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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第60章 湖底の遺跡編

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第1152話 遺されし物

 思わぬ所での地震というある種の天の知らせを受けたカイト達は、それを撤退の合図と捉える事にして本格的な調査の一日目を終了させていた。そうして帰還を始めたカイト達だが、やはり早い内に調査を切り上げて良かったようだ。


「ふぅ……まさかあの通路が崩れているなんてな……」

「また瓦礫の撤去を行うなんて思わなかったわ……」


 皐月が疲れた様子で肩を落とす。彼女の言う通りである。どうやら途中でカイト達が潜入する時に通った通路の一部が地震で崩れてしまっていて、新たなルートを探すしかなかったのだ。

 が、無かったので結局は瓦礫の撤去を行ってなんとか外に出る事が出来た、というわけである。結局としては出てこれた時間は当初の予定を少し上回るぐらいだった。


「はぁ……ティナ。こちらカイト。なんとか出れたぞ」

『うむ。こちらはまだ解析を続けておる最中じゃ』


 とりあえずなんとか出られた事もあり、カイトは外の司令部へと報告を行っておく。なお、少し後に聞いた話なのだが、どうやらそういうことで一番最後に出て来たのはカイト達だったらしい。これはカイト達が不幸だった、というわけだろう。


「……っと、そろそろ暗くなり始めるな。夜闇の帳が下りる前に帰還しよう」


 予定より少し時間がかかった事を受けて、カイトは少し急ぎ足で撤退する様に一同を促す。そうして、彼らは少し急ぎ気味に湖底の遺跡を後にする事になるのだった。




 さて湖底の遺跡を後にしたカイト達はとりあえず一度身体を休めておくと、夕食後になって本日の進捗を確認する為に上層部で集まる事になっていた。これは何時ものことなので、何か不思議な事はない。


「ふむ……じゃあ、地下の方はそっちは結構崩落している所が多そうなのか」

「ああ……でも一応シールドは確認出来てるから、破損してるとか言うことは無いと思う」


 カイトの問いかけに翔が一つ頷いた。たった今彼らの所の調査報告を受けたわけであるが、どうやら進捗は芳しく無いらしい。まだ地上階はかなり無事な所も多かったらしいのであるが、それに反比例する様に地下階に関しては大きくダメージを受けていたようだ。それ故、調査に時間が掛かっていたのだろう。

 カイト達が追加で調査を頼んだデータサーバに関しても一応発見は出来たものの、そう言う関係から発掘はまだ時間が掛かりそうだ、との事であった。内部になるべくダメージを与えない様に慎重に作業しているらしい。


「ふむ……」


 翔の報告にカイトは少し考える。とりあえず一番重要な施設は翔達の所だ。何があったのか、という学術的な範囲であればカイトの所にあったブラックボックスも必要ではあるが、実際にカイト達に役に立つのはあちらだ。何か考える必要があるだろう。とは言え、他が気になるのも気になる。


「ソラ、先輩。そちらの探索状況はどうだ?」

「あ、俺と先輩は話してたけど、どっちもあんま関係なさそうってのが所感だ」

「ああ。どちらもなんて言えば良いか……そうだな。敢えて言えばレクリエーション施設という所か。研究とは関係なく、例えば食事や運動をしたりする設備しかなさそうだ。寝室に何らかの書類はあるかもしれないが……それでも、研究施設の方にも大半は同じ物があると思う」


 ソラに続けて、瞬が己の所感を述べる。今日も一日作業を行ってもらったわけであるが、どうやらこちらは殆ど目新しい物は見つからなかったようだ。学術的な意味のある物や何らかの理由で研究者達が私室に持ち込んだ資料等はあるだろうが、それもわざわざ探す程の物かは疑問と言わざるを得ないらしい。

 更に厳しいのが、この遺跡が水没していた事だ。紙媒体の記録についてはほぼ全て完全に消失していると見て良いだろう。少なくともカイト達は紙媒体の資料を発見していないし、ソラ達も同じだそうだ。勿論、翔のチームも何をか言わんやである。


「ふむ……ティナ。確かお前、この文明の紙については一家言あったな?」

「そりゃのう」


 カイトの言葉にティナははっきりと明言する。一家言あるどころか、彼女こそが現代文明の製紙技術の量産体制を整えた立役者にしてその研究の第一人者だ。誰よりも詳しいと彼女自身が断言出来る。


「この文明の紙はオレ達の知る紙と似たような物か?」

「うむ。現代文明の紙はほぼ、この文明で作られておった製紙技術と同一と捉えて良いじゃろう。水に濡れば当然使えん様になる。まぁ、それでももし地球の様に水に強い特殊な紙を作れておったのであれば、話は別じゃがのう」

「ということは、おそらく普通の研究資料に関して言えば普通のコピー用紙と変わらない性質と」

「そう言ってよかろうな。大凡、効率としては地球で製紙技術に使われておる連続蒸解窯と同等と捉えて構わん。まぁ、所詮は製紙技術。魔術には絡まん物故……」

「すとーっぷ。解説はそこで止まっといてくれ。今はそう言う場合じゃない」


 学者らしく長々とした解説を行おうとしたティナに対して、カイトがまぁまぁ、と制止しておく。なお、彼女は魔王時代にどうやらとある縁でこの連続蒸解窯という物を手に入れたらしい。

