いや、失礼。こんな人知れない所に居るとは……」

「ふふふ。あまり表に出ても良い事もないものね。300年前には弟子も巣立ったし……少しのんびりしていたのだけど丁度300年前を思い出して、この子達を久しぶりに育てた程度よ」


 カイトの驚きの滲んだ言葉にリルは妖艶に笑いながら、イマイチ何が何だかわかっていないメイとラムを見る。どうやら、二人もリルの事はよく知らないのだろう。と、そんな彼女に、カイトはどう対処すべきか少しだけ頭を悩ませる事になる。


「どうするかなー……」


 考えるのは、今ここで起きている事だ。もし彼女が巻き込まれて万が一があれば、それは流石にカイトは己が知る三人の魔女達に申し訳が立たない。が、一方今は大事を抱える身だ。

 そして更に言うと申し訳立たない云々以上に、彼女の知識と技術が失われるのはエネフィアにとっての損失だ。見過ごせる事ではない。と、そんな苦悩を見せるカイトへと、リルが妖艶に笑った。


「あら……貴方が何を危惧しているかは知らないけれど、問題にはならないわ」

「……失礼しました。慧眼、恐れ入ります」

「ふふ……とは言え、そうねぇ……知られてしまった以上、もうここには居ない方が良いのだけど……貴方、確かユスティエルと知り合いね?」


 リルが妖艶にカイトへと問いかける。彼女がカイト達にも見つからなかったのは、これだ。自分の正体を知る者が出ると、どこかへ遁走してしまうのである。故に今の今までリーシャもユスティエルもどこに居るかわからなかったのである。


「はい……私としては出来れば、そちらにお移り頂ければ。ユスティエルさんもお喜びになると思います」

「それも、良いわねぇ」

「え……お祖母様、行っちゃうんですか?」


 カイトの申し出に妖艶に、そして意味深に笑うリルに対して、メイが寂しそうに問いかける。カイト達がマクダウェル家から派遣されていることはわかっている。であればつまり、これはマクダウェル領での話だと理解していたのだ。が、これにリルは笑みを深めた。


「そうね……そうしたくはないのだけど……いえ、それより」


 リルはどうするかを考える傍ら、カイトを見た。


「この子達の保護を確約して頂戴な。この子達は私の家族も同然。そのお友達なら、私にとっても家族同然よ。その代わりとして、貴方の望みを聞いて上げても良いわ」

「勿論、明言させて頂きます」


 リルの申し出にカイトは即断する。なんだったら公爵家で動いても良いぐらいだ。彼女を迎え入れられるのであれば、外交問題だろうとお釣りが来る。なにせ実績は既に歴史に記されている。迷う必要なぞどこにもない。が、このカイトの申し出に、リルが首を振った。


「ああ、そうじゃないの……こう言えば、わかるかしら」

「……」


 カイトは思わず、リルの言葉にゾッとする。おそらく、わかったのはカイトとユリィ、そして遠隔地でこの会話を聞いているティナだけだ。彼女はこの後の展開やそこに繋がる全てを、この場に潜みながら見通していた。その上での申し出だとすれば、一つの想像が出来た。


「まさか……全てを理解しておいでなのですか?」

「あら……何も言ってないわ」

「……」


 どこまで見通しているのか。カイトにはこの妖艶に笑う大賢者の見識が把握出来なくなる。が、それ故にこそ、迎え入れる価値があった。故に、カイトははっきりと確約する。


「我が名において、確約させて頂きましょう。もし貴方様が危惧される事が起これば、私は私の持ちうる全ての手段を行使して、彼女らの安全を確保させて頂きます」

「そう、ありがとう。じゃあ、この子達の訓練が終わった頃にでもお招きに預かるわ」

「ありがとうございます」


 おそらくリルはこの後の展開を全て見通しているはずだ。そしてそれ故、語らなかった。魔女とは要所要所でしか大切な事を語らないものだ、とでも言わんばかりだ。


「それと……貴方、リーシャの患者ね?」

「御見逸れしました。我々はクズハ様のご縁により、リーシャ殿をお迎えしております」

「あら……」


 カイトの返答にリルが目を細める。どうやら、嘘に気づいていたようだ。とは言え、純粋な嘘ではない事も、カイトの口ぶりから理解していた。カイトの言葉には嘘はない。故にどれだけ優れた政治家だろうと気付けない。彼女が気付いた理由は、カイトの身体だ。そこにリーシャの痕跡を見たのである。


