表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第59章 ユリィの過去語り編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1149/3941

第1131話 閑話 ――ある二人との出会い――

 すいません。迷走に迷走を重ねる様で悪いですが、やはりタイトルの大幅な変更を考えています。ここら、良ければ深夜の私のツイッターをお読み下さい。


 これについてはご意見等を広く受け入れ、以前の様に突発の変更はしません。きちんと活動報告で告知後、その夜24時に変更するつもりです。


 が、変更そのものについては、ご理解をお願いします。自分なりに色々と考えた結果、今のままは駄目だと判断しましたと。

 脱出計画を完全に見通された私はその後、身柄を拘束された。けれど、今度移送された所は牢屋ではなかった。勿論、慰安所の様な所でもない。教会の側にある少し大きめの邸宅だ。


「さて……ここが、次のユリィちゃんの牢屋です」

「……はぁ?」


 盛大に顔を顰める。言っている意味が理解出来なかった。案内されたのは、普通の部屋だ。至って変わった所の無い普通の部屋である。ベッドがあり机があり電灯――と言ってももちろん魔道具だが――があり、という至って普通の部屋だ。

 私が外にいた頃よりも少し良いぐらいである。他にも本棚の様な戸棚はあるが、流石にこちらには中には何も無かった。


「いや、だってもう脱出する気起きないだろ? 出る意思の無い奴を牢屋に閉じ込めておく意味はない。どこだって牢屋になるんだからな」

「っ……」


 彼の言葉に私は思わず息を呑んだ。それはそうだ。あの一幕でよくわかった。脱出しようとした所で、完全に見透かされる未来しか見えない。

 最善のタイミング、最善の機を狙いうったはずなのだ。それなのに、完全にそれを見透かされていた。この男にはどう足掻いても勝てる見込みが無い。知力、武力等の全てにおいて彼は自分のはるか上をいっていた。


「まぁ、それに。この部屋も丈夫は丈夫だからな。多少暴れても問題ない・・・ということで、とりあえず今日は休んどけ。飯の時間には呼びに来る」

「……」


 ぱたん、という音と共に彼が部屋から出ていった。これで、私は完全に自由だ。が、それでも動けない。全ての行動が彼の手のひらの上である様な気がしてしまうのだ。

 ここから逃げないという彼の言葉さえ、私を手のひらの上で踊らせる為の方便に思えた。何かが仕掛けてあるのでは。疑心暗鬼を生ずとでも言えば良いのだろう。一つ疑えば、次の一つも疑ってしまう。そんな状態に陥っていた。


「……」


 ぽふん、とベッドに倒れ込む。牢屋とは違う、数年ぶりのまともなベッドだった。この地獄に来てからは、初と言って良い。正直、非常に気持ち良い、天国の気分、と言いたいぐらいに心地よかった。


「これから……どうなるのかしら」


 考える事はたったひとつ。これからの事だ。最早反抗する気力は無かった。あそこまで完璧かつ圧倒的に力量差を見せつけられた。歯向かう心は完全に折れていた。


「……案外、それでも良いのかもしれないわね」


 どうせ何時かは誰もが死ぬのだ。そう考えれば、ここで彼の慰み者として生きるのは悪い結末ではないだろう。幸い彼であれば子供が出来た所で捨てる事はない。子供共々養ってくれるだろう。

 少なくとも、盗賊共に媚を売ってその性欲処理をして生きている女達の様な惨めな結末だけは避けられる。あれに比べれば、万々歳と言っても良い。


「……あれ……?」


 少し、疲れた。今までずっと気を張って生きてきたからだろう。全てを諦めてしまえば、楽だった。張り詰めた糸が弛緩する様に、意識は遠のいていく。


「もう……いっか……」


 意識がまどろみに落ちていく。最早、色々な事がどうでも良かった。寝ている間に犯されようと気にもならなかった。そうして、私の意識は完全に途切れる事になるのだった。




 意識の途切れた私の意識が覚醒したのは、それからしばらくの事だ。頃合いで言えば、夜と言っても良いだろう。昼一に行動を起こしたはずなので、優に6時間近くは寝ていた事になる。


「……あ、起きたね」


 目覚めた時。私の横にいたのはヴィヴィアンだった。彼女が何時もの柔和な笑みを浮かべて椅子に腰掛けて読書をしていたのだ。本を見るのは数年ぶりの事だ。故に、わずかに驚きを浮かべた。


