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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第61章 森の異変編

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第1168話 探り ――アユルの場合――

 『虹を纏う獣』に端を発する事件によって査問会という名の会議を得たカイトは、その後マクスウェルへと帰還すると今までの事を利用してルーファウスを通してアポイントを取り、アユルへと探りを入れるべく彼女が常日頃控えているルクセリオ教の教会へとやってきていた。

 そうして先方からの命により同行者となったアリスと共にアユルの下へと訪問を果たしたカイトは、とりあえずアユルからのもてなしを受けるととりあえずはまずはとりあえずの事情説明から入る事にしていた。


「ええ。ルーファウス殿には少々、無理をさせてしまいましたから……」

「いや、気に病む事はない。あれとて名家であるヴァイスリッター家の嫡男だ。戦いで些か無茶をする事は十分に把握していた事だろうし、ルードヴィッヒ殿とてそれぐらいは理解して送り出している。君はそして全員が生き残れる可能性が最も高い作戦を練り、その為に君自身も最善を尽くした。十分に理解してくれるさ」


 カイトの言葉にエードラムが慰めを送る。まずカイトが行ったのは詫びだ。事実は事実として、カイトはルーファウスに無茶をさせた。そしてその結果検査とは言え入院させてしまったのは事実である。預かった身として、先方に謝罪しておくのが筋だろう。その筋を通しただけの事だった。


「そうですか……ありがとうございます」

「うむ……にしても、そうか。かつての邪神……ふむ……虹か。厄介だな……」

「その一件については教皇猊下も気にされています。私からも一言言い含めておきましょう」

「その方が良いかもしれません。私も軽く皇都で伺った事ですが、どうにも神々もかの邪神がそろそろ蘇るのでは、と危惧されているらしく……」


 エードラムが考え込んだ為、その後を引き継いだアユルの言葉にカイトは一応の形としてアドバイスを送っておく。これは皇国としても教国が警戒してくれるのであれば悪い事ではないと判断している。なので明かしても問題はない、と判断したのである。と、そんなカイトに対してエードラムが問いかけた。


「ふむ。その場合に君たちはどうするんだ?」

「我々、ですか? 我々はおそらく、皇国に協力する事になるかと」

「ふむ……何か手を考えている、と考えて良いか?」


 カイトの返答にエードラムが更に問いかける。とは言え、これは実はカイトは隠す必要がないと考えていた。というのも、実は公表出来る対策を一つティナから提示されていたからだ。


「ええ。以前の大陸間会議の折り、我々がレインガルド地下の遺跡より特殊な神器を入手した事はご存知ですか?」

「ああ、聞いているとも」


 カイトの問いかけにエードラムが頷いた。ここらはカイト達も義務として皇国に報告しており、そして皇国も会議の折りに実績の一つとして世界各国に公表していた。


「その力を使えば、一時的とは言え虹を退けられる可能性があるかもしれない、と皇都で指摘を受けまして。おそらくそれを使い公爵軍に助力する事になるかと思われます」

「ふむ……一応伝え聞く範囲では確かあれは君たちでなければ適用されないという事であったか」

「ええ、そうなります。あれは先史文明が召喚術の実験にて手に入れた日本の神器。故に日本人である我々か、術者に親しいとされている人物にしか適用されない様子です」

「ふむ……一応、聞いておきたいのだが」

「ルーファウスと彼女の事ですね」


 エードラムの言外の問いかけに、カイトは緊張を滲ませて何時も以上に無口なアリスに視線を向ける。それに、エードラムも頷いた。もし万が一の場合には教国からの指示が得られるまでの身の振り方を考える必要がある。その為にも、二人がどうなるのかを把握しておくのは重要だろう。


「ああ。二人も範囲に入るのだろうか」

「おそらく、範囲に入ると思われます。アリス、弥生さんは知っているな?」

「あ、はい……えっと、彼女が?」

「ああ」

「どのような人物なんだ?」


 エードラムがアリスへと問いかける。ここらは報告書には細事としてまだ記されていない事だ。エードラムが知り得ないのも無理もない。


「被服科……防具等の修繕をしてくれている方です」

「なるほど……そう言えば以前見かけた時に僅かにコーディネートが出来ていたが」

「っ……はい」


 エードラムの僅かに茶化す様な言葉にアリスが僅かに恥ずかしげに頬を朱に染めながら頷いた。見られていた、と気付いたのだろう。


「あははは。まぁ、こういうわけで親しくしているかと」

「そうか。それは僥倖だ」


 アリスが伝手を得られているのであれば、必然ルーファウスもそこそこ親しくしているのだろう、とエードラムは理解する。そしてであれば、もし万が一の時には彼らを主軸として戦略を構築する事が可能だ。良しとしておくべきだろう。


