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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第61章 森の異変編

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第1170話 迷いの森へ

明日から断章・15の投稿を開始します。そちらもお願いします。

 カイトはルクセリオン教国枢機卿・アユルの依頼を受けて、『翡翠花(ひすいばな)』とも『グリーン・コスモス』とも呼ばれる花の種か苗を入手する事になる。

 というわけでまずは用意を整える事にしていた彼であるが、その最中に以前の『虹を纏う獣』との戦いで怪我を負った天竜達の為の薬を欲していた瑞樹達、枢機卿の依頼であれば自分達も行かねばならないだろうと申し出たルーファウス、アリスの兄妹と共に妖精達の里へと向かう事になっていた。


「へー……グリーン・コスモスかー。凄いの育ててるんだ」

「ああ、やっぱりお前は知ってるのか」


 その妖精達の里への道中。妖精達の里へ行くのなら自分だろう、という事で当然の様に同行していたユリィに対して事情を説明していたカイトであるが、やはり彼女はグリーン・コスモスについてを把握していたようだ。非常に感心している様子だった。と、そんな様子にアリスが少し興味深げに問いかける。


「知っているんですか?」

「うん、勿論ね。と言うより、園芸家の中で知らない人は居ないんじゃないかな」

「そう……なんですか?」

「うん……ほら、さっき凄いの育ててる、って言ったでしょ?」


 アリスの問いかけにユリィは先程の己の言葉を指し示す。彼女とて一応は『冥界華(めいかいが)』と呼ばれるこの世で最も生育の難しい花の生育の第一人者の一人――勿論、アリス達は知らないが――だ。

 その彼女が凄いというのだから、よほどなのだろう。と、そうして凄い事を再度明言したユリィが少しだけ解説を行ってくれた。


「グリーン・コスモスの生育が確立したのって今から100年ぐらい前……あれ、100年前は死んだので、確立は150年前だったかな……ま、どっちでも良いか。とりあえずまだ比較的最近の事なんだよね」

「それは聞いた事があります。教国でもアユル様がお育てになられた事で、そこそこ知名度がありますから」

「そっか。それはそれで因果なのかも……まぁ、それはいっか。とりあえず100年ぐらい前にエルフのえっと、なんて言うんだったかな。ああ、シュルティって言う人が確立したんだよ。で、その生育条件がすごくてさー。私、思わずこれは私には向かない、って投げたぐらいだもん」


 ユリィは笑いながら、自分が育てるつもりはない事を明言する。彼女が向かないというぐらいなのだから、どうやら非常に根気の要る作業らしい。というわけで、カイトがジト目だった。


「お前が投げるってぐらいなんだから、相当めんどくさいってわけか」

「面倒くさいよ、ホント。だってまず発芽まで一ヶ月、開花まで最短一年だよ? その間水とか気温とか生育条件に応じてかなり事細かく調整しないと行けないから雨が天敵で、発芽まではどんな時期でも温室が必要だったり、発芽して植え替えが出来てからも常日頃から気にかけておかないといけなかったり……」


 ユリィは非常に嫌そうな顔でカイトに対して『グリーン・コスモス』の育て方を語る。そして確かに、これであれば彼女もよほどの思い入れもなければ育てたりはしないだろう。相当面倒くさそうだった。とは言え、その手間に見合っただけの美しさはあるし、そしてそれ故に良い所もあった。


「まぁ、そのかわり一度開花すれば雑草とかの手入れさえしていれば一年は保つから、エルフ達はプロポーズに使ったりしてるみたいだね。昔はエルフの若い男達は意中の相手に告白する為に森の奥深くにまで取りに行っていた、って言う程だし、今でもプロポーズはこれっていうド定番でもある。丁度花の色も彼らの好む翡翠色だし、枯れにくいからね。花言葉は末永い愛を誓う、っていう所らしいよ」

「へー……」


 ユリィの言葉にアリスが僅かにロマンチックさを感じていたようだ。どこか年頃の少女らしい憧れが滲んでいた。


「では、その育て方を見つけた方もそういう形に憧れたのでしょうか」

「うーん……どうなんだろう。結婚した、とかは聞いたこと無いんだよね」

「そうなんですか?」


 ユリィは古い記憶を思い出す様にしてアリスの問いかけに答えたが、そんな彼女にアリスはさらに問いかけた。が、それに対してユリィは言いにくそうだった。


「あ、あー……うん。実はまぁ……その人、この生育条件を見出した後、捕まっちゃったらしいの」

「捕まった?」

「うん。その、当時の教国に……その後は殺された、とか運良くどこかに逃げ延びて隠れ住んでる、とか色々聞いたけど……多分、続報を聞かないのはそういう事なんだと思う」

「っ……」


 ユリィの歯切れの悪い言葉にアリスも僅かにバツの悪い顔で口を閉ざす。当然だが、アリスは騎士として教国の歴史は学んでいる。実はこの100年程前というのはかなり強硬派の教皇が出ていた時代だった。

