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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第60章 湖底の遺跡編

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第1137話 人の噂も七十五日 ――経過済み――

 今日から新章突入です。物語はまた少しだけ、次の段階へ。

 カイトを中心として行われた星見から、数日。相も変わらず依頼に出る者は出掛け、修行を行う者は修行を行い、という各自冒険者としての日常を送っていた。

 が、そんな中。カイトは皐月の訪問を受けていた。まぁ、これ自体に不思議な事はない。両者は幼馴染だ。故に、普通に遊びにも来るだろう。とは言え、今回はそうではなかった。ある意味では、相談だった。


「……あ?」

「いやぁ……だからちょっとのっぴきならない、って言ってるでしょ?」

「……ごめん。信じたくないからもう一回お願い」


 カイトは皐月からの説明に片手で頭を抱え、空いた手を前に突き出していた。信じたくない、という彼の言葉の通り、彼は本当に信じたくない様子だった。出来れば今すぐにでも耳を塞いで記憶を消去したい。そう言わんばかりだった。


「はぁ……まず、事の発端はお風呂なのよ」

「聞いた。お前が最近例の女体化使って風呂入っているのも聞いた」


 皐月の言葉にカイトはそれは聞いた、と告げる。そしてこれについてはカイトとしても問題はない。かつての魔導学園での一件でも言われていたが、皐月は大浴場等になると見た目の問題から女湯に入っている。

 が、やはり肉体的には男であったわけで、隠すものは隠している。それについても問題がない。と言うより、仕方がない。こればかりはやはり男である以上、仕方がない。周囲にしても皐月なので、と許されているのはある種恐ろしい話だろう。

 とまぁ、これは良いのだ。彼女とて好き好んで女湯に入っているわけではない。仕方がなく、女湯に入っているだけだ。ここについては自衛のためと周囲の安全の為、という周囲の理解もある。問題はあるが、問題はない。矛盾だが世の中そういうものだ。


「そりゃ、女湯に入る以上はね……うん。それが問題なのよねー」

「なのよねー、じゃねぇよ。どうしてそうなった」


 カイトは愕然としながら、皐月からの話の大筋に背筋を凍らせる。何故、そんな事に。本当に理解に苦しむ事態だった。


「いやぁ……それがわかったら聞きに来てないわ」

「あっははは。だわなー」


 乾いた笑いを上げる皐月の言葉にカイトも乾いた笑いを上げながら同意する。確かに、それはそうなのだ。大凡の噂程度であれば、二人も気にしない。

 こんな容姿の皐月と付き合うのだ。そのぐらいの覚悟はあるし、もう慣れてもいる。今更皐月とあらぬ噂が立てられても気にもならない。それどころか桜達が面白可笑しく茶化す場合もあるぐらい、皐月はカイトとその恋人達には受け入れられている。が、今回は度を越す事態だった。


「カイトと私がやっちゃった、まではまだ良いわ……」

「いや、そうだけど良く考えりゃ良くねぇよ……アリス……居ない。ルーファウス……居ない。良し。ステラ!」

「なんだ、主よ」


 カイトは即座に詳細を聞く為にステラを呼び寄せる。基本的に冒険部の内情は彼女らが教えてくれる。となると、どうなっているか把握している可能性はあった。そして案の定、彼女は半笑いだった。知っていて、その上で敢えて彼女が握り潰していたのだろう。


「……お前、何か聞いてるだろ」

「ああ、聞いている。一応、報告書はあるが……見るか?」

「出せ」


 カイトは最早盛大に頭を抱えん程に嘆きを見せながら、ステラに資料の提出を命ずる。彼女が握りつぶす程の事態だ。精神衛生上非常に悪い事が想像出来た。そうして、しばらく。カイトが愕然となった。


「……なん……だと……」

「すまん。それを見た時、私は素直に笑うしかなかった。聞いてはいたものの……まさか本当にそういう噂があるとはな」


 愕然となるカイトに対して、ステラは笑いを堪えるのに必死だった。素直に、そんな笑うしかない状況だった。と、そんな愕然となったカイトに、興味が湧いていた魅衣が横から資料を覗き込む。なお、他にもソラ達馴染みの面子も興味深そうに覗き込んでいた。


