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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第62章 南の国の陰謀編

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第1193話 故郷巡り

 翔がタバコ畑から撤退をしていた頃。カイト達はというと、物見櫓の設営を終えて野営地への帰路に着いていた。と、その道中での事だ。相も変わらずカイトの肩に座っていたユリィが、村から少し離れた所である物をおもむろに取り出した。


「ねぇ、カイト」

「ん?」

「これ……何かわかる?」


 ユリィが取り出したのは粉末状の何か、である。一見すると何らかの植物を粉末にした肥料の類だとは見てわかるが、それ以上は流石にカイトにはわからなかった。いくらカイトでも農耕にそこまで詳しいわけがない。一応領主の仕事として把握はしているが、必要とされる程度だ。


「……いや、すまん。わからん」

「……たばこ屑だよ」

「たばこ屑?」

「うん……それも結構真新しいね。あの村にあったの」


 カイトの問いかけにユリィが頷いた。実のところたしかにタバコの密造は犯罪なのであるが、地球でもそうであるようにエネフィアでもタバコの栽培は行われている。勿論、これはきちんと厳密な管理の上での事であるし、使用目的は喫煙の為ではない。


「真新しい、ねぇ……」


 カイトはユリィからの報告に若干のきな臭さを感じる。タバコ屑というのは、簡単にいえばタバコの葉を粉末にした肥料の事だ。地球でも普通に園芸用で販売されている物だ。

 が、エネフィアではタバコの使用が厳罰である為、それに伴って悪用されやすいタバコ屑というのは滅多に使用されない。一応、タバコ屑が最適な肥料とされる場合には国の管理と認可を受けた農家が製造している程度で、それにしたって厳格に運用されている。普通の農家や農村が取り扱えるような物ではない。

 とは言え、使用出来ないわけではない。許可さえあれば、使用出来る。が、その場合は確実に中央から来た監督者が居るはずだ。が、見た記憶も紹介された記憶もなかった。だから、カイトは念の為に問いかけてみる事にした。


「……なあ、ルミオ」

「ん、なんだ?」

「そういやさ。さっきの村って今は農業で生計立ててるって話だよな?」

「まぁ……ウチは商家だから違うけどさ。一応、村の大半は農業やってるよ」


 カイトの問いかけにルミオははっきりと頷いた。これは来る前にもきちんと明言されていたし、カイト達が見る限りでは疑いない事だった。


「何か名産品ってあるか?」

「え? えっと……ミド、どうだっけ? ウチ、兄貴が仕事継ぐからって俺ほとんど知らないや」

「俺も知らねーよ。ウチ、どっちかって言うと地主だしな。でもまぁ、手伝った限りだと普通に色々と作物売ってるから、特産品とか無かったんじゃねーの」


 ルミオの問いかけにミドは興味無さそうに切って捨てる。どうやら、この様子だとどっちに聞いても無さそうだろう。というわけで、ミドがカイトへと問いかけた。


「それがどうしたんだ?」

「いや、ほら、結構儲かってた様子だろ? なんか特産品でもあるのかな、って」

「そういや……なんか結構色々ボロだった所直ってたよな……」

「そういえば……」


 カイトの言葉に二人は昔自分達が見知った頃より随分と村が綺麗になっていた事を思い出す。ということはつまり、村に何か有名な物は無いという事だろう。


「どうなんだろ……戦いが終わった頃にでも兄貴に聞いてみよっか? 兄貴、俺が出てく前ぐらいから結構親父の仕事手伝い始めてたから、何か知ってるかも」

「あー……オレ達その時にゃ居ないかも」

「あ、そっか。じゃー、わかんないや」


 カイトの言葉にルミオが笑いながらそう告げる。それにカイトも笑って少しの雑談を繰り広げ、再びユリィとの会話に戻る事になった。 


「……だ、そうだ」

「随分きな臭くなってきたねー……」


 話を横で聞いていたユリィが深い溜息を吐いた。エネフィアでタバコ屑を使っている場合、必ずそれが特産品と言える物のはずだ。しかし、ルミオとミドの二人はそれを知らないという。

