表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第62章 南の国の陰謀編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1197/3945

第1179話 密輸

 『昆虫の王(インセクト・キング)』との一連の騒動を終えて妖精の里でけが人の治療を終えた更に数日後。カイト達はオルガマリーを伴ってマクスウェルへと帰還していた。オルガマリーを伴ったのは、彼女もこちらで報告する事にしていたからだそうだ。


「じゃあ、ありがとねー」

「あいよー」


 マクスウェルの街に入った所で、オルガマリーはユニオン支部に向かうという事でカイトと手を振って別れる事になる。まぁ、単に旅は道連れ世は情け、と言うだけで一緒に居ただけだ。であれば、目的地に到着すればお別れになるのは当然だった。


「さて……じゃあ、ギルドホームに戻ってさっさと薬草をきちんとした形にしてやらないとな」

「そうですわね」


 どこかそわそわした様子で瑞樹がカイトの言葉に同意する。どうやら、ここしばらく相棒と離れていたので顔を見たかったのだろう。カイトとしてもユリィが居るのでわかる感情だった。勿論、傷の具合も気になるはずだ。と、そんなカイトにルーファウスが問いかけた。


「ああ、カイト殿。先に自分達は種を枢機卿猊下にお渡しして良いか?」

「あ、それちょっと駄目だよ」

「ん?」


 ルーファウスに制止を掛けたのはユリィだ。彼女は趣味としてガーデニングをやっている。であれば、その意見には何らかの道理があるのだろう。というわけで、ルーファウスがカイトの肩の上のユリィを見た。


「どういうことだ?」

「簡単だよその種、渡すのなら特殊な薬液に浸しておかないと」

「薬液?」

「うん。カイト、多分用意はしてるよね?」

「まぁな。薬液はアユル様が準備をしておく、とおしゃってたからもう送られてきているはずだ」


 ユリィの問いかけにカイトが笑って頷いた。というのも、当然この依頼を受けたのはカイトだ。一応枢機卿云々ということで種そのものはルーファウスに預けているが、その他の手配は彼がしていた。そしてここらはアユルとも話し合った事でのことだった。

 が、そこらはルーファウスは詳しい事は知らなかった。そんな特殊な花だとは思ってもおらず、普通に植えられると思っていたらしい。やはり男所帯と言える軍に居たからだろう。園芸なぞ興味がない云々以前の問題だった。


「どういうことなんだ?」

「ああ……実はその種、今まで芽生えさせるのが難しかった理由の一因にどうやら種に一手間してやらないと駄目だったらしくてな。それでその為に特殊な調合をした溶液を作って、一時的に浸してやる事になっているらしい。で、アユル様が作った物を一度ギルドホームに持ってきてくれる事になっていたんだ」

「なぜそちらなんだ?」


 カイトの説明にとりあえず納得したルーファウスは、更にカイトへと問いかける。確かにこれは疑問といえば疑問だ。とはいえ、勿論理由があった。


「ああ、それか……実は調べたらウチの施設の方に良い容器があってな。それをあちらの準備が整うまで使わせてくれないか、という話で、向こうの準備が出来たら引き取りに来る事になってるんだ」

「そうなのか……」


 ルーファウスは花にも色々とあるのだな、と貰った袋をしげしげと見つめている。単に植えてはいおしまい、ではないのだ。そういうのを何とかするのも、冒険者の仕事の内だった。


「ま、それはどうでも良いだろ……さて、帰るぞ」


 カイトはしげしげと小袋を見つめたままのルーファウスにそう言って、移動を開始する。あまり街の入り口でじっとしていても邪魔になるだけだ。なら、さっさと移動するだけである。