「えーっと、なになに……ぶっ! ぎゃっはははは! なにこれ!」


 魅衣はしばらく資料を読んで、思い切り吹き出して腹を抱えて笑う。もうむちゃくちゃだった。おそらく根も葉もないだろう噂に尾びれ尻ビレが付いただけではなく、それこそ足まで生えている様な状況だった。下手をすると三つ四つ生えていても不思議はない。


「な……何これー」

「うっわー……」


 由利は頬を引き攣らせ、ソラはそっとカイトから視線をそらす。その内容であるが、非常に色々な意味で素晴らしい状況だったようだ。というわけで、再起動中のカイトが動かない為、今までカイトを待っていた皐月が覗き込んでそれを読み上げる。


「えーっと、どれどれ……まず、第一の噂。私とカイトが出来ちゃってる」

「まぁ……それは何時も出る噂だな。かれこれ何年目、何度目の噂だってレベルだ」


 遠い目のカイトが皐月の言葉に頷いた。彼の言う通り、これは弥生もよく流している為、普通に出る噂だ。彼女いわく、だってそっちの方が楽しいじゃない、だそうである。

 彼女が楽しいのなら良いか、とカイトも皐月も判断しているし、彼女が居なかろうと噂は立てられている。なので問題は一切無い。せいぜい二人が弄ばれてやれば良いだけの話だ。が、ここからが、彼らの想像を上回っていた。


「私が最近女の子に成ったのはカイトに抱かれたいから。うっわ、私が男女切り替えながらカイトが楽しんでた、とか目撃証言とか……どこでよ……」

「無茶苦茶だな……普通そこは元々女の子だった、だろうが……」


 カイトは遠い目で何故そんな結論を出せる、という現状にため息を吐いた。昔から女の子なのでは、と言われ続けた皐月である。であれば、必然こちらが普通は出る噂だろう。なのに、どういうわけか今回は前提が男であるという話が大凡の噂だった。


「えーっと……げっ」

「あっはははは……あまつさえ皐月のお腹の中には子供も居る、最近お腹がちょっと出て来てた……誰だ、そんな話流した奴! 今なら勇者カイトの全力お見舞いしてやらぁ!」


 噂の中身にカイトが大いに憤慨する。どうやらカイトは皐月を抱いた挙句、妊娠までさせた事になっていたらしい。皐月も聞いた時は最近自分が女の顔でカイトを見ていた、という噂程度だったのだが、最終的にはこうなっていたわけであった。それは彼女も思わず頬を引き攣らせもしよう。


「ああ、主。この間の草原以降、すでに生まれた事になっているらしいぞ? まぁ、これは孤児院の子供をあやしているのを勘違いしただけだろうがな」

「なん……だと……?」

「うわっちゃー……そこまで行っちゃったかー……」

「あははははは!」

「「あ、あはははは……」」


 愕然となるカイトと最早乾いた笑いしか出ない皐月に対して、魅衣は大笑いだ。ソラ達も最早笑うしかなかった為、魅衣程ではないが笑っていた。

 魅衣がここまで大笑いなのは、彼女らがやはり立場の問題で皐月の事を語らう事がある為だろう。噂と言うか単なる雑談混じりの事が行われているからだ。それが本当に噂になっていれば、大笑いもするだろう。と、そんな魅衣が一頻り満足した後、目端に溜まった涙を拭いながら口を開いた。


「ぜー……ぜー……あー、笑った。え、何? 本当にヤッちゃったの? 昨日の夜も桜と話してたんだけど」

「お前らな……オレより前に」

「わかってるって。わかってるから冗談で言ったんでしょ」


 これ以上はヤバイ、と判断した魅衣がカイトの言葉にかぶせる様に冗談だと明言する。流石に親友達の前で自分の夜の生活を出されては反応に困る。もちろん、ソラ達も一緒だ。というわけで、魅衣は視線を皐月の下腹部へと移動させる。


「まぁ、それは良いわ。え、何? ホントに出来てたりするの?」

「なわけねぇよ……」

「一応、ほら……中には何も居ないわよ?」


 皐月は服の裾をたくし上げ、魅衣へとお腹を露わにする。相変わらず男にしては恐ろしい程に線の細い華奢な身体に、はっきりとしたくびれのある腰だった。下手な美少女より美少女である。


