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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第60章 湖底の遺跡編

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第1163話 大いなる戦いへ

 『虹を纏う獣』を討伐する事に成功したカイトは、その後すぐにマクダウェルへと帰還していた。一応被害は出ていないと思うが、きちんと確認をしておくべきだろう。というわけで、基地に戻ると即座にクズハ達公爵邸へと通信を開いた。


『はい。それについて被害は見受けられず。強いて言えば、お兄様と敵の戦いの余波に驚いて腰を打った等の仕方がない被害のみと』

「そうか。なら、大丈夫だな」


 とりあえず目立った被害報告はなさそうだ、とクズハからの報告にカイトは安堵を浮かべる。一番気にすべきはそこだろう。そうしてそこを聞くと、次に聞くべき内容は決まっていた。


「軍の観測データは?」

『はい。これについてはお姉様が現在精査を急いでおります』

「そうか。であれば、そちらについては研究所に協力する様に厳命しておけ。あの敵は今後の敵の主力となるだろう」

『わかりました。手はずを整えます』


 クズハが頭を下げ、そのように手配を整える。そしてそれを待つ間に、カイトは他の事を終わらせる事にする。


「オーア、魔導機の調子は?」

「あんたねぇ……無茶してくれちゃって……」


 カイトの問いかけにオーアが半眼で睨みつける。クズハと通信で話し合っていた様に、カイトは軍の基地に帰っていた。理由は勿論、『虹を纏う獣』との戦いで得られたデータを回収する為だ。


「ご、ごめん……」

「はぁ……これでも駄目とか……いや、今回ばかりは仕方がなかったのかもしれないけどさ……はぁ……これ、結構時間掛けたんだけど……壊れる時は一瞬だね……」


 オーアは非常に無念そうにため息を吐いた。どうやら、魔導機の状態はかなり芳しくないらしい。まだ試作機の段階であるので仕方がない、と理性でわかってはいるらしいが、それでも壊れてしまえば製作者としては悲しい物があるらしい。


「はぁ……まぁ、とりあえず。敵から得られた情報から対策は幾つか考えついてるよ」


 気を取り直したオーアがカイトへと報告する。ここらがわかっているからこそ、オーア達制作陣としても文句は言えない。カイトとて他の者達を守る為に幾つもの対策を見つけ出すべく魔導機に無茶をさせたのだ。賞賛されこそすれ、怒られる道理はない。


「すまん。教えてくれ」

「ああ。対策そのものは簡単だよ。逆止弁を設けてやれば良い」

「なるほど……所詮は流路を逆流してきているだけだからか」

「そういうことだね。と言ってもこれは一時的な物だし、そもそもこれを使うとその間こっちからもエネルギーを送れないわけだから、そこから先は使えなくなる。パイロット保護に重きをおいた処置って所だね」


 オーアはとりあえず現在立てられている対策をカイトへと報告する。確かに、それが一番簡単かつ確実なやり方だろう。逆流するというのなら、そもそも流れない様にしてしまえば良い。当然の判断だ。が、これはこれで面倒な話があった。


「だがそうなると虹の侵食によっては動けなくならないか?」

「そこ、なんだよね面倒なのは……」


 オーアが頭を悩ませる。どうやら、ここらが一番困難な所なのだろう。逆止弁で封をしてしまう、という事は彼女自身が言う様に経路を遮断してしまうということだ。

 彼女自身が言っている様にそこから先の機能はまず使えないし、下手をすると相手に乗っ取られる可能性もある。どうにかしなければならないのは、事実であった。


「そもそも魔道具は魔力の経路がある以上、どうしようもないといえばどうしようもないんだけどさ……魔導機や大型魔導鎧なんて言ってしまえば魔道具の塊だからねぇ……」

「ふむ……」


 道理だ。魔導機はそもそも魔道具の塊。腕一つを動かすにしても幾つもの魔道具が搭載されている。武器一つにしても大剣や大鎌の様な簡易な武器を除けば魔銃なぞ魔道具の最たる例だ。足や腕一つを操られるだけでも十分に拙い。


「まぁ……非常に厄介な話だし本末転倒なんだけど……大型魔導鎧は使うべきじゃあないね」

「本当に本末転倒だな。大きな奴と戦う為の大型魔導鎧だってのに……」

「仕方がないさ。この相手は魔道具そのものを乗っ取ってくる。おそらく先史文明なんて思い切り乗っ取られたんじゃないかな」


 オーアは今の交戦結果から、大凡の推測を告げる。封印等の経路を閉ざす類の物だから有効だったのであって、それ以外となるとどうしようもないだろう。おそらく物理的な魔道具を使っての封印はかなり危険なはずだ。


