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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第62章 南の国の陰謀編

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第1192話 閑話 翔・潜入中

 今日は珍しく翔メインのお話。

 カイト達がルミオの故郷で物見櫓を設営していた頃。翔はというと彼らを陽動にして、ティナのオペレートの下で行動を行っていた。とは言え、今日彼が向かうべき所は決まっていた。


『ぬるいな』


 翔は影に紛れて行動していた。彼が入っていたのは、放棄されたという坑道だ。一応坑道そのものは公的には封鎖されているが、軍によればここを活用してタバコの畑へと繋がる道を作っていたらしい。勿論、それは今ではミリックス家の軍とラフネック家の軍によって完全に封鎖されているはずである。


『ふむ……やはりどちらかの貴族は確実に絡んでおろうな。いや、両方の可能性も高い』


 翔の感想を聞いて、ティナが推測を述べる。実のところ、彼女は空中からクーを飛ばしてタバコ畑の姿を確認している。それでも翔に入ってもらったのは、動きが変だったからだ。


『兵士じゃないんだよな?』

『そう、見えたのう。どこかの荒くれ者。そんな感じじゃ。おそらく、タバコの葉を刈り取っておるんじゃろうな』

『うっへぇ……』


 ティナの推測に翔は嫌そうにフードの下の顔を顰める。先程も言ったが、この坑道は公的には軍が動いて完全に封鎖されている事になっている。そこに荒くれ者が入って作業をしている、という事はつまり、密造者達がまだ動いている事と考えて間違いない。


『っと……』


 と、そんな会話をしながら移動していた翔であるが、彼の目の前に巡回の兵士の影が現れる。この坑道は完全に廃棄している風を装っている為か、松明か手持ち式の照明用の魔道具を持って移動している様子だ。視界は非常に悪い。なので専門職が隠形を施せばそれだけで巡回の兵士程度ならばごまかせた。というわけで、彼らは何も気付かず隠形を施した翔の近くで立ち止まって愚痴を言い始めた。


「はー……嫌になるぜ。なんでこんな所の見張りなんかやらなきゃならねぇんだ?」

「文句言うなよ。俺だって嫌だ」

「第一よぉ、何を今更こんな厳重に警備しろってんだ? もう後は刈り取ったタバコの葉っぱを焼き払って終わりだろ?」

「知らねぇよ。伯爵様のご命令って奴なんだろ」


 どうやら、兵士達にはかなり不満が溜まっているらしい。まぁ、翔にもわからないでもない。ここは狭く暑苦しい上にものすごい埃っぽいのだ。とは言え、それ故に兵士達はここに潜入者が来るとは毛ほども思っておらず、油断は見えまくっていた。


『良し……これなら……』


 翔は装備の機能を最大限に発揮して身を潜めながら、自分の来た方向へとゆっくりと指先を向ける。そうして、指先から小石の落ちる音が鳴り響く魔弾を放つ。


「「ん?」」

「なんだ?」

「さぁ……一応、見ておくか?」

「どうせ石でも落ちたんだろうけどな」


 兵士達は嫌そうな顔をしつつも、仕事だから、ということで翔の横を通り過ぎて音のした方へと歩いていく。


「ほらな」

「誰に向かってほらな、なんだよ。わかってただろ」

「愚痴でも言ってないとやってらんねぇって、こんな仕事……」

『良し』


 兵士達が通り過ぎた後。翔は通り過ぎた兵士達の愚痴を背後に聞きながら、更に先へと進んでいく。そうして、こんな遭遇を繰り返すこと、数度。翔は少しだけ明るくなった事を理解する。


『ふむ……出口が近そうじゃな』

『風を感じるな……』

『うむ。そこから先にタバコ畑に繋がる道があるはずじゃ。進め』

『了解』


 ティナの指示に従って、翔は装備をフル活用してタバコ畑へと潜入する。どうやらここは兵士達は殆ど巡回しておらず、ならず者達が何らかの作業をしている様子だった。


「たくよぉ……なんで俺達がこんな仕事しなきゃなんねぇんだよ……」

「しょうがねぇだろ。ボスが例の奴らは使えねぇってんだから……」

「なんでだよ」

「そろそろ、始末したいんだとよ。で、ここの事と一緒に、ってわけさ。ならいっそ焼き払ってくれりゃぁ良いものを……最後まで金を稼ぎたいんだとよ」

「それ、俺たちは大丈夫なんだよな?」

「知らねぇよ」


 やはり、彼らはならず者達だったようだ。しかも案の定で密造者達らしい。何があったかは知らないが、どうやら彼らのボスとやらはこの事件に乗じて今まで使っていた者達を処分しておこうと言うことなのだろう。