「ふむ……そうか。なら、万が一の場合にはなんとかなりそうか。うむ、かたじけないな。本来なら秘しておきたい情報だったのだろうが……」

「いえ。そちらからお力添えを頂いている以上、ここらは明かさねばならない事でしょう。私の裁量ですが、皇国の方々とて何かを言われないはずです」


 エードラムの感謝にカイトは首を振った。これで、とりあえず一応の所の事情説明は終わらせられたと判断して良いだろう。であれば、後は適度に雑談をしつつ、探りを入れるまでだ。というわけで、カイトはそこから少しばかり社交的な会話を行う事にする。


「ええ。驚きました。教会の騎士達は不死者達に対して特段の力を有するとは聞いていたのですが……まさかここまで強かったとは」

「その……持ち上げすぎです」


 アユルの望みを受けて今までの出来事のざっとしたあらましを語っていたカイトの賞賛に、アリスが恥ずかしげに少しだけ俯いた。それに、エードラムが興味深げに頷いた。


「ふむ……死霊魔術(ネクロマンス)か。また厄介な魔物が現れていた物だ。アリスもルーファウスもお手柄だ」

「いえ……ありがとうございます」


 エードラムの言葉にアリスが気恥ずかしそうに礼を述べる。それを見て、カイトは更に続ける事にした。


「ええ、本当に厄介だった。そう言えば……教会の方々は死霊術者(ネクロマンサー)とはよく?」

「ああ。あれらは非常に厄介であるし、それになにより死を冒涜する行為でもある。そう言えばアユル様も以前は……」

「ええ。一時期死霊魔術(ネクロマンス)対策の魔術を研究しておりました」


 エードラムに投げかけられたアユルがその問いかけに頷いた。それに、カイトは僅かに興味を持った様子を見せた。


「修道士なのに、ですか?」

「ええ。貴方達風に言えば、所詮、奴らは魔物ですが……それにより操られる死霊や死体達は元はと言えば人の子。であれば、見過ごすわけにも。それに……」


 アユルは一度死霊魔術(ネクロマンス)という魔術そのものへの嫌悪感を滲ませて、その上でと言葉を区切る。


「……私が生まれ育った村は疫病により滅びましたから。どうしても、言いようのない無念さを懐き死した者達も多い」

「ああ、なるほど……確かに、そういう場にこそ死霊魔術(ネクロマンス)は最大の効果を発揮する」

「ええ」


 アユルは僅かに無念さを滲ませながら、カイトの言葉に同意して頷いた。やはり無念さを滲ませた魂と、満足を得た魂とでは死後が微妙に異なってしまう。

 無念さというやりきれない気持ちが残れば、その場にはどうしても死にたくない、どうしてこんな所で、という生命であれば抗えぬ感情が残留思念として色濃く残る事が多いのだ。

 そういったある意味では黒い感情の残る場でこそ、そういった気持ちを利用する死霊魔術(ネクロマンス)は最大の効力を持つ。死霊魔術(ネクロマンス)はその無念さを利用し、力を与えてやる事でまだ生きられると勘違いさせて誑かすのである。


「私が生まれ育った村は辺境の地でした。農耕と酪農が盛んなのどかな穀倉地帯でしたが……故に邪法や邪教……いえ、これは貴方達の異教という意味ではなく、本当に邪神崇拝という意味での邪教です。それら、人に害意を持つ者達が隠れ住む地には近かった」


 一度故郷への哀愁を滲ませたアユルだが、そこから更に僅かな悲しさを滲ませる。辺境の地というのはやはり中央から目の届かない場所は多い。そう言う所に例えば邪神崇拝者が隠れていても不思議はないだろう。

 そしてアユルの言葉を読み解けばおそらく、実際に隠れ住んでいたという事だ。それに危うく使われかけたのだろう。そこから対死霊魔術(ネクロマンス)の、謂わばエクソシストの様な研究者になった、と考えればアユルの半生にも筋が通った。


