第1148話 動力復旧
湖底に沈んだ遺跡の動力室へとたどり着いたカイトは、その翌日に合流した『無冠の部隊』の技術者達を引き連れ魔導炉の復旧作業を行っていた。が、それも夕刻頃には終了が見えてきた状態だった。
「良し……総大将ー。シールドの錬成は終わったー?」
「後もうちょいー」
相も変わらず総大将と言う名の便利屋扱いなカイトは彼らから教えられた錬金術を使って魔導炉のコアのシールド部分の錬成を行っていた。まぁ、これは本当に壊れた部分を錬金術を使って再錬成してやるだけの単純な作業だ。なので彼でも問題はないわけだ。
そこに術式を刻む作業はティナやオーア達専門家がやってくれる事になっている。なのでカイトは何も考えず壊れた部分を修復するだけで良かった。
「おし。終わり」
「おーし。じゃあ、後はここに……」
魔導炉のコアを載せる所の横に座ったオーアはカイトの修理した金属板を受け取ると、それに器用な手付きで何らかの模様を刻んでいく。コアへの影響を防ぐ為の魔術的な刻印だ。繊細だが、腕利きの技術者である彼女からすれば慣れたものらしい。手慣れた手付きであっという間に刻み終えていた。
「ま、こんなもんでしょ」
かこん、という音と共に接合部が合致してシールドが機能し始める。これで、後は魔導炉の魔力さえあればきちんと内部への影響を防いでくれる事になるだろう。
「こっち、終わったよ」
「うむ。これでこちらも終わりじゃ……良し。これで終わり」
ティナがコアとなる魔石に刻んでいた術式の書き込みを終える。こちらもやはり手慣れたものだ。これで、後はコアを乗っけるだけで魔導炉が使える事になる。
なお、魔導炉の他の箇所についてはまた別の者達がきちんと確認してくれている為、そちらの修復についても完了している。別に一つの作業を集中して行う必要もないし、人手不足なわけではない。幾つもの作業を並列してやれば良いだけの話だ。
「良し……では、とりあえず……」
ティナは魔導炉のコアを魔術で浮かべると、オーアの調整したシールドの内側へと入れる。これで、物理的な部分では全部の作業が終了の筈だった。
「良し、構わんぞ」
「あいよー。じゃあ、下ろすよー。全員、少し離れろよー」
ティナの言葉を受けて、シールドを上に上げていたオーアが一同に注意を促す。当たり前だがシールドを設置した状態で内側にコアを入れる事なぞ出来るわけがない。
というわけで、コアの設置が終了したのを受けたオーアがシールドの開閉部を動かして、シールドを完全に密閉する。これで、魔導炉の修復は完全に終了だった。
「良し……総大将。後よろしく」
「あいよ……ということで、スイッチオン。ポチッとな」
カイトは他の隊員達と頷き合って問題がない事を確認すると、メイン電源をオンにする為のスイッチを押す。そうしてそれを受けて、ゆっくりと魔導炉が起動していく。
「出力安定……10……20……30……」
「はーい、一回停止ー……問題無し」
「出力安定……オッケ。これで大丈夫だろ」
隊員達がやれやれ、という具合に作業に一段落付ける。これで、最悪でも生きている設備を動かせるぐらいの魔力は生み出せる。後はその設備がどれぐらい生きているかになってくるが、そこばかりは運次第と言うしかない。というわけで、その運次第を確認する事にする。
「さーて、どれぐらい生きとるかのー」
ティナが楽しげに魔導炉付近のコンソールを起動させる。やはり未知の遺跡となると見たこともない情報がある為、楽しいそうだ。やはり彼女の根っこは技術者というわけなのだろう。
なお、このコンソールは動力が失われた事で完全に停止していたが、メインの魔導炉が復旧した事でこれも使える様になったらしい。と言ってもここのコンソールで確認出来るのは各所の稼働状況だけだ。故に研究成果はまた研究設備にて調査する必要がある。と、そんなティナがしかめっ面で嘆きを浮かべた。
「あぁあぁ。こりゃ酷い」
「姉さん、どんなもんっすか?」
「大凡、7割方は損失しておるのう。残り3割もどれだけ生きている事やら。あー、これは破損報告があるから、バグじゃのう。よくて一割生きとりゃ御の字か」
ティナは隊員の問いかけに呆れと嘆きを隠す事なく答えた。経年劣化やその他様々な影響により、表示もバグだらけだったらしい。比較的メンテナンスがされていたレガドでさえあの有様だったのだ。一切メンテナンスがされていないこの遺跡がこの状態でも仕方がない。
「まぁ、それでもなんとか電灯ぐらいは起動出来そうかのう……これで真っ暗闇で探索はせんでも良いじゃろ」
「それが朗報か」
「ま、その電灯がいくら生きておるか、というと余は首を傾げるがのう」
「言うなよ……」
少し楽しげに茶化すティナの言葉にカイトはため息を吐いた。幸いといえば幸いなのは、ここでもまた電気的な導線ではない事だろう。なので多少途切れていても魔力は通ってくれる。
運が良ければ多少の崩落でも完璧ではないが動いてくれるだろう。勿論、多少の崩落なら、である。カイト達が見た多くの崩落箇所であれば、完全に断線していると断言して良かった。