『ふむ……始末、のう……』

『つまり……殺すって事か?』

『そうじゃろうな。ふむ……これは順当に読み解けば、今外で交戦中のエルリック一派の事じゃろうな』


 ティナは今のところ読み解ける情報から、この始末したい者達というのをエルリック一派と推測する。これは順当な推測だろう。そう考えれば、トカゲの尻尾きりというカイト達の推測にも辻褄が合う。と、そんな推測を述べたティナへと、翔が疑問を呈した。


『って、ことはここはそのまま、って事なのか?』

『いや、それはあるまいな。ここは完全に廃棄するつもりなんじゃろう。おそらくここが何らかの者達に嗅ぎつけられそうになり、今回の一件を起こしたと見える。であれば今やっておるのは最後の収穫。それが終わればここを焼き払い、次の所に拠点を移転して活動を再開という所じゃろうな』

『……こいつらは?』

『当然始末するじゃろう。焼き払うのはタバコではなく、全ての証拠。それには此奴らも含まれておる。こやつらはおそらくこの一件の大凡の事情を知っておる。綺麗さっぱり片付けて、ここでの事を何も知らぬ者に次の所では働かせておるじゃろうのう』

『うへぇ……』


 あっけらかんとしたティナから突き付けられた現実に、翔は思い切り顔を顰めた。とは言え、それだからと翔とて情けを掛けてやるつもりはない。

 彼らは違法行為をしているのだ。その結末は普通に存在している事で、それが嫌なら関わらないか逃げれば良いだけだ。逃げられないのなら、それはどのみち助かる運命ではなかった、という事である。


「はぁ……にしても、一本ぐらい駄目か?」

「やめとけよ。ボスのスポンサー様は金にうるさいからな。一本でも減ってりゃ俺達にとばっちりが来るぞ」

「ちっ……こんだけあるってのに……」


 ならず者達は山ほどに積み上げられたタバコの箱を見ながら、惜しそうにため息を吐いた。とは言え、手を出そうとは思っていないようだ。それを見ながら、ティナが告げる。


『ま、そやつらは不運じゃった、という事じゃろう。お主は何か証拠が無いか探せ』

『りょーかい』


 どのみち自分がここで迂闊な事をして困るのは自分自身だ。翔はそれをよく理解していた。であれば、彼は彼らに対して何もしない。故に若干辟易しながらも、少しだけ高い所に登って魔道具で周辺を観察する。


『……小屋か』

『ふむ……入れそうか?』

『……なんとか、なりそうかな』


 翔は小屋を見て、窓がある事を確認する。小屋は掘っ立て小屋に近い。窓はあっても窓ガラスはなく、少し休憩する程度にしかなっていないようだ。小屋というよりも休憩室の方が良いかもしれなかった。


『行ってみる』

『気をつけよ』


 行動を開始した翔に対して、ティナは注意を促しておく。そうして高い所を降りて再びならず者たちの視線を掻い潜り、翔はあっという間に小屋へとたどり着いた。


『到着、と……えっと、道具は……』


 翔は腰に吊り下げた小袋から、ファイバースコープカメラに似た魔道具を取り出した。流石に跳び上がって窓の中を確認するわけにもいかない。そうしてカメラを己のヘッドギアと接続すると、先端をスルスルと小屋の内部へと差し込んだ。


『ふむ……タバコを吸っておる様子じゃのう……』

『みたい、だな……休憩室って所か?』

『そんなもんじゃな。ふむ……身なりから考えて、ならず者達の統率者という所か。少しカメラを操って周辺を探ってみよ。作業手順書でもあるやもしれん』

『わかった』


 翔はティナの指示に従って、カメラの先端を動かしてみる。見えたのはおそらくトイレと思われる――出入りで僅かに見えた――扉と幾つかの簡易ベッド、おそらく持ち込んだのだろうタバコの吸い殻と雑誌類だ。


