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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第六章 冒険部始動編

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第107話 交流―カイト達の場合―

 カイトとティナの模擬戦の翌日。カイトは桜、瞬、凛、魅衣、瑞樹にリィルを加えた面子でパーティを組んでマクスウェルのユニオン支部まで足を運んでいた。ちなみに、残りの冒険部の面子は学園で依頼を待っている。今日はこの面子で、交流会を兼ねた即興での連携の試験というわけであった。

「あんたが本気出すとこっちやること無いわね。」

 魅衣がレイピアを抜いた瞬間に終わった戦闘に呆れて、カイトに言った。道中で何度か魔物と遭遇するも、ちょっとでも危険性の高い魔物が出るとカイトとユリィが本気を出すので全く戦闘にならなかった。お陰で本来その役目を買うはずのリィルもやることがなく、他の面子と一緒に観戦にまわることになる。と言っても、リィル視点でも戦闘は一瞬で終わるので、何も問題は無いのだが。

 おまけにカイトの魔力を感じ取った魔物が少しの間周囲からいなくなるので、戦闘回数も減ってしまっていた。魅衣のぼやきはそれ故であった。

「だから普段は本気をださん。」

「まあ、カイトも一個人でできることは限られてるからねー。頼り切りだと何時かは痛い目見るよ?」

 魅衣のぼやきはカイトにとっても頭の痛い問題であったので、彼は肩をすくめる。まあ、今彼らが居る場所の様にゴブリンやその亜種、少し強い程度の魔物が出る場所でなければ、カイトの力の残り香に当てられて逃げるなどという事は起きないが。

「わかってるわよ。あんただって普段は書類仕事だの何だのやってるんだから、いつも助けてくれるわけじゃないんでしょ?」

 魅衣が発足までの数日間を思い出して言う。実はカイトは部長就任に前後して、生徒会やらが引き受けていた冒険者関連の書類仕事などを一手に引き受けたので、現在のカイトは少々オーバーワーク気味である。おまけに、魅衣達の調練を兼ねて外に出て普通に依頼も受けていたのだ。オーバーワークになるのは当たり前であった。

 カイトも本当ならば公爵家での仕事の様に複数体分身体を出現させて対処したい所なのだが、当然、そんな事は学園では出来ない。現状のままでは、カイトは何時か破綻しそうな仕事量であった。本来ならば生徒会役員や運動部連合の役員たちが補佐に回ってもらいたい所なのだが、現状はまだそこまでの態勢が出来上がっていなかった。

「早い所秘書かそれに準ずる役職決めてくれないと……また、カイトの悪い癖が……」

 そうして、そんな激務状態のカイトを常に危惧するユリィが、真剣に公爵家から人員を回す事を考え始める。現在、クズハもこの報告を受け、同じことを真剣に考えており、カイトを知るメイド陣からはすでに何人か候補が上がっていた。ちなみに、総じて決して、カイトの身体が心配とかではない。

「悪い癖?」

 ユリィが心配そうに呟くのを聞いて、桜が首を傾げる。

 現在までのカイトは教師が心配するぐらい忙しく働いている。公爵時代のカイトも普段は真面目に働いているのだが、当然カイトとて生き物だ。ある時突然ストレスが爆発することがある。そうして、それによって引き起こされた現象を何度も目にしてきたユリィが語る。

「……あまり忙しいのが続くと朝からいきなりいなくなるの。そしてその日一日は戻ってこないの……それでも仕事はきちんと期日守るから、誰も文句言えないんだよねー……じゃあ、適度に休み設けようよ……」

 ユリィがかなり遠い目で説明する。その言葉に桜も考えて見れば、クズハが滅多にカイトの居る学園に来れない様に、幾らカイトに多少は融通したとは言え、公爵としての仕事はかなり忙しいものである。

 今でこそクズハやその他家臣団が育っており、それに合わせてカイトの負担もかなり減っているのだが、まだ家臣達が殆ど居なかった300年前のカイト、ルクス、バランタインの負担は想像を絶するものであったことなぞ、想像するに難くはない。

「それなら一日ぐらいは大目にみてあげましょう。今のカイトくんはかなり忙しいですし、まだ冒険部の支援体制も整っていないですから、書類仕事も私とカイトくんで全てこなしていますからね。」

