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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第60章 湖底の遺跡編

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第1157話 もう一つの遺産

 湖底に沈んだ遺跡の奥深く。秘匿エリアと思しき区画にて先史文明が切り札として開発していたらしい未完成の洗脳解除装置の試作品を発見したカイト達。偶然にも組み立て途中で放棄されていたそれを見つけ出した彼らは、更にその設計図や仕様書らしき書類を発見するに至っていた。


「良し。カイト、これで全部のはずだよ」

「良し……じゃあ、これで封をすれば……」


 カイトはアルから受け取った書類を専用のアタッシュケースにしまい込むと、しっかりと密閉しておく。後はこれがカイトが異空間の中に入れておけば、何があってもこの書類は失われる事はない。と、そうしてしっかりと密閉されたアタッシュケースを見ながら、アルが問いかけた。


「書類、どうだった?」

「設計図が一つ。仕様書が幾つか。組み立て途中で破棄されたのが、幸いだったな。流石に詳細なデータは翔達がサルベージしたデータサーバの解析を待つしかないが、それでもこれだけでも十分な収穫だろう。少なくとも、ここの有益性を示す物には成り得る」


 カイトはアルの問いかけに対して、そう断言する。先史文明が壊滅する最大の要因になった部分への対処策がここにはあるかもしれないのだ。まだ未完成とは言え、そろそろかつての邪神の復活があり得るカイト達現代文明の者達としては、これは何よりも有り難い遺産だろう。有益性は示せたと考えて良い。


「まぁ、これは推測だが……もしかしたらこの魔道具を通信装置に接続して、大陸全土へと対洗脳の場の様な物を創り出すつもりだったのかもな。そうすれば、人数差を覆せる」

「ああ、なるほど……それなら、ここで研究されていたというのも納得だね」


 アルはカイトの指摘に頷いた。カイト達が発見した洗脳解除装置と思しき魔道具であるが、これはサイズからどう考えても都市一つを覆い尽くせる程のものではない。ティナの推測では最大でも半径50メートルが効果範囲だ。この研究所さえ覆い尽くせない。それはアルから見ても理解は出来た。こんな大きさでは街を覆い尽くす事は無理だろう、と。

 では、どうするだろうか、とカイト達は考えた。そこでまず考えたのは、この上の研究設備だ。そこで研究されていたのは、最新の通信装置。そしてそれがあるということは、先史文明では現代以上に通信網が発達していたと捉えて良いのだろう。

 ならば、それを利用して大陸全土へと洗脳解除装置の力を波及させようと考えるのはごく自然な事だろう。追い込まれ余力が無い以上、既存のものを応用しようとするのは自然な発想だ。

 とは言え、そのままでは勿論、使えないだろう。この推測が確かなのであれば、上の研究所ではそれが成せる為の専用の通信装置かアダプタが開発されていた可能性は十分にあり得た。

 そしてそれであれば、この研究所の地下で開発されていた事にも筋が通った。常に互換性を確保を確認しつつ、同時並行に開発を進めていたのだ。が、おそらくどちらも間に合わなかったというわけなのだろう。


「まぁ、そういうわけだ。人数差を覆さんとどうにもならんからな。まぁ、軍人のアルには釈迦に説法だろうが」

「あはは。で、カイト。これからは更に奥?」

「ああ。さっき入った連絡だと、どうやらこの区画は……なんて言えば良いか。情報管理システム上は独立しているらしい。外からの情報のサルベージが出来ないそうだ。出来ればアンテナを取り付けて、外との通信が出来る様にしておきたいらしい」

「となると、やっぱり奥だね」

「ああ。データサーバが浅い所にあるとは思えんからな」


 アルの問いかけにカイトは頷くと、軍用の発信機の設置作業を終わらせる。次に来るのは海軍出身者を含めた特殊部隊も入っている。水の中だろうと、どころか水の中こそが本領発揮な者達だ。もし遺跡が崩落したとて回収が可能な様にしていたのである。