 というわけで、一同は更に移動し続けて、ギルドホームへと到着する。と、丁度吹き抜けの上の方に桜が見えたので、カイトが声を上げた。


「あ、丁度良い……桜! アユル様からの物は来てるか!」

「あ、はい! 届いて地下の倉庫の隅っこに! それと、おかえりなさい!」

「サンキュ! ただいま! とりあえず先に依頼片付けるから、後で上がるって言っておいてくれ! ルーファウス、こっちだ。他は全員解散で、報告するなり天竜達の所へ行くなり医務室で怪我を診てもらうなりしておいてくれ」

「おーう」

「終わった終わった……」

「レイアの所へ行きませんと……」


 カイトの号令を受けて、三々五々にギルドメンバー達が散っていく。と言っても方向は限られているだ。半分は瑞樹と共にレイア達天竜の所へ、もう半分はそういった者達から荷物を受け取って先に持っていった小道具を片付ける為に倉庫へ行くか、各種の必要な手続きの為に受付に行くか、である。

 カイト達は別途で依頼を受けているのでそちらを先に片付けてしまう、というだけだ。というわけで、カイトは桜の返答を受けて、ユリィ、アリス、ルーファウスの三人と共に地下室へと向かう事にする。


「良し……えっと……」


 カイトは地下室――地下の修練場とはまた別――に入ると、予め置いておいてくれと頼んでいた部屋へと移動する。そうして、その部屋の隅っこに一つの水槽の様な奇妙な物体が設置されていた。


「あった……薬液……オッケ。循環器……問題なし」

「何をしているんですか?」


 何やら色々と機器を弄っている様子のカイトに対して、アリスが問いかける。それにカイトは手が離せないので、代わってユリィが答える事となった。


「まぁ、超簡単に言えば水槽の準備かな。これに入れておいて中の溶液が沈殿したりしないように循環させてやるわけ。適時下に入れてる薬草とか入れ替える必要があるけど……まぁ、それはそれかな。それについては事務の人達に任せてあるから、気にしなくて良いよ」

「ふむ……これが……普通の水槽に見えるが?」

「大本は普通の水槽だからね。と言っても若干手を加えているから……それの確認をしているってわけ」


 ルーファウスの問いかけにユリィはカイトのしている事を解説する。そうして、その一方でカイトは作業を終えたようだ。


「良し……魔力濃度も十分だな。これなら、生育に十分な条件だろう……ルーファウス、袋の中身をそこの網に入れて、水槽の中に吊り下げておけ」

「わかった……にしてもこれだけなのに随分と設備が豪勢なんだな」

「あはは。元々ここに備え付けられている奴だからな……今回貰ったのはお試しって所で種30個だ。ゆくゆくは花壇一面に育てたいそうだ」

「そうなのか……」


 ルーファウスはカイトに指示されたとおり、袋の中に入っていた薄緑色の種を横に置かれていた網目の細かい網の中に入れていく。そうして30個全てを入れ終えた所で、ゆっくりと回復薬の中に浸した。


「……これで良いのか?」

「ああ……じゃあ、最後にこれを撮影して……良し。これで全部終了、と。じゃあ、オレは一旦上に戻るが、二人は顔見せも含めて報告に行って来い。事務に行って先に現像はしてもらっておくようにな」

「わかった。感謝する」

「ありがとうございました」


 カイトの指示にルーファウスとアリスは教国の民として感謝を示す。それにカイトは頷くと、とりあえずルーファウスらと別れて倉庫にしっかりと鍵を掛けて、執務室へ向かう事にする。


「たーだいまー」

「たっだいまー」

「おーう」


 どうやら桜はカイトが倉庫で色々とやっている内に出かけたらしい。聞けばサリアの所に向かったとの事だった。ということで、今日は珍しく詰めていたのは待機する事になっていたソラと由利の二人だけであった。


「なんだ。二人だけか……ちっ。イチャイチャでもしてらいいもんを」

「てめぇと一緒にすんな! 俺はこんなトコで出来ねぇよ!……あ」

「……うぅ」


 どうやら、ソラは言っていてきちんと色々とやっている事はやっていると明言してしまう。まぁ、若い恋人達だ。それもしょうがないと言える。

 が、やはり流石に友人相手に下品な馬鹿話を出来る奴らなら兎も角、普通の少年少女らだ。二人共真っ赤であった。と、それに対してカイトは単に茶化したかっただけだが、まさかの棚からぼた餅にユリィと顔を見合わせる。


