第1159話 虹の厄災・2
不慮の事故により数千年前に封ぜられたと思しき『虹を纏う獣』と戦う事になってしまったカイト達。場所が場所故に如何にカイト達と言えども倒せないとなった結果、非常用のシステムを起動させて一時は難を逃れる事に成功したはずだった。
が、それもつかの間。どうやら非常用システムとは敵を封じたり討伐したりしてくれるシステムではなく、単に外へと放り出すだけのシステムだったらしい。その結果、外の面子を守る為に時間稼ぎをしていたはずなのに、どういうわけか『虹を纏う獣』が外に出るという本末転倒な事になってしまった。
「これは……」
唐突に現れた『虹を纏う獣』を見て、瑞樹が目を瞬かせる。撤退命令が出ていたのでその支援を行っていたわけなのであるが、いきなり敵が出て来たのだ。呆然となるのも無理はない。が、やはり彼女にも経験が備わっている。なので、即座に次の一手を打つ事が出来た。
「ティナさん!」
『……っ! う、うむ! 今すぐ奴から離れよ! 決してあの虹には触れてはならん!』
ティナが慌てて注意を促す。流石の彼女もこうなるのは想定していなかったようだ。とは言え、わかっている事もある。『虹を纏う獣』の虹に触れてはならないのは、アルとルーファウスの状況を見ればすぐにわかった。どういう物なのかは不明であるが、少なくとも接近戦は行うべきではないだろう。
『今、部隊の者達が向かった! お主らは遠巻きに射掛けて決して近づくな! 大急ぎでこの場から撤収じゃ! 冒険部では邪魔にしかならん!』
兎にも角にもこの『虹を纏う獣』を相手にしては冒険部なぞ塵芥も同然だ。なにせ相手は紛うことなく文明を一つ滅ぼした神の遣い。邪神の遣いであるので奇妙な言い方であるが、聖獣だ。その時点でランクSクラスの冒険者でさえ、普通には勝ち目が無い。
しかも、この魔物は近接戦闘がかなりやり難い相手だ。ランクSでもバーンタインやクオンクラスの超上位になれば単独でも勝てるだろうが、それ以下となるとどれほどの数が必要かはわかったものではない。少なくとも、冒険部が総力を上げた所で勝ち目なぞ皆無だろう。
『桜! お主は大急ぎで命綱を引っ張り中の者達に危急を知らせよ! カイト達は後で出てくる! ソラ達は先に避難させ、全員順次避難せよ! 長居は無用! もし万が一あれが暴れて崩落すればろくな事にならん! 瑞樹! お主らは固まるな! 何をしてくるかわからんぞ! 由利! お主ら弓兵達は大急ぎで飛空艇に戻り、飛空艇発進後に上から足止め可能な準備を行え! 撤退の支援は二の次で良い! 撤退後が拙い!』
「っ! 全員、散開! 密集陣形は取らずに遠巻きに射掛けなさい!」
矢継ぎ早に飛ばされるティナの指示を聞きながら、瑞樹が指示を飛ばす。兎にも角にもこの『虹を纏う獣』は感じる風格からして桁が違う。後のことは後で考えるにしても、とりあえず今は無事に逃げ帰る事を目標としなければならない状況だった。
と、そうして散開して四方八方から<<竜の息吹>>による砲撃を開始した瑞樹達へと、再び通信が入ってきた。
『瑞樹ちゃん、聞こえて!?』
「あ、はい!」
通信の相手は『無冠の部隊』の女性隊員だ。この研究所に興味を持ってそのまま残留していた一人だった。彼女も冒険者で表せばランクはA。十分に瑞樹達より強かった。
『私達が貴方達が撤退するまでの間、<<封縛>>で奴の動きを止める! その後、飛空艇が発進した後に貴方達が私達を回収して! 後ろは振り返らなくて大丈夫!』
「わかりましたわ! 各員、聞いてましたわね! 遺跡内部に潜入しているメンバーの撤退が終了まで、私達は彼女らと共に敵を牽制! その後、彼女らを回収して私達も撤退しますわよ!」
『『『了解!』』』
瑞樹の指示を受けて、散開していた竜騎士部隊の面々が頷いた。『無冠の部隊』の面々が支援してくれるのであれば、少なくとも時間稼ぎは出来る。