「良し……じゃあ、行くぞ」


 カイトは再び号令を掛けて、部屋を後にする。そうして向かうのは、この研究エリアの最奥だ。とは言え、一応そこまで詳細に調べるわけではないので最奥と思しき所に目処を立てておいてそこを目指すだけだ。そしてその目処は最初に立てられていた。


『更に下、あのドーム状の区画を目指せ……と言うたは良いが、少々遠いか?』

「まぁ、そうみたいだな。入り組んではいないのが幸いという所だ……が!」


 カイトは警備ゴーレムを容赦なく切り飛ばす。その目処というのはホタルがセンサーで発見した一番下のドーム状の区画だ。ここまで広いのだ。何らかの実験エリアであると同時に、最奥に設置されている事は推測出来る。であれば、近くにデータサーバがあるサーバールームがあっても不思議はなかった。なのでまずはその実験エリアを目指してみよう、というわけなのであった。


「ふぅ……多いな、ここらは」

『というより、おそらく度重なる戦闘でお主らがどこにおるのか、というのが捉えられておるのじゃろう。撤退の時はソラ達もおる故、些か強引に突破しても良いじゃろう。他の連中も可能な限りそちらに向かわせよう。敵が人海戦術であれば、こちらも人海戦術で行くべきじゃな』

「あいよ!」


 カイトは警備ゴーレムを切り飛ばしながら、先へと進む道を切り開く。この面子ではカイトと瞬の純粋な戦士が最前線となり、アルとルーファウスの壁役が全員を守る役目、例えばアリスの様な魔法戦士が最後尾からの支援というのが一番良い。そして実力として見てもカイトと瞬の二人が一番危険な一番前を進むのが、最適な判断だろう。


「ちっ、雑魚は良いが数が多いな!」

「そりゃ、外に敵だからって内側に兵力を残さないで良いわけじゃあないからな!」


 瞬の愚痴にカイトは目の前に大量に居る敵を切り飛ばしながら応ずる。とは言え、数が多いのはありがたくない。ということで、カイトは少々手を変える事にした。


「しょうがない! ホタル! 低出力で魔銃を使え! 敵陣営を切り開け!」

「了解」


 カイトの求めに応じて、ホタルがカイトの前に躍り出る。そうして、彼女は双銃を構えた。


「ファイア」

「良し!」


 ホタルが切り開いた敵陣のど真ん中へと、カイトが突っ込む。そうして、武器を大剣へと持ち替えた。


「ユリィ!」

「あいさ!」


 カイトの大剣にユリィが雷の力を纏わせる。このままちまちまと一体一体倒していても面倒だ。ならば、一気に蹴散らすしかない。


「ちょっと弱めの<<天雷撃(てんらいげき)>>!」


 カイトが雷を纏う大剣を地面へと叩きつける。かつてやったと同じように、ゴーレムの内部基盤を破壊してやるつもりだったのだ。

 量産されているゴーレムの素材は大半が普通の金属だ。そして金属は必然、電気伝導性が良い。それは鋼鉄であろうと魔金属であろうと変わらない。そして物質の性質は文明が移り変わろうと変わるはずもない。

 どうしても必然として、金属製のゴーレムは雷属性には弱くなるのであった。なお、余談ではあるが他方土塊で出来たゴーレムは雷属性には非常に強いわけであるが、逆に金属製のゴーレムなら強い水属性に滅法弱い。無敵のゴーレムというのはどうしても、製造不可能なのであった。


「ふぅ……」

「<<天雷撃(てんらいげき)>>……なるほど。一人ではなく、そういうやり方もあったのか」


 大剣を消失させたカイトに対して、ルーファウスが驚いた様に目を見開いていた。いつもカイトはユリィと共に行うのでこれが普通と冒険部では思われているが、実はそんなわけがない。

 これは本来一人でも出来る(スキル)だ。本来は上空に雷雲を生み出してそこから降り注ぐ雷を刃に纏わせるわけである。が、この場合一手間掛かる為、この剣技は効果範囲や攻撃力が高いもののあまり冒険者達には好まれなかったりするのであった。が、コンビであるカイトとユリィには問題がない。故にカイトは笑って頷いた。