 勿論、二人は村でタバコ屑を肥料に使っているなんて知らないだろう。知っていれば、今回の案件では討伐軍に志願するとは思えなかったからだ。


「……一番、厄介な事にならなけりゃ良いんだが……」


 そう呟くカイトは、どうにも嫌な予感がしてならなかった。一番最悪の可能性が起きる場合、相当ド派手に動き回らねば悲惨な事に成りかねない。そして、同じ想定に至っていたユリィが小声でカイトへと問いかけた。


「……カイト、どうする? 出来ればもう巡回は出ない方が良いと思うけど……これが敵に嗅ぎ付けられる可能性もある」

「わーってる……けど、ここで止めると逆に怪しまれる。言わず、オレ達は気付いていないフリをするしかないだろう。それに向こうの調査もまだ終わっていない」


 ユリィの言葉に答えるカイトは苦い顔だ。幾つかの事に彼はこの時点で疑問を得た。一つは、この巡回が志願制である事。もう一つは、冒険者達に決して村に近づかないように、と言っていた事だ。

 どちらもガラハドの告げた理由は正当な物で、カイトとしても納得が出来る。カイトが彼の立場だったとしても言い含めるだろう。故に彼も疑わなかったが、こうなってくると、それ自体が疑わしくなってきた。


「……ルミオ。明日の予定を考えてて、少し聞きたいんだが……」

「ん、ああ、良いよ。何?」

「とりあえず一番近かったから今日はあの村に行ったわけだけど、ここから鉱山までに幾つの村があるんだ?」

「え、えっと……ちょっと待って。思い出すから……」

「二つよ。私とラムの村がここから北の森の側にあって、更にその東のラフネック領の境に一つ村があるわ。鉱山からだと、街道の関係でこちらが近いわね。でも逆にルミオの村からだと、こっちが近いかも」


 ルミオが考え込んだのを受けて、桜と話していたメイが口を挟む。それに、ラムが少し嫌そうな顔でカイトへと提案した。


「あ、そうそう。領地境いの村長の息子さんと俺、知り合いでさ。気の良い兄ちゃんって人なんだよ」

「へー……ふむ……とは言え、ならまずは二人の故郷からにしておくか」


 カイトはルミオとメイの言葉を聞いて、明日の予定を構築する。出来れば行きたくはないのだが、流石に見知った者の故郷を見捨てるのはしたくはなかった。それになにより、まだ囮の任務は必要だった。と、そんなカイトにラムは顔を顰める。


「……行くのなら、私達の村は最後で良いわ。と言うか、出来れば最後で」

「ん? 故郷、なんだろ?」

「……色々とあるのよ」


 ラムとメイは若干のしかめっ面でカイトの問いかけをはぐらかす。まぁ、若い姉妹が旅をしているというのだ。必然、何かあったとしか思えない。それにカイトは若干苦悩する事になるが、結論を出す前にロザミアへと問いかけた。


「……んー……そう言っても流石に見過ごすわけにもな……ロザミアは?」

「あ、私は鉱山から一番離れた所だよ。だから別に多分、無事じゃないかな。あ、後、家族なら心配しなくていいよ。両親、一応あそこ出身だけど冒険者だから。皇国に行くって言って旅に出てるし……」


 ロザミアは何処か呆れ半分しょうがない、という感じ半分という所で、カイトの質問に答えた。こちらはまぁ、分からないではない。両親が冒険者で子供も冒険者を、という所はエネフィアでは少なくない。

 現にミナド村のナナミの兄夫婦を思い出せば良い。彼らは元々冒険者として出会い、コラソンが半死半生の大怪我を負った事――と妊娠発覚――で引退に合わせて村に帰ってきた形だ。

