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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第60章 湖底の遺跡編

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第1153話 不可思議な状況

 レガドによる統括システムに残されていた情報の解析により遺跡が破棄された理由を知る事になったカイト達であったが、それは大凡冒険部の活動には関わりが無い。

 というわけで、その夜は暦に関する一連の騒動があれど何か変わった事が起きる事もなく一応は終了する。そして、その翌日。今日も今日とてカイト達は輪番制で休憩を取りながら遺跡の内部へと潜っていた。


「まったく……本当に桜達も成長したよ」

『もう……機嫌直してください』

「別に不機嫌ってわけじゃねぇよ」


 どこか拗ねた様子のカイトに対して、通信の先の桜は非常に楽しげだ。ある意味いつも一杯食わされてばかりの彼女らであるので、やはり逆に一杯食わす事が出来れば嬉しくもあったのだろう。


「別に隠す必要も無いだろ」

『こういうのは、隠してやるから良いんですわよ』

「まぁ、それは認めるけどな」


 瑞樹の言葉――こちらもやはり楽しそうだ――にカイトは不承不承ながらも認めるしかない。サプライズはサプライズだからこそ、意味があるのだ。彼とて時々やっているので悪く言えるはずもない。

 ちなみに、一応のこと念のために言っておく。カイトが拗ねているのは騙されていた事云々ではない。サプライズと思えばそれも受け入れられる。桜達の成長が垣間見られて嬉しい事は嬉しい。

 では何が彼を拗ねさせているかというと、それが完全に彼が除け者にされて進められていた事だからだ。教えてくれても良かっただろう、という所だったらしい。こういう子供っぽいところは相変わらず彼らしい、と言えるだろう。


「まぁ、良いか。とりあえず、魅衣はもう起きてるか?」

『はい。きちんと頼んでおきました』

「まぁ、それなら良いか……さて、本格的な作業に入る」


 カイトはいつまでも拗ねてはいられない、と気を取り直して任務に取り掛かる事にする。今日は暦と魅衣が輪番制により休暇だ。

 実のところ、そろそろだろうな、と桜達は女の勘で理解していたらしい。なので調査日程に彼女の名があった時には、シフトをコソコソと調整して三人の内誰かが初夜の後の暦をフォロー出来る様にしていたそうだ。今回はそれが魅衣だった、というわけである。とまぁ、それについては置いておいて。カイトは今日も今日とて湖底に沈んだ遺跡を目指して移動を開始する。


「さて……遺跡に到着した。レガド。今日も頼んだ」

『わかりました。では、ナビゲートを開始します』


 カイトの求めに応じて、通信網の中に入り込んでいるレガドがナビゲーションを開始する。そうして、カイト達は今日の目的地となる所長室とやらへと向かう事になるのだった。




 さて、それからおよそ2時間程。カイト達中央建屋の調査班は数度の瓦礫の撤去作業を終えてなんとか所長室へとたどり着いていた。


「ここが、所長室ね……幸い部屋の原型は残っていそうだ」


 カイトは部屋の状況を見ながら安堵のため息を吐いた。そんなカイトに対して、レガドが昨夜カイト達が眠ってから得ていた情報を教えてくれた。


『ええ、その様子ですね。これは昨夜の会議の後に判明した情報ですが、どうやら私と言うかニムバス研究所の事件の後、研究所にはシェルターとして所長室を改良する計画が持ち上がった様子です。その為、所長室は一際強固な構造になるように改良された、との事です。非常プロトコルの展開と共に所長室の他幾つかのエリアは完全に物理的・魔術的に気密性が確保される事になっていた様子です』

「それで、水の侵入した形跡がないわけか……動力源は?」

『超長期使用可能な魔導炉です。小型の物が部屋に備え付けられていると』


 カイトはレガドの解説を聞きながら外壁に手を当てて、そこが濡れた様子が無い事に納得する。どうやら濡れた形跡がないのではなく、そもそもここには水が入り込んでいなかったのだろう。と、その説明を聞いてふと、ティナが気付いた。


