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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第61章 森の異変編

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第1175話 面倒な事態

 妖精の里で聞いた森の異常を受けて、『昆虫の女王(インセクト・クイーン)』率いる魔物の群れとの交戦に入る事になったカイト率いる遠征隊。そこで『昆虫兵士インセクト・ソルジャー』を中心とした魔物の遠征隊に近い一隊と戦っていたカイト達であったが、その最中。居ないとされていた筈のもう一匹の群れのボス・『昆虫の王(インセクト・キング)』の強襲を受けてしまう。

 とは言え、その『昆虫の王(インセクト・キング)』の介入により、何故か魔物の群れは撤退する事になり、カイト達はけが人の手当てに入る事になる。

 そうして、怪我の手当てが終わった頃。カイトは怪我をした瑞樹に代わってルーファウスに部隊の統率と怪我の手当てを一時的に頼むと、一度状況確認も含めてレミィの館に集まっていた。本来はルーファウスに頼むべきではなかったのだろうが、今回は事態が急すぎたので指揮官が出来る者が居なかった。仕方がない。


「『昆虫の王(インセクト・キング)』が出た?」


 カイトからの報告を聞いて、レミィが目を見開いて驚きを露わにする。彼女もやはり、知らなかったようだ。とは言え、そうなると更に話は厄介な事になる。


「『昆虫の王(インセクト・キング)』まで討伐し損ねたわけ?」

「しか無いだろ……とは言え、相当な手傷は負わせてたみたいだな」


 レミィのしかめっ面での問いかけにカイトは己の推測を語る。そしてこれは断言して良かった。そうして、彼は己で見た敵の状態を語る。


「左腕は完全に両断。身体の各所にもかなりの傷が見受けられた……満身創痍ってのがここまで似合う状況もあるまいよ」

「最後、トドメの時にうっかり油断って所?」

「だろうなぁ……」


 カイトはため息を吐いた。どういうことがあったのかは、今のカイト達にはわからない。が、現実として一番厄介な展開である『昆虫の王(インセクト・キング)』と『昆虫の女王(インセクト・クイーン)』が合流してしまうという事態があるだけだ。


「さて……どうするか……」


 カイトはしばらく、考える。『昆虫の女王(インセクト・クイーン)』の下に『昆虫の王(インセクト・キング)』は向かったと考えて良いだろう。あの撤退はおそらく、群れが分断させられた事で『昆虫の王(インセクト・キング)』が安否を気遣った、という感じだ。

 敵への襲撃よりも己のツガイであり、子の母体となる『昆虫の女王(インセクト・クイーン)』の状況を優先したのは彼らの習性と状況を考えれば妥当な結論だ。『昆虫の王(インセクト・キング)』にはそれぐらいの知恵はある。とは言え、それ故にこうなっては状況は厄介の一言に尽きた。


「厄介だな……一度分断に成功している以上、奴らはもう同じ手には乗ってこない……」


 カイトが苦い顔で呟いた。レーメス伯爵領で取られた群れを分断して各個撃破が不可能になったのだ。おそらく今後『昆虫の王(インセクト・キング)』も『昆虫の女王(インセクト・クイーン)』も傷が完治するまでは一切彼らが造った臨時の巣からは出てこないだろう。

 両者を討伐するには、こちらから出向く必要があった。そして討伐しない限りは、結界は解除出来ない。そしてもうこの現状だ。見捨ててもおけないだろう。


「ちっ……どうするかね。とりあえず巣を見つけ出さない事にはどうしようもないんだが……」

「できれば、巣を作り終える前に終わらせたい所だねー」


 カイトの呟きに応ずる様に、ユリィがしかめっ面で語る。そしてこれはカイトも同意する所だ。が、現状それだけの戦力があるか、と言われるとそうでもない。


「ふむ……と言っても戦力がな……」


 カイトは眉根を付けながら、今の戦力を思い出す。とりあえず彼にとって最重要となる瑞樹の応急処置と傷の手当ては終わらせてある。が、少しの間彼女は解毒があるので眠ったままだ。

 それについてはこの屋敷の中で安静にさせてもらっているので問題は無いが、彼女を欠いたというのは戦力的に些か有難くない。両翼の片方を欠いた形だ。

 最悪はカイトが務めても良いが、そうなると今度は全域を見た上で対処出来る人員が減る事になる。現状、敵の構成を考えてもそれはいまいち得策ではない。


「どうするか……」


 カイトは増援を求めるべきか否か、と考える。と言うより、現状を考えれば軍に依頼して増援部隊を寄越してもらうべきだろう。そう考えたカイトは意を決して馬車に戻る事にしようとした所で、ユリィが何かに気付いた。