『休憩所……ぽいな』

『うむ……ふむ……翔。少々、そのタバコを吹かす男の横の机にしっかりと焦点を合わせよ』

『わかった』

『うむ……』


 カメラの焦点が合ったのを受けて、ティナがしばらく送られてくる映像を解析する。どうやら気になる事があったようだ。


『ふむ……うむ。これは一度確認しておいた方が良いじゃろうな。とは言え、今はまだ拙いのう』

『拙い?』

『うむ。出来ればタバコの確たる証拠を掴んでおく必要がある。ここで製造されたという確たる証拠じゃな』

『証拠、ねぇ……』


 そんな物が都合よく置いてあるかな、と翔は僅かに疑問を得る。そして勿論、そんな物が都合よく置いてあるわけがない。が、ここで製造されている以上、ここに無いわけがなかった。


『翔。入る際に写真はしっかり撮影しておるな?』

『忘れてないって。作業風景も一緒に幾つか撮影してるよ』

『うむ。では、あの収穫された葉っぱを一種類ずつ盗んでおけ』

『簡単に言ってくれちゃって……』


 ティナの無茶な注文に翔はただただため息を吐いた。生のタバコの葉は収穫され次第坑道の前に集められている様子で、更にその奥にはまた別の部屋がありタバコを製造している様子だった。


『別に出来ぬと思えば言っとらんよ。出来ると思うからこそ言っておる』

『まぁ、やってみるけどさ……』


 ティナの称賛に対して、翔は少し照れながらも行動を開始する。現在、収穫されたタバコの葉は何らかの規則に従って山積みされている。この法則をティナは種類毎だと読んでいた。故に山から一つずつ草を奪取する事で証拠として確保するつもりだった。

 そしてこちらについては、確保はさほど問題無い。収穫された生のタバコ葉がどれぐらいか、というのは誰も把握していない。一本ずつ無くなった所で誰も気にしていない。


『良し……確保』

『うむ……ふむ、先は製造室という所かのう』

『……どうする?』

『ふむ……現物は一つ確保しておきたいのう……潜入出来そうか?』

『……なんとか……なるかな』


 翔は坑道の一部を利用して作られたらしい製造室を見ながら、一つ頷いた。そうして、彼は製造室の中に入り、製造されたばかりのタバコが収められているらしい箱へと近づいていく。が、そこで彼は足を止める事になった。


『……ティナちゃん。これ、どう頑張っても俺じゃ無理っぽい』

『ふむ……少々、警備が予想以上に厳重じゃのう……何か刻印がある様子じゃが……ふむ…… 手が邪魔で見えんのう……』


 どうやらならず者達が居るからだろう。警備はかなり真剣な腕っ節の強そうな者達が担当していた。おそらくボスとやらが直接配置した護衛だろう。と言っても冒険者等ではない様子で倒して良いのなら翔でも倒せる程度だが、数が多い上に状況が状況だ。やれるわけでもない。

 であれば、ここから盗み出すのは些か手間だ。が、袋に何らかの刻印が記されている様子である以上、それは何らかの証拠になる可能性は非常に高い。確保出来るのなら、確保しておくべきだろう。故に、ティナが頭を悩ませる事になった。


『ふむ……二者択一じゃのう……』

『手があんの?』

『ある……が、その場合書類かこちら、どちらかは諦めねばなるまいのう……』


 ティナは僅かな苦悩を滲ませる。出来れば、どちらも確保しておきたいのが彼女の考えだ。勿論、このまま夜に入ったり時間が経過して先程のまとめ役らしい男が何処かに移動する可能性もある。

 が、あまり長居させたくないのも事実だ。今はまだ何も無いが、いつまでも何もないとは限らない。ここは敵陣と一緒だ。見つかれば危険だろう。見つかる可能性がある以上、出来る限り素早く要件を終わらせて脱出すべきだった。


『……』

『……』


 しばらく、翔はティナの結論を待つ。どちらかしか無いというのだ。その結論は翔では出来ない。そうして、しばらくしてティナが結論を出した。


『良し。書類は捨てる。あれがどういう書類かはわからんが、確実に証拠と成り得る可能性が高いのはこちらじゃ』

『良いのか?』

『あまり良くはない。良くはないが、エルリック一派との交戦で運良く書類が回収出来る可能性がある。であれば、そちらで手に入らぬじゃろうタバコを入手しておくのが、ここでは最良じゃろう』


