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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第62章 南の国の陰謀編

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第1187話 挨拶と思惑と

 ミリックス伯爵領東部に位置する廃棄された炭鉱の少し前。そこに設営されたエルリック一派討伐軍の陣営にカイト達もまた野営地を築いていた。と、その最中にカイトは一通りの飛空艇の停止作業を行うと、ティナへと連絡を入れた。


「ティナ。そっちは?」

『もうちょい待て。もうちょいでこちらからのオペレートが出来るように調整が終わる』


 カイトの問いかけにカイトと共に艦内に残っているティナが告げる。彼女を今回連れてきたのは、オペレートが必要になる可能性があるからだ。とは言え、この仕事はマリーシア王国には内密にしている話だ。

 故に飛空艇内部に密かに軍用の通信装置――勿論、それとわからない様に偽装もしている――を積み込んでおり、それの調整をしていたのである。それの調整が終われば、カイトとオルガマリーの二人がこの討伐軍の司令官に挨拶に赴く事になっていた。


「一応、聞いておくが。お前の手の入った通信機だよな?」

『無論じゃ。そんじょそこらの妨害装置だろうと傍受装置だろうとだまくらかせるぞ』

「良し。じゃあ、安心だな……じゃあ、オレも少し外で作業してくる」

『うむ』


 カイトの言葉にティナが頷いた。と言ってもこのカイトの作業も公には出来ない作業だ。そうしてカイトは確かに外に向かう事にするのだが、出る所は甲板に向かう上部ハッチだ。


「良し……見回りの兵士は居るが……なんとかなりそうだな」


 カイトは一度隠形で姿を隠すと、周囲からは見られていない事を確認する。そうして、先んじて密かに外に出ていたユリィと合流した。


「ユリィ。作業は?」

「んー……あともうちょい。あ、来たんならそっちの一機をやっといて」

「おけ」


 カイトはユリィの求めに応じて、彼女が弄っていた小型の魔道具と同じ物の調整を開始する。この小型の魔道具だが、敢えて言えば魔術的なドローンだと思えば良い。

 大きさは手のひら大だ。搭載されているのは必要最低限の機能のみ。レガドより提供された超小型の魔導炉に、隠形の為の魔術、録画の為の魔術だ。最悪は超小型の魔導炉を暴走させて自壊させる事も出来る。これを周囲に飛ばして、密かに状況を把握していこうという算段である。そうして腰掛けたカイトはふと、口を開いた。


「一応、お前にも言っとくけど」

「んー?」

「あんまタバコに近寄りすぎるなよ。クズハ程じゃあ無いとはいえ、お前もタバコほんとは駄目なんだからな」

「ほんとは、でしょ」


 カイトの言葉にユリィは作業を続けながら答えた。出発前の時点でカイトも言っていたが、妖精もタバコの煙は駄目だ。が、実は今回ここにユリィが居る様に、少しだけ特殊な理由が彼女にはあった。というわけで、その特殊な理由が口を開く。


『大丈夫大丈夫。僕謹製の特殊な力を付与しておいたから、ちょっとぐらいなら体調は崩れないよ』

「はぁ……お前ら本当にやりたい放題だな……」


 響いたシルフィの声にカイトはため息を吐いた。実のところ、エネフィアより遥かに大気汚染の進む地球にも妖精達は住んでいる。となると当然、彼らの体調は大丈夫なのかと危ぶまれるだろう。

 結論から言えば、問題はほとんど無いらしい。ここらやはり眷属と大精霊という所なのだろう。シルフィが地球の妖精達には少しだけ多く力を融通しており、大気汚染に対する耐性が高くなっているらしい。

 というわけで、何時かユリィも地球に渡る事を考えて、かなり前からシルフィが地球の妖精達と同程度かそれ以上の大気汚染に対する耐性を与えていたらしい。なので今回、カイトもユリィの同行を許可したというわけであった。


「んー……でもそうしてくれないと私、地球行けないし。モルとヴィヴィにはまた会いたいし」

「ま、そりゃそうだ。オレ達は四人揃ってはじめて完全だ」


 ユリィの言葉にカイトは同意して、笑みを見せる。カイトがかつて相棒にしていた残る二人。それはどういうわけか、地球に居た。カイトは地球での滞在の間に彼女らを見つけ出していたのである。