とは言え、それでも魔導炉から近ければ近い程まだなんとかなると言える。周囲が土砂で覆われていた事で魔物やらの被害が限定的になっていたのだ。湖底より下の部分については、まだ希望は持てた。
「まー、後は基盤が生きておればなんとか扉の開閉が自由になる、という事じゃろう。ここから確認出来た所によると、扉の開閉に関する警備システムは完全にリセットされておる。鍵等は完全に開放されたと見て良いじゃろうな。勿論、生きとればの話じゃが」
「わかってるし、まぁ当然か。随分と長い間完全に電源を喪失していたんだからなー」
「じゃろうて。ま、これは幸運と言ってよかろう」
ティナはシステムのチェックを続けながら、カイトと会話を行う。かつてシャムロックも演じていたが、やはり電源を損失してしまうとどうしても警備システムも再起動されてしまうらしい。これは地球でも似た様な事態はある事だろう。こればかりは魔術ありきのエネフィアでも避けられる事ではなかったようだ。
というわけで、どうやら生きている扉の鍵は完全に開放状態になっているらしい。逐一扉をピッキングしてやる手間が省けるのは確かに朗報と言って良い。その分、時間を節約出来る。と、そんなシステムのチェックを続けるティナがほとほと呆れ果てた様に呟いた。
「ふむ……にしてもまぁ、随分とイカれておるなぁ……」
「どうした?」
「バグが出まくっておってな。予備の動力炉まで生きておると表示されておる。と言っても地下に近い一機だけじゃが……」
「あららぁ」
ティナの苦笑しての言葉にカイトも苦い笑いが浮かぶ。そもそも動力炉が生きていれば、ここまで苦労はしなかった。であれば、これはバグが検出されているだけと考えるのが良いだろう。本当にバグだらけと言えた。
「ふぅむ……こりゃ、一度全体的な確認をしておいた方が良いかのう……バグが多すぎてどれがバグでどれが健全なシステムかわからん」
「そりゃしゃーないか……明日からの調査目標にゃ、そこらも組み込んでおくかー」
「そうすべきじゃろうな」
カイトの提案にティナが同意する。兎にも角にも遺跡が崩壊して時間が経過していたこととあまりに崩落が酷い所為で、どの表示が正しいかわからないのだ。それこそ下手をするとアウトと表示されている記載さえ疑わねばならなくなってきていた。と、一向にコンソールの操作を終わらせないティナにカイトが疑問を呈する。
「で、お前さっきから何確認してんだ?」
「む? おお、すまんすまん。レガドからの受信装置がどうなっておるか確認しておってな。向こうから信号を発信してもらっておるんじゃが……」
『どうにも通信機そのものが破壊されてしまっているか、もしくはオフラインになってしまっているかのどちらかの様子です』
「レガドか」
『はい』
カイトのヘッドセットからレガドの声が響く。カイト達が動力室で作業をする前に実は部屋の扉の前に中継局の様な物を設置しており、それを通して外との通信を確保しておいたのだ。これで扉を開けておけば動力室でも外と通信が繋がる様になっていた。
「それも中央のどこかにあると考えれば良いか?」
『はい。こういった重要設備は基本的に中央に位置する建屋に設置されていると考えるのが妥当でしょう』
「わかった。じゃあ、明日からの調査ではまずそれの確認を第一目標にしておく」
『お願いします』
カイトは明日からの作戦目標を決定する。ここからは、各班によって作戦目標が異なる。カイト達は各所の調査が進む様にこの中央建屋を探索して各所の復旧に励む事になり、研究所の実験設備と思われる翔達の所は人員を更に増やして各所の調査を行う事になっている。
ソラ、瞬の建屋も勿論調査は行うが、リラクゼーション施設や寮等である事が現状でわかっている為、状況に応じては明日で終了にもなる予定だった。
ここら文化的な価値の高い所については冒険部ではなく公爵家が抱える考古学系の研究者達が興味を示す所で、カイトを通して彼らに調査は依頼する事になっていた。流石に全部を冒険部でやっていては意味のない資料も手に入ってしまうし、時間も掛かりすぎる。無駄も多いだろう。
「さて……そうなると後は明日からの調査、か……」
カイトはとりあえずの明日からの道筋を決定すると、撤収の作業を進める事にする。と、そんな彼らの所に隊員の一人が声を掛けた。
「姉さーん! ちょいこっちに!」
「なんじゃ!」
「これ、もしかしたらものすっごいモンかもしれないっすよ!」
隊員の言葉には、僅かに興奮が乗っていた。彼らは回収した魔導炉のコアを調べていたのだが、そこで何かの発見があったのだろう。というわけで、ティナが興味を示して先を促した。
「ふむ? なんじゃ」
「これなんだけど……ほら、このコアの素材」
「ふむ?……これは……」
どうやらティナも改めてしっかりと観察して、何か気付く事があったらしい。一気に真剣な目でコアの残骸の確認を始める。
「……一般的に使われている魔石ではないのう」
