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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第60章 湖底の遺跡編

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第1141話 湖底へ

 釣り糸の先端に取り付けた魔道具を使って湖底の調査を行っていたカイト達。数時間に渡る調査の最中に、とりあえず気になる影の発見が報告された為、ボートに乗っていた調査隊は一度湖岸に設営した野営地へと戻っていた。


「見付けた影の大凡の大きさとしては、全長20メートルという所かのう。ほれ、ここに何らかの天井らしき形状が幾つか見受けられる」


 ソナーを使って得られた結果から、ティナは大凡の外形を告げる。幾つかの地点で平らな床の様な物が見えたのだ。もしかしたらこれは湖底に沈んだ研究所の屋上なのではないか、というのが彼女らの推測だった。

 この湖は一応澄んではいるもののそんな50メートルも下の湖底が見える程の透明度は無い。地質等の関係もあるし、雨水が流れ込んだりもする。まぁ、だからこそソナーで調査していたのだ。というわけで、そのソナーの結果から湖底に行ってみるべき、という判断だった。


「ふむ……一部というかかなり埋もれてるのか」

「うむ。まぁ、これがもしやすると単なる岩盤がめくれ上がり、という可能性もあるから一概には言えんがのう。兎にも角にも気になる点が見えた以上は、一度調査はしておくべきじゃろう」


 ティナはそう言うと、カイトに次の段階の調査を提言する。勿論、こちらもやはりボートの調査隊の仕事だ。とは言え、湖底に向かう為、人員はそれ専用だ。


「ふむ……わかった。じゃあ、そうしよう」

「うむ。とりあえず桜。お主は万が一の命綱として、全員に魔糸を括り付けておけ。カイト、お主はユリィと共に先行して状況の確認を行え」

「はい。じゃあ、準備しておきますね」


 ティナの指示を受けて、桜が数十本の魔糸を編み出す。強度は十分。そして細さもそれなりだ。動きは阻害し難い。ここからは水中での作業になる為、勿論魔物との戦いを含んでいる。命綱が必要な深度ではないが、万が一に備えておいて悪いわけではない。

 そうして、今度は湖底を調査する為の準備が取られていく。と言っても何をするわけでもなく、以前ローレライ王国で行ったのと同じ様にシュノーケル型の魔道具を装着して、というだけだ。

 なお、今回は水着だけでなく専用の魔導具を手に入れておいた。流石に秋口なので水温も気温も低い。更には調査の為に幾つかの道具も必要だ。汚染もあり得る。専用の魔導具を手に入れておいたのである。と、言ってもカイトはそんなの必要ないわけだ。なので彼は一人、ユリィと共に先行すべく湖の上を歩いて行く。


「さて……じゃあ、潜行する」

『うむ……まぁ、必要ないじゃろうが気を付けろよ』

「あいよ」

「じゃ、久しぶりに水の中へ、レッツゴー!」


 ユリィの言葉を耳にしながら、カイトは水の中へと沈んでいく。ここら、彼にはウンディーネこと水の大精霊の力がある。何があっても問題はなかった。


「水深10……20……魚が多いな……」

『ふむ……何か変わった所は? こちらからも通信機のモニタリング機能を通じて見えておるが、実際の所感を聞いておきたい』

「なんもないねー。強いて言えば水草が多いぐらい」

「水草に絡まらない様に注意させておくべきだろうな」

『わかった』


 カイトとユリィはゆっくりと降下しながら、周囲の状況を観察する。そうして見えた水中は水草も多いし魚も泳いでいた。視界はそこまで良くはないが、同時に悪すぎるわけでもない。水草が影になっていた。

 強いて気を付けるべきは、水草に隠れて魔物に気付け無いぐらいだろう。が、逆説的に言えば相手からも見つかりにくいわけだ。そこらは良くも悪くも視界が悪い、と言う所だろう。

 なお、二人が潜行したポイントは目的地となる場所より少し外れた所だ。研究所と思しき所は影が多い。もし万が一何らかの魔物が占拠していた場合、真下からモロに攻撃を受けかねない。確認する為には、湖底を歩いて行く必要があった。これにはそこそこの技術が必要だ。なのでこの二人が、というわけである。


「……あ」

『む?』

「魔物に見付かった。ちょっと交戦する」

『うむ。あまり暴れんようにな』

「あいよー」


 カイトは急速接近する魚型の魔物を見ながら、魔銃を構える。水草の影に隠れてあまり詳しい事は見えないが、せいぜいランクCという所の雑魚である。他の魔物に気付かれる前に討伐してしまった方が良いだろう。