 こういう冒険者は少なくなく、子供がある程度まで育った後はまるで松尾芭蕉のように道祖神の招きに遭って再び旅を、という者は見受けられた。


「そういや、おじさん達元気かなー」

「また会えるかしらねー」

「会えたら、いいわね」


 ロザミアの明言にルミオが応じ、それに少し懐かしげに段々と暗くなり始める夕焼けを見ながらメイとラムが同意する。この様子だとそのロザミアの父達とは会ったことがあるのだろう。と、そうして思い出したからか、ふとルミオが問いかけた。


「あ、そういやそっちはエンテシア皇国から来たんだよな? リデル領って所か?」

「え? いや、オレ達は直近はマクダウェル領だ。あ、でも前にオルガマリーさんはオレと出会う前はリデル領に居たとか言ってたな……」

「あー、そっか。なら最近までってわけじゃないよな……いや、実はロザミアの親父さん達、リデル領に行ってみる、とか行っててさ」


 カイトの返答にルミオが残念そうに僅かに苦笑する。それに、ロザミアが笑いながら詳細を教えてくれた。


「お母さんがどうしても、水晶の滝を見たい、ってさ。で、私お荷物だしお友達出来た様子だからじゃあねー、って。良いのか母親、って素で思ったわ」

「あー、あれか」

「知ってんの?」

「まぁな。観光名所の幾つかぐらいは知ってるさ」


 魅衣の問いかけにカイトが笑う。まぁ、彼だ。大抵の有名な所には行っていると言って良いだろう。というわけで、その後はそんなのんびりとした会話を繰り広げながら、カイト達は野営地へと帰還する事にするのだった。




 明けて、翌日。カイトは渋るメイとラムを説得して、まずは彼女らの故郷へと訪れていた。が、ここでなぜ彼女らが出て行ったのかを知る事になる。


「はぁ……取り付く島もなしか。いや、警戒してるからなんだろうけどさ」

「ごめんなさい」

「ごめんね」


 ラムに続けてメイが呆れを隠せないカイトへと謝罪する。まぁ、何があったのか、なのだがこれは一言で済ませられる。村の人達がラムとメイの姿を見た瞬間、事情も聞かずに追い返されたのである。

 というわけで、取り付く島もなく村を追い出されたカイト達に対して、ラムが少しだけ申し訳なさそうに付近の森を見ながら申し出た。


「……こっちに来て。そのまま帰したんじゃあ、流石にね。折角来たのだから、お茶の一つでも振る舞うわ」

「ん?」

「別にあの村に思い入れはないけど……ちょっとぐらい、ね?」


 どうしたんだろう、と訝しむカイト達一同に対して、メイが少しいたずらっぽく森へと招き入れる。そうしてしばらく森の中を分け入ると、一つのこじんまりとした邸宅が見えてきた。


「あった」

「これは?」

「私達の生家……実家かな。私達、森で拾われた捨て子だから……ここのお祖母様が育ててくださったの」


 メイはルミオの問いかけに少し懐かしげに扉へと近づいていく。どうやらゴーレム達が動いてきちんと家を管理してくれているらしく、家屋は今でも人が住んでいるかの様子だった。


「お祖母様は森の魔女と呼ばれていた方でね……まぁ、あまり良い印象は持っていなかったみたい。私達は孫というより弟子、という感じ……かな。だから私達は魔女の孫として、目の敵にされてるわけ」

「厳しかったわね、お祖母様」

「うん……」


 どうやら、久しぶりの実家とあってメイはこみ上げてくる物があったらしい。ラムの言葉に何処か何かを堪えるような印象があった。と、その一方実はここらの話は詳しくは聞いた事のなかったルミオとミドが興味深そうに二人の実家を観察していた。


