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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第60章 湖底の遺跡編

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第1139話 湖底の遺跡へ

 カイトがティナ達冒険部技術班よりかつての先史文明の遺跡の調査第一候補の提示を受けた日から、数日。この日は天桜学園での定例会であった為、カイトはリサーチ結果や提案内容等を考えてティナ、灯里の両名と共に会議に出席する事にしていた。


「と、言うわけです」


 カイトが天桜学園の教師陣に向けて、技術班より提示されている案件についてを説明する。今回は以前のラエリアでの一件の会議とは違い普通に定例会だ。故に緊張感はさほどなかった。

 流石に定例会も数十回行っていれば誰だって慣れるだろうし、今回の内容は普通に活動報告という所だ。それに少しの進展があった、という程度で特段の緊張感があるわけもないだろう。


「では、そこへ向かいたいと?」

「危険性は?」

「危険性はわからない、と述べるしか。そもそも未知の遺跡です。誰も立ち入った事がない。しかし、わからないからこそ調査の意味があり、そして調査の必要性もある。が、周囲の魔物のランクを鑑みた結果、十分に現状で調査可能と判断しました。危険性は十分把握の上、という所です」


 教師達の問いかけに、カイトは逐一答えていく。ここらは昔取った杵柄だ。貴族達を相手にする程難しい内容はさほど無いし、慣れたものだ。


「ふむ……わかった。その予算についてはこちらで下ろそう。元々、君の提案でその為の予算は用意しているのだから、問題は無いと言える」


 桜田校長がカイトの提案に許可を下ろす。元々、カイト達はこれを目的に動いていたのだ。冒険部に外からの人材が増えたり等で幾つか当初の予定とは違う部分は出てきていたが、それでも当初の目的は変わっていない。このための調査費用はそれ以前の初期段階から定期的に貯蓄を進めており、そこから初の拠出とすべきと判断したのであった。


「ありがとうございます」

「うむ。それで今の予定としてはどのような形で動かそうと考えているのかね?」

「ええ。基本的には依頼の形を取る事にしています。本件は冒険部として、ではなくユニオンを噛ませた天桜学園としての依頼とすべき、と」


 桜田校長の再度の問いかけにカイトは現在思案している今回の任務内容について言及する。それにはやはり疑問が出た。


「天桜学園として、かね?」

「はい。基本的に本件は冒険部というよりも、天桜学園としての動きと捉えるべきかと。冒険部は現在活動は多岐に渡る状況になっていますし、ギルドとしての動きとしてしまうと無関係な者達にも影響が出てしまいますからね。天桜学園としての動きとしておくのが、ベストかと。どうにせよ各個人での準備費用等も必要ですからね。拠出金から参加者に費用を負担する形にした方が、揉める心配もないかと」

「ふむ……まぁ、それについては君に一任しよう」


 再度、桜田校長はカイトへ手配の一任を明言する。ここらは現場に任せるのが一番、というのをここらの段階で天桜学園側も把握していた。であれば、それに任せるのが最適だろう。

 カイトの考えとしては、彼の述べた通りだ。ギルドマスターからの依頼としてしまうとギルドとしての動きとなってしまう為、不参加が多ければそこそこ面倒な問題が発生してくるのだ。

 そこそこ面倒な問題、というのはカイトの資質の観点だ。ギルドマスターの依頼となるとそれは必然、暗黙の了解としてギルド全体でこなすべき任務に近くなる。不参加が多ければ事情が分かる内々は兎も角、外向きに格好がつかないのであった。外の冒険者達からギルドマスターが統括出来ていないのではないか、という疑問を受けかねないのだ。

 それはカイトの影響力の低下に繋がりかねず、果ては内部分裂にも繋がりかねない。面倒事を避ける為にも、ギルドマスターからの依頼ではなく天桜学園としての依頼としておくのが最適だった。


「ありがとうございます。では、そちらについてはこちらで」

「うむ……さて、次の議題だが……」


 とりあえずカイトからの提案に一区切りを付けられた為、桜田校長は次の議題へと話を移す。


「ふぅ……」


 なんとか下りた許可に、カイトが小さくため息を吐いた。一応、行けるとは思っていたがこういうのは時の運も微妙に絡んでくる。何事もなく進んだのであれば、一安心という所だろう。そうして一度安堵した後、カイトは通信機を起動して早速手配に入る事にする。