 翔の問いかけにティナは己の判断の理由を語る。どういう事情でエルリック一派が追い詰められているのかは彼女らにはわからない。

 わからないが、少なくともこの一件に近づいたが故にトカゲの尻尾とされたことは確実だろう。であれば、彼らも確実になんらかの確たる証拠は握っていると思われる。そちらの確保さえ出来れば、書類はどうにかなる。であれば、証拠となる現物が重要だと判断したのであった。


『で、どうするんだ?』

『外に最大音量で音響弾を放て』

『危なくないか?』

『それが狙いじゃ。一時的に奴らの注意をそちら側に引き付ける。後は余が補佐する故、その間に箱の写真、中身を確保せよ』

『わかった』


 どうやら、外で一つ騒動を起こす事で敢えて敵の注意を一点に引き付ける事にしたのだろう。確かにこうなれば少しは警戒は緩くなる。

 あくまでもここを守っている者達はならず者たちから商品を守っているだけで、襲撃者から守っているわけではないのだ。襲撃者が来たかもしれないとなると、全員ではなくとも外に出ていく可能性は高かった。そうして、翔は一度坑道から出て、外の崖の方へ向けて腕を構えた。


『……やるぞ』

『うむ』

『……っ』


 翔は最大出力で音響弾を放った。それは一直線に崖へと直進して、大音を鳴り響かせる。


「なんだ!」

「あっちだ!」

「がけ崩れか!?」

「確認急げ!」


 タバコ畑で作業をしていたならず者たちが慌てた様子で周囲を見回し、タバコの箱を守っていた者達が慌てて外へと飛び出してきた。やはりこれだけの大音だ。出ずには居られなかったのだろう。


『行け!』

『おう!』


 ティナの合図を受けて、翔が急いで製造室へと飛び込んだ。今回、ティナの行ってくれたフォローは移動の高速化と思考の高速化だ。更に周囲への隠形も底上げしてくれている。あまり長い時間使うと違和感となり気づかれる可能性はあるが、ごく短時間だけならなんとかなる可能性はあった。

 そうして、そんなティナの補佐を受けた翔はどうしても製造室の出入り口が気になる護衛の横を通り過ぎて、僅かに箱の蓋を開けて中身を一つ取り出した。


『これは……』

『考えるのは後にせい! 今は離脱じゃ!』

『っ!』


 タバコの袋に記されていた何らかの刻印を見て翔は僅かに考え込むも、ティナの叱責にあわてて蓋を閉じる。が、この時慌てた所為で、僅かにコトン、という音が鳴ってしまう。


「っ!」


 護衛の腕利きが異音に気づいて、慌てて箱を見る。それを横目に翔は一気に製造室を抜け出した。そして、それとほぼ同時だ。


「あぁあああああ! 誰だ、盗みやがったのは!」

『っ!』


 翔の背後から、護衛の腕利きの絶叫が響いてきた。が、翔はそれに振り向く事なく、こちらに注目するならず者達を横目に一気にタバコ畑を駆け抜ける。


『坑道からの脱出はやめよ! そちらからでは万が一の場合には間に合わん! 崖をよじ登り、一気にそこから離脱じゃ! ある程度まで行けば余が転移術で回収する! そこまで逃げよ!』

『おう!』


 翔はティナの指示を聞きながら、翔は一気に崖を蹴って上へと登っていく。その間にもならず者達は続々と製造室へと集まっており、後一歩でも遅ければ脱出はかなり困難になっていた事が察せられた。


『……危なかった』

『その様じゃのう……』


 崖の上から、翔は完全に厳戒態勢となったタバコ畑を観察する。まだタバコが潜入者によって盗まれたとは気づいていない様子だが、製造室の前ではならず者たちへの追求が始まっていた。本当に間一髪という所だった。とは言え、いつまでもここにじっとしてはいられない。


『では、離脱せよ。方角を間違うでないぞ』

『わかってるって』


 翔はティナの忠告を聞きながら、荒れた肌を晒す山を走り始める。そうして彼は様々な騒動を置き去りにして、タバコ畑を後にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1193話『故郷巡り』


 2018年5月28日

・誤字修正

『現物』が『現生』になっていた所を修正。お金じゃないですね。

『此奴』が『小奴』になっていた所を修正。

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