とは言え、残念ながら来たのも残っていたのも全員が技術者ということで、如何に彼女らでも時間稼ぎが精一杯。しかも近接戦闘が出来る奴らも虹の所為でまともには戦えない。虹がどういう物なのかわかれば対処のしようもあるのだが、わからない事には近づけないのだ。
もし万が一これに洗脳の力があるとすれば、その時は彼女らが敵に回るという最悪の事態さえあり得る。神使たるカイトならばまだしも、迂闊に手出しすべきではないだろう。
「さて……なんとか出来ますかしら」
瑞樹は敵から感じる強烈な威圧感を肌身に感じ、顔に真剣さを滲ませる。今までの彼女の経験が告げていた。この相手は拙い、と。まともに戦っては勝ち目がない。
「……恐れとは無縁なはずの竜が、ここまで……レイア。少々距離をとっておきましょう」
瑞樹はレイアに命じて、更に少しだけ距離を取らせる。やはり根っこが動物に近いからなのだろう。『虹を纏う獣』が自分ではどうしようもない程に強力な相手であるとわかっていたようだ。レイアがあまり近寄りたがらないのだ。
それは天竜達も地竜達も一緒で、御者の役をこなしていた冒険部のメンバー達が対応に苦慮していた。そうして距離を取って落ち着いた戦いをする瑞樹の一方、ティナの方は対応に非常に苦慮していた。
「ふむ……」
どうするべきか。どうにせよ目覚めてしまっている限りは討伐せねばどうしようもない。が、現状でどうにかしようにも手が足りない。まず冒険部の撤退は絶対条件として、考えるべきはその次だ。
どうやって倒せば良いのかがわからない。敵に関して未知の事が多すぎる。とは言え、やらねばならない事はわかっている。故に彼女は通信機を起動する。幸い、もう周囲には殆ど人は居ない。気にしていられる状況でもない。
「クズハ、おるな?」
『何でしょうか、お姉さま』
「状況の把握は?」
『しております』
すでに公爵家へは連絡を入れておいた。まずやるべきことは、軍を動かす事だ。この敵がどういう動きをするかはわからないが、少なくともこちらに攻撃の意図があることだけは確かだ。であれば、軍に周囲の封鎖や進路上の避難誘導だけはさせなければならないだろう。
『軍にはすでに周辺空域へと待機を命じ、敵の監視体制を整えました。各種の観測装置を装備している観測用の飛空艇も部隊に含めて向かわせております』
「良し、上出来じゃ……で、魔導機については?」
『それが、その……現在皇国中央方面軍との合同演習で遠征中です。お忘れですか?』
「なっ……そうじゃった……忘れとった……」
ティナの顔に苦味が浮かぶ。近づいてはならないのなら、接近せずに戦えば良い。というわけでこういう時こそ魔導機の出番となるわけであったが、その魔導機――正確には半魔導機だが――はようやくある程度の数が完成したということで皇帝レオンハルトの求めを受けて近衛兵団との合同演習に出ていたのであった。どれだけ急いでも、マクダウェル領に帰ってこれるのは明朝だろう。
「むぅ……残留の魔導機はどの程度じゃ?」
『報告によれば、5機が残留中と。後は我々の専用機が』
「むぅ……流石に余らのは動かせんか……」
ティナの顔に苦いものがこみ上げてくる。一番厄介なタイミングで厄介な事件が起きてしまった。クズハ達の専用機を動かすのは良いが、あれにはしっかりと公爵家の紋章が刻まれている。
そしてシステム上、彼女らしか使えない様な安全装置も組み込んである。故にクズハ達が来たと丸わかりなのだ。最後の手段として使うのなら良いだろうが、今ここで使うべきではないだろう。各所から疑問の声が出るからだ。
「……仕方があるまい。とりあえず一時は余らで足止めして冒険部を撤退させ、しかる後に余とカイトで撃滅かのう。余らの撤収次第、包囲網を形成。しかる後に余らの到着を待て」