「椿。聞こえるか?」

『はい、なんでしょう』

「調査任務に許可が下りた。すでに書類は?」

『はい、クズハ様より届いております。後は御主人様の印一つで認可が下りる状況です』

「よし……帰ってから即座に印を押す。用意を整えておいてくれ」

『かしこまりました。公爵邸の執務室の机の上に整えさせて頂きます』


 カイトの指示に椿が頭を下げ、早速手はずを整えるべく行動を開始する。用意する物の中には、状況の特殊性もあり特異なものも多い。できるだけ早めに動いておく事に損はない。


「これで、とりあえず認可は下りるか……」


 椿に必要な道具の手配を依頼して、カイトは取り合えず用意をそこで切り上げる。一応は会議中だ。急いでいるが故に手はずを依頼したが、それ以外に長々と話すわけにもいかないだろう。

 なお、カイトの言っている認可というのは調査許可に関する認可だ。本来は幾つもの許諾を必要としているが、今回は未発見だった上にそこに実際にあるかどうかも不明な遺跡だ。故に、調査そのものについてはカイトの一存で許可を下ろせる。

 これでもし実際に遺跡がそこにあったとて、そこからもカイトの許可は絶対に必要だ。マクダウェル領全体がカイトの領地。である以上遺跡等の公共物は基本的に、未発見であっても彼の所有物となるのであった。


「ちょいと面倒な遺跡だが……仕方がないか。覚悟を決めて、行くしか無いな」


 カイトは密かに一つ頷くと、気合を入れ直す。そうして彼は会議を終えて、マクスウェルに帰還すると同時に次の調査の為の用意に取り掛かる事になるのだった。




 それから2日。出立の為に必要な準備は終わり、実際に出発する事になった。が、今回は場所の特異性等から少々手間を掛けなければならない為、カイト――正確にはカイトと冒険部技術班――は別行動だ。なのでこの日は先遣隊という形でソラ・瞬の両名が率いる部隊が出発するだけである。


「じゃあ、先に行って設営やっとく」

「周辺の土地をできるだけ平らにしておけば良いんだな?」


 ソラに続いて瞬がカイトへと問いかける。今回、実は少々の事情から飛空艇を使う事になっており、その為に先遣隊が野営地を確保する事になっていたのである。そして野営地の確保後、桜達が野営地の設営を指揮しつつ、平行してソラ達が飛空艇の着陸や技術班の解析の為の機材を降ろしたりするのに必要な土地の整地を行う事になっていたのだ。


「ああ、頼んだ。一応荒れ地でも飛空艇の着陸は可能だが、やはり整地されていた方が良いのは事実だ。オレはどうしてもオレの印の必要な書類がまだ幾つかこっちに残っていてな。どうしても、先遣隊には参加出来ん」


 カイトは頷いて自分が行けない理由を改めて語っておく。準備が全部2日で終わるわけもなく、実際に終わった用意はあくまでも冒険部の出発の準備だけだ。言ってしまえば馬車や竜車、食料等の何時もの装備であり、調査に必要な機材等の調達にどうしても後数日必要となっていた。

 が、こちらは数量や重量、機材の保全等の問題から荷馬車に載せるわけにもいかず、飛空艇での輸送をしなければならなかった。そして機材の重要度等からギルドマスターであるカイトのサインが必要となり、こればかりは代役を立てられない為、彼は残らざるを得ないのである。

 それに飛空艇と地竜であれば飛空艇の方が移動速度は早い。わざわざ飛空艇を待たせるよりも、ソラ達に先遣隊として向かって貰って後から飛空艇は合流した方がよほど良いだろう。というわけで、ソラ達に先遣隊を任せてカイトは後発隊となる研究班と竜騎士部隊の半数――半数は瑞樹が率いて先発隊と共に野営地の警備――を率いて向かう事にしたのであった。


「まぁ、食料等はこちらもなるべく多めに積み込んでおく。だからあまり心配しなくても良い」

「ああ、わかった。じゃあ、先に行っとくぜ」

「おう。じゃあ、後は任せる」


 カイトはソラの返答に頷くとそのまま去っていく先遣隊を見送って、一度公爵邸の方に顔を出す。基本的に書類の大半はこちらに届く様にしてもらっていた。マクダウェル公カイトとしての印が必要な物も多く、どうせなら、とこちらで一括で片付けておく事にしたのである。