「……どうした?」

「森が……ざわめいてる?」

「ん?」


 カイトはユリィと同じように西を見る妖精達に混じって、森の声に耳を澄ませる。そうして感じ取れたのは、何か強大な獣が森に入り込んだ、という情報だ。


「何かが……来る……?」

「……狼と……人? 相当な手練れ……だな」


 ユリィの言葉に応ずる様に、カイトは来訪者を見定める。その気配は時折立ち止まって何かを確認している様子だった。そしてそこから考えられたのは、一つだった。


「ふむ……魔物使いか」

「そうじゃないかな。多分、方角と速度から言って、『昆虫の女王(インセクト・クイーン)』か『昆虫の王(インセクト・キング)』のどっちかを追いかけてきた、って所じゃないかな」

「ふむ……」


 ユリィの推測を聞きながら、カイトは次の一手を考える。わざわざ追ってきたのだ。ならば、何らかの情報を持っている可能性は十分にあった。とは言え、これがまだ味方とは限らない。


「レミィ。一度外に出る。僅かに結界を開いてくれ」

「入れないの?」

「敵か味方か見定めるだけで良い」


 カイトは立ち上がり、ユリィを肩に乗せて移動を開始する。そうして森の結界を解いてもらうと同時に、カイトはルーファウスに一度情報を伝達しておいて、即座に移動して魔物使いと思しき存在の進路上に立ち止まる。


「さて……」


 ここら辺を通りそうかな、と考えたカイトはとりあえずそこに立っておく。狼型の魔物だ。鼻は非常に良いだろう事が察せられる。であれば、こちらが森の奥から出て来た事も感じ取っただろう。

 そして魔物使い(モンスターテイマー)であれば、自分の相棒の言葉の一つも理解出来る。確実にこちらに接触を図るはずだ、と考えたのだ。そして案の定、その数分後。カイト達の前に一匹の巨大な狼に跨った女冒険者が現れた。


「ビンゴ……魔物使い(モンスターテイマー)殿で間違いないな?」

「貴方は?」


 当然だが、女冒険者はカイトの事を何も知らない。別にこの状況で見れば分かる魔物使い(モンスターテイマー)という事が見破られて警戒する必要はどこにもないが、待ち受けている様な形になっていれば警戒もする。


「妖精の里に縁ある者だ。っと……一応、オレも冒険者だ。そちらはおそらくレーメス伯爵領の掃討戦に協力しているという魔物使い(モンスターテイマー)だと思うが?」

「よく知ってるわね……」


 女冒険者はカイトが登録証を提示した事を受けて、自身の登録証をカイトへと提示する。こういう場合に提示されれば提示し返すのが礼儀だ。どうやら、あちらにも敵意はないと考えて良いのだろう。


「オルガマリー・ハインライン。北の出よ」

「カイト・天音。日本人だ」

「日本人? 日本人がなぜここに?」


 オルガマリーを名乗った女はカイトの返答に首を傾げる。これにカイトは別に隠す必要もない、と普通に明かす事にする。


「少々、依頼と所用でここに来ていた。天竜達の治療用の薬草を欲していてな」

「……思い出した。確かやり手の冒険者だという噂ね」

「そりゃどうも」


 オルガマリーはどうやら、カイトの事を聞いていたらしい。そんな彼女の称賛にカイトは肩を竦める。そうして挨拶もそこそこに、オルガマリーが本題に入った。時間は限られている。まどろっこしい社交辞令を長々としている時間はないのだ。


「それで? やり手のギルドマスターさんがなぜここに?」

「仕事だ、と言ったが?」

「あら……それはここに居る事と関係ないわね」

「おっと……これは失礼」


 オルガマリーのどこか挑発的な言外の問いかけに、カイトが僅かに口角を上げて頭を下げる。が、そのためにも聞いておく必要があった。


「貴方は何用でここに来た?」

「もう気付いているんでしょう?」

「と言う事はやはり貴方が、レーメス伯爵領に来ていたというテイマーか?」

「そうなのよ……と言う事は、奴らはこの森に巣を構えたと言う事で間違いないわね?」

「ああ……一度妖精の里へ案内しよう。結界を閉じて、今は襲撃に備えている。先程も襲撃された所でな」


 カイトは一つ頷くと、オルガマリーに背を向ける。それに、彼女も相棒の背から降りた。


「お願いね」

「はいよ……レミィ。森を開けてくれ。予想通りだ」


 カイトはレミィに頼んで森の結界を開けてもらう。兎にも角にも情報を聞く為にも、一度結界の中に入った方が安全だ。それに彼女が追撃に来た冒険者だというのなら、助力を仰げるはずである。一度腰を据えて戦略を寝る必要があるだろう。