『……む? 今気密性も確保されておると言わなんだか?』

『ええ。気密性の確保もされていると。おそらく出ていった当時のまま、状況は保管されているでしょう』

『ということは擬似的な封印状態と考えて良いか?』

『そうなります。擬似的に封印する事で内部への一切の影響を排除。それで救助を待つのが手はずというわけです』


 ティナの再度の問いかけに対して、レガドははっきりと認める。となると、ティナはカイトへと一つの指示を飛ばす事にした。


『ふむ。カイト、であればそこの区画には比較的無事な物が多いかもしれん。資料も残っているかもしれん。重点的に探すと共に、水が入り込まぬ様にしておけ』

「了解した……アル! 悪いが部屋の扉に軍用の水密性確保の奴展開しておいてくれ!」

「わかった!」


 カイトはアルに頼んで所長室の内部に水が入ることの無い様に処置しておいてもらう。大声は上げているが、部屋の中なので問題はない。そうしてその間に、カイトは他の状況を確認しておく事にした。


「ふむ……」


 カイトはとりあえず所長用の机と思われる机へと近づいていく。そこはほぼ全ての戸棚が出っぱなしで、中には書類がまるで昨日までそこに人が居たかの様な状態で残っていた。


「書類は残ってるっぽいな……ああ、でも……」

『うむ? どうした?』

「戸棚の中身の一つが完全に持ち去られてる……見た所、鍵付きの奴だ」

『ふむ……鍵付きという事は重要な書類を仕舞っておったか。であれば、逃げ出す際にそれだけは持ち出した、という事であろうな。まぁ、不思議はあるまいし、当然の判断じゃろう。余でもそうした事は想像に難くない。諦めるべきじゃな』


 カイトからの報告を受けたティナが推測を述べる。そして大凡、そういうことなのだろう。それはカイトとしても納得のできる説明だったので、疑問は無かった。というわけなので、カイトは次の指示を問いかけた。


「とりあえずここの書類は今の内全部確保の方が良いか?」

『うむ。そうしてくれ。何があるかはまた余らで調べるべきじゃろう』

「わかった……全員、この部屋の中を調査して書類関連はすべて所定の保存容器に収納、書類以外に何かあれば、報告してくれ」

「「「了解」」」


 カイトの指示に合わせて、8割程の人員が一斉に行動を開始する。残る2割は所長室の安全の確保の為の見回りや見張りだ。そうして、およそ1時間程部屋を探索しながら書類を収集していると、皐月がふと何かに気付いた。


「あれ……」

「どしたの?」


 ふらふらと飛んで色々な所の調査という名のちょっかいを掛けていたユリィが問いかける。それに、皐月が部屋の壁の一角に耳を当てて壁を叩きながら答えた。


「ここ……空洞みたいな音しない?」

「え?」


 ユリィは皐月に言われるがまま、壁を叩いてみる。するとたしかに、何か空洞がある様な微かに響く様な感じがあった。


「カイトー、ちょっとこっち来てー」

「あいよー」


 少し離れた所に居たカイトがユリィの手招きでやってくる。それに、ユリィが再び壁を叩いた。


「ここここ。多分ここに魔導炉があるんじゃないかな」

「ふむ……」


 カイトはユリィの指示に従って、皐月が耳を当てていた部分に耳を押し当てる。そして更に数度とんとん、と壁を叩いてみると、たしかになんらかの空洞があるような気配があった。

 先のレガドの説明によればこの魔導炉は所長室に後付された物である上、安全保障上見取り図には記されていないらしい。なのでここに有っても不思議ではない。というわけで、カイトは専門家と言うかホタルを呼び出す事にする。


「ホタル。この奥に何かありそうなんだが、調べてくれ」

「了解」


 カイトの指示に従い、ホタルがティナより与えられた魔道具を使って壁の先を調査し始める。とは言え、そもそも場所は完全に把握されている為、それはものの一分足らずで終了する事となった。


「この先、10センチの所に20センチ四方の空洞が見受けられます」

「開けられそうか?」

「トラップ等は見受けられません」

「なら、頼んだ」

「了解」


 ホタルはそう言うと、おもむろに壁に手を突っ込んだ。どうやら壁は密閉されているらしいく、取っ手等は見当たらない様子だ。と、そうして砕け散った壁の先には、一つの箱が設置された台座があった。