「ああ、これ? この街にも作家さんはいるからね」

「作家……」


 そんな奴まで居るのか。素直に驚いた。ここは外と全く変わらない。少々、いや、かなり危険が多いだけだ。そして、彼女は続けた。


「貴方も知ってると思うけど、この『奈落』には色々な人が居る。多くは犯罪者だけど・・・中には貴方の様に冤罪で落とされた者も少なくないの」

「知ってるわ。私の時はほぼ全員がそうだったから」

「あはは。うん、そうだろうね」


 おそらく、このヴィヴィアンもその一人だろう。私はそう思う。彼女はカイトと出会う前の過去をすべて捨てたと言っていた。故に、『ユリィ()』でも私は知らない。


「まぁ、その中には同業他社が賄賂を渡して落とされた様な人もいてね。この作家さんは、その一人だよ」

「あ、それ……」


 私は思わずヴィヴィアンの読んでいた本に手を伸ばそうとしてしまう。その作者を、私は知っていた。病死という風に聞いていたが、まさかここに落とされていたとは思わなかったのだ。偉そうに彼には言ってみたものの、所詮は下級の文官だ。知らされている事なぞ、大凡一般市民と変わらない。


「あ、これ好き? 読み終わったら貸してあげるね」

「……良いの?」

「うん。読み終わったらね」


 私は人を信じるのが愚かだと思いつつ、しかしこの誘惑には勝てなかった。これでも昔は読書を好んでいた。この作者の本はすべて読んでいて、亡くなったと聞いた時はかなり惜しんだ程だ。ファンの一人として、お葬式にも参加した。

 が、ある作家と非常に険悪な仲であるということは文壇では非常に有名な噂もあった事も知っていた。だから、不思議には思わなかった。それほど、この作者の腕は優れていた。蹴落とせないのなら物理的に蹴落としてしまえ、と考えられても不思議はなかった。


「本、好きなの?」

「……うん。王城に勤める前は編集者だったから……その人とも面識があるわ」


 まぁ、そういう噂にも突っ込める程なわけなので本来の私の部屋には本が沢山あり、資料整理も割りと得意だ。王国の王城に勤める事になったのも、それを見込まれての事だ。ヘッドハントされた、というわけだ。

 落とされる事になったのも、それらが理由だ。昔取った杵柄と帳簿整理をしている際に、横領に偶然気付いてしまったのだ。帳簿上のミスかと思っていたが、実際には横領と賄賂だったというのが話のオチだ。


「……その、ありがとう」

「どういたしまして」


 数年ぶりに、私の口から感謝の言葉が出た。もうずっとそんな事を口にした事はなかった。本当に、久しぶりだった。


「あの……それで、何の用?」

「あ、そうだった。ごめんね、ご飯の時間だよ。あまり遅くなるとモルガンが」

「くぉら! あんた達! ご飯だって言ってるでしょ! あんた達が食べないといつまでも片付かないんだから、さっさと食べてよ!」


 ヴィヴィアンの言葉とほぼ同時に、まるで聞いていたかの様なタイミングで私の部屋の扉が蹴破られる。そうして入ってきたのは、一人の若い修道女だった。可憐と言い表して良い見た目だが、そんなものが一切感じれない程の活力があった。

 彼女は知っている。モルガンという女だった。私に食事を運んでいた女だった。この地獄で唯一の修道女であり、教会の管理者でもあった。ヴィヴィアンから、そこらは聞いていた。


「ごめんごめん。ちょっとお話してた」

「ご飯だって言ってるんだから、さっさと来る! あんたもさっさとベッドから出て下に来て! 今日からは運んであげないからね!」


 ぷりぷりと怒りながら、モルガンが部屋を後にする。修道女の癖に、嵐のように去っていった。


「あはは。さ、行こっか。あまり遅れると色々と面倒だからね」

「え、ええ……」


 気圧されながらも、とりあえず空腹は空腹なので私はヴィヴィアンに従って歩いて行く。そうして向かった先では、少なくない子供達の声が聞こえていた。


「あはは。ここ、教会の孤児院のすぐ横……というか、食堂は一緒なんだよね。単に向こうでモルガンと子供達が食べてて、こっちで私達が食べるっていうだけで。あ、今日はモルガンもこっちだけどね」