「「……おし」」


 相も変わらずいたずらっぽい二人だ。真っ赤な由利を横目にカイトとユリィはソラに背を向けてグータッチで応じ合う。どうやら、また何時かの飲み会の折りにでも茶化すつもりなのだろう。というわけで、楽しみを後に取っておく事にしたカイトは今の事は後に取っておく事にする。


「ま、そりゃ良いや」

「せめて弄って!? どうすりゃ良いかわかんないっすよ!」

「いやぁ、悪い悪い。つっても実はちょっと大急ぎで公爵邸行かないと駄目なんだよ」


 ソラの抗議の声にカイトは謝罪しながらもそう告げる。それに、ソラはどうやらただ事ではない事を把握する。彼が帰ってきて即座に公爵邸に入るのは珍しい。何か事件があった、という事なのだろう。


「どういうことだ?」

「ちょいと厄介な話が向こうで出ちまってな……最悪、ちょっと大捕り物をしないと駄目な可能性がある。冒険部でも人を出す可能性もあってな……そこらで早急に詰めないと駄目になった」

「……わかった。用意しとく」

「ああ、頼む。ということで、オレは一度公爵邸にお目通りに向かった、って帰ってきた奴らには言っておいてくれ。下手に心配は掛けたくないからな」


 カイトはとりあえず荷物を置くだけ置くと、そのままとんぼ返りに執務室を後にしようとする。と、そんなカイトにソラが問いかけた。


「何があったんだ?」

「……密輸品。それも禁制品のな」

「密輸? なんだよ。魔物用の薬でも入ったのか?」

「タバコだよ、タバコ」

「あー……こっちじゃ駄目なんだよな……」


 ソラはそう言えば、とエネフィアではタバコが禁制品扱いになっている事を思い出す。一応タバコ型の薬があるのでタバコという物の知名度はそこそこあるが、普通のタバコが駄目な事は彼も把握していた。


「まぁ、そういうわけでな。見つかっちまったもんは、摘発しねぇと駄目なわけよ。椿もティナ……は、何時もだけどまぁ、とりあえず居ないのはそこら報告入れといて、って所でな。これから対策会議だ」

「あー……お前実はガチの領主だもんな……わかった。こっちは適当に言い訳しとく」

「すまん、頼んだ」


 カイトはソラの申し出を受けて感謝を示すと、そのまま窓から公爵邸へと移動する。と、そうして入った時には既に必要な人員が全て揃っていた。と言うより、必要以上の人員が揃っていた。その必要以上というのは、サリアである。そんな彼女は目を丸くしたカイトを見ながら、楽しげに嘯いた。


「あら、ダーリン。私の所に顔も見せずにご帰宅するなんて……酷いですわね。桜さんから、先程帰られたとご報告がありましたのに」

「おいおい……内容分かってて言ってるんだろ?」

「当たり前、ですわね。それ故私もここに。桜さんなら、我々がしっかり護衛しましたわ」


 カイトの呆れ半分の問いかけにサリアは笑いながら頷いた。どうにせよ彼女にも助力は仰ぎたい話ではある。こういう禁制品だ。真っ当なルートでは作れない。であれば、その時は情報屋の出番だろう。


「さて……じゃあ、まずだ。ティナ、これの成分分析はお前に任せる」

「うむ、早速取り掛かろう。会議の終了までには終わらせる」

「頼む」


 カイトはとりあえずティナにタバコの入った箱を手渡す。兎にも角にも成分を調べて、これがどういう類のタバコなのかを把握する必要がある。

 当たり前の話であるが、こういう非合法な物を作っている所が一つなわけがない。幾つもの組織があって、その中の一つがここに来て露呈したと考えて良い。であれば、まずはどこの品かを調べてやる必要があった。そうしないと次に動けない。証拠もないのに叩き潰す事は出来ないのだ。