 勿論刀でも良いわけだが、水草を切ってしまえばボートで移動をする際に面倒な事になってしまう。水草が推進装置に絡まったりすると掃除が面倒だし、その間は停止する必要もある。作業の遅れに繋がる。それ以外にも浮かんだ水草が釣り糸に絡まって切れてしまうというのも避けておきたい。なので今回は基本的には、大斬撃は禁止だった。


「とりあえず弾幕弾幕」

「ふぁいあー」


 二人は呑気に魔銃を取り出して乱射しておく。これで十分である。というわけで、無造作に撃った魔弾の幾つかに命中して、魚型の魔物は完全に消滅する。結局、水草に隠れて最後までどんな魔物なのか不明なままだった。


「終わり。じゃあ、潜行を再開する」

『うむ……そこらで潜行したのは間違いじゃったのう』

「だな。少し視界が悪い」


 カイトは再度潜行を続けながら、ティナの言葉に同意する。やはり水草が多いためか、視界が悪い。次があればそこらを注意して潜行ポイントを設定するべきだろう。

 まぁ、今回はそこらの調査も含まれている。今回ばかりは、仕方がないと諦めるしかない。そうして、更にしばらくの潜行を続けると二人は湖底へと到着する。


「……湖底へ到着した。水温……ちょっとというかかなり冷たい領域だな」

『ふむ……わかった。そこらのシステムは整えさせておこう』

「そうした方が良い……こっちは、ディーネとかに頼んでなんとかしてるけどな」


 カイトはとりあえずディーネに頼んでおいて己の身を包む泡で冷気も遮断しておく。これで、取り合えず身体が冷えるという事はない。カイトはこれで十分だろう。


「さて……どっちだ?」

『ふむ……お主からじゃと3時の方角じゃ。そちらへ進め。気を付けろよ。研究所に何があるかわかったものではない』

「あいよ……ユリィ。水草で遊んでんな。行くぞ」

「はーい」


 カイトはユリィと話しながら、ティナの指示に従って歩いて行く。そうして10分程歩いた所で、唐突に水草の森が終わる。


「ここで、終わりか。どうやら運悪く、って所か」

「暗い所の水草ってなんか怖いよねー」

「まぁなー……っと見えてきたな」


 カイトは薄暗い湖底を更に歩きながら、前を見据える。すると、少し人工物の様な物が見えてきた。


「……ふむ」

『……人工物……で良かろうな。ビンゴか』

「だな……」


 どうやら、崩れた研究所の一部のようだ。これがあるということは、ここにやはり研究所が沈んでいるという事で良いのだろう。カイトは取り合えず今後の公爵家としての調査に活かせる様に近くの安全に思える場所にマーカーを打ち込んでおく。後で公爵家で本格的な調査を行う際、これを目印に調査するつもりだった。


「さて……となると、この先か」

『うむ……何があっても不思議はない。かつての戦の事もあるからのう。注意しろ』

「あいよ」


 カイトは少しだけ屈む様にして、湖底を歩いて行く。幸い湖底は元々研究所だった事で整地されていたからか粘土質や砂というわけではないらしく、歩く事は可能だった。そうして、しばらく。巨大な構造物が見えてきた。


「……見えた」

『の、様じゃのう』

「研究所かな?」


 ユリィが見たままを告げる。見た感じとしては、研究所と言って良いかもしれない。周囲には幾つかの構造物があり、実験施設と考えても良さそうだった。ここが何の研究所かはわからないが、施設の外形を考えれば研究所である事は確かに思えた。そうでなくとも住居という事は無さそうではある。


「さて……何も居なければ良いんですが……」

「まぁ、そう言う訳にはいかないよねー」


 ユリィがため息を吐く。地球の海を見ればわかるが、やはりこういった構造物の影には魚が屯する様に魔物も住処にしている事がある。案の定、研究所の跡地に魔物が住処にしていたのであった。


「はてさて……どうするかね」


 カイトはどうやら寝ているか獲物を狙って動きを見せないのかわからないものの動く事のない巨体を見据える。形状は蛇の様に長い体躯だ。全長はおよそ30メートルと言う所。顔はウツボに似ていた。

 ウツボは海の生き物であるが、これは魔物だ。そして当然、いくらエネフィアが地球とは違う異世界だからといってもここまでデカいウツボなぞ存在しない。どう考えても魔物である。


「さて……敵影確認。『大ウツボ(ビッグ・イール)』」

『嫌な奴に占拠されておるのう……ここらの主、食物ピラミッドの頂点じゃろうな』

「だろうなー」


 カイトは小声でティナの言葉に頷く。相手のランクはBの上位という所。この湖の主と断言して良いだろう。基本的に、この魔物の生態はウツボと同じだ。夜行性の生物と言える。昼間は今カイト達が見ているように巣穴や洞窟に潜んで獲物を待ち構えるのが基本だ。