 自身も生徒会長として、まだ天桜学園が日本にあった時はそれなりに忙しかったし、祖父や父は日本に名だたる大企業のトップとして、忙しく日夜働いていたのを見てきた桜。カイトの忙しさは若干想像出来たのか、苦笑して、一日ぐらいなら、と目を瞑る事を提案した。が、ユリィはそれを認めて、それで尚、頭を振るった。

「ううん。それはいいの。でも、そのときに発動する法則が……」

「法則?」

「おい、行くぞ。今日はリザード退治を受けることにした。夏の繁殖期が近いんで、最近増えてきたらしい。」

 ユリィが更に突っ込んだ話をしようとした所で、依頼を見に行っていたカイトが戻ってきた。他の面子はすでに外に出て準備をしていた。

「あ、うん。いい、桜。絶対にカイトに仕事を与えすぎないでね?後で後悔するのは私達だよ?」

「???」

 意味がわからない、疑問符を何個も頭に浮かべる桜。彼女がこの理由がわかるのはもう少し先のことであったのだが、その時になり、真剣にカイトに割り振る仕事を減らそうと考える事になるのであった。




「先に昼食を食っておくか。」

「ええ、それが良いかと思いますわ。」

 外に出てカイトが開口一番そう言うと、瑞樹も頷いてそれに応じる。この日はメンバーの選定やその他相談で多少時間を要したので出発が遅れ、マクスウェルに到着した時にはすでに11時を回っていた。

 それから依頼を受け、幾つか準備を整えている内に、すでに昼時となってしまったのである。少し早いものの、今から昼食を摂るには良い時間であった。

「どこがいい?」

 カイトが他の面子に問いかける。カイトとしてはどこでも良かったのだが、他の面子も特段の希望は無く、結果、決めあぐねてしまった。

「皆さんもこれからお昼ですか?」

「あ、ミリアちゃん。」

 と、ユニオン支部の前で話していたのだが、どうやら早めの昼休憩らしいミリアがユニオン支部から出てきた。そうして、カイトは彼女の方を向いて言う。

「ああ、どこにしようか悩んでいてな。」

「あ、じゃあ、これから一緒に西町に行きません?今日はミニスちゃんが昼時にウェイトレスしてるんですよー。」

「ミニスって誰ですか?」

「ああ、俺も知らないな。」

 一条兄妹が頭に疑問符を浮かべているが、それは桜と瑞樹も同様であった。

 実はカイトの縁でカイト達のパーティでは頻繁に西町の酒場『英雄の留り木』を利用している。なので、天桜学園の中で西町の酒場に入り浸り、すでに全店員の顔と名前が一致し、なおかつ向こうからも覚えられているのはカイト達だけなのであった。当然のことながらそうでない他のパーティメンバーが知らないのも無理なかった。

「西町の酒場で務めている私の幼馴染です。同じ猫の獣人ですよ。」

「また、ネコミミ……この世界は男に媚びるのが基本なのかなぁ……?」

「はい?」

「いえ、何でもありません。」

 凛の呟きに、リィルが首を傾げる。が、彼女が何もないと言ったので、リィルもそのままスルーした。そうして一同は昼食を食べに、西町へと出発したのである。




「と、言うわけだ。」

「ああ、それでいつものパーティじゃないんですね。」

 そうして酒場『英雄の留り木』まで足を運んでいると、ミリアがソラやティナが居ない事に気づいて、カイトが説明したのである。彼女は別に珍しい事でもなんでもなかったので、納得して頷いていた。

「まあ、これからギルドとして活動するのに、ひとつのパーティで活動する理由はあまり無いからな。」

「それもそうですね。」

 カイトの言に、再びミリアが頷く。ギルドを組んでいない冒険者のパーティが同じ面子で活動することはあるものの、ギルドを組んだ人員が同じパーティで活動し続けることは珍しかった。それ故にミリアも納得したのである。