「さて……サリア。お前が動いたってことは、幾つか睨んでいる筋があるんだろう?」

「そうですわね……さて、幾らで?」

「おいおい……お前が来る程だ。潰してくれ、って腹だろ? どっかの密輸ルートが邪魔されてキレてるって感じかね」

「あら……育てたのは私ですが、育て方、間違えましたかしら」


 あらあら、と頬に手を当ててサリアが楽しげに笑う。こういう事をするときは決まってビンゴの時だ。それ故、彼女も情報を開示した。


「リデル公より、少々お噂が流れておりますわね。腕利きの冒険者を一人、タバコの入手経路を探す様に指令を下した、と」

「ほう……リデル公が」


 サリアからの情報にカイトは僅かに眉を動かす。とは言え、これは不思議な話ではない。リデル家は商家だ。故に皇国内部の金の流通経路の大半は彼女らが見張っていると断じて良い。であれば、変な流れがあれば当然そこを潰す様に動くのが彼女らの役目だ。


「それで……こちらでもタバコを掴んだ事をあちらにも流しましたの。それで、お金をいくらか融通されまして。リデル家が協働で動いてくれないか、と私を介して申し出が」

「なるほど。それでサリアか」


 カイトはサリアがここに居る理由を理解した。とどのつまり、これはヴィクトル商会とリデル家の商取引だった。どちらも悪銭が蔓延って良い思いは出来ない立場だ。

 私腹を肥やすのならまだしも、サリアはバレた時の痛手――勇者カイトと大精霊の名等に傷が付く為――を考えてそれは出来ないし、リデル家は内通者に即座に皇国に通報される立場だ。どちらも、下手な事は出来ない。出来れば悪銭を断ちたい側だった。

 勿論、悪銭で買い物をしてくれるのなら話は別だが、である。私腹を肥やされるのが駄目なだけだ。経済を回してくれるのなら問題はない。

 が、悪銭が出回るのは裏ルート。彼女らの管轄ではない。となると彼女らからすればさっさと摘発してその悪銭を国庫に入れて、経済を回した方が遥かにお得なのである。


「さて……それで、タバコですわね。これについて幾つかの経路がありますが……国内に二箇所」

「あんのかい」

「当たり前ですわ。あるに決まってます。ま、ダーリンの復帰後には潰せる様にしている、というだけで特段害はないですわ」


 カイトのツッコミにサリアは何を言っているんだ、と言わんばかりの顔で問いかける。治安は領土によってまちまちだ。どこかに暴力団の様な組織があっても不思議はない。そう言う所がタバコの原料となる草を栽培している、という事なのだろう。


「とは言え……リデル家によると、この両方外れらしいですわね」

「マジ?」

「ついさっき、ダーリンの所に来る前の情報ですわ。最も新しい情報ですので、間違いは無いでしょう」

「うあっちゃー……ってことは国外品か……」


 カイトは一気に厄介になった事態にため息を吐く。国内なら彼らの両分だが、国外だと流石にカイトの公爵としての地位は使えない。とは言え、それならそれで領内への流通経路は幾つかに絞れる。というわけで、ティナの解析が終わるまでの間にカイトはその指示を下す事にした。


「クズハ、早急に湾岸警備の者達の締め付けを。ついでに密偵を何時も以上に張り付かせろ。アウラ、お前は陛下に奏上して、ハイゼンベルグ家と協働出来るかやってみてくれ。あの爺は龍族。やっぱタバコに良い感情は抱いていないはずだ。協力は取り付けられるはずだ。ストラ、お前は……」


 カイトは幾つもの指示を矢継ぎ早に飛ばしていく。そうして、カイトはしばらくの間、会議室から禁制品を一掃する為の方針を打ち立てていく事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1180話『情報収集』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