「なんでそんな形?」

「元々、この家は教会の横に増設した様な形なの。カイトはこっちで生活してるよ」

「……待って。ということは、ここはあいつの家なの?」

「うん、そうだね。私とカイトとモルガンのお家。モルガンは教会の孤児達と一緒に寝る事も多いから、そこはそれかもね」


 ヴィヴィアンは私の問いかけにはっきりと頷いた。どうやら、私は彼の家の居候として扱われる事になっていたらしい。いよいよ、慰み者の様相を呈していた。が、もう諦めていたのでどうでも良かった。と、そんな私の内心を知ってか知らずか、ヴィヴィアンは更に続けた。


「まぁ、そういうわけだから、子供達がよくこっちに遊びに来るのは我慢してね。単に大の大人の男女があっちで一緒に寝てるのは拙いだろう、っていうことで増設しただけなの」

「嫌と言える立場じゃないわ」

「あはは……まぁ、それでも当分は大丈夫だよ。カイトが怪我してるからね。あの子達は優しいから」


 どうやら、当分の間安眠の確保は出来るらしい。それにどうせ私が居ると知れば子供達も近寄るまい。そう楽観視していた事は、無いではない。なので私はそれに気にも留める事はなかった。

 そうして一階に降りた私であるが、案内されたのは家の大きさに見合った少し大きめのリビングだ。どうやらキッチンカウンターのようだ。見える台所には、モルガンの姿があった。更にその向こうにはまた別の部屋も見える。おそらく、教会の孤児院なのだろう。


「ああ、来たわね。ちょっと待ってて……はーい、皆! ちゅうもーく! そろそろお風呂に入りましょー。私はカイトにご飯届けてくるから、年上の子はいつも通り、しっかりと年下の子の面倒を見る事」

「「「はーい!」」」


 モルガンの言葉を子供達は素直に聞いて、一斉にまるで波が引くかの様に声が遠のいていく。お風呂に向かったようだ。流石に彼女一人ですべてを出来るわけがない。お風呂等任せられる事は任せているのだろう。その間に、彼女はご飯を食べたりしているようだ。


「やれやれ……ほんとーに、あの子達は……」

「優しいね、皆」

「と言うか、カイトの事を出さないと素直に入らないって……あいつ、どんだけ好かれてるんだか。ガキ大将かっての……」


 子供達をお風呂に入らせたモルガンは非常に呆れながら、三人分の食事を用意する。それに、私が問いかけた。


「……三人分?」

「あんた、ヴィヴィ、私。三人分」

「あいつの分は?」


 疑問になったのは、この家には四人居るからだ。それに、全員分の食事を用意し終えたモルガンが非常に呆れた表情を浮かべた。


「あいつなら、部屋で寝かせてるわよ。あの馬鹿、私達が目を離した隙に出て行って……なーにがこのタイミングが一番ユリィちゃんを勧誘出来る最適なタイミングなんだー、よ。お陰で傷口が開いて今は強引に回復薬ぶっかけてベッドの上よ。後で食事は届けるけど、一人別メニューね」

「……バカ?」


 モルガンからの情報に私は素直に、心の奥底からこの一言しか出せなかった。正真正銘、バカも極みに立っていた。まさか怪我さえ利用するとは、思ってもみなかった。明らかにぶっ飛んでいた。


「ええ、バカね」

「うん、バカだね」


 私の言葉は二人からしても正常な反応だったようだ。それに、私は少しだけ安堵する。どうやらぶっ飛んでいるのは彼一人で、他の二人はまともと言えるようだ。それがわかっただけでも、安心できる。

 と、そうしてカイトへの愚痴で盛り上がる二人の話を聞きながら、私は食事を取り続ける事にする。そんな中だ。ふと、思う事があった。


「ほんとーに、バカ」

「ホントにねー」


 彼の事をバカバカと罵りながら、そこにはある感情が滲んでいた。それは例えるのであれば、恋や愛という恋愛感情だ。たった少ししか一緒に居ない私でも気付ける程の恋愛感情だ。よほど、と言える。そうして、その後数日に渡り、私はそんな彼女らの会話を聞きながら、新たな日々を過ごす事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1132話『閑話』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