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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第59章 ユリィの過去語り編

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第1135話 便利な言葉

 星空の下で己のはるか過去の物語を語ったユリィは、とりあえず大凡語りたい事を語って一区切り付けた。そうして、そこから視点をずらして再び今へと戻す。


「ま、とりあえずこういうことなんだよね」

「は、はぁ……」


 ユリィの言葉に暦は複雑な顔だ。ぶっちゃけてしまえば、話の大半が理解出来なかった。そう言う物語があったのだ、という程度しかわかっていない。が、とりあえずはそれで良い。重要な事は、語っている。


「あはは……でも、まぁ……私達は言ってしまえば横恋慕、なんだよね。最初から」


 ユリィは今は己の奥底で眠るもう一人の己に微笑みを送る。彼女は今、幸せに眠っている。これで良いのだろう、とユリィは思う。

 色々とあったはずだ。苦しい事も、辛いこともあった。相棒であれなかった時もある。彼が一人で苦しんでいる時に支えてやれなかった事もあった。その後悔はある。本当に、色々な事があったのだ。

 だが今は、相棒だ。彼女らが一番望んだ立ち位置だ。そして、そここそが彼女らの居場所だ。自分の居場所でもある。それだけは彼女には断言出来る。なら、これで良いのだ。

 相棒である上に自分は愛されていて、彼を愛している。これ以上、叶えたい望みなぞ一つもない。敢えて言えば子供が欲しい、というぐらいで彼とて積極的だ。状況が許さないだけだ。なら、しばらく我慢するだけだ。


「ねぇ、暦はどう在りたいのかな?」

「……」


 ユリィの問いかけに暦は口を閉ざす。まだ、何も見えない。だが、それで良いのだ。この答えを見つけ出せている者は、カイトの恋人達の中でもまだ少数だ。それこそ、皆を見守るお姉さん役に近い弥生ぐらいだろう。桜達に至ってはまだまだ悩みまくりだ。

 そしてそれはそれで良いのだ。この自分の立ち位置を見つけ出す為には、長い時間が必要だ。彼女(ユリシア)達だって年以上の長い時間が必要だった。そんな簡単に見付けられても困る。


「うん、それで良いんだよ」

「え?」


 唐突な言葉に、暦が目を丸くする。何が良いかがわからなかった。


「まぁ、言ってしまえばさ。カイトがハーレムを抱えたのって、本当は私達の為だったから」


 ユリィはある種の感謝を滲ませながら、断言した。カイトの永い戦いが終わった後。やはり一番はじめに結ばれたのは彼女だった。それが、彼女にとってのご褒美なのだ。

 そしてカイトにとっての真の望みでもあった。その後、カイトが彼女を説得してユリィ達を迎え入れたのだ。それが今のユリィにはわかっていた。

 本来は報われぬ恋だというのに、彼女はそれを良しと認めてくれたのだ。彼女にだってわかっていたのだ。自分達が横にいるのは愛ゆえで、結ばれないのは私の所為だと。それ故、ともに居る事を許してくれた。そこには感謝が絶えない。


「本当は、私達には後から入ってくる娘達を拒める権利はないの。そう言う意味で言えば、究極的にはこの判断が出来る女は彼女ただ一人。カイトが一番始めに恋人にした<<最初の花嫁ザ・ファースト・ブライド>>ただ一人。彼女だけは、私達に文句を言う権利がある。拒める権利がある」


 ユリィはカイトが一番最初に愛した少女の事に対して、彼女にだけはその権利があると明言する。元々は、彼女こそが結ばれるはずだったのだ。ある意味では弥生と一緒だ。弥生が意識するのも無理はない。


