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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第60章 湖底の遺跡編

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第1150話 一つの戦いの決着

 湖底に沈んだ遺跡の中でなんとかかつての通信室を見つけ出す事に成功したカイト達中央棟調査班。そこでカイトはレガドからの情報提供を受けながら、通信装置の復旧作業を行っていた。


「で、こことここの導線を結べば良いんだな?」

『はい。導線の素材については流石に過去も今も変わりません。ですので現代の物を流用可能です』

「りょーかい」


 カイトはレガドのアドバイスの下、作業を行っていく。なお、導線と言ったがこれは魔術的な意味での導線と捉えれば良い。というわけで、カイトは持ち込んだ工具箱を使いながら通信装置を弄っていく。


『次はその右下のレイラインを……』

「これを……」


 基本的にカイトは手先が器用だ。魔力の扱いが上手いが故というよりオーア達に使いっ走りにされているからの様な気もしないでもないが、とりあえずこの場合はそれがよく働いていた。手早く進めたのだ。


「ユリィ、そっちの細かい所頼む」

「はいさ」


 そして良い事が、ユリィが居た事だ。やはり彼女の体躯は非常に使い勝手が良い。小さい所の作業をし易いのだ。それにおまけにゴーレムの身体を持つホタルまで居る。なのでおよそ1時間程で作業は終了する事となった。


「これで……終わり!」


 カイトは取り出していた最後の基盤を箱の中に突っ込んで、蓋を閉じる。これで修繕は完了したと言えるだろう。そして幸いな事にこの部屋は動力室の真上だった事からか、地面の崩落も殆ど無かった様子だ。エネルギー供給に関しては問題なく行われていると見て良いだろう。


「メインスイッチは裏側だったな?」

『はい。裏側の赤いスイッチです』

「良し……ティナ、一度通信装置をオンにする」

『わかった』


 レガドのアドバイスを受けたカイトがティナへと報告しておき、背面のスイッチを押す。すると、緩やかな光を灯し始めた。


「光り始めた……起動したな」

『おそらく。では、リンクの確保の為に持ち込んだコンソールで作業をお願いします』

「あいよ……ホタル、補佐を」

「了解」


 カイトは常備しているウェアラブルデバイスを手に取ると、手始めにそれと通信機のコネクションを確保する。これについてはカイトが近くに居る為、専用のケーブルを使った有線での作業を可能な様に改良を加えておいた。


「翻訳システム……正常に起動」

『それは良かった』


 カイトの言葉にレガドが僅かな安堵を滲ませる。当然であるが、カイト達の属する文明とこの遺跡が作られた先史文明は違う。なのでやはり魔術にせよ何にせよ、互換性という物があまりない。

 勿論一応は後継の文明になるので皆無というわけではないが、やはりこういう機械じみた魔道具を噛ませるとなると、その互換性は問題になってくる。対処しておこう、というのは当然の発想だ。

 ということで、レガドに協力してもらって現代の物を使って先史文明の魔道具を動かせる様に翻訳システムを開発していたのであった。ここらは、逆に機械的な魔道具なればこそ出来る事だった。

 わかりやすく言えばパソコンのOSをエミュレーターの様にして動かせる様にした、という所だろう。簡潔に言えばパソコン上にもう一台パソコンを設置しているようなものと考えれば良い。


「さて……それでどれを操れば良いんだ?」

『はい。まず、私とのリンクを確保してやる必要があります。その為にも、施設の受信装置の状況を確認してやる必要があります』

「了解。じゃあ、まずはそこを探せば良いんだな?」

『はい。万が一の場合には、外にて受信機を設置する必要が』


 カイトはレガドの指示に従って、システムチェックを開始させる。なお、ここでの受信装置とは謂わばアンテナの事だ。アンテナが無ければ信号を生み出せても受信も送信も出来るわけがなかった。


「ティナ、そちらについては?」

『うむ。それについてはこちらで可能な様に手はずを整えておるよ。もし設備そのものが破損しておるようであれば、こちらから向かおう』


 カイトの問いかけにティナが手はずが整っている事を明言する。やはりカイト達がここから外に出て作業を行うよりも、外の者達がやった方が遥かに手っ取り早い。

 ということで部隊の技術者達と共に、ティナが外で待機していたのであった。そうして、少しカイトがシステムチェックを行うとどうなっているかの結果が出た。


「……んー……通信の確保は出来てるっぽいけど駄目っぽい」

『どういうことじゃ?』

「わかりやすくいうと、電波が一本も立ってない。アンテナが使えてないって感じかな」

『ということは、外にある受信機がイカれておる、と』

「そういうことじゃね?」


 ティナの言葉にカイトは適当に頷いておく。ここらは戦士である彼が考える事ではなく、技術者である彼女らが考える事だ。そしてカイトの持つウェアラブルデバイスの画面は僅かに遅れてティナ達の所へも届く様に設定してある。彼女らの方がよくわかっている事だろう。僅かに遅れるのは処理速度の問題だ。流石にウェアラブルデバイスにそこまでの高性能を期待するのが間違いだろう。


