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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第62章 南の国の陰謀編

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第1190話 警戒任務

 タバコの密造を行っていたとされるエルリック将軍率いる一派との鞘当てを終わらせたカイトは、その後すぐにミリックス伯爵軍の野営地へと帰還していた。そんな彼を出迎えたのは、万雷の喝采と割れんばかりの拍手である。そうして、その中から討伐軍総司令のガラハドが進み出た。


「見事だった。君は十分以上に期待に応えた」


 拍手をしながら、ガラハドがカイトがきちんと目的を達成した事を明言する。兵士達のこの有様だ。それを見れば、今まで溜まっていた鬱憤は発散され、大いに士気は上昇したと言えるだろう。そして結果を示されたのであれば、彼としては上司の判断が無茶振りではなく正しい判断だと認め、その指示に素直に従うのを良しとするだけであった。


「まずは、計った事を詫びよう。そして、兵士達よ! 今一度、彼に万雷の喝采を与えようではないか!」

「「「おぉおおおお!」」」


 声を大にしたガラハドの指示に従って、周囲の兵士達が再度の喝采を送る。そうして、今一度兵士達の士気を高めた後、ガラハドが一つ頷いて告げる。


「うむ……オルガマリー殿。貴殿のサブマスターは良い腕だ。そしてそちらの少年も見事だった。まさかあの砲撃の雨の中を一撃も漏らさずにあそこまで警護してみせるとは。伯爵様がくれぐれも、と言うのもわかろう実力だ」

「ありがとうございます」


 ガラハドからの称賛にオルガマリーは笑顔で頭を下げる。兎にも角にも、これで討伐軍からの信頼は得られたと考えて良いだろう。であれば、もしエルリック一派との本格的な交戦が起きたとて、彼らを主軸として戦闘が行われるのは疑いない。


「うむ……まぁ、ここで話をするのもなんか。きたまえ。指揮所にて今後の話をしよう」

「かしこまりました……私は構いませんが、こちらの子はあれだけ多数の砲撃を相手に魔力を大量に消費しております。下がらせてよろしいでしょうか」

「うむ、許可する。他にも控えさせていたギルドメンバー達も休ませたまえ」


 オルガマリーの求めに応じて、ガラハドは彼女以外のギルドメンバーに下がって良い事を明言する。どうにせよ話し合いなぞトップと出来れば良いだけだ。ソラだけでなく桜達他のギルドメンバーには参加させる意味が無かった。それにオルガマリーは視線でソラ達に下がるように命じながら、頭を下げた。


「ありがとうございます……貴方は?」

「私は問題ありません。鞘当て、という事でしたので本気はまだまだ出しておりませんので」

「それは頼もしい……では、君もついてきなさい」


 オルガマリーの問いかけに答える形で壮健さを示したカイトに対して、ガラハドが深く頷いた。これは兵士達も聞いている中での言葉だ。これでより一層、兵士達の士気が高まる事になるだろう。士気の低下が危ぶまれる討伐軍にしてみれば、これほど良い事はなかった。

 そうして、ガラハドが直々に指揮所へと案内して、彼は自分の席に着席すると同時に再びカイトへと称賛を送る。あれが兵士達に見せる為の指揮官の役割としての称賛だとするのなら、これは武勲を立てた者を称賛する為の称賛だ。


「まずは……何はともあれ見事だった。伯爵様の目に狂いは無かったようだ。我軍は君たちの来訪を歓迎しよう」

「「ありがとうございます」」


 再度の称賛にカイトとオルガマリーもまた、揃って感謝を示す。とは言え、これは一度した事だ。それ故に長々と称賛をすることもなく、早速とばかりに本題に入る事にした。


「さて……それで今後の予定についてを話しておこう。まず今後だが、本格的な侵攻は各領主達の状況が整ってからになる」

「ということは、今しばらくの時間があると?」

「うむ。それに向こうは籠城しているのだ。食料がさほど豊富にあるわけでもあるまい。エルリック将軍は常に満タンまで食料を蓄えさせていたので今はまだ備蓄があるだろうが、それとて一ヶ月程度。節約はしているだろうのでそれ以上には保つだろうが、どうにせよ遠からず備蓄は底をつく事になるだろう。後半月は保つまい。保って、今週いっぱいだろう」

「それを待っている、と?」

「そういうことだ」


 ガラハドは現在の停止状態の理由を明言する。どうやら、彼らも無為無策にこの場に留まっているわけではないのだろう。とは言え、何も出来ていないのも事実ではある。相手が相手なので兵士達の士気は低下していく一方だ。そこに丁度折よくカイト達が来たわけだ。であれば、問うべき事は一つだ。故にオルガマリーが問いかけた。


