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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第60章 湖底の遺跡編

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第1147話 動力室

 湖底に沈んでいた先史文明の遺跡。そこの調査を開始していたカイト達であったが、先史文明の生き残りとも言えるレガドとの相談の結果、その調査の為にまず動力源を復旧することとなる。

 というわけで水没した地下階へと足を踏み入れたカイト達であったが、およそ一時間程で比較的安全と思われる空間へとたどり着いていた。


「ぷはっ! ここは……」

「おそらく動力室の前と思われます」


 水面から顔を出したカイトへ向けて、一足先に水中から上がっていたホタルが告げる。これが意図的なのか偶然なのかはわからないが、どうやら動力室の前は浸水を避けられていたらしい。


「あー……さむっ……こりゃまた分厚いな……」


 カイトはとりあえず水から上がって通路の先を観察する。そこにあるのは、分厚い扉だ。勿論、動力室の扉である。


「ふむ……この部屋の崩落は避けられていた様子だな」

「肯定。おそらく魔導炉の存在から、周囲に比べて堅牢な構造になっているのかと」

「もしかしたら、それでここが無事に残ってたのかもなぁ……」


 カイトは少しだけ、ここら一帯が無事だった理由を推測する。自然な話だったのかもしれないが、やはり動力炉となるとどこの世界でも爆発・暴走は甚大な被害を及ぼす最大の要因と言える。となると、なるべく動力室の構造は頑強にしようとするのは不思議のある事ではないだろう。

 なのでおそらく、動力炉だけはこの遺跡の崩落にも負けずに原型を留めていたのだろうと推測される。更には地下の閉所であった事もあり、外に居た様な巨大な魔物も現れにくい。幾つかの必然と幸運な理由により、と考えた方が良さそうだった。


「まぁ、とりあえず。開くか?」

「……否定します。動く見込みはありません。側面のコントロールパネルは起動していますが、反応はありません。予備の動力も失われていると推測されます」

「ま、そりゃそうか」


 カイトは周囲の状況を見ながら、それはそうかと納得しておく。一応言っておけば魔力は電力とは違い導線等がなくても流れる。なので予備の電源設備はあると考えて良いだろう。万が一のメインの動力源が失われた場合にでも施設の重要な部分は動かせないといけないからだ。勿論、無くても流れるとは言ったが限度はある。

 閑話休題。予備の動力炉が何を使っているかはわからないが、少なくともここの近くにあるとは思えない。万が一に何かがあれば連鎖反応で甚大な被害を被るだろうからだ。そして近くにおいておけばメインが停止したと同じ理由で停止してしまう可能性もある。ここが研究所である事を考えればおそらく、別棟である実験施設の近くに設置されていると見て良いだろう。


「確か……実験施設は翔が入った所だったか……ティナ。動力室前に到着」

『そうか。状況はどうじゃ?』

「動力室はとりあえず無事かな。でも扉は開かず。近くのコントロールパネルも反応なし……コントロールパネルは一応、生きてるんだったな?」

「肯定します。別個で内部バッテリーの様な物を搭載しているのだと」

『万が一に備えてここから予備の動力源にアクセス出来る様にはしておるわけか。であれば、やはり予備はイカれておるかのう。まぁ、外周部の方が被害はデカかった様子じゃからのう……仕方があるまい。予備の電源の復旧は諦めるしかあるまいな』


 ティナはため息と共に、予備の電源の復旧は諦める事にする。もし予備の動力源が生きていれば翔と共同してそこの完全復旧を目指したい所だったが、この様子だとその見込みはなさそうだった。

 となると、ここに入った時と同じ様にピッキングで開いてやるしかない。とは言え、今回はわざわざ導線を確認する必要はない。コントロール・パネルが生きていたからだ。


「そうか……なら、ホタル。コントロールパネルを外してくれ」

「了解……どうぞ」

「あいよ。ティナ、これから動力室に入る」

『了解した。万が一には備えさせておこう。通信の途絶が起きるやもしれんが、そこは理解しておるな』


 カイトはティナの言葉を聞きながらホタルの外したコントロール・パネルの基盤に指を当てて、少しだけ魔力を通す。魔力の流れからどれが扉に繋がっているか確認するつもりだった。そうして、魔力の流れからカイトは器用に動力室の扉の開閉に関わる部分を見つけ出す。


「見っけた……これだな」


 カイトは基盤の一部にピッキング用の魔道具を突き刺す。そうしてある程度魔力を通してやると、扉の鍵が簡単に開いた。とまぁ、彼が簡単にやったので簡単に思えるが、こんな事を簡単に出来るのは熟練の者達だけだ。カイトの場合は熟練と言うわけではないが、魔力の繊細な操作が得意だ。それ故に、ここまで簡単に出来るのである。