「お兄様。研究所より水質調査用の機材が届いております」

「ん、ああ、わかった。兎にも角にも腹壊すのは嫌だからなぁ……」


 クズハからの報告にカイトは僅かばかりの苦い思い出を思い出す。今回、カイト達が向かうのは湖の底に沈んだ遺跡だ。水質は気にしなければならない要素である。ということで、カイトは手配を行ってそれを空港に停泊させている冒険部の飛空艇へと移送させておく。


「後は……空気清浄機と空気発生機か。濾過装置も必要か……後、シュノーケル型の魔道具も必要だな……」


 カイトは兎にも角にも必要となる道具の一覧表を見ながら、必要な用意の手配を進めていく。空気発生機というのは、簡単にいえば泡を発生させる為の魔道具と考えて良い。流石に湖底に着の身着のままで入るわけにはいかないし、もし運良く気密性が確保されていなかった時に面倒な事になる。

 というわけで、遺跡全体を泡で覆って保護する事にしていたのである。こうすれば浸水の危険は無いし、カイト達にしても呼吸や体温等に気を遣わず調査が出来る。これは湖底で遺跡が見付かった場合に必ず行われる措置なので、カイト達も欠かさず行う予定だった。


「ああ、クズハ。もし遺跡が見付かった場合には海軍に頼んで保全も行う事になる。その手配も整えておいてくれ」

「かしこまりました。内陸部ですから、第一艦隊の特務隊に頼んでおきます」

「そうしてくれ。補佐に空軍の一個中隊を就けておくように」


 カイトはクズハの申し出に頷くと、再度手配を整えるべく動いていく。泡なので一時的な効果しかない。泡で覆っている間に機材を持ち込んで、更にしっかりと保護出来る様にしてしまうのである。

 とはいえ、ここらは流石に一ギルドで出来る事を超えている。そしてする内容でもない。これは土地を治める貴族の仕事だ。故に、海軍の出番と相成るわけであった。そうしてしばらく整えていると、今度はアウラがカイトへと報告を入れる。


「カイト、空気送る奴が皇都の研究所から届いたって連絡入った」

「ん? ああ、わかった。じゃあ、ちょっと出掛けてくる」


 カイトはそう言うと、一人立ち上がる。ここら、手間が掛かるのは機材の問題等で皇都や各地の研究機関等から機材を購入する必要があったのだ。となるとやはり即座にお届け、というわけにはいかないのが実情だ。早い物であれば届いているが、全部が揃うとなると後数日は必要だった。そうして、カイトはこの後も幾つかの機材の納入を見届けつつ、用意を進める事になるのだった。




 さて、更に三日。カイトは大凡の機材が届いたのを受けて、飛空艇にそれらを積み込んでいた。


「カイトー。全部入ったよー」

「おーう。じゃあ、とりあえずこれで完璧かー」


 灯里からの報告にカイトは手を振って応ずる。どうやら調査に必要な機材の積み込みは終わったらしい。であれば、飛空艇を後は飛び立たせて、先んじて向かった先遣隊の野営地へと向かえば良いだけだ。

 ここら、今回の行動は領内の行動だ。なので面倒な出国手続き等は皆無だ。そして飛空艇が停泊しているのは、冒険部が借りている格納庫。面倒な手続きは殆どなかった。とは言え、それですぐに飛び立てるかというと、そうではない。


「後は、食料とかか」


 カイトは積み込み予定の積荷のリストを見て、そう呟いた。今回、何日調査に時間が掛かるかは不明だ。どれだけの規模かもわからないのだから、当然である。故に食料は多めに積み込んでおいて、出来る限り調査に日数を掛けられる様にしておいたのである。


「ま、これは明日の朝届く様になってるから、問題はないな。灯里さーん! 明日の朝っぱらには移動出来る様に号令掛けといてー!」

「うーん! わかったー!」


 カイトの依頼を受けて、灯里が手を振る。エネフィアだ。機材がいつ届くか、というのにも数日のラグがある。そして食料の大半は当然だが、冷蔵庫の中に入れても日持ちがしない。

 一応保存食もあるが、それ以外の物は日持ちしない。そしてこちらはマクスウェルであれば簡単に、そして即座に手に入る。なので出発の間際に手に入る様にしておいたのである。


「良し。じゃあ、後は明日だな」


 カイトは積み込みの終わった格納庫を遠隔操作で閉じると、飛空艇の魔導炉をアイドリング状態へと落としておく。これで、後は明日食料を積み込むだけだ。そうして、カイト達後発隊となる面々も翌朝、マクスウェルの街から出発する事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。


 次回予告:第1140話『湖底調査開始』

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