「それでは各領主様はいつごろお越しに?」

「うむ……今週末には、こちらに来られる事になっている。ラフネック侯を中心とした遠征隊だ。侯爵様はどうやら、ご自分の手で敵を始末する事にしたいそうだ」

「自分の部下の咎は自分で濯ぐ、と」

「そういうことなのだろう。流石に伯爵様も侯爵様のお申し出であれば断る事は出来ないのでな。本来なら、我らだけでも十分に動けるのだが……」


 ガラハドは二人に説明しながら、若干の苦味や苛立ちを浮かべる。どうやら、彼としてはこの貴族同士の色々に辟易しているのだろう。軍人の縄張り意識、とでも言えば良いのかもしれない。


「いや、これは聞かせるべきではないか。忘れてくれ。とは言え、そういうことなのでな。もうしばらくは本格的な討伐戦まで時間があると思ってくれて結構だ」

「わかりました……では、その間我々は如何すれば?」

「うむ……」


 オルガマリーの問いかけにガラハドは側に控えていた側近に一つ頷いて、地図を持ってこさせる。それは軍が保有するここら近辺の地理を示したものだ。どこにどういう山があり、どの村へどういう道が通じているか、等がしっかりと記されていた正確なものである。


「これはここら一帯の村を示した物だ。見ての通り、ここらはもともと鉱山に食料を提供していた農村が多くてな」


 ガラハドは地図に記されている幾つかの丸印を指差しながら、カイト達へとこの近辺の説明を行っていく。ここらは幸い昨夜ルミオ達から聞けているので、カイト達としてもすんなり受け入れられた。そうして、カイト達が疑問を得ていないのを確認して、ガラハドは更に続ける。


「さて……それで先にも言ったが、我々は今、彼らに対して持久戦を仕掛けている。そうなると……まぁ、君たちにも分かるだろう。敵はなんとかして、糧食を確保せねばならなくなる」

「略奪に出かける、と?」


 偶然視線があったので、カイトがガラハドへと問いかける。敵の本陣は飛空艇の影になっており、密かに準備を整える事は可能だ。更に敵が英雄と言われた軍であれば、おそらく一部隊を隠して移動出来る程度の実力を持つ魔術師は存在しているだろう。

 であれば、こちらにバレずに密かに略奪に出る事は可能に思われた。そしてガラハドはそんなカイトの推測を見通して、はっきりと頷いた。


「うむ。今のところまだ敵にも食料に余裕があるからか致命的な被害は出ていないが、それも時間の問題だろう。貧すれば鈍する、と言う。如何に奴らとて、その時が来れば村を焼き払ってでも奪い取ろうとするはずだ。それを防ぐ為にも、君たちにも周辺の見回りに協力して貰いたい。これは依頼に基づく命令ではなく有志で頼むので、受ける受けないは君たちの自由だ」

「かしこまりました。始めるのなら、何時から始めましょうか」

「流石に今すぐ、というわけにもいかぬだろう。毎日朝から有志の冒険者達と共に見回りの兵が出る。君たちも参加するのであれば、その頃に適当に見回りに出てくれれば良い……が、あまり刺激しないように冒険者達には村に近づかないように命じている。申し訳ないが、そこは君たちも遵守してくれ」


 ガラハドはオルガマリーの問いかけに一応の念押しを行っておく。特に現状は近くで戦闘が起きているのだ。村の者達の不安はひとしおだろう。

 であれば、下手をすると盗賊とも思われる者が居る冒険者達にはなるべく村の近辺に近づかないように命ずるのは不思議ではなかった。良くある事である。

 その代わり、兵士達が村の近辺を見回って安全の確保に努めているのだろう。聞けば、実力に関わらず道案内や村の安心の面を考慮して、ここら出身の兵士達もある程度連れてきているらしい。有志にしたのはあまり多すぎても逆に面倒事を生みかねないからとの事だった。


「かしこまりました。では、付近の巡回を行いつつ、もし万が一敵を見かければ交戦しても?」

「そうしてくれ。が、深追いをする必要はない。どうにせよ週末には来られる侯爵様達が来てから、殲滅戦に取り掛かる事になる。こちらは敵に食料を奪われない様にしつつも、各個撃破を避ければ良い」

「わかりました」

「うむ……では、今日はもう休んでくれ。ご苦労だった」

「ありがとうございます」


 ガラハドの労いの言葉にオルガマリーが頭を下げて、カイトを連れてその場を辞する事にする。そうして、カイト達は再び飛空艇のある自分達の拠点へと戻る事にするのだった。




 さて、戻った拠点ではルミオ達がただただカイトの事を驚いた顔で見ていた。そうして、ミドが口を開いた。


「お前……強かったんだな」

「まぁ……色々とあったからな」

「色々っていうか……一時見境無かったからねー」


 カイトの言葉に応ずるようにユリィが懐かしげかつ、呆れたように告げる。実際、今の彼らの年齢の頃にはもう勇者と呼ばれていた。その当時の半分も出していない。と、そんなユリィの言葉にミドが興味を持った。