「へー……ここが二人の実家なんだ……」

「はー……」

「あ、ごめんごめん! 今扉を開けるから、入って!」


 ルミオとミドの興味深そうな言葉――勿論、ロザミアも興味深そうだった――を受けて、メイが慌てて懐から鍵を取り出した。と、そうして扉が開いたのを受けて、伊勢が口を開いた。


『ごしゅじんさま……ここ、多分本物の魔女が住んでた様子です。多分、ユスティエル様よりもっと年上の……』

「へー……ユスティエルさんより更に古い魔女か……珍しいな……」


 伊勢の報告にカイトは僅かに目を見開く。ユスティエルは既に御年800歳を超える所だ。これでもかなりの古株と言える。その彼女以上となると、四桁に突入するかしないかという所だろう。

 相当な古株だろう。確実に、マルス帝国時代から生きている事になる。一人隠れ住んだのはその頃か、それともあの大戦期で逃げ込んだかのどちらかだろう。と、そんな一方でメイは恐る恐るという感じで扉を開いた。


「た、ただいまー……」

「……あら、これは珍しいわね」


 開いた扉の先から、女の人の声が聞こえてきた。それはオルガマリーよりも更に妖艶な、若い魔女の声だった。まぁ、魔女は見た目の年齢と実年齢が一番比例しない存在だ。精神的にもある程度まで成熟すると老いる事がない為、肉体もかなり若い年齢が多い。現にユスティエルとて実際には若いのだから、不思議はなかった。


「え? 生きてるの!?」

「死んだと思ってた……」

「あら」

「わ、私達、一度もお祖母様が死んだなんて言ってないわよ!? 確かに久しぶりだから懐かしいけどさ!」


 楽しげに笑みを見せたお祖母様とやらに対して、メイが大慌てで訂正を入れる。どうやら、勝手にルミオ達が勘違いしていたらしい。


「にしても、また大勢で来たわね。貴方達がお友達を連れてくる日が来るなんて、思ってもいなかったわ……外の子……あら、一人おかしなのも居るわね。まぁ、良いわ」

『外の子達も入りなさいな』


 森の魔女は外で何が起きているんだ、と足を止めていたカイト達に対して念話を飛ばす。そうして、そんな彼女の招きを受けて、カイト達も家屋にお邪魔させてもらうことにした。

 その中に居たのは、若干赤みが掛かった長い黒髪を持つ一人の妙齢の美女だ。魔女族特有の漆黒のゆったりとしたローブで身を包んでいたが、そのプロポーションはティナにも引けとをらないだろう。

 顔立ちはティナが明るさがあるのなら、彼女には相応の妖艶さがあった。どちらが魔女っぽいか、と言われるとカイトでさえこちらに軍配を上げる程の妖しさである。と、そんな彼女であるが、カイトを見るなり一発で偽装を見破っていた。


「あら……やっぱり。貴方、何者? 貴方だけ、多重に幻術を施しているわね。他の子達も少しの偽装は施している様子だけど……貴方だけ、少し違うわ。年齢はおそらく……」

「弱ったな……やはり魔女相手には付け焼き刃では駄目か」


 カイトは姿を偽っている事を素直に白状する。今回は不運だったが、これは仕方がない事だった。まさかこんな所にそんな古株が居るとはカイトも予想出来るわけがなかった。それに、メイが首を傾げた。


「え? どういうこと?」

「あら……やっぱり旅には少し早かったかしら。その子だけ、色々と偽っているのよ。物凄い強い子ね。あら……? この魔力の流れ。この傷を癒せるとなると、主治医は……」

「今回、色々と用事があってこの依頼を受けていてな。まぁ、オレがこいつらと同ギルドなのはそうなんだが……実はオルガマリーさんとは師弟じゃないんだ」


 こうなっては、仕方がない。自身を見ながらしきりに頷く魔女を横目に、カイトは仕方がなく幾つかの嘘を交えつつ、自分達の今回の目的を語る事にする。そうして少しの間、彼らはそこで滞在する事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1194話『森の魔女』

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