『かしこまりました』
とりあえず取れる手がそれぐらいしかなさそうなので、ティナはため息と共に対処を告げる。となると、兎にも角にも避難だ。
「さて……後は避難じゃが……む?」
自分も避難しよう、と通信を途絶したティナがふと、部隊の隊員達によって束縛され暴れまわる『虹を纏う獣』を見る。そうして感じたのは、違和感だ。
「何故湖に戻ろうとしておる」
ティナが違和感を口にする。『虹を纏う獣』は暴れながらも湖を、より正確には自分が捕らえられていたはずの湖底に沈んだ遺跡を目指している。
が、これは少々、道理にそぐわないだろう。この『虹を纏う獣』に理性があるか、知性があるかというのは不明であるが、普通に考えれば自分をどういう方法かで捕らえた場所は危険かもしれない、と判断するはずだ。そこに戻ろうとする理由がわからなかった。
「カイトを狙い……? いや、それとも研究所か……?」
ティナはあり得る可能性を考える。どちらの可能性もありえる。カイトは神使、研究所には洗脳を解除出来るかもしれない装置がある。どちらも十分に狙うに足る。
「やはりあの研究所跡地には何かがあると考えて良いかもしれん……いや、考察は後じゃな。とりあえず撤退じゃ」
兎にも角にも撤退をしないことには何も始まらない。ここに居た所でまともに戦えるわけではないのだ。そうして、ティナも飛空艇の艦橋へと移動する。荷物は全部置いておく事になるが、仕方がない。運が良ければ、後で取り戻れる。
「避難状況はどうなっておる」
「現状人員の避難としては7割を突破。後は大半が湖底の臨時司令部に避難済みで、遺跡はカイトくんとソラくんの所が撤退できれば、と言うところです。どうやらソラくんの所は途中でゴーレムの追撃を受けた様子で、他を逃してカイトくんと合流してと」
ティナの問いかけに桜が避難状況の進捗を報告する。やはり後ろを振り返らずにというのは難しかったようだ。どうやら非常システムが展開された事で非常用に残されていたゴーレムが起動してしまったらしく、ソラ達は翔ら足の軽く防御の薄い面子を逃がす為に殿を務める事になっていたとの事だった。
とは言え、その更に後ろにはカイト達が撤退してきている。なので彼らと合流して一気に突破を図る事にしたようだ。悪くない判断だろう。
「ふむ……そちらはどうじゃ?」
『こっちはなんとかって所! 幸い数で囲んでバインドしてやってるからなんとかなるけど……こりゃ、先史文明が滅んだのも当然だわ! 数居ないと確実に負けてたわね!』
ティナの問いかけに女性隊員が応ずる。が、その声はかなり必死さが滲んでおり、生半可な力で抑えている様子ではなかった。彼女らが複数取り囲んで精一杯。それに、僅かな苦味を彼女が顔に出す。
「……やはり、邪神復活は近そうじゃのう」
往年の力を取り戻しつつある。ティナは現状から、それを理解する。神話の再現まで、もう幾許の猶予もないのだろう。
「これは吉事と捉えるべきじゃな……」
ティナは苦い顔なれども、そう思う事にする。この『虹を纏う獣』は敵の幹部級に近い存在であるというのはわかっている。それと前もって戦えたというのはこれほどもない幸運だ。虹が危険だとわかっただけでも、これほどもない貴重な情報なのだ。お陰で、近づかずに戦うという選択を次からは取れるのだ。
皇国としても公爵家としても、観測機を飛ばせたのもこの上ない幸運だろう。幸運と捉えておくべきだ、と判断して気を持ち直す事にしたのだ。と、そうしている内に、カイトが駆け込んできた。
「ティナ!」
「む、来たか! 船を出せ! 即座に撤退じゃ!」
ティナは用意を完全に整えさせていた飛空艇を即座に発進させる。そうして、ものの数分も掛からずに飛空艇が離陸して飛び立った。
「こちらは大丈夫じゃ! 瑞樹、回収させよ!」