「あれ? 二人は古い馴染みなのか?」

「ん? あ、ああ。それか。まぁな。オルガマリーさんと会うより前、こいつらとも会うよりずっと前から、オレはこいつとは一緒だ」


 嘘は言っていない。故にカイトは笑ってそう明言する。と、そんなカイトにミドが驚いた様に口にした。


「へー……でも妖精連れてカイトって名前は珍しいな」

「大抵、どっちも嫌がるよな」


 ミドに続けてルミオが意外そうにそうなんだ、と頷いていた。それに対して、カイトとユリィは笑うだけだ。そもそも本物なのだから、嫌がる云々も無かった。


「そんなもんかねぇ」

「かねぇ」


 カイトとユリィは呑気そうに空を見上げる。幸い今日は見回りはしない事になっている。なので今日一日ぐらいは呑気にしていても良いだろう。


「ま、だからつっても本物なんて冗談は有り得ないけどな」

「あっはははは! あったりまえだろ!」


 カイトの冗談めかした言葉にルミオが大きく笑う。本物がエネフィアに居るはずがない。そんな常識的な考えでの結論だった。そうして、その日はそのままルミオ達と共に一日休む事になるのだった。




 明けて翌日。カイト達はこの日から本格的に警戒任務にかこつけてスパイ活動を行う事になっていた。というわけで流石にこの話は外では出来ない、と全員飛空艇の中のミーティングスペースに集まっていた。


「さて……それじゃあ、今日から行動開始よ」


 一応はギルドマスターだから、ということでオルガマリーが開始の音頭を取る。ここからは、万が一に備えて残留組と警戒任務に出る陽動組、密かに行動する密偵組に別れる事になる。


「残留組……ティナちゃんと一葉ちゃん達」

「うむ。ここから全体の総指揮も行おう」

「お願いね」


 とりあえず、ここはティナが確定だ。万が一の場合には即座に介入出来るように、陽動組も密偵組も彼女の射程範囲内での行動になる。そして勿論、彼女が全体の統率を取る事になっているし、誰か一人は飛空艇を守る必要があるだろう。

 それであればどう考えてもティナが最適だ。一葉達はティナが動けなかった場合の対応と即時介入が必要になった場合の手駒として、ここに残留だ。


「次、陽動組。これはカイトとユリィちゃんのコンビ以下ソラくん、桜ちゃん、由利ちゃん、魅衣ちゃん、カナンちゃん。ついでにルミオくん達が同行ね」

「まぁ、適当にルミオ達に案内されながら回ってくる」

「そうね。なるべく、人目につくように動いて頂戴」


 カイトの言葉にオルガマリーが頷いた。こちらはガラハドの要請に沿う形で警戒任務に出る。とは言え、人数が少ない上にここらの地理に明るくない。なので出身者というルミオ達に依頼して案内を貰いつつ、警戒任務に当たる事にしていた。

 これは勿論、軍にも報告している。なお、これには日向と伊勢も同行だ。気ままな散歩という感じで良いだろう。ルミオ達にしても腕利きが居る事で万が一を防げるというメリットがあるので、向こうも承知した。


「さて……それで、次。密偵組。これは私と翔くん」

「うっす」

「『無冠の部隊(ノーオーダーズ)』謹製という装備、アテにさせてもらうわね」


 翔の返事にオルガマリーも頷いた。こちらは一見オルガマリーではない方が良いように思われるが、そもそも彼女はソロだ。しかも巨狼が居る事で森や山をかなり自由自在に動き回れる。おまけに巨狼が足となるので遠距離の移動もお手の物だ。

 勿論、ランクAの冒険者なのでそれに相応しい隠形も可能だ。流石に一流の装備があり本職の翔には及ばないが、それでも十分に軍程度なら対応は可能だ。更にもしタバコの匂いがしても巨狼なら感じ取れる。探るには良い組み合わせだった。オルガマリーが広域の調査を行い、怪しいと思った所を翔が調べていく形だろう。


「良し……じゃあ、行動を開始しましょう」


 オルガマリーが全員に号令を下す。そうして、カイト達は警戒任務の傍ら、本格的な内偵調査を開始する事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1191話『物見櫓』


 2018年5月28日追記

・誤字修正

 『濯ぐ』が『注ぐ』になっていた所を修正

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