「ふむ……とりあえず離れればなんとかなるんだろうが……」

「感染しきらない限りは、だけどね」

「ふむ……とりあえずそれにどれだけの猶予がありそうだ?」


 カイトは今までの情報から、感染式の魔術に完全に染まるまでの猶予を問いかける。それに応じて、対処を考えるべきだろう。こういう感染式の魔術では空間を途絶している魔導機のコクピット防御機構もいまいち効果が薄い。こればかりは魔術を使う以上、仕方がない話なのだ。


「んー……規模や流れている出力に応ずる、って所かな。総大将の様に一気に押し流せる程の力だと永遠に無理だし、逆に一切流れていなければ一瞬で乗っ取られる可能性は高いね」

「平均的な大型魔導鎧のパイロットで考えた場合は?」

「んー……」


 オーアは再び中空を見詰めておよその推測を立てる。今までの例はアル達ぐらいしかないが、そのアル達は大型魔導鎧のパイロット達に比べてかなり高い戦闘力を持っていると言える。魔力量であれば同等かもしれないが、そこについては考慮すべき所だろう。


「……完全に感染しきるまで10秒も無い、んじゃないかな。流石に症例が無いからなんとも言えないけどね」

「それは現状での考察か?」

「そうだね。もしかの邪神が蘇った後を考えるのなら、5秒も必要ないんじゃないかな。相手の力量次第になるけど、接触しただけで感染の可能性はあり得るね」

「ふむ……」


 厄介の一言しか、カイトは思い浮かばなかった。虹は魔導鎧や飛空艇等の現代の主力となる魔道具類に対して徹底的に対策がされた攻撃だ。やはりどう考えても、軍では戦いようの無い相手だった。


「……仕方がない。緊急避難装置として、万が一に敵からの逆流があれば飛翔機をフル稼働させてその場から退避行動を取る機能を各魔導機に搭載。陛下にはこちらから奏上して、同じ形式のシステムを各領主が保有する魔導鎧に搭載する様に頼んでおこう」

「それが一番、なのかもしれないね。対策はかなり急いだ方が良いと思うよ」


 カイトの判断をオーアも支持する。兎にも角にも近づいては駄目なのだ。であれば、なんとかして距離を取るしかない。大型魔導鎧や飛空艇が乗っ取られれば悪夢なぞという話では事足りない。それだけはなんとしても防がねばならないだろう。


「となると……オーア、もう一度湖底の遺跡に向かってくれ」

「あの封印機構を解析してくれってんだね?」

「ああ」


 カイトはオーアの言葉に頷いた。あの遺跡の地下ではどうにかして『虹を纏う獣』を封じていた。であれば、先史文明は虹に対する何らかの対策を持っていたという事になる。

 それを手に入れられれば、虹に対する対抗策が見つかるかもしれない。おそらくそれでも軍の兵士達では『虹を纏う獣』を相手にする事は出来ないだろうが、それでも時間稼ぎや撤退は可能になってくれる。手に入れるべきは手に入れるべきであった。


「陛下にはそっちから奏上しておいてくれよ」

「そうしよう。ウチの技術班が主導して調査出来る様に取り計らってもらう」

「わかった。じゃあ、こっちは早々に向かえる様に手はずを整えるよ。戦闘メンバーも何人か貸し出してくれりゃ、それで大丈夫だよ」

「わかった。ラカムやら獣人を中心に頼んでおこう。あいつらの鼻なら、風の匂いからまた何らかの隠し部屋を見付けられる可能性もある。そこらの人選に関しては司令部から頼んでおいてくれ」


 カイトはオーアの要請に応じて、とりあえず人選を知恵者達に任せる事にする。ここら、カイトは裁可を下すだけだ。彼自身が見繕う事はない。その為の知恵者達なのだから、当然である。


「わかった。じゃあ、早速……ああ、総大将の魔導機だけど、当分使えないからね」

「あいよ」


 カイトはオーアからの明言に仕方がなし、と応ずる事にする。強引に敵の力を押し流していたのだ。魔導機の内部回路の多くは破損しており、オーバーホールを行わねばならないらしい。まぁ、そのかわりに次戦う時にどうすれば緊急避難が可能なのかわかった為、良い結果なのだろう。と、その会話を終えて少しの所で、今度は医務室から連絡が入った。


『カイト、今大丈夫?』

「ああ、ミースか。アル達の診断結果が出たか?」

『ええ』


 マクスウェルに帰還した直後に隔離病棟にて隔離していたアル達なのであるが、その後はリーシャとミースの二人が管理する事になっていた。そしてこの案件から考えて、即座に精密な検査が行われていたのである。その結果が出た、というわけだった。


『とりあえず、目立った問題はなさそうね。一応体内に淀みの様な物が見受けられるけど、これは体内の魔力の自然循環の中で自然と排出される事になるわ。今はまだ倦怠感や気分の悪化があるだけで、大した影響は出ないわね。強いて言えば、風邪と一緒という程度』