「良し……ホタル。お前は逆側を。アル、ルーファウスの二人は万が一に備えて少し距離を取って盾を構えておけ」


 カイトは扉を開く前に、一応指示を与えておく。この先にある魔導炉がどれぐらい前に活動停止したかは定かではないが、高濃度の魔力の塊があったのだ。魔物が発生していても可怪しくはない。

 開いた瞬間にこちらに襲いかかって、という事は十分にありえる。勿論、ここまで構造体が無事である以上は他にも警備ゴーレムが中でまだ無事という事も考えられる。


「良し……行くぞ」


 カイトは一同が無言で頷きあったのを受けて、小さく扉を開く。そうして、一応の無反応を確認して一気に中へと突入した。


「っ!」


 入ると同時。カイトはこちらに警備ゴーレムの攻撃が放たれようとしていた事を知覚する。どうやら、扉が開いたと同時に侵入者と気付き、姿を確認するまで待機状態になっていただけのようだ。高度な設定がされていたのだろう。


「はっ!」


 カイトが放たれた魔弾を切り裂くと、それと同時にその横をホタルが通り過ぎる。


「ホタル。情報を持っている可能性がある。機能停止にとどめておけよ」

『了解』


 カイトの指示を受けたホタルは迷うことなく、胴体のど真ん中を狙い短剣を深々と突き刺した。幸い警備のゴーレムは長い間整備がされていなかった所為で表面を覆っている金属にはかなりガタが来ており、安々と貫けた。そうして、動力部を損失した警備ゴーレムが緩やかに動きを停止する。

 レガドからの情報提供によりわかったのだが、幸い先史文明の基本的なゴーレム設計は文明として統一されていたらしい。なのでここがゴーレム開発の研究所や重要施設でもなければ、警備ゴーレムはレガドことニムバス研究所も他の研究所も同じ物になるらしい。そしてその設計図については、レガドに残されていた。なのでホタルも簡単に動力部を貫けたのであった。


「マスター。短剣を通じて魔力を吸収するに留めておきました」

「上出来だ……総員、周囲の警戒を開始しろ。もしまだ生きているゴーレムがいれば動力を停止させる事をメインとして戦闘を行え。流石にボロボロだ。問題はないはずだ。アル、ルーファウスの両名は一応全体に注意しておいてくれ。オレは死んでいるゴーレムの状況を確認する」


 カイトは注意深く周囲を観察しながら、更に指示を与えておく。やはりゴーレム達は命を持たない無機物である為、気配は感じにくい。少し注意深く観察する必要があった。

 が、どうやら生き残っていたのはこの一体だけのようだ。他は経年劣化により動けなくなっているか、もしくは動けても攻撃出来る程の状況ではなさそうだった。そうして、カイトは魔導炉の状況を確認する前に動力室の安全を確保する為、その一体を観察する。


「……戦闘の形跡があるな」

「肯定します」

「ティナ……駄目か。流石に動力室となると通信機も通じないな」


 カイトはティナの報告を入れようとして、出来ない事を理解する。動力室は様々な力を遮断出来る様に設計されている。こればかりは如何にティナの設計でも物理的な問題である為、回避は不可能だ。元々想定されていた事だったが、こちらの状況を向こうは確認出来ていないと見て良いだろう。


「これはおそらく……斬撃痕だな。強力な一撃で切り裂かれている」

「おそらく足の部分は溶断の類かと」

「ん?」

「傷跡を」


 ホタルはカイトの問いかけにゴーレムの一体に刻まれていた傷跡をしっかりと照らし出す。そうして、カイトにもその様子が見て取れた。金属が溶けた様な痕跡があったのだ。


「僅かに溶けた形跡があります。おそらく、このゴーレムはここで溶断されたのだと」

「ふむ……ということはおそらく敵に襲撃されてゴーレムのコントロールを奪われ、動力室でも戦闘が起きた、という所か……」


 カイトは大凡の状況をそう推測する。普通、正常なゴーレムであれば動力室で戦闘が起きる事はまず無いと言って良い。暴走の危険が地球の動力炉より遥かに低い魔導炉とて、暴走の危険はある。それは動力炉である以上当然だ。

 故に警備ゴーレムには万が一以外は動力室での戦闘を禁じるのは、基本的な命令だ。だが、それがここでは起きている。そしてそれが起きたのであれば、敵がここまで入り込んできたか、警備ゴーレムのコントロールが奪われて無秩序に暴れまわったと考えて良いだろう。


