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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第六章 冒険部始動編

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第102話 閑古鳥

 そうして冒険部発足の翌日。部室として割り当てられた第二会議室に部員全員とアル、リィルとユリィが集まっていた。顧問の雨宮は現在職員室で立ち上げに伴う書類仕事をしている。

「集まったはいいが……当たり前だが依頼は無いな。アルとリィルも悪いな。」

「いいよ。こうやって待機するのも必要だからね。」

「ええ。いつも依頼が持ち込まれるわけではないですからね。休める時に休むのは戦士の鉄則です。」

 カイトのちょっとだけ申し訳無さそうな謝罪に、アルとリィルは予想出来た事であったので笑顔で頭を振った。現状では依頼人たる学園生たちは様子見というところで、誰も訪れる気配はなかった。どこかで冒険部が対処するような依頼があるような話も聞いていない。

 では、何故集まっているかというと、顔見せの要素が強かった。が、すでに顔合わせは終了しており、今は全員が暇を持て余していた。

「なあ、カイト。別に今日はもう解散でいいんじゃね?」

 暇そうに武術の指南書を読んでいたソラがそう言う。ソラや瞬はまだ真面目に冒険者として役に立ちそうな本を読んでいたが、ユリィと魅衣、凛がエネフィアのファッション誌を読み、アレが可愛い、これが可愛いと姦しく、由利とティナはお菓子特集の雑誌を読み、ティナが由利に作ってくれるようにねだっていた。

「そういうな。さすがに活動初日から部室に誰も居ないのは大問題だろ。」

 そういうカイトだが、彼も暇そうにマクスウェルで購入したエネフィアの雑誌を読んでいた。時折日差しを浴びて眠いのか、呑気にあくびをしている。

「そんなもんかなぁ……なあ、カイト。一回模擬戦しね?なーんか面白そうな技あった。」

 ソラは読んでいた指南書に面白そうな技があったらしく、試してみようと目を輝かせていた。

「今日は却下だ。依頼前に疲れるつもりか?」

「はぁ……今日は誰も来ねぇだろ。つーかお前ならオレとやった所で全然疲れねぇだろ?」

「おい、ソラ。さすがに今日は控えておけ。部員のソラはともかく部長が初日に疲労困憊なのは見栄えが悪い。なんなら後で俺と組手するか?」

 此方も指南書を読んでいた瞬。さすがに本人も今日だけは鍛錬を自重したらしい。

「あー先輩大丈夫っすよ。コイツ、勇者だから。」

「おいおい。」

 ソラは指南書を読みながらなので、条件反射でそう返したのだが、瞬は同じ名前からの冗談と思ったらしく、笑ってそのまま流してしまった。

「そういえばカイト。この間はソラの訓練に付き合って新技の開発をやったそうだな?」

「ああ。ソラの杭盾(ステーク・シールド)に多少手を加えさせてもらった。」

「躍動部を手伝って貰ったんすよ。俺だけだとあそこまでの威力が出せなかったんで。」

「俺も少し行き詰っていてな。今度意見を聞かせてくれ。前に見せた(つばめ)の改良をしているんだが、うまく行かん。」

 そう言ってカイトを見る瞬。カイトも読んでいた雑誌から顔を上げる。

「リィルに頼んだ方がいいんじゃないのか?」

「いえ、私が助言しました。」

 同じく指南書を読んでいたリィルがそう言う。リィルとアルはカイトの直参となったことで、今まで読めなかった公爵家秘蔵の指南書を読めるようになった。なので二人は新たに指南書を読み込んでいるところであった。