「ありがとう。行きましょう。久しぶりにゆっくりと休めるわ」


 オルガマリーは相棒の側面を撫ぜて、カイトの後に続く。そうして、カイトはオルガマリーと共に一度レミィの館へと移動する事になるのだった。




 それから、しばらく。カイトはレーメス伯爵領であった事をオルガマリーから聞いていた。


「っ……やっぱり。傷は塞がっているのね」

「と、見て良いだろう」

「道中、心臓の抉られた冒険者の死体があった。食われたわね」


 オルガマリーはしかめっ面で道中に見た事を語る。『昆虫の王(インセクト・キング)』は別にあの冒険者を倒した後に振り払う暇を厭ってそのままにしていたわけではなかった。道中で冒険者のコアと血肉を捕食する為に、意図的に連れ去ったのである。


「ちっ……厄介か……」

「あら……知ってるのね」

「そりゃ、ギルマスやってるからな。この程度は把握してないとやってけん」


 少々驚いた様子を見せたオルガマリーに、カイトは肩を竦める。『昆虫の王(インセクト・キング)』は他種のコアを取り込んで傷を急速に回復させられる。その速度や回復率はそのコアの強さによって変わるが、冒険者のコアとなるとかなり回復すると見て良い。失った腕はそう安々と戻らないだろうが、その他の傷についてはかなり回復していると見て良いだろう。

 と、そんな会話をそこそこに、オルガマリーが己の見立てを開陳する。どうやら彼女もカイト達と協同した方が良いと判断したようだ。


「そう。まぁ、その上で私の見立てを語れば……おそらくどちらも完治が見えるまで……そうね。半年は巣から出ないと考えて良いでしょう」

「はぁ……」


 オルガマリーの己と同じ推測に、カイトはただただため息を吐いた。そしてそのため息で、彼女もカイトが同じ結論に至っていた事を理解する。


「と言う事は、そっちも同じ推測、と……」

「今そこで悩んでいた所に、貴方が来た」

「そう……はぁ。ごめんね、ほんとに」

「いや……流石に少々迂闊とは思うが……まぁ、片方は確実に貴方の仕損じじゃない。貴方は出来る限りをやっているからな」


 カイトはオルガマリーの謝罪に半分笑いながら首を振る。聞く限りでは彼女は出来る限りをやっているし、『昆虫の王(インセクト・キング)』が来た直後に森にたどり着いている事から、かなり休みなく移動していた事が推測される。

 そもそも彼女が仕損じたわけではない。彼女は『昆虫の女王(インセクト・クイーン)』の討伐には関わっていないし、『昆虫の王(インセクト・キング)』の方は半ば彼女が大怪我を負わせたようなものだ。負った傷を見るに、あれは生きていたのが不思議な傷だった。あれで逃げられる事を想定しろ、というのは些か厳しい。仲間の不手際の尻拭いをしに来た、と言っても良いだろう。


「そう言ってもらえると助かるわ」

「さて……それで問題はどうするか、だ」


 オルガマリーの感謝に応じたカイトだが、それはそれで別に良い。問題なのはそこから先だ。次にどうするか、である。


「巣の場所は?」

「そこもまだ、だ。まさか『昆虫の王(インセクト・キング)』まで生きているとは思っていなくてな。横槍を食らって主力の一人が怪我だ。どうしたものか、と考えていた所に、貴方が来たわけだ」

「あら……ごめんなさいね。それで、その子の怪我は?」

「幸い、どうやら敵も状況が掴めてない状況だったらしくてな。即座に引いてくれたお陰で問題なく。が、今日明日は怪我と毒でリタイアだな」


 カイトは瑞樹の容態に言及して、肩を竦める。別に彼女の謝罪が欲しい訳でも無いし、今回は不運だった、と思うだけだ。


「そう……」


 なら、カイト達が悩んでいたのも道理か、とオルガマリーは判断する。と言うより、主力を片方欠いた状態で突っ込む程バカでは無い、と言う事だ。そしてであれば、と彼女が申し出た。


「なら、私とあの子がその代役を務めましょう。あの子の鼻なら、巣の場所まで案内出来るはずよ」

「良いのか?」

「元々、仕事の不手際だもの。しょうがないわ」


 オルガマリーは肩を竦めてカイトの求めに応ずる。それに彼女としてはどうにせよマクダウェル領に入るつもりではあった。もののついで、と言っても良かった。


「そうか……こちらとしてもランクAの冒険者の助力が貰えるのなら万々歳だ。できれば敵の体制が整うまでに片付けてしまいたいからな。今から軍に依頼しても面倒になりかねん」

「オーライ。じゃあ、早速行きましょう。今ならまだ、手負いのはずよ」

「りょーかい」


 カイトはオルガマリーの要請を受けて立ち上がる。出来ればこちらも傷を癒やしたい所であるが、傷の治癒であれば向こうの方が長けている。下手に時間を掛けても余計に面倒になるだけだ。

 なら、ランクAの冒険者の助力を得られた事を天佑とみて、一気に突き崩す方が良いと判断したのである。そうしてカイトは今度はこちらから打って出る事にして、無事な面子を率いて出撃する事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1176話『追撃』

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