 これが海であれば、おそらく周囲には伊勢海老の様な共生生物が屯してくれている事だろう。まぁ、ここは湖なので意味のない事ではある。


「どうすっかね……」


 カイトは息を潜めながら、どうするか考える。流石にこの魔物をギルドメンバーに相手させるのは少々不安が大きい。ウツボと同じ生態ということは、基本的に肉食の動物だからだ。

 ウツボであればそれでもさほど問題にはならないのであるが、残念ながら魔物だしこの大きさなので普通に人も餌にしか見ていない。性格もかなり凶暴である。まともにやりあえば激闘は必須だ。なんとか水の上に引き上げて戦うのが上作だろう。が、研究所を巣にしている事から、やはりこいつを相手に激闘というのは避けておきたい。であれば、手は限られる。


「ティナ。オレとユリィで仕留める。生徒達にはもう少し待機を命じておいてくれ」

『それが良かろうな……支援、必要か?』

「いや、要らねぇよ」


 ティナの問いかけにカイトは笑いながら首を振る。この程度、カイト一人でもどうにでもなるのに二人であれば問題なぞあろうはずがない。とは言え、研究所跡地に巣食っているのはいささか有難くない。というわけで、すでに手は考えていた。


「ユリィ。釣るから研究所側は頼んだ」

「はいさ」


 カイトの要請をユリィは受け入れて、カイトの肩から降りてついでにカイトから水の加護を付与されておく。これで、彼女も水の中は自由自在に動ける。


「さて……」


 カイトはユリィをその場に残しておくと、一人湖底を蹴って少しだけ浮かび上がる。釣る為には餌が見つからないと意味がないのだ。


「……」


 ゆっくりと、カイトは研究所へと近づいていく。どの程度で相手が気付くかわからない為、いつでも反転して逃げられる様には注意しておいた。そうしてある程度まで近づくと、どうやら魔物の側がカイトに気付いたらしい。いきなり、勢い良く研究所の影から飛び出してきた。


「うぉい! いきなりか!」


 カイトは水中を蹴って、その場から一気に離脱する。どうやら、空腹らしい。カイトへと一目散だった。とは言え、それならそれで良い。餌と思ってもらえるのであれば、それは即ち簡単に釣り出せるということだ。というわけで、カイトはそのまま少しだけ巣穴から距離を取るべく水中を蹴って移動する。


「来いよー……」


 カイトは背後に注意を払いながら、魔物とそこそこの距離を保ちながら水中を移動する。現在の水深はおよそ20メートルという所。『大ウツボ(ビッグ・イール)』はすでに身体の全体を巣穴から出しており、そろそろ戦闘をしても良い頃合いだった。


「良し。このぐらい距離があれば良いかな」


 程々に『大ウツボ(ビッグ・イール)』が研究所跡地から離れた所で、ユリィが即座に研究所全域へと結界を展開する。これで、万が一にも戦闘の余波で研究所が倒壊する事はないだろう。


「さってと」


 カイトはユリィの展開した結界を見て、その場で転身する。別にこの程度の巨体だろうと倒すのに特に難しい事はない。


「まずは……ここだ」


 カイトは口を開けて突進してくる巨大なウツボの顔を見ながら、ある程度の所で一気に下へと動く事で回避する。そうして上を通り過ぎていく『大ウツボ(ビッグ・イール)』の巨体を見ながら、上へと拳を振り抜いた。


「おらよ!」


 水中で爆音が響き渡る。これは本気ではない。とりあえず、適当に打ち込んだだけだ。それで動きを止めておいて、後はいつも通り武器の乱射である。


「いけ!」


 カイトの号令に合わせて、彼の創り出した無数の武器が飛んでいく。それは巨体に突き刺さると、そのまま一気にその巨体を水上へと吹き飛ばした。


「さて」


 カイトは『大ウツボ(ビッグ・イール)』の巨体を大きく吹き飛ばすと、更に追撃の武器を放っておく。そうして更にある程度の距離を稼ぐと、それら全てに一気に魔力を注ぎ込んだ。


「じゃあなー」


 周囲を明るく照らし出す巨大な光源が生まれる。カイトの作った武器が魔力を過剰に注ぎ込まれた事で爆発したのである。そしてそれで『大ウツボ(ビッグ・イール)』の巨体も消し飛んだ。これで、この湖の主は討伐完了だった。


「討伐終了。遺跡に問題は無し」

『うむ。では、先発隊を出発させる』


 カイトの言葉を聞いて、ティナが指示を送り始める。そうして、カイトの少し上で待機していた冒険部の先発隊――以前のローレライ王国での部隊が中心――が湖に入ってきて、本格的な作業が開始される事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1142話『調査の為に』

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