 であれば、そこで多くの異族が殺された事は察するにあまりあった。どうやら、その犠牲者の一人に彼女の名もあったというわけなのだろう。


「……」


 図らずも、微妙な空気が場を満たす。やはりアリスとしても自分達の祖国が殺したとあっては何かを言い難い。と、そんな微妙な空気であったが、それは幸いにして瑞樹が来てくれた事でなんとか緩和する事になる。


「ああ、カイトさん。こちら、出発の準備が出来ましたわ」

「ああ、そうか。悪いな、そっちは瑞樹にまかせて」

「いえ。これでも竜騎士部隊の隊長の一人ですもの。それぐらいは職務としてやらせて頂きますわ」


 カイトの感謝に瑞樹が笑いながら、彼の横に腰掛ける。今回、カイトが親しくする女性達で同行するのは瑞樹一人だけだった。勿論、瞬やソラ達も同行していない。

 今回はそもそもカイトとアリス、ルーファウスの三人を除けば遠征の理由は依頼ではない。天竜達の怪我の治療の為の材料集めだ。であれば、竜騎士部隊に関わりのある由利ならば兎も角、他は同行する理由は薄い。カイトが出向く以上はそれ以外は残るのが当然の判断だろう。


「良し……じゃあ、行くか」


 瑞樹達の準備が整ったのを受けて、カイトが号令を下す。幸い以前の『虹を纏う獣』との戦いでは地竜達は怪我をしていない。なのでそちらは普通に動けるので、竜車で急ぎ足で向かうつもりだ。そうして、彼らはその後2日程度掛けて、妖精達の森へと向かう事になるのだった。




 さて、そんな会話から数日。カイト達は再びマクダウェル領マクスウェル北西にある妖精達の住まう森へとやってきていた。


「またここか……」

「ここ、まだ秋来てないねー」

「ここ、紅葉したっけ?」


 カイトはまだ青さの残る木々を見ながら、そう呟いた。一応、ここら一帯は広葉樹の森だ。なので冬にはきちんと葉は枯れる。が、紅葉が見られるかどうかはまた別だ。


「一応、奥の方には紅葉があるから紅葉は見られるよ……そこまで行ければの話だけど」

「そんな所か……おーい! ここらで野営地設営する奴は野営地頼む! で、天竜に乗る奴らは奥へ行くぞー!」


 カイトは手を鳴らして号令を掛ける。今回はかなり奥にまで行く可能性がある為、地竜達はここに置いていく事になっている。更には今回は道中の移動速度を考えて地竜は複数で来ており、流石にそれを森の中に入れるのは安全の観点等から問題が大きかった。

 なので森の外に地竜達とその御者となる竜騎士達の為の野営地を一つ設置して、カイト達『翡翠花』を手に入れる面子と瑞樹ら天竜達の為の薬草を収集する面子は妖精達の里にキャンプを設営させてもらう事にしていたのであった。というわけでカイト達は地竜に乗る者達に後を任せると、必要なキャンプ用品を背負って移動を開始する。


「うーん……」

「どうされました?」


 と、そんな道中。少し眉の根を付けて訝しむカイトに瑞樹が問いかける。前もそうだったが、この森は常には妖精達が守っている結界の様な物がある。それを解除してくれない事にはカイト達ではどうしようもないのだ。そういうわけなのでこちらの存在を示す様に歩いていたわけなのであるが、そこで何かを感じていたらしい。


「……物音、しないな」

「うーん……確かにそうなんだよねー」


 カイトと同じ顔で首を傾げるユリィもまた、どうやら気付いていたようだ。何時もならある意味での盛大な歓迎があるはずなのに、今回は何も無い。カイトとユリィが来たというのにそれは可怪しかった。


「何か碌でもない事を考えているか」

「それとも碌でもない事が起きてるか、かなー」


 カイトの言葉を引き継いでユリィが原因を考える。基本、妖精達が何を仕出かすかというのはカイト達にもわからない。こうやって楽しんでいる可能性は無くもない。

 が、同時にやはり出てこないのであれば、碌でもない事が起きている可能性はあった。と、そうして僅かに立ち止まって考えていたカイトであるが、物音が響いた事に気がついて意識を切り替えた。


「……はぁ。別のお出迎えはある様子だな」

「だねぇ」

「戦闘準備。魔物が来る。方角は東。全員、荷物を一度地面に降ろせ」


 カイトはヘッドセットを通して全員に通達する。どうやら敵の移動速度はかなり速いらしく、時間はさほど残っていなさそうだった。


「カイト殿。こちらが前線に出る。後方支援を頼めるか?」

「あいよ……ルーファウス、わかっていると思うが森を延焼させるなよ」

「心得ている」


 カイトの忠告にルーファウスは振り向く事なく頷いた。彼の得意属性は火。あまりバカスカと使われては延焼してしまう可能性がある。使用には十分に気を付ける必要があるだろう。更にはそうなるとアユルからの依頼である『翡翠花』の入手も難しくなるだろう。どちらにせよ無理は無理だった。