 そしてそれをユリィもカイトから聞いていた。だから、彼女はどうしても地球に行きたかったらしい。と、そんな話をしていると、作業はいつの間にか終わっていた。


「良し。これでこっちは出来た」

「こっちもこれで終わり……っと。良し。これでとりあえず5個終了かな」


 カイトが終わらせるとほぼ同時。ユリィも作業を終わらせて小型化する。そうして、いつも通り定位置である彼の肩の上に座った。


「良し……ティナ。こっちの作業は終了だ」

『うむ。こちらも丁度作業を終わらせた……一度ドローンを起動させよ。動作状況の確認を行う』

「あいよ」


 カイトはリモコンを手に取ると、ドローンを起動させる。すると、定められた回路に魔力が通ってドローンの姿が掻き消えた。


「良し……目視は出来んな。存在は感じるが」

『まぁ、それは仕方があるまい。そこまで高性能な物となると、このサイズではまだ無理じゃ。本当なら、この飛空艇に載せたちょいとした防御装置と同じ物を乗っけたかったんじゃがのう』


 カイトの指摘にティナが残念そうにため息を滲ませる。どうやら、まだまだ開発途中の物らしい。が、ここで使えるので折角だから実地試験もしてしまおう、という算段だった。そうして、カイト達の見守る前でドローンが幾度か動作確認を終わらせる。


『うむ。全部異常は無さそうじゃな。余は基本、これでこちらより周囲を見張る』

「頼んだ……にしても、段々とこっちの技術からかけ離れるな、お前」

『魔王じゃからのう。異世界の技術を得てパワーアップじゃ』

「そりゃ、良いことで」


 カイトは嬉しそうなティナに思わず笑みを浮かべつつも、それで良しとしておく。そしてこちらの準備が整ったのであれば、次は司令部に顔を出す時間だった。


「オルガマリーさん。こっちの準備は整いました」

『あら、そう。じゃあ、後はこっちは任せて動く事にしようかしら』


 オルガマリーは久しぶりの外という事で相棒の巨狼と日向達を戯れさせていたらしいが、カイト達の準備が整った事を見て気を取り直す。というわけで、二人――当然、ユリィは残留――は案内人に教えられた通り、軍の司令部へと足を運ぶ。


「司令。伯爵より話のあった<<女狼の牙(ウルフズ・ファング)>>のギルドマスターが来られました」

「そうか。了解した。通ってもらえ」

「はっ」


 軍の司令が一つ頷いて、カイト達を通す様に告げる。そうして、その許可を得て、カイト達がテントの中へと入ってきた。


「君が、<<女狼の牙(ウルフズ・ファング)>>のギルドマスターかね?」

「お初、お目にかかりますわ、司令官殿。私はオルガマリー。こっちは私の弟子で魔物使い(モンスターテイマー)見習いのカイトと言う者です」

「はじめまして」

「ふむ……えらく若いな」


 軍の司令官は自己紹介もせずにカイトの事を値踏みする。その顔は敢えて言えば、胡散臭い、とでも感じている顔だった。

 まぁ、カイトは現在本来の蒼い髪にこそしているが、それにバンダナを巻いた――そのバンダナも今は腕に巻いている――だけで顔立ちは日本人特有の若い見た目だ。それ故、いまいち信用されなくても仕方がない。


「中津国系の血を引いているのですわ、司令官殿。見た目相応ではない事を、お約束しましょう」

「そうか……うむ。伯爵様より連絡があった。貴殿らを中心として戦略を構築する様に、とのお達しだったのだが……その為にも、まずは貴殿らの実力を把握させて貰いたい」

「戦えと?」

「そういうことだ」


 オルガマリーの問いかけに軍の司令官がはっきりと頷いた。まぁ、伯爵の肝いりとは言え彼ら実際に動いている者達からすると上司からまた無茶振りか、という程度にしか思われていないのだろう。であれば、実力相応ならその通りに動くし、そうでないのなら見せかけだけでも活躍してもらって、後は適当に泳がせておくのが上策だろう。