「見えました。箱に収められている様子です」

「りょーかい。ティナ、見えてるか?」

『うむ、見えとるぞ……ふむ。中々に興味深い』

「そんなもんか?」

『ああ、いや。そちらではない。箱の方じゃ。ほれ、箱を見てみ?』


 ティナの言葉にカイトはホタルの開いた壁の奥を見る。そこに設置されていた箱にはかなり複雑な何らかの魔術的な刻印が刻まれていた。


『先程からレガドと少々考察を交えておったんじゃが、どうやら非常プロトコルの発令と共に擬似的に時を止める様な術式が展開される様になっておったと考えられる。そのままでは空気や食料が枯渇するからのう。とは言え、それならそれで問題が出る。なんじゃと思う?』

「ん? 擬似的に時を止めた時の問題点か?」

『そうじゃ』

「ふむ……」


 カイトはティナの投げかけた疑問を少しだけ考えてみる。とは言え、これについてはさほど考えるまでもなく、答えは出た。


「そりゃ、時を擬似的に止めちまうと魔導炉の発電も止まるって所だろ。動かない物がエネルギーを生み出すわけないもんな」

『そういうことじゃ。それ故、それは外部の空間のみが停止する様にされて、その他には一切影響が出ん様に工夫がされておると思われる。な? 興味深いじゃろう』

「なるほど……」


 カイトはそう言われてみれば、たしかに小型魔導炉よりもこちらの箱の方が興味深い事を理解する。どういう設計思想だったのか等はこれからリバース・エンジニアリングを行う事でしか把握し得ないが、少なくとも現代の技術よりも遥かに高度な技術が設けられているのは確実だろう。


「どうする? 箱を持ち帰るか? もうこの部屋の封印は停止はしているだろう?」

『ふむ……それはおそらくその部屋と一緒くたにして使われておるものじゃろう。であれば、部屋を保存する意味でもそのままにしておいた方が良いやもしれんが……』


 持ち帰って調べたいのは事実だし、それより保存状態を確実にしておきたいのも事実だ。どちらでも良いと言ってしまえばそれまでであるが、どちらかしか選択肢は無いのも事実である。


『ふむ……良し。では魔導炉を持ち帰ってくれ。昨日の様に地震があり崩落しました、ではあまりうれしくない事になろう。部屋は最悪そちらからさっする事も可能じゃ。ま、後は余の腕の見せ所という所で期待しておいてくれ』

「りょーかい。期待してる。ホタル、レガド。手伝ってくれ」

「了解」

『わかりました』


 カイトの要請を受けて、ホタルとレガドがカイトの補佐に入る。そうして、彼らはしばらくの間所長室に他になにか特異な仕掛けが無いかを調べる為、所長室へと滞在する事となるのだった。




 さて、一方その頃。ソラ達はというと、翔の指示の下で行動していた。


「これで、良しと。レガド……さん? これで良いんっすか?」

『ええ、ありがとうございます。それでなんとかデータサーバにアクセスする事が出来るかと……はい。データのダウンロードを開始しました。後はこちらでやっておきましょう』


 ソラの問いかけにレガドが頷いて礼を述べる。レガドは謂わばAIだ。二つの所に同時に指示を与えるなぞ、造作もない事だ。それを受けて昨日の内に発見した、研究所の中でも比較的無事なコンソールと接続させてやったのだ。

 とは言え、今までに彼らも述べていたが、中央建屋を除けば建物自体への被害もかなり大きかった。なのでこの無事なコンソールを見つけ出すのはかなりの手間だった様子で、それ故朝一番から始めていたはずの作業なのに今まで時間が掛かっていたらしい。


「良し。それなら……翔。俺だ、俺」

『どした?』

「サーバ、無事動き出したってさ」

『おけ。サンキュ』


 ヘッドセットを介した通信の先で、翔がソラへと礼を述べる。一応、瓦礫の撤去作業は纏まって人海戦術でさっさと終わらせてしまったわけであるが、流石に無事なコンソールを探す作業を纏まってやるわけにはいかない。