「さて……何が来るか……」


 カイトは小さくそう呟いた。今回、部隊の構成としては竜騎士達が大半だ。そして竜騎士の基本的な兵装はルーファウスと同じ片手剣と盾か、槍等の取り回しの良い武器と盾だ。

 なので前衛の層はかなり厚いと言える。が、逆にそういうわけなので後衛については層が薄い。というわけで、カイト、ユリィ、アリスの三人が後衛に回る事にした。


「……」


 しばらく、沈黙が周囲を満たす。が、これは嵐の前の静けさ。単に全員が意識を集中しているだけだ。とは言え、静けさが訪れた事は訪れた。なので鋭敏なカイトとユリィの耳には、敵の出す音が聞こえてきた。それはどこか、蜂の飛ぶ様なブーンという音だった。


「……これは……カイト。血清、大丈夫だっけ?」

「一応、持ってきてはいるが……戦闘中に使える程甘くはないだろ。『殺人蜂(キラービー)』だな。全員、毒に気を付けろよ。瑞樹、お前は少し後ろに下がれ。盾で防げるならまだしも、尻の毒針は掠っただけでも拙い。お前は回避に専念しろ」

『わかりましたわ』


 カイトの指示を受けて、瑞樹が僅かに後方に下がる。そして、それとほぼ同時。カイト達の視界の中に幼児程の大きさの巨大な蜂が現れた。数は15匹程。総数としてはこちらよりも多い。瑞樹を下がらせたのは正解だろう。囲まれては流石に危険が大きい。


「来た! 全員、尻の毒針に気を付けろ! 動きを止めるだけで構わん! アリス、ユリィ! 動きを止めた奴からこちらで仕留めるぞ!」

「「「おう!」」」


 カイトの指示を受けて、一斉に全員が戦闘に入る。とは言え、やることは決まっている。敵は空中を自由自在に飛び回る上、あまり大きくはない。ソラの様なカウンターをメインに戦えるならまだしも、竜騎士達の大半はそういうわけにはいかない。なので主には敵の攻撃を防ぐ事を主眼とした戦いだった。


「良し……アリス、しっかり狙え」

「はい」


 カイトはアリスにアドバイスを送りながら、高速で動く『殺人蜂(キラービー)』をしっかりと見据える。蝶のように舞い、蜂のように刺すという言葉が非常によく合う敵だ。

 戦闘中なので超音速で動き回る事は無いものの、蜂の様に空中を自由自在、縦横無尽に飛び回る敵を狙うのはかなり難しい。狙えるのなら、しっかりと狙うべきだろう。


「さて、と」


 カイトは双銃を構え、戦場全体を俯瞰する。とは言え、やる事は簡単だ。どんな高速で飛び回ろうと、攻撃の瞬間には動きを止める。そしてその動きを予測する事も容易い。


「ほいよっと」


 カイトは気軽に双銃の引き金を引く。敵を冒険者の等級に当て嵌めれば所詮はランクC程度。攻撃の瞬間なぞ見破るのは容易い。であれば、そのタイミングを狙い定めて魔弾を打ち込んでやれば良いだけの話だ。


「はぁ!」


 その一方、ルーファウスも危なげなく討伐を行っていた。こちらはやはり実戦経験が違う為、カウンターを完璧に習得している。そしてそのカウンターにしてもやはり天才と言われるだけの技量が見え隠れしていた。


「へー、まさに飛んで火に入る夏の虫か。上手いな」

「かたじけない!」


 カイトの賞賛にルーファウスが礼を述べる。彼は盾で敵の攻撃を防ぐと同時に盾を中心として火炎を放出し、飛び込んできた敵を焼き払っていたのだ。これならカウンターと防御を一遍に両立させられる。毒液も消し飛ばせるので後始末も気にならない。

 が、やはり盾を中心として炎を発生させるのは難しい。下手にやってしまうと火炎放射器の様に周囲を燃やし尽くしてしまう。そうならない様な加減が難しかった。ルーファウスはその点、敵一体を取り込めるだけの規模に抑えられており、それは確かに天才の名に恥じぬ技量と言えた。


「他は……まぁ、それは望むべくもないか」


 ルーファウスの動きを見たカイトは更に他の動きを見るも、浮かぶのは苦笑だけだ。やはりルーファウスほどの腕は望めない。と言うより、ソラでも無理な領域で、おそらく部内であればアルだけが可能とする技量だろう。竜騎士達に望むべくもない事だった。


「しゃーない。ユリィ、ちゃっちゃとやっちまうぞ」

「オッケー」


 カイトの言葉にユリィも頷いて、竜騎士達を攻撃して動きを止めた敵から早急に討伐していく。そうして、この数分後には十数体居た『殺人蜂(キラービー)』の群れは完全に討伐される事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1171話『カイトの苦手なもの』

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