 ここらの司令の若干の塩対応はその顕れと見て良いだろう。別に冒険者ならよくある対応なのでカイト達も全く気にしていなかった。


「ああ、そうだ。そう言えば自己紹介がまだだったな。私はガラハド。伯爵様よりエルリック一派の討伐を命ぜられた。階級は大佐。諸君の奮闘を祈る」

「「ありがとうございます」」


 ようやく語られた司令の自己紹介と激励を受けて、カイトとオルガマリーが頭を下げる。そうして、若干の居丈高な雰囲気を残したまま、ガラハドがカイト達へのテストを語る。


「さて……それで諸君ら<<女狼の牙(ウルフズ・ファング)>>が腕利きだという触れ込みで伯爵様はこちらに送られた。であれば、その実力を見せてもらいたい」

「では、どのように?」

「うむ。見せてもらいたい、と言ったがこれは我々だけに、という話ではない。向こうにも、という話だ」

「まさか、我らだけで壊滅させよ、とはおっしゃいませんね?」

「まさか」


 オルガマリーの何処か挑発的な言葉にガラハドは笑って首を振る。流石に彼もそこまでの塩対応はしないだろう。あまり愚行をしてしまっても逆に伯爵に対する不遜になる。あくまでも、これは自分達はまだお前達の事を認めていないぞ、というだけの彼らなりの軍のプライドの問題だ。


「有力な冒険者が来たのだ、という事を敵に知らしめ、こちらにはこれほどの勇士が居るぞ、と兵たちを鼓舞してもらいたい。何分もう半月もにらみ合いが続いたままで、兵たちの士気には若干陰りが見え始めている。ここらでそろそろ決戦が近いのだぞ、と兵達の士気を高めてもらいたいのだ」


 ガラハドは二人に今回の内容の道理を語る。ライアード曰く敵はかなり優秀な者の様子だ。攻めあぐねているのは事実だろう。更には敵は英雄とまで言われた者が率いているという。

 兵士達の中には動揺し、未だに信じられない者も多い事だろう。一つ敵と戦える戦士が来た事を見せつけ、一には敵の士気を挫き、二にはこちらの士気を上昇させたいと思うのは当然である。


「かしこまりました。では、軽く手合わせという事でよろしいのですね?」

「受けてくれるか?」

「かしこまりました」


 ガラハドはどうやら、まさかこんな内容を受けるとは思っていなかったらしい。彼とてこういったものの、これはかなり難しい話だ。飛空艇の砲撃を躱して敵の本陣に近づいて、その上で強敵と戦うのだ。並の戦士なら難しいと言わざるを得ない。

 それを受けるには、相当な実力が必要だ。それぐらいは誰にでもわかる。そして頷いたのであれば、自信があると見て良かった。それ故、彼も少しだけ相好を崩した。


「そうか。であれば、明日の朝一番に頼む。今日は移動の疲れもあるだろう。ゆっくりと休むと良い。こちらも鬨の声を上げ、諸君らの応援に努めよう」

「ありがとうございます。では、早速準備に取り掛かりますので、失礼致します」


 オルガマリーはそう言うと、頭を下げてその場を辞する事にする。そうして、二人は一度明日の準備を整える為、飛空艇の停泊地へと戻る事にする。


「さぁ、坊や……面倒な事になったわね」

「面倒、ねぇ……勝てない相手とは、思いませんが?」

「そうね。勝てなくは無い……けれど」


 オルガマリーはけれど、と言ってその先は言わない。ここから先はまだ陣内では口にしてはならない。というわけで、そこから先はお互い言外に合意しつつ、別の所に話を向ける。


「さて……どちらが戦う?」

「オレが」

「あら」

「少なくとも明日の戦いはタイマンで、相棒は連れて行くべきじゃあない……それに何より、ギルドマスターがいの一番というのも変な話でしょうに」

「そうねぇ……」


 オルガマリーはカイトの言葉にそれはそうか、と思い直す。明日鞘当てをしてこい、と言われたがこれは相手が限定されている。言うまでもなく、その相手はエルリック将軍の息子・コルネリウスだ。彼こそが敵軍で最強の戦士だ。出来る限り彼と戦うのが、ガラハドの考えだろう。