「はい、お待ちどう様です。」

 と、そんな一同に飲み物を配るミニス。幸いまだ昼のピークには早かったらしく、すぐに飲み物が運ばれてきた。

「おい、ミニス!今の内にお前さんも飯食っちまえや!」

 厨房から大声でそう言う店長。どうやら気を利かせてくれたらしい。

「あ、じゃあ一緒に食べよ?皆もいいよね。」

 既に数十回以上も会っている魅衣は、ミニスにも慣れた物であった。なので、魅衣が少しだけずれて、席を詰める。カイトも別に問題無かったし、他の面子にしても何も問題はなかった。なので、そのままミニスも交えて昼食を食べることになる。彼女はどうやら魚介パスタ風のまかない飯を食べるらしく、店長にまかない飯を注文していた。

「え?じゃあ、あなたが桜さんなんですか?無事で良かったですね!」

 そうして、全員の料理が来て、ミニスが以前の桜達が拐われた一件がどうなったのか問い掛けてきたのでカイトが答えた。以前の祝賀会から酒場に来ていなかったので、事情説明ついでに桜達を紹介したのである。

「ええ、幸いなんとか無事、全員助けて頂くことが出来ました。」

「でも、カイトさんって意外とお強いんですね。鉢合わせた冒険者さんが驚いてらっしゃったらしいですよ?」

「ぐぼぉ!ごほっ、ごほっ……」

「きゃあ!カイトさん、大丈夫ですか!」

 その言葉を聞いたカイトが飲んでいた飲み物を咽てしまう。そうして、カイトが咽たのを見て、横に腰掛けた瑞樹―席順は交流会ということでくじ引きで決めた―が大慌てで背中を擦る。

「おう、いや、ワリィ……いや、待て。誰から聞いた?」

 あまりに驚いたカイトは素に戻り、片手で瑞樹に礼を言いつつ、ミニスに問い掛けた。

「え?だってブラッド・オーガを瞬殺したカイトっていう冒険者ってカイトさんのことじゃないんですか?もっぱら酒場ではカイトさんの噂でもちきりですよ。まあ、蒼髪だったって聞きましたけど、暗闇で見間違えたんですよね。」

 ミニスが平然と語るが、どうやらこの酒場ではそれなりに広まっていたらしい。そのカイトなる人物がどうやらカイトであると広まると、一気にひそひそ話が始まった。

 とは言え、この一件は公にはオリヴィエ達が倒した事になっているはずである。それなのになぜかカイトが倒したという事実が広まっていた。大急ぎで思い当たる節を考えるカイトだが、思い当たる節が無い。

「旦那様がいらっしゃらない時に、ソラさんが旦那様について聞かれたので名前を教えてらっしゃいましたから、それを誰かが聞いていたのではないでしょうか。大方酔った勢いで広まったのかと。」

 そう言っていきなり現れたのはルゥ。相変わらず自由気ままであった。

「なるほど……」

 カイトも聞いてみれば納得のいく話である。当時はまだ正体を明かしておらず、オリヴィエ達以外の冒険者達は酒場に戻って飲み直すと言っていた。彼らにはその時黙っているようにも言っていなかったので、話してしまっていても文句は言えない。

 ちなみに、ソラや桜、魅衣を除いて、ルゥの存在を知らない瑞樹達がいきなり現れた白銀の美女に目を丸くしていたが、カイトは原因を考えるのに手一杯で、あまり気にしなかった。

「えーと、どなたですの?」

 と、カイトから説明が無かったので、瑞樹がカイトの袖を引っ張っていきなり現れた白銀の美女の正体を尋ねる。ちなみに、目を丸くしたものの、少し考えてカイトならあり得るかと大きく驚くのは諦めたらしい。

「申し遅れました。私は旦那様の使い魔の一人。ルゥ、と申します。以後、お見知り置きを。」

「あら、これはご丁寧に有難う御座いますわ。」

 そう言って優雅に一礼するルゥ。それを受けた瑞樹も立ち上がって優雅に返礼し、自己紹介を行う。それに続いて、慌てて一条兄妹も立ち上がり―立ち上がったのは瑞樹が丁寧な一礼をした為、釣られてである―自己紹介した。