『わかりましたわ! 全員、一斉にかっさらいますわよ!』
ティナの言葉に合わせて、瑞樹達竜騎士部隊が一斉に行動に入る。もうカイト達の撤退は終了した。であれば次に『無冠の部隊』の撤退だ。
とりあえずしばらくなら時間稼ぎは出来るように結界は構築している。こちらは本来としても彼女らの領域だ。なのでこちらについては信頼して良いだろう。
『良し! 乗りましたわね!』
『有り難い! じゃあ、もう行っていいわ!』
瑞樹の背に女性隊員がしがみつく。一応彼女らも自分たちで飛空術が使えるわけだが、結界の構築と強化に力を割いている為、足を別途で用意してもらったのだ。
「良し! ではお主らも気をつけよ! カイト! お主は外に出て由利らと共に万が一に備えて上空より砲撃準備!」
「あいよ! ホタル、ついて来い!」
「了解」
カイトの指示に従って、ホタルが彼に続いて甲板の上に移動する。と、その移動したとほぼ同時。隊員達が構築していた結界が始動する。
「よし……む?」
ティナは総身で、嫌な気配が周囲を満たしたのを理解する。そして、その次の瞬間。
『GIRU……・AAAAAAAAAA!』
『虹を纏う獣』が大きく吼える。それは音ならぬ音を纏い、巨大な魔力を宿していた。そして、その次の瞬間。隊員達が構築した結界を意図も容易く、完全に破壊してみせる。
「なっ! まさか、分かっておったじゃと!?」
艦橋にティナの驚愕の声が響き渡る。明らかに自分が封殺されるのを理解して、敵は力を隠していた。そして切り替えの一瞬の隙を突いて、結界が最大の効力を発揮するまでの僅かな時間で結界を破壊したのである。
『『『ぐっ!』』』
「バックロード! ちぃ! 全部手のひらの上じゃと! 知性があるか!」
乗せられた。ティナはこの『虹を纏う獣』が単なる野生だけの獣ではない事を理解する。こんなはっきりと、そして知性のある行動をしたのだ。確実に知性があるとしか言いようがなかった。
「カイト! とりあえず撃て! こちらを追わせてはならん! アル! お主は氷龍を出して遠距離から砲撃を仕掛けよ! 瑞樹! お主らは背後に部隊の者達を抱えておる! 距離を取り撤退せよ! 後ろの奴らのバックロードが治まるまで安易な行動はするな!」
ティナが矢継ぎ早に指示を出す。完全に読み違えたが、まだ対処は可能だ。が、更に敵が上であると知るのは、この直後だった。唐突に、『虹を纏う獣』が消えたのだ。
「は? どこへ……っ! 瑞樹! 上じゃ!」
『え?』
瑞樹の間の抜けた声が響いた。そして彼女が上を覆う巨大な影に気付いた直後、彼女らの直上で巨大な衝撃波が発生した。
『きゃあ!』
「っ! 拙い! それ故の空間移動か!」
ティナは敵の手を理解して、盛大に顔を顰めるしか出来なかった。空間置換でも転移術でもなく、空間移動。それは結果としては転移術と同じ現象であるが、起きる際の現象が異なる。
空間移動では術者の周囲の空気が一瞬で消失し、そして転移先の空間の空気は強制的に押し出さられる為、その転移した質量に応じた衝撃波が発生するのである。そして流石に竜達と言えども、直上にいきなり衝撃波が発生しては元も子もない。動きは出来ず、無様に落下するだけだ。
案の定、瑞樹達は衝撃波に耐えきれず一気に地面へと墜落させられる。このままでは、『虹を纏う獣』の追撃を受けて潰れたカエルのようになるだけだ。とは言え、そうはならない。
「やらせるか!」
カイトが両者の間に割り込んだ。が、流石に彼も上から重力やらなんやらで加速する相手へ横から割り込んで押し留める事は難しく、かなり押し込まれる事になる。おまけに、虹だ。アルやルーファウス達より幾分マシとは言え彼にも虹の影響は出てしまう。
「ぐっ!」
「カイト! 行け!」
