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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第60章 湖底の遺跡編

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第1161話 虹の厄災・4

 湖底の遺跡に封印されていた先史文明を滅ぼした敵の一体である『虹を纏う獣』。この敵との交戦を開始すべく準備を整えていたカイトであるが、何故か敵に見切られてしまい、その準備を完全に無力化させられてしまう。

 その後、ティナの叱咤により我を取り戻した彼は『帰還する事のない土地(クル・ヌ・ギ・ア)』の中心にて動きを見せない『虹を纏う獣』とにらみ合いを行う事になっていた。


「……何故気付かれた……」


 カイトの頭にあるのは、何よりもそれだ。この『虹を纏う獣』を生み出した神は地球出身であるということはわかっている。

 が、それだからと言っても『帰還する事のない土地(クル・ヌ・ギ・ア)』を知っているかどうかは話が違う。少なくともカイトが知る限り、敵の正体は日本の神ではないことだけは確かだ。何故かというと、日本の総氏神たる天照大神がカイトの友人だからだ。弥生を見ればわかるが、それは断言可能だ。

 カイトは彼女その人から居なくなったのは八咫烏ことやーちゃんのみである、と明言されている。流石に主神にして最高神が己の眷属を把握していないことはあり得ない。八百万の神々であれ、彼女を頂点とする以上どれだけ数が多かろうと天照大神は把握している。これは神様である以上、可能な権能を持ち合わせているので断言して良い。


(日本……却下。そもそもウチはもっと新しい)


 カイトはこの『虹を纏う獣』の主が所属していただろう神話を推測し始める。敵を知り己を知れば百戦危うからず。敵がどの神話に属していたのかわかれば、それだけでも対策の立て方はあるのだ。

 今のところわかっているのは、相手は『帰還する事のない土地(クル・ヌ・ギ・ア)』の危険性を把握しているらしく、迂闊に踏み込もうとは思っていないということだろう。なので時間はまだあると見て良い。


(あり得るとなると……メソポタミア文明、シュメールの神話か)


 『帰還する事のない土地(クル・ヌ・ギ・ア)』を知っていると思しき行動を見せている事から、カイトは一番あり得る可能性としてそれを考慮に入れる。が、これで決定して良いわけではない。まだ、決定打には欠ける。


(時代として考えれば……皇紀で考えれば現在は皇紀2700年頃。神武天皇東征までは<<布都御魂剣(ふつのみたまのつるぎ)>>があった事は確実。その頃のメソポタミア文明は……先生が文明の崩壊から避難民を率いて一度日本に来た頃か。確か少数が入植したはず。であれば、この時多くのメソポタミアの神が一度星に還った。なるほど……このパターンが一番あり得るか)


 まず考えたのは、地球で彼が得た縁から知る事が出来た真の歴史による考察だ。そう考えた結果、これは筋が通ったようだ。

 なお、カイトが言っている事は日ユ同祖論に似た考え方で存在している日本とシュメールの同祖論の事だ。確かにこれは遺伝子的には無いのであるが、文化的に見れば共通点は多い。そこらの事を述べていたのであった。時代的にも神武天皇東征が紀元前600年頃の出来事であり、メソポタミア文明の崩壊と呼べる時代――後継となるペルシア帝国の興隆が紀元前500年頃――と合致している。


(死して星の内側に還った神々は一度、文明の崩壊に際してその文明から切り離される。それはすなわち、一時的とは言え星から切り離される事に他ならない。その時に限れば、異世界への神の召喚も可能か)


 カイトは時代背景から考察して、この敵の主が所属していた文明がメソポタミア文明である事でとりあえずの確定をしておく。そしてそれに気付けば、他にも納得のできる事が幾つかあった。


(そうか。メソポタミア神話と日本神話にはそもそもで密接な関わりがある。そもそも、神話から溢れた話でギルガメッシュ王が日本にたどり着いていたから、というオチがあるんだが……兎も角、その際にメソポタミア神話と日本神話は結びつきが出来た……それでか。召喚実験そのものは失敗していたが、決して完全に失敗していたわけではないのか)


 なるほど、と己の推論に納得する。ここらは流石に異世界の先史文明の技術者達には如何ともし難い所だろう。そもそもこれはギルガメッシュ(先生)当人と日本神話も主神級の天照大神を筆頭とした三貴子、その両親――つまりはイザナギとイザナミ――ぐらいしか知らない話だ。