『そうか……カイト、お主は引き続きレガドと共にシステムの復旧を行っておいてくれ。余らが外の受信装置の修復に入ろう。レガド、場所の案内は頼めるか?』

『可能です。送られてくる情報の中に設備状況も確認出来る情報がありました。こちらからオペレートしましょう』

『頼む。では、カイト。こちらは作業に入る』

「頼む」


 カイトは通信機器のシステムチェックを続行しながら、一方のティナ達が早急にアンテナの設営に入る。そうして、待ち時間の間にカイトはレガドに作業の終了予定を問いかけておいた。


「アンテナの修理作業はどれぐらいで終わる?」

『それはあまり時間は必要ありません。彼女らの技術力であれば、大本の土台さえ残っていれば一時間もあれば設営が完了する事でしょう』

「残っていなければ?」

『まぁ、明日まで掛かる事になるかと。とは言え、少なくともその画面を見る限りでは土台は生き残っていそうです。魔物達の目についてアンテナが完全に失われた、という所でしょう』

「それは仕方がないか」


 カイトはレガドの言葉にそれはそうか、と納得する。一応この遺跡については外形はそこそこ残っていたが、魔物達が屯していた影響が無いではない。アンテナもその一つ、という所だろう。

 水中の魔物は往々にして巨大な魔物が多く、身動き一つでアンテナ程度なら破壊されても不思議はなかった。逆に土台は施設に埋め込まれているらしく、残っている可能性は高いらしい。


「さて……じゃあ、しばらく待つ事にするか」


 カイトはそう言うと、ユリィ達と共にシステムチェックを行いながら作業の終了を待つ。その間は待ち時間となるわけであるが、やはりその場を動くわけにもいかない。なので上や外で幾度かの戦いはあれど、カイト達としては至って平穏だった。


「だーれも来ないね」

「作業の邪魔にならない様に、って全員こっちに来ない様にしてるんだろ。外の通路もさっき一部封鎖して水を抜いてたようだし……まぁ、外も大半の作業は待ちだろうしなぁ」


 ユリィの言葉にカイトはため息を吐いた。別に気にする必要は無いのだが、向こうが勝手に気を使ったらしい。カイト達三人を除いて全員が部屋の外で待機していたようだ。


「見回り、行けないもんね」

「それでこっちで魔物来たら元も子もないからな」


 カイトは笑う。つまりは、そういうことだ。見回りは出来ないし、かと言ってカイトの作業の邪魔も出来ない。本来は二人ぐらい外の通路の見張りにいれば十分なのだが、全員外で待機、という事だったのだろう。

 と、そうしてしばらくは待つ事になっていたカイトなのであるが、やはり誰も来なかったわけではない。作業の進捗を確認するために皐月と暦のペアがやってきていたりしていた。


「ふーん……じゃあ、今は外の作業を待ってるってわけ?」

「そういうこった。謂わばアンテナがぶっ壊れている感じだ。送信はここに残った物から少し、って所で出来るんだろうが、受信はどうしようもない、ってわけ」

「ふーん」


 皐月はなるほど、と頷いた。そして状況から別にそこまで長くなるわけではない、という事も理解した。であれば、もう少し待てば終わりだろう、と推測するのは容易だった。


「わかった。じゃあ、それ上と外に言ってくる。暦、外お願い。私、上行くわ」

「はい」

「頼むなー」


 皐月の言葉に暦が頷いて、カイトが手を振る。と、そうして天井の崩落部分に消えていった皐月の一方、暦はまだ残っていた。


「何かまだあるか?」

「……」


 暦は真っ赤になりながらカイトの問いかけに頷いた。どうやら、覚悟は決めてきたらしい。


「あの……先輩。好きです」

「ド直球だな。暦らしいか」


 本当に直球に素直に言い表した暦に、カイトは何かを思うよりも前に感心してしまう。初心な彼女らしい素直な告白と言えるだろう。そうして、カイトはユリィと頷きあった。実は暦が告白して来た場合には、少女らとカイトの間に一つの合意があったのだ。


「そうだな。オレもここで本当なら答えてやりたいし、いつもならどこが好きとか逐一答えてるんだが……うん。暦、流石に今回はお姉さま方が少々ご立腹でな。先、ご挨拶してこい。オレの返答はそれまでおあずけです、との代表の桜からの通達です」


 カイトは少し可笑しそうに笑いながら、少女ら代表としてカイトへ暦への沙汰を申し付けた桜の言葉を伝達する。告白の前にキスというのは、彼女らとしてはルール違反だ。土俵の上に上がるのであれば宣戦布告をして、というわけである。