「それは幸いだ」


 どうやら、アル達は問題なく復帰出来るらしい。それについてカイトは諸手を挙げて喜ぶだけだ。そうして、しばらくはそこらアル達の容態について語られる。


『というわけで、完全復帰はおそらく二日後という所よ。後遺症は今のところは考えられず。まぁ、肉体的には僅かに衰弱しているから、そのまま風邪を併発する事はあるかもしれないけど……』

「そこは、気を付けさせておいてくれ」

『ええ、そのつもり。じゃあ、とりあえず私は二人にこの事を伝えに行くから、切るわね』

「あいよ」


 ミースは報告すべき事を報告し終えると、通信を遮断する。と、そこの通信が終わった所で、再びクズハから連絡が入った。


『お兄様』

「ああ。終わったか?」

『はい。それと共に、陛下より通信が入っております』

「わかった、繋いでくれ」


 カイトは一度身嗜みを整えて頷くと、クズハへと通信を繋ぐように命ずる。そうして、即座に皇帝レオンハルトへの通信が繋がった。


『公よ。とりあえずの討伐の成功、見事であった』

「いえ……陛下にもご心配をおかけしました」

『いや、心配なぞしておらん。なにせ公がいるのだからな』

「有り難きお言葉」


 カイトはとりあえずの皇帝レオンハルトよりの賞賛を受け取る。と、そこらの社交辞令を終えると、皇帝レオンハルトは早速本題に入った。


『それで、公よ。公の見立てを聞いておきたい』

「はい……おそらくですが、かの邪神の復活は遠からず、と。少なくとも陛下の御代の間には起きると見受けられます」

『むぅ……厄介な話だ。信者達が彼奴ら(死魔将)の復活と合わせて終末論を語るのもわからぬ話ではないか』

「はい……ですが、かの邪神の復活が奴らの手によるものとは考えられません。あまりに時代がかけ離れていますし、前回の序盤で目覚めさせなかった理由も見当たりません」

『で、あれば良いが……』


 皇帝レオンハルトは僅かな心配を滲ませる。やはりここで気になるのはこのタイミングで『死魔将(しましょう)』達が何かをしてくる事だろう。そこについてはカイトも注意は怠らない。


「とは言え……奴らが何を目的とするかはわかりませんが、少なくとも世界の滅亡を願っている事はあり得ないでしょう。奴らは少なくとも、このエネフィアに滅んでもらっては困るという事は明白です」

『ふむ。それは確かに』


 カイトの言葉に皇帝レオンハルトも同意する。『死魔将(しましょう)』達がカイトを導いて操られたティステニアを討たせていた事からも分かるように、少なくとも彼らの主にとってエネフィアが滅んでもらって困る事だけは事実だ。

 であれば、こちらに密かに助力こそすれども敵対行動、例えばいたずらに力を削ぐ様な行動だけはしないと思われる。

 それでカイト達が負ければ次は自分達が戦わなければならないわけだし、戦力的には減少させている彼らが三つ巴の戦いなぞ取れる方策ではない。下手をするとカイト達によって先に自分達が滅ぼされるかもしれないからだ。

 故に、やってもせいぜい手を出さない程度。適度にこちらの戦力が減少する様に導く程度だろう。このタイミングで表立った行動はしない、と推測して良かった。


『公よ。そこらを一度公の口から聞いておきたい。まだ民達には何も知らせぬが、軍や各地の貴族には万全の準備を整えさせねばならぬ。これが1年か、5年先かはわからぬ。が、万全の準備を整えよう』

「わかりました……そうですね。陛下、一つお願いが」

『ふむ、申せ』

「はい……私に出頭命令を出して頂ければ」

『なるほど……確かに皇都にて査問会を開く案件ではあろうな』


 皇帝レオンハルトはカイトの目論見を読んで、それを良しと認める。これなら、カイトが皇都に呼び出されてもどこの貴族も疑わないだろう。

 勿論、ルーファウスやアユル達もカイトが皇都に向かったとて疑わないだろう。今回はそれだけの案件だ。であれば、調査隊を率いていたカイトが査問会に出るべく出頭命令が下されても不思議はなかった。


『わかった。数日中に使者をやろう』

「ありがとうございます。その頃には、大凡の情報の解析も出来ている頃でしょう」

『うむ……では、また数日後だ』

「はい」


 カイトは皇帝レオンハルトの言葉に頭を下げる。これで、数日後にはカイトは査問会の名目で皇都へ入る事になる。となると、それに向けて準備を整える必要があった。


「さて……さっそく準備に取り掛かるか」


 カイトは査問会に出るのであれば、と幾つかの準備を行う事にする。そうして、彼はその後数日に渡り、公爵邸や冒険部のギルドホームを『ギルドマスター・カイト』として移動しつつ準備を整える事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。明日閑話を一つ挟んで、それで終了です。

 次回予告:第1164話『閑話』

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