 そこから使い方と製造元を魔術を使って把握した彼女は皇国へと申し出て埋もれていたあの遺跡を発見して、製紙技術の量産体制を整えるに至ったそうだ。


「むぅ……まぁ、それはそうじゃのう。とりあえず持ち出されるとすれば、確実にそこらのコピー用紙の様な物になろう。であれば、流石に数千年もの月日を水の中で過ごせば必然、まぁ……というわけじゃ」

「聞きたい事をどーも」


 カイトはようやく教えてくれた答えに肩を竦める。とりあえず、聞きたい事は聞けた。であれば、方針は一つだった。


「ソラ、先輩。二人は明日から翔の協力を。翔、二人の部隊もお前が率いろ。いつもとは逆になるが、やれ。どうにせよどちらも良い経験になるだろう」

「げっ」

「わかった」


 嫌そうな顔をした翔に対して、瞬は特に気にする事もなく頷いた。日々是鍛錬と苦難に進んで行く瞬と今時の少年の性格である翔をよく表していた一幕であった。とはいえ、そんな差は瞬その人も把握している。


「あはは。そう言うな。勿論、俺も補佐してやるさ」

「お願いします」


 瞬の言葉に翔は頭を下げる。カイトの言う通り、それが目的なのだ。補佐してもらわないと困る。と、そこが決まった所でソラがカイトへと問いかけた。


「で、お前はどうすんの?」

「オレか。オレは今回の調査中、大半は中央建屋を調べる事になる予定だ。まだ幾つか重要な設備は存在しているし、所長室にも行っておきたい」

「所長室?」


 カイトの返答にソラが疑問を呈する。重要な施設が多い中、わざわざ所長室に行く意味があまり理解出来なかったのだ。


「ああ……データのバックアップを入手したのは良いんだが、どうやら非常プロトコルが起動しているらしくてな。当時の高官達の何らかの身分証明証が必要なんだそうだ。まぁ、幸い地図は見付かってるから、そこまで苦労はしないがな」


 カイトはとりあえずの明日の目的を一同へと語っておく。統括システムをサルベージ出来たまでは良かったのだが、どうやらやはり何かがあってこの遺跡は放棄されたようだ。

 それ故、大半の重要な情報には高度なロックが仕掛けられており、一応レガド単独でも解除は可能だが何らかの身分証があればかなり捗るらしい。と言っても、それ彼女が明言したレガドの統括責任者が居ないという問題はまだつきまとう。カイト達が明日探す物より更に上の権限が必要なのだそうだ。

 敢えて言えば明日探す身分証が見つかった場合、一年必要な解析が半年程になるという程度だった。ということで、カイト達は明日はそれの捜索を依頼されていたのであった。勿論、これは物の例えなので実際には一年も解析は必要がないらしい。


「ってことはお前は当分はレガドってのの指示に従って動くってことか?」

「そういうことになるな」


 ソラの統括にカイトは頷く。基本的にはそれで良いだろう。そして語っておくべきはこの程度だろう。なので、カイトは更に幾つかの情報を共有しておいて、活動報告を終了させる。


「さて、これで閉会」

「っと、ちょい待った。カイト、後で少し頼む」

「ん? オレだけか?」


 カイトの閉会の合図を遮ったのはヘッドセットに耳を当てていたティナだ。どうやら、何かがあったらしい。と、そんな彼の問いかけにティナは無言で頷いたので、カイトも一つ頷いてとりあえず閉会を宣言することにする。


「ああ……っと、じゃあとりあえず閉会で。で、なんだ?」

「ああ、うむ。丁度レガドから報告が入っての」

「ああ、そういう……わかった。ついでだし聞いておこう」


 カイトはそう言うと、ヘッドセッドを起動してレガドとの通信を確保する。


「オレだ。何かわかったのか?」

『ええ。丁度今しがた比較的浅い階層の情報の解凍が終わりました。ここらは機密性が低いため、私単独の権限でどうにかなりました』

「それは朗報だな」


 カイトはレガドの報告に笑みを見せる。やはり『敵』と戦っていた経緯がある為、情報に何らかのウィルスの様な物が仕掛けられていないかどうかを確認しながらにしていたらしい。

 なので身分証を必要とする部分以外の所もかなり時間が掛かっているようだ。必要がない部分であるにも関わらず、半日近くも時間を要していた。とはいえ、その安全策についてはカイトも戦士である以上、何かを言う必要つもりはない。万全を期してくれ、と言うだけだ。


「それで、何がわかった?」

『はい……この研究所が放棄された理由と、それに関して過去の大戦について少しの情報が残されていました』

「大戦……それはオレ達の言う大戦ではなく、二千年近くも昔に起きた戦いの事だな?」

『はい』


 カイトの問いかけにレガドは頷いた様子を見せる。確かにこれはカイトも独自に調べているので幾許かは把握しているが、それでもあまり詳しい事はわかっていない。起きた時代がそもそも古い事と、シャムロック達も相当な激戦で全てを知れるだけの余裕が無かったからだ。