 というわけでカイトからの返事よりも前に彼女らからの抗議が、ということなのだろう。本来これはカイトが応ずる前にするべきではないのだろうが、今回の成り行きを考えた結果のある種の意趣返しとも言える。それにある意味、これは返事をしているようなものだ。というわけで、暦がおずおずと問いかけた。


「……えっと……怖そう……ですか?」

「あっははは! 怖いかもな。が、それはそれ。頑張ってこいとしかオレには言えないな」

「うぅ……」


 暦が真っ赤になりながらも少し怯えた様子で頷いた。と言うより、覚悟の上でここに来ているはずだ。なのでもう告白してしまった以上、彼女に残されているのは前へ進む以外に道はない。そうして、ユリィが笑顔で口を開いた。


「大丈夫大丈夫。別に取って食うとかじゃないから。それに皆激怒してるってわけじゃないから、ちょっとしたルール説明があるぐらいだよ」

「……はい」


 ルール説明というより宣戦布告というのでは、と暦は思いながらも頷くしか無い。そしてカイトが少しすまなそうに申し出た。


「あー、まぁ、本当なら一緒に居てやりたいんだが、流石に現状じゃあな。伝令、あるだろ?」

「あ、はい! そうだった、忘れてた! すいません、先輩! じゃあ、行ってきます!」

「静かにな……」

「あ、ごめんなさい」


 どうやら焦りや興奮で慌てていたのだろう。大声を出してしまっていた。それにカイトに笑って注意された暦は一つ深呼吸して落ち着くと、そのまま部屋を後にする。外のアル達にカイトの進捗状況を報告しに行ったのだ。


「んー……やっぱり初々しい子って良いなぁ……」


 そんな暦の背中を見つめながら、ユリィが呟いた。その暦の背中が少し嬉しそうだったのは、気の所為ではないだろう。やはりユリィは教師という立場等もあって、見守るという事が好きなのかもしれない。


「おや、天真爛漫なユリィちゃんはいつの間にかスレてしまいましたか」

「元々大昔からスレてた様な気もするけどねー」


 カイトのどこか茶化す様な言葉に、ユリィは笑ってそう言うだけだ。と、そんなユリィにカイトは暦の事を述べる。


「にしても、意外と早かったな。もう少し悩むかなー、と思ってたんだが」

「私は何もしてないよ」


 カイトの言外の問いかけにユリィは答えを述べる。それに、カイトの言う事は間違いだ。


「それに、早かったじゃなくて遅かった、だよ。足掛け何ヶ月悩んでんのさ」

「あ、あー……そう言えばそうだったか」


 呆れをかなりにじませたユリィの言葉にカイトも少しだけ肩を震わせて笑う。途中に悪化した時期があったので気にならなかったが、実際には夏の終わり頃から今までずっとじれったい状況だったのだ。普通は呆れるべきである。そしてそこを一段落させたカイトは、ヘッドセットを使って少女らに少しだけ、口添えをしておいた。


「……というわけだ。まぁ、お手柔らかにな」

『はい、わかりました』


 カイトの言葉に桜が頷いた。やはり折に触れて気にしていたのは彼女だ。沙汰を言い渡したのも彼女だし、と今回は彼女が中心となる様子だった。と、そうしてカイトが抜けた通信網の中。暦に近しい天桜学園出身の少女らの間で会話が交わされる。


『騙せたわね』

『騙せましたね』

『騙せましたわね』


 三者三様に笑い合う。実のところ、少女らは別に暦が告白する事にお小言を言うつもりだったのではない。いや、勿論宣戦布告をしなければならないのでそこらはお小言は言うつもりであるが、それとは別にずっと見守ってきていた立場でもある。思う所はあったらしい。

 ということで、実はカイトにも隠れて一つの計画が進んでおり、その為にカイトを通じて暦には敢えて自分達に会いに来る様に言い渡していたのである。なので、カイトを騙していたわけであった。

 流石にこういう色恋沙汰に関係しては、百戦錬磨の政治家達の嘘を見抜く勇者カイトも少女らの嘘は見抜けないようだ。完全かつ完璧に騙されていた。

 そうして、カイトはその夜。桜達と一緒に現れた暦を見て彼女らに完全に一杯食わされた事を理解して、その日から暦がカイトのハーレムに加わる事になるのであるが、これは遺跡探索に関係の無い事であるので今は横においておく事とする。

 お読み頂きありがとうございました。暦、ハーレム入り。カイトが何をどう騙されたのかは、まだ待ってください。

 次回予告:第1151話『成果その1』

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[良い点] 暦は後輩キャラとしては初めてなのでは? 暦初々しくて可愛い
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