 勿論、これは相手あっての事だ。出てこなければ意味がない。なので出て来ない場合はその場合で良い。が、出て来た場合は交戦する必要がある相手だった。

 と、言うは良いのであるが、まず彼が最初に出てくるというのは有り得ないと断言して良い。彼は間違いなく大将格。側近が止めるだろうし、彼とて道理がわかっていれば側近がまずは出る様に指示するだろう。であれば、こちらも最初に出すのは副将となるカイトが最適と言えた。もしカイトが勝てなかった場合に、ギルドマスター(オルガマリー)だ。


「わかったわ。じゃあ、明日は貴方に任せるわね。危なくなったら引きなさい。これは所詮は小手調べと、司令部の信頼を得る為の演技よ」

「そうする……まぁ、流石に危なくなるとは思えんがな」


 カイトはオルガマリーの助言に従いつつも、大丈夫だろう、と己に己で念を押す。そんな打ち合わせをしていると、すぐに飛空艇へとたどり着いた。が、どうやら何かを話し合っている声がしていた。


「ん?」

「あ、帰ってきた。おーう、お帰りー」


 えらく楽しそうだな、とカイトが首を傾げるとほぼ同時。ソラがこちらに気づいて陽気に手を挙げる。その横には見知らぬ少年が立っていた。

 少年と言っても幼くはなく、年齢は大凡ソラと同程度だ。なお、彼以外にも数人の見たことのない少年少女達が一緒だった。年齢層は全員ソラ達と大差ない。そんな少年の一人が口を開いた。


「ああ、あんたがサブマス?」

「ああ……えっと、何があった?」

「ああ、いやぁ……あ、こいつらお隣さん」


 ソラが笑いながら、困惑するカイトに対して横に立っていた少年を指し示す。まぁ、こんな所に居るのだから、少年も冒険者だろう。そして陣地の外れとは言えここは一応冒険者達に野営地として与えられている所だ。


「あら……ご挨拶、という所かしら」

「あ、っと……失礼しました。ギルド・<<草原を駆けし者(グラス・ラッシャー)>>のギルドマスター・ルミオです。そこの一角を借りて野営をしていたんですが、飛空艇が見えて用意が整ったのを見てご挨拶に、と」


 ルミオと名乗った少年はオルガマリーを見て、慌てて佇まいを正して頭を下げる。どうやら、彼を中心としたギルドがこの近くに野営しているらしい。


「あら……きちんと出来るのね。なら、私も……<<女狼の牙(ウルフズ・ファング)>>ギルドマスター・オルガマリーよ。挨拶が遅れて申し訳ないわね」

「サブマスターのカイトだ」


 ルミオの挨拶に対して、カイトとオルガマリーの二人はルミオから差し出された手を握る。相手がギルドマスターとしての礼儀を尽くしたのだ。であれば拒める道理がない、という判断である。そうして一応ギルドとギルドの重役同士の挨拶を交わした後、オルガマリーが笑顔で一つ頷いた。


「で、もう良いわ。さっきまでの話を聞いていると、外向きなんでしょう?」

「……ありがとう。いやぁ、頑張ってるんですけど……慣れないんです」


 オルガマリーの許可にルミオが照れくさそうに頭を掻いた。まぁ、年齢を考えれば慣れていなくても不思議はない頃合いだろう。周囲の彼の仲間達にしても似たような年頃だし、まだまだ不勉強という所なのだろう。なら、オルガマリーとしては先輩として笑って許可を与えてやるだけだった。


「で、挨拶に来たって割には話が弾んでたようだが……」

「ああ、それなんだよ。カイト、あれむっちゃ美味くてさー」


 ソラが何らかの葉っぱで包まれた魚をカイトへと見せる。後に聞いた所によると、ここらの郷土料理らしい。ルミオ達が手土産として持ってきたらしい。で、ささやかだが宴会をしていた、という所なのだろう。


「で……カイト」

「なんだ?」

「酒……出してくんね? あれ、絶対酒の肴に美味いって」


 どうやら、由利やナナミという料理人を抱える彼が絶賛する程の美味なのだろう。しかも酒に合うという。


「はぁ……由利」

「うんー、出来てるよー」

「オルガマリーさん」

「良いわ。こういうのも、醍醐味ね」


 カイトの言外の求めにオルガマリーが笑顔で承諾を下す。そうして、カイト達とルミオ達の間で、ご近所付き合いと言う名の軽い宴会が開かれる事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1188話『鞘当て』

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