「何故だ?」

「投槍ならカイトさんの方に分があるでしょうから。」

 コレは嘘なのであるが、瞬が改良中の技は見よう見まねのカイトの投槍である。カイトから指南させたほうが良い、という判断であった。

「まあ、私も意見は出させていただきます。」

 顔を上げた彼女が告げる。要は自分も参考にする、ということである。

「まあ、何方にせよ明日以降だな。ソラも今日だけは我慢してくれ。」

「はぁ……あいよ……暇だー。あ、カイトなんも出来ないならこれの意見聞かせてくれ。」

 うだーと机に突っ伏すソラ。そのまま頬杖をついてカイトにあるページを指さす。

「ああ、いいぞ。アル、一緒に頼めるか?」

「うん。……あ、僕も幾つかご先祖様について聞いておきたい事あるから、一緒に聞いていい?」

「ああ。」

 そう言って三人はソラの新技開発の話し合いに移るのだった。



「あ、コレ凄い。」

 そうして一時間程度が経過した頃、魅衣が読んでいた雑誌のあるページを見てそう言う。

「ねぇ、ユリィちゃん。コレって知ってる?」

 そう言って魅衣が指差すのは魔法などのファンタジーが溢れるエネフィアでも更に幻想的な大きな滝の写真であった。その滝の周辺には数多の様々な花々が咲き誇り、霧の様に霞む滝の落水と相まって、その美を誇っていた。

「どれどれ?……あぁ、ミストレアの大滝ね。知ってるよ。私の生まれた場所らしいよ。」

 ユリィが魅衣の雑誌を覗き込み、大きく頷いた。ミストレアの大滝は公爵家に存在する妖精族の里の一つにある滝のことであった。ここの側の妖精族の里には妖精族族長の女王が居を構えており、国内でも有数の妖精族の集落となっていた。

「行ったことある?」

「うん。昔カイトと旅してた頃にね。私の生まれた所へ行ってみようってことで行ったよ。懐かしいなぁ……あの頃のまま。久しぶりに里帰りしよっかなー。別に親居ないけど。」

 ユリィはカイトと旅するまで生まれた里も家族もわからない迷い子と呼ばれる存在であった。その後妖精族の里をいくつか訪ねた折に自分の生まれた場所を知ることになり、ミストレアの大滝にも立ち寄ったのであった。

「じゃあさ、この滅多に他の種族が入れないってホント?」

「うん。えーっと……あ、あった。ここの説明に、妖精族以外は滅多に入れないって書いてあるよね。コレって私達が生まれる場所だからなんだ。こういう場所はただでさえ少なくて、以前の大戦で更に減っちゃって……環境が破壊されると私達妖精族が生まれなくなっちゃうから大切に保護されるんだ。」

 純粋な妖精族は魔族と似た生まれ方をするので、生まれられる場所は限られていた。その一つがこの大滝であり、公爵家からも許可無く立ち入ることは禁止されていた。今回この雑誌の記者はルクスの子孫であったので、長い審査を経て許可が降りたらしかった。

「ふーん……ね、やっぱり綺麗なの?」

「うん。カイトなんか感動して泣いてたね。」

「え?」

 そう言ってソラと話しているカイトを見る魅衣。カイトはそれに気づいて魅衣の方を見る。

「ん?どうした?」

「あ、カイト。これこれ。」

 そう言ってユリィはミストレアの大滝を見せる。カイトも懐かしげに目を細める。

「ああ、ミストレアの大滝か。相変わらず水しぶきが幻想的だな。」

「泣いてたのも懐かしいねぇ。」

「五月蝿い。」

 ニヤつきながらそう言うユリィに、恥ずかしげに答えるカイト。どうやらこの反応を見ると、事実らしい。

「泣いてたってどういうこと?」

「……圧倒されたんだよ。あれは実物見ると凄いぞ。」

 懐かしげにそう言うカイト。その顔は何処か陶酔を含んでおり、圧倒的な自然を見た事のある者だけがわかる顔であった。

「見れることあると思う?」

「……女王陛下に頼み込めばなんとか?」

 魅衣の質問に、ユリィがカイトと顔を見合わせてかなり自信無さげに答えた。

「どうなるだろうなぁ……あの女王もユリィと同レベルの悪戯好きだから、変な依頼出されるかもな。」

 妖精族は実力者になればなるほど猫を被るのが上手になる為、公には女王も威厳たっぷりであった。が、当然の如く悪戯大好きな妖精族の性質を備えていた為、その本性はおてんば娘であった。