「ふむ……レガドの言う通り、ここで戦闘があった可能性が高いというのは事実かな……」


 カイトはとりあえずそう判断を下す。兎にも角にも溶断という事は戦闘があったという証拠だ。どういう事情で破壊されたかは不明であるが、とりあえずそれだけは確定として良い。そしてそこを確定させて、カイトはホタルに更に指示を与えた。


「さて……流石にここまで大型の魔導炉は門外漢も良いところだな……ホタル、悪いが確認を頼む。で、外に出次第ティナへ情報を放り投げておいてくれ。それで大丈夫だろ」

「了解」


 ホタルはカイトの指示を承諾すると、浮かび上がって魔導炉の状況を確認する。動力室が比較的原型を留めているとは言え、やはり崩落している影響で魔導炉も被害を受けている様子だった。とは言え、飛空艇用の小型ならまだしも研究施設用の大型の魔導炉となると、流石のカイトも門外漢だ。

 というわけで、ホタルが確認するのが一番だった。後で情報を映像としてティナに放り投げる事も出来るからだ。そうして、カイト達は動力室の状況を確認して、本日の調査を終了する事にするのだった。




 さて、明けて更に翌日。カイトはオーア達と合流していた。人選は魔導炉開発に関わりの深い者達がメインだ。オーアが入っているのは、彼女が金属系の専門家と言って良いからだ。シールド部分の専門家、というわけである。なお、父の方は流石に今回は狭い空間が多いのでお留守番で飛空艇等の開発を引き続き行っていた。


「ふーん……まぁ、一応映像は見てきたけどねー……ふむ……」

「まぁ、幸運って所じゃねぇか? この程度の破損で済んでりゃ直る事は直るだろ」

「後は行ってみてやってみて、って所かね」


 『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』の技術班の面々が映像を見ながら、とりあえずは直りそうだと太鼓判を押す。幸いといえば幸いだったのは、動力室が比較的無事だった事だろう。魔導炉の原型は留めており、少なくともそれを基礎として流用する事は可能に思われた。


「サイズは……うん。とりあえず3メートルの物持ってきゃ大丈夫だろ。大半の設備は使えないだろうから、デカいの持ってく必要無いね」

「ふむ……わかった。用意しておこう」


 ティナはそう言うと、資材の中から魔導炉のコアとなる魔石を選別する。彼女の専門はこの魔導炉のコアの部分と言って良い。そして部隊の地位としても一番高い。なので彼女が一括して管理していたのであった。そうしていくつかの準備を整えた後、出された結論はこれだった。


「ま、後はやってから考えよう」

「ってことで、案内よろしく」

「はいはい」


 カイトは技術者達の軽い言葉に肩を竦める。まぁ、何はともあれ見てみないとわからない、というのは事実だろう。ホタルとて専門家ではない。専門家だからわかる事もあるのだ。というわけで、カイトは司令部から出ていく事にする。

 とりあえず今日は彼らの作業がある為、同行するのはギルドマスターのカイトと公爵軍より代表してアルだけだ。というわけで、冒険部については一日休暇になっている。実際2日に渡り寒い水の中を出たり入ったりだ。ここらで一度休息を入れねば体力も精神力も持つまい。


「かるーく行くから遅れんなよー」

『『『おーう』』』


 カイトの軽い言葉に『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』技術班の面々が応ずる。彼らは最低でさえ冒険部を遥かに上回る実力者だ。この程度の魔物や警備ゴーレムであれば、問題にはならなかった。

 というわけで、一切の問題もなく動力室へとたどり着いた。幸いホタルは同行しているし、万が一に備えて目印は設置している。なので迷う事もなかった。


「ふーん……」


 オーアが外周を見回しながら、とりあえず魔導炉のシールド状況を確認する。兎にも角にもシールドとコアの修繕が第一だ。これを行わねば魔導炉は使えない。


「あー……やっぱりこれ、シールドは錬金術を併用すれば再使用可能だけどコアの方は大破してるね」


 オーアが苦い顔で魔導炉の中心部の状況を述べる。この後に修理する際に解体してわかったのであるが、どうやら中にゴーレムの破片が入り込んでいたらしい。戦闘の衝撃でゴーレムの破片がシールドを貫通して、コアを傷付けたのだろうとのことだった。暴走しなかっただけ幸いな破損状況だったらしい。


「おーし。じゃあ、魔導炉の解体やっちゃうか。総大将、あんたこっち手伝ってー」

「あいよー。じゃあ、皆さん作業お願いしまー」

「「「おーう!」」」


 カイトの号令に合わせて、技術者達が一斉に行動を開始する。そうして、この日一日掛けて魔導炉の大規模な修繕作業が行われる事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1148話『動力復旧』

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