「ああ。覚えておくと良い。流石にここまでの速度になると妖精を肩に載せてるオレとかでないと出来ないだろうが……魔術師の補助が貰えれば存外、悪くない。もともと一手間掛かるのが疎まれていたわけだからな」

「えっへん!」


 カイトの言葉にユリィが胸を張る。ここら、相棒故にという所だろう。阿吽の呼吸があればこそ、出来る事だった。


「なるほど……アリス、今度手伝ってくれ」

「はい、兄さん」


 やってみる価値はある。ルーファウスの考えにアリスも同意する。こういう一風変わったやり方は冒険者というかカイトらしいやり方だ。それを学ぶのは、ある意味彼ら二人にルードヴィッヒから与えられた任務の様な物だった。


「ま、それはそれで良い。さっさと移動だ」


 カイトはそう言うと、更に奥へ奥へと進んでいく。そうして、しばらく。かなり重厚そうな扉の前にたどり着いた。


『地図によれば、その先がドームのはずじゃ』

「りょーかい。とりあえず中に入る」

『うむ。まぁ、おそらくそこは実験室じゃろう。シェルターの可能性もあるな。とりあえず一応見ておいて損はあるまい』

「あいよ……開くぞ」


 カイトはティナの言葉を聞きながら、扉に手を掛ける。そうして、とりあえずの安全の確保を終えた彼は大きく扉を開いた。それと共に、ホタルが中に突入した。


「……敵影、見受けられず。安全です」

「そうか……ああ、なんらかの実験のコントロール・センターの様な所なのか、ここは」

『なるほど。ドームのすぐ側にそれを置いておるわけか……カイト、通信が通じぬ様になる可能性はある。気を付けておけ』

「あいよ」


 カイトはここから先は一切の通信が通じない可能性を理解して、中に入る。流石に外に中継器を設置するわけにもいかない為、ここからは本当に外からの支援無しだ。

 とは言え、単なる実験室だろうと予想されている為、そこまで不安には思っていなかった。が、ここで。彼らは彼らにも知り得ない不幸があった事に、気付かなかった。

 それはカイトが月の女神の神使であり、ユリィがその友人だった事だった。扉に施されていた封印を二人は無意識的に解除してしまったのだ。先史文明の研究者達とて、まさかここの封印を無条件に解除出来る者が来る事を想定していなかったのである。仕える神があの気難しいシャルだった事が、災いした。まさか神使が生まれるとは思っていなかったのだ。


「……中は何もなさそうか」


 カイトはとりあえず管制室を観察する。管制室の窓にはシャッターが下りており、中がどうなっているかは判別出来なかった。


「良し、全員とりあえずコンソールが動くか試してみるから、少しだけ待っていてくれ。その間、警戒を」


 カイトはそう言うと、無傷のコンソールの前に座って装置を起動してみる。一応この部屋にも実験室へ続くのだろう扉はあるが、その前にシャッターを開けて確認出来るのであれば確認しておくべきだろう。


「……良し、これか」


 軽くコンソールを起動させると、カイトはシステムの幾つかの階層を潜ってシャッターに関する部分を操作する。魔導炉が生きていたか生き返った為、破壊されなかったこのコンソールも生きていたのだ。が、いくら待てど暮らせど、シャッターが上に上がる事はなかった。


「……あれ」

「劣化して何かが壊れちゃってるんじゃない?」

「かね……もう一回試すか」


 カイトはユリィの言葉にそうかもしれない、と思いつつももう一度シャッターの解除を試みる。が、どれだけ待っても開く事はなかった。


「だーめか。こりゃ、どこかでシステムがイカれちまってるか」


 少し待った後、カイトはそう結論を下す。実験エリアに危険な物は無いと考えているので、最悪はなくても問題はない。あったとて流石に数千年前に放棄された物であれば、どれだけ危険でも停止している事は確実だろう。動力源となり得る魔導炉ならまだしも、他の物は動力も無しに動くとは思えないからだ。