「いやぁ、私もまだ女王陛下には負けるよ。」

 照れた様子でそう答えるユリィ。カイトは別に褒めていない。それに呆れ返ったカイトが、溜め息とともに否定した。

「どうだか。オレにはどんぐりの背比べに思えるがな。ま、女王に気に入られればなんとかなるか。」

 ちなみに、カイトが冒険者稼業で常用しているコートの下に着ている服は、妖精族からのとある依頼報酬として妖精族女王が直々に魔法糸と呼ばれる糸を創り出し、妖精族の中でも最も優秀な職人が編んだ高性能な逸品であった。

 魔法糸とは純粋な魔力を生成して創り出した魔法系素材で、実用が可能なレベルとなるとかなり高度な技術と相応の魔力を要求されるため、市場に出回ることの無い超級のレア素材であった。魔力そのもので出来ている為、絹や麻等よりも魔術的な親和性は高く、防具としての性能は最高レベルである。

「後は人格面なんかを読み取るのは妖精族の得手だから、変な誤解されないように気をつけるぐらいしかないな。」

 話を戻したカイトに合わせて、ユリィも修正する。

「運が良かったら見れるかもねぇ……カイトと私はフリーパスで入れるけど……。」

 まあ、ムリだろうね、とユリィが言外に語る。カイトとユリィはかつてこの滝の防衛につき、守りぬいた功績があり、更には公爵家として公に保護している実績もあるので、妖精族から多大な信望を得ていた。それ故のフリーパスで、コレは稀なことであった。公爵代行クズハでさえ妖精族に許可を取る事を考えれば、どれだけこの大滝を妖精族が重要視しているかがわかる。

「くぁー、やっぱり勇者ってのはお得なんだー。」

 先は長そうだ、そう判断して、机に突っ伏した魅衣。

「いや、勇者と言われるようになったのは大戦終結間際だ。オレの各種族との交流の多くはどちらかと言えば、冒険者としての活動の結果だぞ。」

「え?そうなの?」

 カイトの発言を聞いて顔を上げる魅衣。少し興味を覚えたらしい。

「何もオレだって始めから勇者と呼ばれていたわけじゃないさ。勇者なんて称号は後付だ。」

「ふーん。何?やっぱり魔王と戦ってたから?」

 カイトの言葉を聞いて、ありそうな推測を述べた魅衣だが、カイトはそれを情緒もへったくれも無いセリフで打ち砕いた。

「いや、単なる戦意高揚のための見せかけ。なんか特別な力を持っていたわけじゃないからな。」

「情緒もへったくれも無いわね。」

 呆れた様子でそう言う魅衣。あまり興味はなさそうだったのだが、ぼんやりと話している内容を聞いていたソラが興味が湧いたらしく、カイトに聞いてきた。

「俺は聞きたい。結局なんで勇者と呼ばれるようになったんだ?始めは迷い込んだだけなんだろ?」

「ああ。その後色々あってエンテシア皇国軍陸軍隊所属第十七特務小隊に所属して、オレの後見人でもあった老賢人ヘルメスと一緒に旅をしたんだが……彼らがいなくなってからはオレとユリィの二人旅でな。他の大陸を巡りながら堕ちた龍を探す旅に出たまでは話したか?」

「それで結局何度目かの遭遇でエルシア大陸に戻ってきてこれを討伐。その後は当時の魔王侵攻に対しての反撃に加わったんだっけ?」

 ソラが頷き、聞いている範囲であらましを伝える。ソラはあらましは聞いていたのだが、詳しくは話していなかったので、カイトは少し詳しく説明することにした。

「ああ、それで戻ってからの一年と少しの間にティナを始めとして、バランのおっさん、クズハ、アウラ、ウィル、ルクスをこの大陸で仲間に。まあそれに竜胆、マクシミリアン将軍や師匠達……様々な仲間に加えて大陸各国の窮地を救いつつ、共闘態勢を整えてな。なんとか他大陸とも共闘態勢を整えられて、遂に連合軍を結成。遂に大々的な反攻作戦に出ることになったんだが……」