 日本人だって知らないし、それどころか当時を生きたメソポタミアの人々だって知らない。日本人であれば、彼と非常に懇意にしているカイトぐらいしか知らない内容だ。わかるわけがなかった。


「なるほど……なら、こいつは……フワワ、フンババを模した獣か」


 カイトは敵の正体をそう看破する。が、そんな唐突なつぶやきに驚いたのは、ティナだ。


『む?』

「敵の正体、理解した」

『お、おぉ……凄いのう』


 唐突に敵の正体にたどり着いたカイトに、ティナが目を丸くする。とは言え、これは仕方がない。上でも述べているがカイトしか知らないのだ。実はここらはギルガメッシュ当人に頼まれてカイトも誰にも語っていない。ティナも知らないのである。


「なるほどなるほど……虹はフンババが身を守っていたという7つの光輝(メラム)……だったか? それを模した物と考えれば筋が通る。あれは恐怖、ありとあらゆる悪などと言われている神の獣」

『なるほど……吐く吐息は死とさえ言われたフンババを模したか。確かに、かのギルガメッシュ王さえ討伐には苦慮したと聞く。討伐が容易でないのも、あの虹についても筋が通ろう』


 カイトの解説を受けたティナが深く頷いた。これは理にかなっていたからだ。


『ふむ……ということはこの主がフンババということはあり得るのう』

「ふむ……自然神とも捉えられる、か。ありえるな。フンババの死は紀元前3000年頃。こちらに来て即座に活動可能だったとすれば、一番あり得るか」

『まぁ、そこらの推測は後でもよかろう……であれば、お主はこれほど幸運な事はあるまいな』

「あったぼうよ。フンババを模した獣に負けたとあっちゃぁ、オレの名が廃る」


 カイトは一気に闘気を漲らせる。ギルガメッシュ王を先生と呼ぶように、実はカイトはギルガメッシュを非常に慕っており、そしてギルガメッシュもカイトを非常に目を掛けている。

 と言うより、かつてヒメアに語ったが彼こそが、かつてカイトの先生の生まれ変わりだった。故に先生なのである。まぁ、実際には先生というより義父なのであるが、そこは横においておこう。とは言え、そういうわけなので、負けられない。


「ここは、まぁ……先生に敬意を表する事にしますか」


 カイトはそう言うと、魔術で髪色を金へと変える。ギルガメッシュは半神半人の英雄。そしてメソポタミア神話では神は金の髪を持つと語られている。故に、その血を色濃く受け継いだギルガメッシュもまた金髪だったのである。そして金髪に変わった瞬間、『虹を纏う獣』が大きく吼えた。


『GRUAAAAAAAAAAAAA!』

「おっと。もしかして先生とお知り合いですか?」


 カイトは『虹を纏う獣』を挑発する。ここで得られるだけの情報を得てさえいれば、後の被害を減らせるのだ。存分に、かつての義父にして永遠の恩師を手こずらせた獣を模した聖獣の戦闘能力を見せてもらう事にしたのである。


「どうやら相当お怒りなご様子……はじめまして。ギルガメッシュ王を師と仰ぐカイトでございます。かつては恩師がお世話になった模様。彼に代わって、御礼申し上げます」


 荒い息を吐く『虹を纏う獣』を見ながら、カイトは敢えて慇懃無礼な態度で一礼する。どうせ敵だ。無礼だなんだと気にしてはいられない。

 とは言え、これが効いているのかそれともギルガメッシュを思い起こすからかはわからないが、とりあえずこの挑発は効果があった。虹は一気に光り輝き、まさに光輝(メラム)と呼ぶに相応しい光を放ち始めたのだ。


「ほう」

『ふむ……』


 カイトとティナは一気に強度を増した光輝(メラム)を見ながら、その影響を観察する。おそらく、これには近づいてはならないだろう。

 吐息に何かの毒はなさそうだが、この光輝(メラム)にはかなりの力が宿っている。おそらくこれを見た木こり達によってギルガメッシュとフンババの戦いが語られ、そして時代の流れと共に改変されていった結果、吐く吐息は死と言われるようになったのだろう。