 唯一、神々最後の生き残りであったシャルロットが邪神封印後の顛末も含めて詳しく知っているはずなのだが、その彼女が眠りに就いたのだから誰にも詳細を知る方法が無かったのである。というわけで、ここからの話はカイトも興味があった。そうして、レガドが語り始める。


『まず記されていたのは、七匹の強大な獣』

「虹を纏う七匹の厄災の事か?」

『はい。これについて通信記録の中に少し詳細なデータが記されておりました』

「通信記録……ここを中継局として本部へと情報を送ったという所か?」

『流石にそこまでは……どうやら通信機に残されていたデータが破損していたらしく、微かに情報の記載があっただけです』

「ふむ……ああ、悪い。続けてくれ」


 カイトは一瞬どういう相手か思い出そうとして顎に手を当てるも、思い直して先を促す。とりあえず情報を聞いてからでも遅くはないと思ったのだ。そうして、レガドが続けた。


『この七匹の獣ですが、この研究所が破棄されるまでの最新の情報に二匹の討伐記録がありました』

「ふむ……オレもオーリン達から戦いの終結までに四匹は神々で倒した事を聞いている。その一体か?」

『おそらく、同一かと。それで更にその後の解析を続けたのですが、研究所が放棄された理由は大凡掴めました』

「教えてくれ」


 どうやら、この湖底に沈んだ遺跡は戦いの最後まで残ったわけではないらしい。途中で放棄されたと見て良いのだろう。そうして、レガドが原因を語り始めた。


『どうやら、その七匹の虹の獣の一匹に襲われた様子です。基地の全域に避難命令が発令されておりました。それに合わせて、非常プロトコルが発令したと考えて良いでしょう』

「なるほどな……だが間に合わず研究員が操られて同士討ち、というわけか」

『そういうことでしょう』


 それなら、確かに辻褄が合う。何時この遺跡が放棄されたかはわからないが、少なくとも戦争の中盤から終盤ではあったのだろう。その頃にはすでに大半の警戒網は引き裂かれていたはずだ。気付いた時にはすでに手遅れで、というのは十分に考えられる。


「ということは、遺跡の機構が比較的無事だったのはもしかしたら外側から何らかの魔術で地盤が崩壊させられた、砲撃により崩された、という人為的な可能性があり得るか」

『ええ。通信設備を乗っ取ってもし大陸全土に洗脳を成されていたら、と考えるとあなた達風に言えば背筋が凍る、という所でしょう』

「戦略的にはどちらも正しい判断と言えような」


 レガドの明言にティナは思わず背筋を凍らせながら頷いた。レガドの言う通りだ。ここでは当時は最新の通信機器が研究開発されていた。それは当然だが、大陸全土にまたがって通信可能だっただろう。

 もしそんな最新の通信設備さえコントロール出来る機器を奪取された瞬間、シャムロック達の完全敗北が決定していただろう。下手をすれば他大陸にさえ事件は波及していたかもしれない。背筋が凍るどころの騒ぎではなかった。

 それを考えればこの研究所が襲われた時点で破棄が決定されたのも当然の判断だし、カイトが言った様に地下空洞を崩落させて基地を湖の底に沈めたのも道理と言える。敵に取られるぐらいならいっそ、というわけだ。と、そんな会話を行った事で、ティナは一つの推測にたどり着いた。


「ふむ……その七匹の虹の獣は大方幹部や敵軍の切り札という所じゃろう。であればそれが来ていた所を見ると、もしやするとこの研究所ではその洗脳に対する対抗手段、アンチ洗脳装置の様な物でも開発されていたのやもしれんのう」

『ふむ……それは十分に考えられます。流石にそれはまだ解凍出来ていない情報でしょうし、さらに言えば詳細は研究施設の方だと思いますが……』

「ふむ……」


 ティナの眼差しに少しではない真剣さが滲む。今後この『敵』との戦いは避けられないというのが、カイト達の見込みだ。であればやはり対抗措置は手に入れておくべきだろう。


「……データのサルベージは完了しておるな。ふむ……カイト。少々後になるが、余らの調査が終わり次第この遺跡にウチのを入れてデータサーバは回収しておくべきじゃろう」

「確かにな。もし蘇ったとして、洗脳に対抗手段を持っておくのは得策か。わかった。クズハを通して陛下にも奏上しておこう」


 カイトはティナの申し出を受けて、その先の行動を決定する。少なくとも、敵が切り札を派遣する程にはこの研究所を危険視していたのだ。何かがあると断じて良いだろう。

 その研究データがあれば敵に対して何らかの対抗措置が手に入る可能性は十分にあり得る。それは是が非でも手に入れておくべきだろう。そうしてカイト達はその次の行動を決めると、密かにそれに向けての準備を並行して整える事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1153話『不可思議な事態』

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