「相変わらず皐月のこの腰回り、恐ろしいわね……」


 魅衣は一応、念のため――もちろん、何も無いのはわかっているが――皐月の腰回りに手を当てて観察する。なお、当然だが一応は紳士なソラは視線を逸しておいた。カイトはもちろん、普通に見ていた。今更過ぎるのである。


「うっわ……私より肌ツヤ良いかも……」

「うそー……うわー……ヤバ、ちょっと腹立つ」


 魅衣に釣られて皐月の肌に触れた由利が思わず戦闘時の口調になるぐらいには、どうやら肌のツヤと張りはあるらしい。そうしてしばらく女子三人衆による悪ふざけが展開される事になる。


「おー……ん?」

「どしたの?」


 由利がふと停止した為、皐月が首を傾げる。というのも、実は由利はそこら知らなかったのだ。


「ブラ……してるの?」

「あ、今女の子の身体だから。いやー、万が一ホントに出来てないの、って聞かれたら困るでしょ?」

「ふむ……」


 魅衣が少しだけ真剣な目で皐月の胸の膨らみを観察する。どうやら目測でどの程度か見ているらしい。由利もそうだったが、魅衣もあの事件――ヴァルタード帝国の事――の当時には居なかった。故に実は実際に皐月の女の子バージョンを見るのは初めてなのである。そうして思ったのは、やはり地球の医療技術があるが故の疑問だろう。


「これ、本物?」

「本物。シリコンとかじゃないわよ?」

「へー……凄いのねー……」


 魅衣は魔術って便利だなー、と益体のない感想を抱く。地球でこの自然な胸の膨らみを出そうとすればどれほどの費用が掛かるかわかったものではない。もちろん、性転換を考えればその費用も馬鹿にならない。いや、これが医療用である事を考えれば比べるのは失礼だろうが、比べるべくもないだろう。


「一応、フューリア様曰く医療用だから悪用はしないでね、っていうことだけどね」

「その日の内に悪用した奴が言うなよ……」

「あれはノーカン。悪用はそう言う意味じゃないしね。あ、ちょ……一応女の子なんだから……んっ……あっ……」


 ふにふに、と魅衣と由利に胸を弄られながら、皐月はカイトのツッコミに反論を入れる。時折甘い声が混じっているが、カイトとしてはどうすれば良いのだ、と悩みどころだった。というわけで、カイトはそろそろ制止を掛ける事にした。


「と言うか、二人ともそろそろヤメレ。そろそろオレの理性が吹っ飛びそうなんだが。それとも二人は噂が根も葉もあるものに変えたいのか?」

「へ?」

「あ」


 カイトからの制止に二人が皐月の顔を見る。かなり赤く、そして非常に恥ずかしげな顔だった。非常に愛らしくもあり、蠱惑的でもある絶妙な表情だ。やはり元々が男だったから、なのだろう。嬌声を上げたりするのを必死で堪えた結果らしい。


「……はぁっ……はぁっ……」

「いっやー、ごめんごめん。まさかこんな事になるなんて……」

「元々皐月ちゃん、男の子ってイメージなかったもんねー」


 ようやく終わった愛撫に息を切らせる皐月に対して、魅衣と由利は恥ずかしげに頭を掻いて謝罪する。と、そんな一同に、今まで顔を真っ赤にして背を向けていたソラが問いかける。


「……もう良い?」

「あははー、良いよー」

「ふぅ……本気で居た堪れなかった……」


 ソラが僅かに顔を赤らめながら、カイト達の方を向く。魅衣達も無邪気にやっていたからなのであって、決して悪気があったわけではない。そうして、しばらく後。衣服を元通りにした皐月が復帰する。


「……危なかった。特に魅衣……」

「私? どして」

「あまり突っ込むな……」


 カイトは大凡を理解していた為、首を傾げる魅衣にこれ以上の問いかけは不要にさせておく。藪をつついて蛇を出す必要なぞどこにも無いのだ。後に彼女いわく、カイト仕込みの愛撫は相当な物だった、とのことである。というわけで、一同は脱線していた話を元に戻す事にした。


「はぁ……マジか。そうまでなってるのか……えーっと、経緯は、と……」


 カイトは結論を先に見ていた為、改めて経緯を把握する事にする。


「えっと、まず皐月が女体化してお風呂に入る。これがきっかけ」

「うんうん。それは私もわかってる。お風呂で噂聞いたから」

「良し……で、次。それについて周囲が勘違い……あ、ここでか……」


 カイトは皐月の同意にさらに先に報告書を読み進めて、何故こんな事になったのか、ということを把握する。そもそも、皐月が男である事は彼女自身が公言している。隠すつもりは一切無い。が、それでも色々とあるので女湯に入っているだけだ。女性陣もそれは知っている。そう、そこまでは良かった。