「ええ……おそらく、人工的に生成された魔石なんじゃないかしら」
「ふむ……不可能……ではないか」
ティナはレガドで人工的に魔鋼鉄が生成されていた事を思い出していた。であれば、人工的に魔導炉のコアとなる物質の生成に成功していても不思議はないと考えたらしい。
彼女らが見付けたのは敢えて言えばこれは核燃料の再利用と同じそうだ。技術的には非常に難しいそうだが、これはその実例の可能性があったらしい。
結局、魔導炉とは無限のエネルギーではない。であれば、どこかでやはりエネルギー問題にはぶち当たる。この技術はその解決策になってくれるかもしれなかった。カイト達の望む発見では無かったものの、物凄い発見の可能性が高かった。
「ふむ……レガド。これについて何か情報はあるか?」
『いえ……ですが推測なら』
「構わん。述べよ」
『では……おそらく民衆の多くが操られる事になった際、素材の多くは収集不可になったと思われます』
「妥当じゃな。続けよ」
レガドの前提としての推測にティナも同意する。これは何か不思議な事ではなかった。人手が不足すればその分、資材も回収出来なくなる。当然の道理だろう。
『はい。それで、そこからの推測ですがおそらく素材……いえ、物資の面で我々側がかなりジリ貧になった可能性はあり得ます』
「ふむ……それでやむにやまれず、人工的なコアの精製方法を開発した、か」
『そういうことだと。おそらく何らかの事情で新規にコアが入手不可になったのでしょう。それ故、そのような形に』
ティナの推測にレガドが同意を送る。それを聞きながら、ティナは他の隊員達と一緒にコアの残骸を観察する。一応、可能かもしれないとは思っている。が、どうすれば可能だろうか、と考察していたのである。
「ふむ……」
「ティナ。多分これ、単位体積あたりのエネルギー量は少ないわね」
「うむ、そうじゃと余も思う。なんというか……少し荒いというかなんというか……」
「使用済みのコアを再利用した、とかあり得ないかしら。技術的に量産体制なんかを整えられるとは思わなかったけど、これを見る限りそれなら可能性はまだあり得る」
「む……なるほど。荒いというより再生紙の様な印象を受けたのはその為か……その過程でコアが変質した、か……あり得るのう」
ティナは隊員の推測になるほど、と深く頷いた。技術的に自分達が可能としている領域ではないが、先史文明程の文明レベルであれば不可能では無かったかもしれない。とは言え、何かを断ずるにしてもあまりにもここでは機材が少なすぎる。故に、彼女はこれを重要参考資料として回収を決定した。
「良し。オーア、シールドの刻まれとった刻印はコピー出来ておるな?」
「やってるよ。まぁ、細かい上に未知の部分が幾つもあって復元と転写にゃ少し時間必要だけど、転写そのものは可能と断言しとくよ」
「良し。では、とりあえずそれとこのコアの残骸を持ち帰ってマクスウェルの研究所で詳細な検査を行う事にしよう。もしコアの再利用が可能となれば、エネルギー問題が一気に解消されるやもしれん。重要な資料じゃな」
ティナは隊員達に向けて、今回の調査で得られた資料を研究所に送る様に指示しておく。これがここで開発されたわけではないだろうが、それでも可能であるという実証になる可能性を秘めているのだ。持ち帰って詳細な研究をすべきだろう。
というわけで帰還するか、と号令をかけようとした所で、先程からコアについてをティナと話し合っていた女性隊員が申し出た。
「ああ、ティナ。私こっちに残って良い? もしかしたらこのコアの資料が何か残ってるかもしれないし……」
「あ、じゃあ俺も」
どうやら幾人かの隊員がこの研究所にまだ何かあるかも、と興味を示したようだ。とは言え、ここらの判断は最終的にはカイトに任せている。というわけで、ティナがカイトへと視線を送った。
「まぁ、好きにしろ。その代わり、ウチ……紛らわしいな。冒険部の技術班の所から指示を出す形にしてくれよ。そうでないとウチの奴らの練習にならんし、お前ら好き勝手にさせると振り回されてウチの調査が進まん」
「「「はーい」」」
カイトの許諾と条件に隊員達が了承を示す。冒険部としても彼ら程の技術者の力が借りられるのは十分に有り難い。であれば、これは冒険部としても良い判断だろう。とは言え、勿論全員が残るわけではない。例えばオーアは帰還を決めていた。
「あ、じゃあ私は先に戻って他の連中とコアの解析作業の準備と転写したシールドの解析作業進めとくよ」
「うむ。それは任せる。可能ならお主のやり方でシールドの再現も頼む」
「あいよ、りょーかい」
ティナの指示にオーアが頷いた。とりあえずこれで一通りの作業は完了だろう。というわけで、カイト達は一度野営地に戻り、その翌日にマクスウェルへ戻る面子は戻り、残る面子は残って冒険部と協力して動く事になるのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回予告:第1149話『調査再開』