「ティナ……当然、ご用意は出来とりますよね?」

『当然じゃろう。さて、そろそろじゃ』

「グッジョブ」


 ティナの返答にカイトが笑みを見せる。何もカイトとて何の理由もなく一切行動していなかったわけではない。きちんと理由があって、待機していたのだ。

 カイトの接敵を待っている間に実はいくつかのプランを彼女も練っており、そのプランBを発動させる事にしていたのであった。その為の準備の時間が必要だった、というわけである。向こうが敢えて様子見を選択してくれていたというのに、敢えてこちらから突っ込んでいく馬鹿はいないだろう。


『あ、3……2……1……』

『マスター!』


 ティナのカウントダウンの終了と同時。先に『虹を纏う獣』がやったと同じく敵の頭上に、カイト専用の魔導機が顕現する。それは飛び蹴りの様な姿勢を取ると、カイトへと鼻息荒く一直線に直進しようとしていた『虹を纏う獣』の頭上へと直撃して、大きく吹き飛ばした。


「うっお! ひっでぇ! でも、グッジョブ!」

『ありがとうございまーす! で、マスター!』

「あいよ!」


 カイトは着地した魔導機へと乗り込むと、即座にアイギスが魔導機のコクピットハッチを閉じる。実はすっかり失念していたのであるが、専用機の中で一機だけ公爵家の印が刻まれていない機体があったのだ。言うまでもなく、カイトの機体である。まだ試作機である為、未完成として印が刻まれなかったのだ。


「……あれ? イメチェンですか? というか、中二病?」

「ん? ああ、これ? ちょーっと考えで」

「はぁ……」


 黒白の翼を背に生やした挙句、金髪になっていたカイトを見たアイギスは目を丸くするも、考えがあるのなら良いか、とスルーする事にする。と、そうしてカイトとのリンクを確保した魔導機であるが、その瞬間、アイギスが大いに慌てる事となった。


「え、ちょっと!? マスター! 魔力の流入が異常な数値が検出されているんですが!」

「あ……あー……うん、なんとかして」

「ノー」

「頑張れ」

「……イエス」


 アイギスは不満げにカイトの指示に従うことにする。ここらも、彼の考えがあっての事だと考えたのだ。


「ま、とりあえず……やるか!」

「イエス!」


 やる気を漲らせたカイトに対して、アイギスが笑顔で頷いた。そうして、それに合わせて『虹を纏う獣』が立ち上がる。


「標的……魔力数値極大。聖獣の領域」

「わかってる」

「イエス……あ、マスター。ぶっちゃけ、今のマスターの一撃だと大抵の魔導具が破損します。滅多なことはやらないでくださいよ」

「はーい」


 アイギスの半眼での忠告をカイトは素直に受け入れておく。とは言え、それは実は元々考慮に入れていたりする。


「アイギス。数度拳を交え、データを取る。遮断は怠るなよ」

「イエス……あ、もしかして……」

「そういうこと。頼むぞ」


 アイギスが気付いた事を受けて、カイトが笑って頷いた。というわけで、アイギスがそれをはっきりと口にした。


「イエス。流路を調整し、敵からの影響を強引に押し流します」


 アイギスは早速とばかりに調整を開始する。アルの時を見てから、カイトは何故直接触れてもいないのに虹の影響が出ていたのか、をずっと考えていた。そして出た結論が、魔力の流れを伝って術者に感染させていたのではないか、という事だ。

 魔術的に巨大な物を操る時、どうしても効率的に魔力を行き渡らせてやる必要がある。というより、どれだけ効率的に行き渡らせるか、こそが熟練の証といえる。その為には必要な所だけを動かせる様に調整するのが一番都合が良い。全体を動かすのではなく、要所要所を動かしてやるのだ。

 これは敢えて言えば、魔術的な電線や流路と言っても良い。それを、アルは逆手に取られたと考えたわけであった。そしてこれなら不思議はない。


「良し! じゃあ、やるか!」

「イエス!」


 起き上がり、突進してくる『虹を纏う獣』に対して、カイトは拳を構える。徒手空拳というのは得意ではないが、アイギスが次に続く者達の為に情報を得る為だ。やるしかない。そうして、カイトもまた地面を蹴って魔導機を駆る事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。明日でこいつとの戦いも終わりです。

 次回予告:第1162話『虹の厄災』


 2018年4月27日 追記

・誤字修正

 『アイギス』が『ホタル』になってしまっていた所がありましたので、修正しました。


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