 が、ここからが問題だった。皐月も言った様に、女湯に入る以上は、と彼女も気を遣ってフューリアより教えてもらった<<転化の法>>を使い女体化している。この時点で言動はもとより、肉体的にも女と言える。精神的には不明だ。とは言え、それ故に元々性別が不明だったのが身体が女だった事で、俄に性根も実は女性だったのだ、と認識され始めてしまっていたのであった。


「そりゃそうだわな……一回、そう言えば報道部が冗談混じりにお前の性別アンケート調査したんだっけ……」


 カイトは報道部部長にして未だ色々と嗅ぎ回る少女を思い出す。彼女が部長に就任してからというもの、報道の正確性も格段に向上したが同時にエンタメに関するネタ度合いも格段に向上していた。その一つが、このネタだった。皐月の性別がどちらだと思うか、というアンケート調査が行われていたのであった。


「そら、こうなるわな……」


 はぁ、とカイトは深い溜め息を吐いた。元々アンケート調査と言ってもネタに富んだ真面目なものではない。選択肢は三つで男、女、皐月の三つだ。が、この結果をどこまで正気と捉えるかは不明だが、結果は綺麗に三分割されていた。その結果、このような事になったのだろう。


「はぁ……どうすりゃ良いんだ……」


 カイトは頭を抱える。別に今更隠し子騒動なぞ気にもしない。気にもしないが、そのお相手が皐月となると流石に頭も抱えもしよう。


「いっそ、噂を噂でなくせば良いのか……?」

「あー……それなら噂もなくなるかもしれないわねー……覚悟、決めるべき時なのかしら……」

「魔道に進む覚悟はあったが、腐道に進む覚悟は無かったなー……桜達になんて言おう……魅衣に協力してもらうとして……」

「ホントにできちゃったら男に戻れなくなるとか言われたけど……産んだ後は大丈夫なんだっけ……お母さんになんて言えば良いのかなぁ……」


 二人は遠い目でどうすべきかを考える。だが、どうやら二人共混乱しているらしい。何故か事実を作る方向で考えていた。


「お、おーい……カイトー? 皐月ちゃーん……?」

「お、おい……二人共、大丈夫か……?」

「ありゃー……」


 二人は魅衣達の呼びかけに一切無反応だった。完全に精神がやられたようだ。いや、確かに二人のやり方であれば、今出ている噂はなくなりはするだろう。それが事実になるだけだ。が、そもそもで可怪しい。事実無根を事実にしてしまっては元も子もない。


「違う、そうではない……思いっきり混乱しておるのう」

「……おーう、ティナ……来たのか」

「う、うむ……」


 カイトの光の失われた目と無表情の顔を見て、ティナも思わず仰け反ってただただ頷いた。それほどまでに彼の顔はのっぺりとした無表情だった。


「ま、まぁ……少し落ち着け。人の噂も七十五日と言うじゃろう。放っておけば自然、収まろう」

「「……」」


 カイトと皐月は微妙な表情でティナの顔を仰ぎ見る。そして、同時に告げた。


「「七十五日の倍は経過してる」」

「……すまぬ」


 何とも言えない状況に、ティナは謝罪するしかなかった。今のところステラが握り潰していたのでカイトも知らなかったが、すでに七十五日どころかその倍は経過していたのである。その結果、噂は沈静化するどころか悪化する一方だった。


「ま、まぁ……それは後で考えよ。とりあえず今は報告を聞け。ちょいと重要じゃ」

「どうぞー」

「うむ……なんというか……うむ。すまんかった。少々色々とお主がおらん間の処置を怠り過ぎた」


 カイトの膝の上に座った皐月――カイトの席の前の椅子をティナが座った為――の促しを受けて、ティナがこれは重症だ、と後で対処する事にする。カイトももうなすがままだった。そうして、ティナはとりあえず報告を開始する事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1138話『リサーチ』

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[一言] もうくっついちゃっていいんじゃないすか? もしかして蘭丸?
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