「まぁ、良いわ。では弟子二人の顔を立てて約束を反故にしない事を、私も誓いましょう……そこの貴方。薬品庫から127番の薬品を持ってきて頂戴な」


 リルは甲斐甲斐しくこのお茶会の世話をする使い魔にそう言うと、一つの薬草を持ってこさせる。


「これを、煎じて飲んでおきなさい。身体、完璧じゃあないでしょう?」

「御見逸れしました……これは?」

「一時的に体内の魔力を整える物よ。貴方のような患者には一時的とは言え、役に立つわ。リーシャの薬の原料の一つでもあるわ」

「ありがとうございます」


 カイトはリルから貰った薬草をしっかりと異空間に仕舞っておく。そうしてそれを見届けたリルは、次いで今の弟子たちを見た。


「さて、ちょっと忙しくなりそうだから、弟子達にお祖母様の教えを授けておきましょう」

「「はい」」


 この会話の意図も内容も何がなんだか分からないまでも、とりあえず教えを授けるというのだから、と姿勢を正した。ここら、これが彼女のやり方らしい。


「彼らと共に、行きなさい。何があっても彼を信じること。そして……貴方。こちらに来れるわね。それだけの魔道具を作れながら転移術が行使出来ないとは、思えないわ」


 リルは笑いながら、魔道具を介してこちらの状況を垣間見ていたティナへと告げる。流石に彼女もティナがどこに居るのかまでは見通せない様子だったが、その力量は理解出来ていた。それに、ティナが姿を表した。


「……失礼致しました。まさか賢者リル殿程の前に姿を見せなかった事をお許し下さい」

「……!?」


 跪いたティナの姿を見て、リルが思わず目を見開いて絶句する。こればかりは、彼女も驚かざるを得なかったようだ。まぁ、それはそうだ。ティナは周囲が認める程に、両親にそっくりなのだ。故に、彼女はティナへとこう問いかけるしかなかった。


「……貴方、お母様は?」

「……申し訳ありません。余は何分、孤児ですので……何も。ただ、ユスティーナという名だけを父母より頂いただけです」


 ティナはリルに対して、己の正直な所を告げる。これは魔王ユスティーナとしても嘘ではないし、地球の事情を知っていても嘘にはならない。彼女は地球でも孤児として登録されている。そうして、そんな何も知らないティナに対して、リルは前言を翻す事にした。


「……そう。気が変わったわ。この案件に合わせて、私も貴方達と行動を共にしましょう」

「「「?」」」


 なぜティナを見て気が変わったのか。全員が首を傾げる中、カイトが小さく頭を下げる。彼女はティナの母、ユスティーツィアから娘のティナの記憶を封じていた事を聞いていた。

 そしてそれはつまり、そこで起きた悲劇を知っていたのだ。だからこそ、彼女もティナを見守る事にしたのである。と、そこらがわからないラムがリルへと問いかけた。


「? お祖母様も一緒に来るのですか?」

「そうね。でもそれは今から、という意味ではないわ。ここを出るなら準備に色々と必要……こちらを出る時には、やはりそちらに合流するわ。準備に入るから、一休みしたら今日はもう戻りなさい。貴方達にも、色々と必要でしょう?」

「「はぁ……」」


 どうやら、彼女には何かがわかっているらしい。ラムもメイもそれを把握する。そうして、自らの出立の準備に入ったリルに促されて、カイト達は二つ目の村を後にする事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。リルはティナのお師匠様のお師匠様というわけですね。

 次回予告:第1195話『魔女の導き』

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