「そうですか……ああ、ありがとうございます。辛いでしょうに……」

「いえ。もう母が死にすでに20年近くが経とうとしています。もうあの頃の思い出も殆ど掠れて……ただ父が司祭様に助力を乞うとルクセリオンへ向かい、気付けば父の腕の中で眠っていた事を記憶するばかりで……」


 カイトの感謝と謝罪に対して、アユルは右腕の腕輪を撫ぜながらそう照れ臭そうに語る。それに、カイトは内心で彼女が白であると判断した。


(嘘は無い、か……皇国が得ている情報とも合致するな。この憐憫や得も言われぬある種の怒りは偽ろうとして偽れる物でも無し。であれば、彼女は根本的に死霊魔術(ネクロマンス)に対して嫌悪感を抱いている)


 カイトはアユルが死霊魔術(ネクロマンス)を語る時、ある種の怒りが瞳に宿っていた事に気付いていた。おそらく当人さえ気付いてもいない様な僅かな怒りだ。これを意図的に演ずる事は難しい。

 出来るとすれば魔術で記憶や経歴を偽装して、それが自分自身にさえ真実と思わせている事ぐらいだ。自己暗示という奴である。ある意味では自分さえ騙しているのだから、演技ではない。

 それに流石にそんな魔術が使用されていれば皇国の調査官とて気付くだろうし、彼らが気づかないでもカイトとティナが気付かないはずがない。勿論、非魔術による自己暗示も可能だが、枢機卿がそんなものを覚えるとは思いにくい。それは高度なスパイ達が覚える芸当だし、皇国の把握する限りでのアユルの経歴にそれを覚えられる形跡は無かった。

 であれば、これに演技は無いと考えて良かった。と、そう判断したカイトは頭で考えながら、口では会話を途切らせない様に腕輪に注目して問いかけた。


「……もしや、それは教皇猊下より?」

「……あ、これですか? いえ、これは母の唯一の形見の様な物でして……父より、お前が肌身離さず持っていなさいと。多少華美なのは理解しておりますが……母の形見ですし、母も父より頂いた物だと存命の折りに」


 アユルは恥ずかしげに緑色の宝石の取り付けられた腕輪について語る。材質は金色で、たしかに修道女が身に着けるには些か華美だ。が、確かに愛し合う男女の贈り物であると考えれば、不思議もない。

 選んだ者、つまりは教皇ユナルのセンスなのかデザイン性は良いし、僅かに感じる力から何らかの魔術刻印が刻まれている様子だ。

 その何らかの魔術刻印とて、敢えて言えば魔力を封じたり攻撃に対する障壁を展開したりする類の物だとカイトは見抜いていた。異族達に身に着けさせれば、異族達の因子を封ずる事もできるだろう。

 刻印やデザイン等は教国の系統なので流石にカイトも見知らなかったが、形式としては特に珍しい類の物ではなかった。そしてこれなら、皇国側が持ち込みを許可したのも理解出来る。出来るのは本当にそれぐらいだからだ。

 攻撃の意図は一切無いし、出来る事でもない。敢えて名付けるのであれば、『守りの腕輪』という所だ。皇国ではそう言う名で売られている似た系統の腕輪もある。であれば、司教が想い人に渡すには良い物だろう。


「そうなのですか……教皇猊下にこういうのも可笑しな話ですが、良い父君なのですね」

「ええ。良い父でした」


 カイトの言葉にアユルはどこか寂しさを滲ませながらはっきりと頷いた。と、言ってから、アユルが慌てて訂正する。


「あ、いえ。今も良き父です。私の出立に際してもわざわざ時間を空けて来てくださいましたし……」

「そうでしたか」


 カイトは照れたアユルの言葉に頷きながらも、一瞬のミスを見逃さなかった。


(ふむ……)


 気にはなる。が、突っ込んで聞けるわけもなし。と、その一方でアユルは突っ込まれない為、話題を別に持っていく事にしたようだ。


「ああ、そうだ。そう言えば……我々からの依頼も受けてくださるという事でしたね?」

「あ、ええ。可能な限りという話で、ですが……」

「一つ、頼まれてはくれませんか?」

「お聞かせ願えますか?」


 カイトはアユルの言葉に頷くと、先を促す。そうして、彼女からの依頼内容が語られる事になり、カイトはそれを聞き届けてから戻る事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1169話『母の花を』

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