「カイトが見つけた答え……それは本当にわがままな物だよ」


 遠くを見つめながら、ユリィは笑う。今の彼女には、カイトが何故ハーレムを決断したか理解出来た。やはりこれは、彼女らの為だった。


「……一度。多分、ティナは……ううん。ソフィアは私より遥かに昔に一度目覚めてる。彼女が、カイトの覚悟を決めさせたんだと思う」

「覚悟、ですか?」

「うん。ハーレムを作る覚悟。元々彼女がそこらの調教はしてたけどね。でもそれだけで、カイトが頷くはずはない……記憶の一部の封印を解いたんだよ、多分ね」


 ユリィはカイトから聞いていないにも関わらず、事態を正確に読み当てる。相棒なのだ。現状さえ分かれば、大凡の予想は出来る。


「カイトは私達が本当はどういう気持ちなのか、というのがわかっている。だから、ハーレムを作るしかなかった……彼もまた、私達が好きだから。ま、これは良いんだけどね」


 ユリィは何を語ってるんだろ、と首を振る。こんな事を語るつもりはなかった。ただ、何故か思わず口をついて出ただけだ。彼女もまた、嬉しかったのだろう。


「とりあえず、ハーレムならハーレムで色々とあるの。私達はその中で、相棒という立ち位置に自らの立ち位置を置いた。これだけは誰にも譲らないし、私達以外に誰もこの立ち位置に立たせる気はカイトには一切無い。席は一つじゃないけどさ……やっぱり、どこかの立ち位置に己を置かないと駄目なの」


 ユリィは自分達を実例とする。そう言う意味で言えば、クズハもアウラも自分の立ち位置を見付けている。変な話だが、アウラは常々明言しているように姉という立ち位置だ。そしてクズハはその逆に妹という立ち位置だ。

 そしてそれと同時に妻でもある、というだけだ。不思議な立ち位置であるが、それで彼女らは良いのだろう。この立場が一番気に入っているという相手に、それを可怪しいと指摘するのは野暮だ。


「でもね? その立ち位置っていうのは一人だけじゃ決められない。カイトと長い間一緒に居て、カイトと一緒に決められる。だから、今は悩んで良いんだよ。どうありたいか、って言うのなんて本当に長い間一緒に居ないと見えない事だからね」

「はぁ……」


 そういうものなのだろうか。暦はユリィの言葉にそう思う。とは言え、わからないでもない。なんとなくだが、彼女にだって恋人と家族、妻という立ち位置が違うという事はわかっている。妻という者が複数居るのなら、それなりに色々とあるのだろうとはわかった。


「だから、うん。カイトを好きで居て良いんだよ。貴方は貴方が好きになってしまったんだから、しょうがない。どうしようもないんだよ」


 ああ、なんて便利な言葉なんだろう。ユリィはそう思い、かつての自分が、相棒達が呟いた言葉を笑顔で告げる。


「良いんだよ、とりあえず。それだけは桜達だって認めてる。だから、暦が好きでも良いの。報われたい、とか言うのだったらきちんと宣戦布告すべきだけどね?」


 ユリィはにこやかな顔でウィンクする。それだけは、ルールだ。宣戦布告はすべきだ。それをして初めて、お互いに対等な立場と言えるのだ。それが、スタートラインだ。


「……」


 暦は無言で、言われた言葉の意味を考える。そもそも彼女はそこにさえ至れていなかったのだ。好きである事そのものを認められていなかったのである。まだ、少しの時間は必要だろう。


「だから、来るのなら受け入れてあげる。報われたいと思うのなら、それで良い。貴方が好きであるというのだけは、仕方がないからね」


 ユリィは笑う。兎にも角にも自分を好きだと言えないのが、今の暦だ。ここらは真面目故に、そして日本の常識が大きいが故に、なのだろう。良くも悪くも彼女は優等生タイプだ。常識を、ルールを守ろうとしていた。


「……あの……ありがとうございました」

「ん。よろしい」


 少しだけ険の取れた顔で暦が礼を言う。とりあえず今のユリィに出来る事はすべてやった。そう考えても良いだろう。流石にここから先は彼女の出る幕ではないし、出来る事もない。ここから先は、暦が答えを出すべきことだ。

 教師がやるべきことは教え、導く事だ。ユリィもそれをしただけだ。故に扉の前までは案内するが、そこから先に進むかどうかは生徒自身に選択させる。とりあえず今回の彼女はその役目を完璧にやり遂げたと言えるだろう。扉の前にもたどり着けなかった暦はとりあえず扉の前には立てた。