カイトのしかめっ面を見たアルが最大の力で氷龍を創り出す。兎にも角にも今のままでは押し合うだけが精一杯。カイトにどこまで毒物が有効かはわからないが、少なくとも長く相手をして良い状況ではないだろう。
「瑞樹! まだ行けそうか!?」
「……なんとか、ですわね!」
「こっちもなんとか補佐してみるわ!」
カイトの問いかけに瑞樹と盛大に顔を顰めた女性隊員がレイアの状況を見ながら告げる。幸いといえば幸いな事に、隊員達が居たおかげで誰かが死んだという事は無かった。
が、やはりあまりに唐突過ぎて完全な対処は難しかったらしく、天竜達が少し手傷を負っていた。おそらく最高速度での飛翔は不可能だろう。
「ちぃ……上手い奴だ」
カイトは虹の毒を呷りながらも、現状がおそらく敵の手のひらの上である事を理解する。『虹を纏う獣』は機動力の高そうな天竜達に狙いを定めていた。それは飛空艇が輸送艇の類と見たからだろう。
そしてなにより、天竜達には自分を僅かばかりながらも足止め出来る者達が乗っている。もし不意を打てれば、一気にこちらの戦力を大幅に削げるのだ。戦術的に見ても正解だろう。
「ぐっ……」
カイトが顔を顰める。虹の力は確実に彼を蝕んでおり、このままでは長くは持ちそうになかった。が、そこまで悲観視する必要はなかった。というわけで、その次の瞬間。アルの創り出した氷龍が横合いから激突する。
「いっけぇええええ!」
アルが氷龍に命じて、カイトから『虹を纏う獣』を遠ざける。そうして僅かな間、『虹を纏う獣』とアルの氷龍の間で押し合いが展開される事になる。
「くっ……」
が、この押し合いは当然ではあるが、アルに非常に分の悪い戦いだ。そもそも相手はランクSだろと余裕で倒せるだろう神話の獣。たかだかランクAも上位から中位程度の実力であるアルが敵うはずのない相手だ。そして、更に。カイト達でさえ予想外の事があった。
「ぐぅ!?」
「アル!?」
唐突にアルが口を手で抑え、苦悶の表情で目を見開いた。そしてその次の瞬間、アルの操っていた氷龍が砕け散った。なぜかはわからないが、唐突にアルが苦しみだして力を失ったのだ。
「拙い!」
「はぁあああああ!」
カイトとアルの危急を見たルーファウスが行動に出るのはほぼ、同じタイミングだった。そうして、墜落を始めたアルをカイトがキャッチして、再度動き始めようとした『虹を纏う獣』へとルーファウスが激突して、一気に距離を取らせる。
『今度は、油断しないわ!』
距離を取ったと同時。結界が展開される。『無冠の部隊』の隊員達が即座に結界を再展開したのだ。今度は、更に強固かつ精密だ。一瞬で解ける事は無いだろう。
そうして、それを横目にルーファウスがカイトとアルの所へと舞い降りる。が、その顔はやはり、怒っていた。唐突に力を失ったように見えたのだ。一歩間違えば危険だった事は間違いない。
「アルフォンス! 貴様、何をやっている!」
「くっ……こいつ、魔術から虹を感染させられる……下手をすると遠距離攻撃も駄目だ。氷龍から虹を食らってたみたい……」
「「なっ……」」
なんとか声を発したアルの報告に、カイトとルーファウスが絶句する。近接戦闘も駄目、下手をすると遠距離攻撃さえ駄目なのだ。厄介どころの騒ぎではなかった。とは言え、三人の活躍により、なんとか竜騎士部隊の撤退も為し得たし、飛空艇も随分と遠ざかった。
「……一時撤退だ。結界は自立式。とりあえず少しは時間が稼げるだろう。ルーファウス、お前もだ。虹に長い間浴びすぎだ。どっちも、一度医者に見てもらった方が良いだろう」
カイトは撤退を決める。このままではにっちもさっちも行かない状態なのだ。そうして、彼らは一度飛空艇へと合流して、その後の対処を話し合う事になるのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回予告:第1160話『虹の厄災』