「お前、もうなんでもありだな。」

 と、瞬は自己紹介をして、溜め息を吐いた。彼ら兄妹は昨日カイトの正体を知ってから、既に何度目の溜め息かを数えるのをやめていた。

「もしかして、先輩、かなりの女誑しですか?それも、重度の。」

「いや酷いな、おい。」

 同じくカイトの正体発覚以降明らかになってきたカイトの使い魔や、クズハといった取り巻き達が全員美女ないしは美少女なので、凛がかなり引いた顔で問い掛ける。カイトは凛と冒険部発足までの数日で何度か顔を合わせているのだが、その度に何故だか口調が辛辣になってきている気がした。と、それに気付いた瞬がカイトに謝罪する。

「いや、すまん、カイト。コイツ、俺以外には辛辣でな。時々毒を吐くが、許してやってくれ。」

「ああ、別に構わん……と言うより、この程度でへこたれてたら公爵家の面々と付き合ってられん。」

「その総元締めが何いってんの。」

 カイトが普通に肩を竦めて別に気にしないと言った事に、ユリィが突っ込みを入れる。

 公爵家に集まった面子は誰もが個性的な面子ばかりである、それがカイトの下した公爵家の評価であった。カイトは自らをして唯一の常人と言って憚らないが、周りから見ればカイトこそが公爵家の総元締めであることに、誰も疑問は抱かなかった。ちなみに、ユリィも自分は普通だと思っているので、似たもの同士であった。

「大丈夫ですよ、旦那様。多少公爵家は女性比率が多いだけです。皇国全体で見ればそれほど特異なわけでは……いえ、美女率は高いですね。」

 そうして、ルゥがカイトをフォローする為皇国の現状を思い出し、更に自分達公爵家の面々を思い返して訂正した。ルゥ自身、容姿の自己評価は上の上と把握しているし、周囲からの評価も同じか、それ以上である。他にも同ランクの女性たちがちらほらだった。カイトお付が全員、このレベルであった。嘗て英雄色を好むの実例、と言われたのも無理は無い。

「やっぱし……天音先輩は美女好きの変態、と……」

 そう言って懐から手帳を取り出してメモしていく凛。

「えーと、凛さん?それは何かな?」

 そうして、垣間見れたメモ書きの内容に一瞬呆気にとられたカイト。凛に引きつった表情で問い掛ける。何が書いてあったのかは、書かれている一同の面子の為にここには記述しない。

「あ、気にしないでください。単に気づいたことを書き込んでいるだけですから。」

 カイトの目に少しだけ見えた記述には、他にも毒のあるコメントがちらほら。何の因果か隣はアルのページらしく、女誑しの部分にカイトの名前へ矢印が追加されていた。

「え?あいつの女誑しまで把握してる?」

 一応学園では口説かないようにきつく言いつけてあるのだが、どこかからかバレたらしい。口説いた女の数と把握している名前が書かれていた。

「覗き魔追加で。」

「ごめんなさい。だから追加しないでください。」

 素直に頭を下げるカイト。女の子の情報網は侮れない事はよく理解していたので、これ以上悪評が追加されるのは避けたい所であった。

「うーん。この調子だとページが足りなくなるかも……ね、先輩。新しい手帳が欲しいんですけど……あ、この手帳カバーはアルさんから頂きました。」

 そう言って笑顔で手帳カバーを見せる凛。この意味する所はカイトにははっきりわかったし、この程度ならば可愛い物であった。

「……わかった。後で文房具店へ寄って行こう。場合によっては取り寄せも視野に入れていい。」

 カイトは天桜の冒険者活動以外にも密かに幾つかの高難易度の依頼をこなしているので、懐事情に問題はない。尚、その依頼料の大半は密かに学園への投資に回されている。

「わぁ、ありがとうございます!さすが先輩ですね!」

 凛はわざとらしく礼を言う。少なくとも、今後当分はアルとカイトは凛に勝てそうになかった。

「……すまん、カイト。今度飯でも奢らせてくれ……」

「……いや、元々オレが蒔いた種……じゃないぞ?よく考えれば全員事情ありだ。」

 瞬が若干申し訳無さそうに言うのを見て、カイトが自分の所為と明言しそうになる。そうして、そんなこんなでドタバタしつつ、パーティメンバー以外に二人を加えた昼食会は、和やかに進んでいったのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。


 2016年1月11日 追記

・誤字修正

 『店員』が『定員』になっていたのを修正しました。『媚びる』が『媚びうる』になっていたのを修正しました。

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