「……少し、考えます」

「ん」


 ユリィは暦の言葉に満足する。扉の前に案内したからといって、今すぐに答えを出せというつもりは一切無い。というより、出せても不思議だ。これは色恋沙汰。即断即決出来るなぞ珍しい話だ。大いに悩み、大いに迷えば良い。それが、ユリィの持論である。


「じゃあ、私は行くね。風邪引かない様にねー」

「あ、はい!」


 ユリィは暦の返事を背に、小型化して浮かび上がる。大型化していたのは教師としての仕事をするためだ。その仕事から離れて相棒として立つのなら、この姿が一番気に入っていた。


「ふぃー……お仕事しゅうりょー……」


 少し疲れた様子で、ユリィがのんびりと宙を舞う。そうして向かう先は勿論、カイトの所である。


「たっだいまー」


 ぽすん、とユリィはカイトの肩へと着地する。彼は相変わらずアリスと一緒だったようだ。


「おかえり」

「……おかえりなさい」


 カイトに続けてアリスが少し悩んだものの、そう告げる。彼女の目からみても、カイトの肩が彼女の定位置に見えたようだ。


「何やってんの、二人で」

「ちょっとお月見」

「星を見るって話じゃなかったっけ、今日」

「綺麗だからなー、今日は」


 カイトは寝っ転がり、月を眺める。星も綺麗だが、一番綺麗なのは月だった。名月。その名に恥じない綺麗な満月だった。と、カイトが寝っ転がるのに合わせて彼の胸に着地したユリィが彼の胸の上に寝っ転がる。


「んー……元気に生きてるねー」

「そりゃ、生きてますから」


 己の心臓の鼓動に耳を澄ませるユリィの言葉にカイトが笑う。生きているのだから、心臓は力強く動いているだろう。当たり前の話である。そうして、のんびりとした空気が流れる。今日の目的は、星を見る事だ。それで良い。


「……何時か、本当の意味で会ってみたいわね」

「ん?」


 ユリィの様で、彼女のものではない声にカイトは月から己の胸に視線を動かす。アリスはマルドワインを飲むのに夢中で、気付いていなかったようだ。


「ふふ」

「……そうだな。また、何時か」


 ユリィにのみ聞こえるぐらいの小声でカイトは黒髪の少女へと告げる。語ったから、なのだろう。大昔、自分の相棒だった者が出て来ていた。


「遠き日々の果て。すべての物語は一度、終わりを迎えた……まったく。永遠の愛なぞバカな事を望んだ女が居たもんだ」


 カイトは小さく呟いた。その願いを、彼は聞き届けた。


「ま……いっか、とりあえず。今は、まだ……」


 カイトは目を閉じて、星空の下に響く様々な音に耳を澄ませる。アリスの少し熱そうにワインを飲む声、遠くで語らい合う愛し合う者達の声、まだ眠れない子供達の楽しげな声が、聞こえてきた。


「……ん?」

「どうしたの?」


 ユリィに戻ったユリィが問いかける。カイトが唐突に目を開いて、周囲を見回したのだ。


「……音、しなかったか?」

「……ううん」


 カイトの問いかけにユリィは首を傾げる。何も聞こえなかった。というより、彼女はカイトの心音に耳を澄ませていたので聞こえる状況ではなかった。なので、彼は同じく少しびっくりしていたアリスへと問いかける。


「アリスは?」

「え、あ、いえ……何も」

「気の所為……か? 悪い、気にするな」


 カイトは気の所為と思う事にしたようだ。再び寝っ転がる。


「どしたの?」

「なーんか、割れる様な、ってかそんな感じのが聞こえた様な気がしたんだけどなー……」

「大方、酔った大人がコップでも落としたんじゃない?」

「んなとこか」


 カイトもユリィの言葉にそう思うことにする。一応、子供向けには酒は提供していないが、少量ではあるが大人向けにアルコール飲料は提供してある。一応気を付けさせてはいるが、酔った者が出ても不思議はない。そういう事なのだろう。そうして、彼はそのまま横になって星を見る事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1136話『とりあえずの平穏へ』

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