「駄目そうかな?」

「ああ……仕方がない。一応覗くだけ覗いてみるか」

「わかった」


 カイトの言葉にアルが頷いて、他の一同へと視線を送る。とりあえず実験エリアの中がどういう状況なのかを確認しなければならないだろう。

 そして辿ってきた経路と現在地から考えれば、おそらくここは天井付近にあると推測される。であれば、扉を開けて少し見るだけで全体像は把握出来るだろう。それをしておくだけで良いのだ。手間は掛からないし、危険も殆ど無いと思われた。とは言え、警戒は怠らない。


「良し。ホタル、また同じ陣形で進む」

「了解」


 カイトが扉を開け、ホタルが内部の安全を確認する。ここまでと同じといえば、同じ陣形だ。しかしそれが一番安全だし、確実だろう。変に奇を衒う必要なぞない。そうして、カイトが扉に手を掛けた。


「「っ!」」

「マスター!」


 カイトとユリィが即座に飛び退き、ホタルがカイトの前に躍り出る。あまりに一瞬の事で、カイト達三人以外には誰にもわからなかった。


「どうした!?」

「敵!?」


 瞬とアルが問いかける。この三人が一瞬で警戒したのだ。全員に警戒が共有されていた。が、その一方でカイトとユリィは大いに焦りを浮かべていた。


「……なんだ、どこでミスった」

「わかんない。一個もミスは無かったはずだよ。それに結界なんてどこにも……」

「まさか、何も無しにってのか?」

「それは……」


 カイトとユリィの二人は大いに焦りを浮かべる。それに、瞬が問いかけた。


「おい、カイト」

「っ……あ、ああ、悪い。今すぐ撤退」


 カイトが今すぐ撤退しよう、と言おうとしたと同時。先程まで動かなかったシャッターが、緩やかに動き始める。そうして、カイト達が慌てた理由が、一同の目の前に顕になった。


「なんだ、これは!」

「虹の……獣?」


 誰かが、呟いた。そこに居たのは、虹を纏う巨大な獣だ。醜悪な見た目に反して、その威容はあまりに神々しい。明らかに、どこかの名のある神の聖獣の一体だった。そんな獣はこちらを睨みつけており、今にも拘束具を引きちぎらんばかりだった。

 カイト達が慌てて飛び退いたのは、この神話の獣の気配を感じ取ったからだ。扉を僅かに開いた瞬間、この虹を纏う獣が放つ得も言われぬ圧力がカイト達の鋭敏な感覚を貫いたのである。


「「「ぐっ!」」」


 強烈な振動が一同を襲う。それは虹を纏う獣から発せられていた。


「ちぃ! 全員、今すぐ撤退だ!」


 カイトが即座に命令を下す。こういう可能性は流石に彼も想定外で、安易に開けてしまったのがいけなかった。まさか敵が捕らえられ、そのまま数千年も生き続けているとは誰も思わない。とは言え、先にも述べたがカイト自身、この時は何故開けたかわからないのだ。無理もない。

 今はただ、何故か開いてしまい、そして開いてしまった事により目覚めたこの虹を纏う獣から逃れる事を最優先とするしかなかった。が、そうして行動を開始する直前。数千年に渡り力を蓄えたらしい獣が拘束を引きちぎり、カイト達へと猛烈な速度で拳を振るった。


「っ! ちぃ!」


 カイトは一瞬で回避不能を判断すると、管制室の前面へと障壁を展開する。どうやら、このままでは逃げ切れそうにないらしい。


「アル、先輩! オレ達で一度奴を抑えきる! 他はその間に管制室を探って非常用の装置を探してくれ!」

「もしなければ!?」

「逃げるが勝ち! 一度こいつを拘束して、その隙に離脱! 急いで外の連中にも即時撤退命令を出しておけ!」


 カイトはそう言うと、管制室のガラスを突き破って実験エリアへと飛び降りる。そうして、カイトは不慮の事故か必然か、目覚めてしまったもう一つの過去の生き残りへと戦いを挑む事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1158話『虹の厄災』

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