 カイトは当時を思い出しつつ、何処か懐かしげに語る。

「そこでまずは反撃の狼煙ということで、各大陸同時反攻作戦を展開することにした。でだ、当然戦意高揚のために誰かが演説をする事になったんだが……まあ、これは連合軍結成に尽力し、なおかつエルシア大陸で有数の知略と戦闘能力を持ちあわせており、容姿も弁舌も優れていたウィルがやることになった……までは良かったんだが、ここで何故かオレが勇者として紹介された。」

 大きく溜め息を吐くカイト。今思い出しても当時の演説は恥ずかしかった。それを思い出したのか、ユリィが笑って言う。

「いきなり話を振られたカイトってば顔をぶんぶん振って拒絶してたよねー。で、兵士たち皆ちょっと笑ってた。」

「そりゃ嫌だろ。まあ、あとで聞けばオレは各大陸で結構な噂になっていたらしい。精霊を自由に呼び出して、圧倒的な戦闘能力で各地の窮地を救う、妖精を連れた謎の旅人がいる、ってな。その反抗作戦にも結構な数のオレを見知った兵士が参加していたため、いっそ勇者として祭りあげて戦意高揚とした方がいいだろう、と考えたらしい。反攻作戦開始時点ではすでに騎龍として古龍(エルダー・ドラゴン)のティア、歴代魔王最強と名高い先代魔王のティナが側に控えていたからな。そのオレを勇者として祭りあげ、圧倒的な活躍を見せてやれば、それを知った連合軍兵士の士気は一気に高まる、という判断だ。現にそうなった。」

 実はもう一つの理由があり、そっちが主だったのだが、これは今は置いておいた。しかしその結果、その反攻作戦における連合軍側の士気は狂乱と呼べる域まで高まり、圧倒的な勝利を挙げることに成功する。以降破竹の勢いで戦線を押し戻し、当時の魔王との最終決戦へと移行することが出来たのである。

「本気で何も特別感ねぇな……」

 そうして語られたカイトの勇者襲名の秘話に、ソラが夢が無いと残念がる。これにカイトが少しだけ嫌そうな顔で告げた。

「どちらかと言うと厄介事の名前だ。結果武勲を上げまくる羽目になって最終的には魔王と一騎打ちやってこれを圧勝。それらの功績から最終的には公爵として封ぜられる……勇者なんてやるもんじゃないぞ。」

 見る人が見れば羨ましいばかりの立身出世物語だが、なった本人としては、貴族達の軋轢に巻き込まれたりと面倒なことこの上なかったのである。

「で、他に聞いておきたい事あるか?」

 この際なので、ついでに質問を受け付ける事にしたカイト。それなら、と魅衣とソラの二人は疑問に思っていた事をカイトに聞いていくことにしたのであった。




「やっぱ今日は誰も来ないですね……」

 あくびをしながら、翔が呟いた。ひと通りやりたいことを終えたらしい翔と瞬の二人は、日が高くなり、学生たちが外で遊んでいるグラウンドを眺めていた。

「さすがに13時を過ぎると眠くなるな……朝はソラに今日は訓練禁止と言ったが、さすがにこれでは俺も暇だな……」

「二人共そう言わないでくれ。暇なのは全員一緒だ。とは言え今日は全員出席する、と言っているからな。」

 カイトも暇そうにそう言うが、実は来客があるにはあった。冒険部には2年A組の面子が多かった上、学園有数の綺麗どころが全員居るのである。主に冷やかしで2年A組の面子が訪れるものの、それ以外では桜田校長や楓と言った面子以外は訪れていなかった。

 そういうわけでカイトさえ今日は解散するか、と真剣に考え始めた頃、部屋の扉が開かれ、女生徒が入ってきた。

「えっと、今って依頼を受けてもらえます?」

 どうやら開始数時間で初めての依頼人らしかった。全員、それにだらけた居住まいを正すのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。


 2017年2月11日 追記

・誤用法修正

『根も葉もない』→『情緒もへったくれも無い』に変更しました。

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― 新着の感想 ―
いつも楽しく読ませていただいてます。 ひとつ疑問なのですが、瞬がいる場所で普通に勇者の話、しかもカイトが自分の事のように話してますけど瞬は反応してないので、あれ?ってなりました。 もしかして書かれ…
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