 というわけで、幾つかの班に分けて行動していたのだ。幸いにしてメインの魔導炉の復旧に合わせて、設備も幾許は復旧している。詳しい知識がなくても特には問題はなかった為、分けたのである。

 で、運良く見付かった班がソラの所だった、というわけだ。そしてデータサーバの移送作業にしても人海戦術を駆使する必要はない。なのでそのままソラ達がサーバの復旧作業を行う事となり、翔達は予備の動力室を目指す事にしていた、というわけであった。


「そっちどうよ?」

『こっちはあと少しって所……ああ、今扉の所まで道開いたって』

「そか……こっち、どする? そっち、人手必要ならこれから向かおうか?」

『んー……』


 ソラの問いかけに翔は少し考える。すでにこちらの作業も終わり掛けと言って良い段階だ。後は予備の魔導炉が設置されていると思しき予備の動力室へ入って魔導炉がきちんと停止している事を確認すれば、それでとりあえず今日の所の作戦目標は終了である。


『今確か中央建屋だったよな?』

「ああ。研究所のコンソールよりこっちのが生きてるんじゃないか、ってレガドさんからアドバイス貰ったからな。結界展開してるから、ここから離れても問題無いよ」

『……じゃあ、非常用の脱出経路の確保頼む。何も無いとは思うけど、動力室にゴーレム居たらしいし、こっちにも居る可能性はあるだろ。で、何か警備システムとか呼び起こされても怖いし』

「んー……そだな。わかった。じゃあ、万が一に備えて脱出経路の確保しとく」


 翔の申し出をもっともだ、と頷いたソラはその指示に従って彼らの脱出経路の確保を行っておく事にする。と、そうして行動を開始したソラ班の一方、翔はというと瓦礫の撤去作業が更に進んで扉の前にたどり着ける様になっていた。


「翔。終わったぞ」

「あ、はい。えっと、扉、どうですか?」


 瞬の報告に翔はとりあえずの状況を問いかける。瓦礫の撤去は終わったが扉が開くかどうかはまた話が別だ。構造が歪んで開かなくなっている可能性は十分にあった。というわけで扉を確認してくれていたルーファウスへと瞬が視線を送る。


「……駄目だ。コントロール・パネルは先程瓦礫で見付かっているし、基盤もあの通りだ。鍵の解除は難しそうだ」

「だそうだ」

「ふむ……強引に押し入るしかなさそうですね」


 この様子なら中も無事じゃあないだろうな、と翔は予想しつつ、何かあるかもという事でとりあえず入っておく事にする。


「そうか。わかった……ルーファウス、そこをどいてくれ」

「っと。わかった」


 鍵穴が潰れてしまっている以上、取れる手は限られている。というわけで、瞬は強引に扉を開ける為に槍を構えた。そうして、瞬は呼吸を整える。


(狙うべきは中央の円形の部分)


 瞬は標的を狙い定める。予備の動力室の扉はメインの動力室の扉と同じタイプの物で、取っ手も何も無い類の物らしい。解錠時に自動で中央が回転して、鍵が外れるようだ。

 であれば、そこを破壊してやれば開くだろう。というわけで、瞬は<<雷炎武・参式(らいえんぶ・さんしき)>>を始動させ、器用にど真ん中の錠前だけを破壊する。


「……よし」


 一突きで扉のど真ん中を貫いて、瞬は槍を消失させる。これで鍵は壊れたので、後は押せば開く。と、そうして槍が消失した事で扉の内側が見える様になったからか、光がこぼれている事にルーファウスが気付いた。


「ん? 光が溢れている……?」

「どうした?」

「いや……内側から光が……」


 瞬に一切の危害が加えられている様子の無い事から攻撃ではないようだが、とルーファウスは首を傾げる。とは言え、その間にも瞬は扉に手を当てており、押し開いていた。


「「「……これは」」」


 中に入って、全員が目を見開く。予備の動力室そのものはそこそこ荒れていたものの、予備の魔導炉が生きていたのである。そうして、彼らは慌ててそれをティナ達司令部へと報告する事にするのだった。

お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1154話『更に地下へ』

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