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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第58章 ギルド同盟編

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第1120話 草原での一時

 ギルド<<草原のおてんば娘(トム・ボーイ)>>の主導で行われる事になったマクスウェル北部の魔物の掃討戦。これの依頼の目的そのものは街道の治安維持の為であったが、カイトらは<<草原のおてんば娘(トム・ボーイ)>>を中心としたギルド同盟の構築の為の試験的な運用になっていた。

 その一日目であるが、これについては大した問題もなく終わる事となった。まぁ、今回の面子で問題があった方が問題だろう。


「ふぃー・・・終わった終わった・・・」


 カイトは自分たちに与えられたエリアに設営したテントの中に設置した風呂の中でゆっくりと伸びを行っていた。疲れた事はないが、やはり戦闘になると精神的には疲れる。お風呂は重要だった。


「うむ。まぁ、連携云々というのは見えぬが、あのエルーシャという少女は良い少女じゃな」


 カイトの前。一緒に入っているティナが告げる。ここは冒険部のテントだ。中で何をしてようと彼らの勝手だ。なので当人たちが良しと認めていれば、一緒に入って駄目な事はない。


「たしかにな。あれは裏表の無い女の子だ。気持ちの良い、という奴だな」

「直情型と言っても良いやもしれん」

「それは良い言い方かねぇ。まぁ、気になるとするとランの方だが・・・姉があの様子じゃあなぁ・・・大した策は大半却下されるだろうなぁ。しかも実家ってウチん所の有力者だし・・・」


 ティナの言葉に応ずる様にカイトがもう一人の発起人についてを言及する。今回は彼らを見極める為にこの誘いに乗ったのだ。この話になるのは必然と言えるだろう。


「ふぅむ・・・謀らぬわけではなかろうが、あまり無茶をすれば主家である公爵家もといウチが出てきかねんか。流石にこちらに居場所やらは掴まれておると思うておるじゃろうからのう・・・」

「だろうさ。それで無茶をすれば間違いなく実家が動く事ぐらいランならわかってるだろうなぁ・・・」


 カイトはこの同盟の裏には何の思惑も無いと推測する。下手な事をして揉め事を起こせば、確実に自分達に伝わる。なにせカイトは冒険者のランクEX。それ故にマクダウェルはユニオンに顔が利くのだ。そしてそれ故に、揉め事を起こせば確実にユニオンからマクダウェル家へと仲裁や仲介の依頼が入るだろう。

 そして公爵家が動く事になると、確実に彼らの実家へも伝わる。家出娘だろうと優れた冒険者だろうと公爵家を相手に戦える程ではないだろう。連れ戻される事は確定だ。であれば、そんな大揉めになりたい事をしたくはないだろう。あまり揉め事を起こしたくないのが、ランの心情のはずだ。


「ふむ・・・<<草原のおてんば娘(トム・ボーイ)>>は組んでも良さそうかな」

「ふむ・・・まぁ、それはそれで良かろうな」


 カイトの推測をティナも認める。今回の主導者である<<草原のおてんば娘(トム・ボーイ)>>は信頼出来るだろう。そして基本的にギルドとは長たるギルドマスターを見れば大半が理解出来る。

 ギルドマスターこそが、ギルドの体現者。故にギルドメンバーは必然として、どこかにギルドマスターと似たような性質を持つ者で構成されるのである。無論例外的にカイト達の冒険部の様に元々別の集合体から派生した場合や何代も続いてすでに組織として風潮が出来上がっている場合もあるが、大凡そんな特例や歴史ある所でも無い限りはこの考え方で良い。そうでないのなら、方向性の不一致から遠からず崩壊するのが目に見えているからだ。


「なら、とりあえず応諾の方向性で話は勧めておくか」

「うむ・・・で、そろそろ良いか?」


 とりあえず話に一段落を付けた二人であったが、そこでティナが非常に胡乱げにカイトへと問いかける。


「どうぞ? オレもそもそもお前の時点で思ってはいるからな」

「うむ、では遠慮なく・・・狭い。ひじょーに狭い」

「ほえ?」


 ティナの言葉に風呂釜の外で身体を洗うソレイユが首を傾げる。まぁ、敢えていう必要も無いだろう。現在、このお風呂にはカイトを筆頭にティナ、ソレイユ、日向、伊勢が入っていた。とどのつまり全員と言い換えても良い。

 なぜこんな事になったのか。それは誰にもわからなかった。気付けば、全員で入っていた。なお、最初に入ったのはカイトなので決して彼が女の園に入ったというわけではない。相談があるしついでなので、とティナが入ってきて、何故かソレイユ達が突撃してきたのであった。というわけで、ティナが苦言を呈した。


「この風呂は三人も四人も入れる様に出来とらんわ・・・」

『だからこの格好』


 ティナの苦言に仔竜形態の日向が桶から顔を出す。彼女の言う通り狭いということは始めからわかっていることだ。なにせこれは携帯用のお風呂だ。広いはずがない。そこに大人一人(カイト)子供二人(ティナとソレイユ)仔竜と子狼(日向と伊勢)が入れば当然、狭いはずである。


「はぁ・・・なんだろ、この状況。見られたら確実に色々と終わる気しかせんな・・・」


 カイトはため息を吐く。見た目は、彼を除けば子供ばかりだ。故にこの場で浮いているのは何故か最初に入っていた彼である。が、真実としては彼が一番年下――それも桁違いで――という非常に不思議な話になっている。見た目と実年齢が比例しない世界だからこその話だった。


「うむ。このロリコン野郎め、と言われるじゃろうな」

「嫌になるな・・・そもそもオレが一番年下だってのに・・・見た目、オレも昔に戻そうかな・・・」

「大昔はソレイユらよりも年上じゃったんじゃがのう。時の流れがこうさせてしもうた・・・ふにゅぅー・・・いい湯じゃのう・・・」


 ティナは興味なさげに会話をぶった切って、大きく伸びをする。そうして見るのは、満天の星空だ。と、そこで彼女は背中側に感じる大きさが少し小さくなったのを知覚する。


「む?」

「戻してみました」

「・・・どうにせよそれでも中学生じゃからアウトの様な気もせんでもないが・・・まぁ、多少狭いのは解消されたかのう」


 自分が出会った時よりも更に幼い状態に戻ったカイトを見て、ティナが少しだけ大きく己のスペースを確保する。カイトとティナが出会ったのは彼が15の時だ。13歳頃の姿は見たことが無かった。と、そこにカイトめがけてソレイユがお風呂へと飛び込んだ。


「ダーイブ!」

「ちょ、待て! んぎゃ!」


 ぼんやりとしていたからか、どうやらカイトも反応が間に合わなかったようだ。顔面でソレイユを受け止める事となる。なお、ティナは一足先に気付いていた為、難を逃れていた。と言っても実のところ、それを見越してソレイユがダイブしたのである。そうして、カイトの顔面でキャッチして貰ったソレイユがそのまま回転して、カイトの膝の上に座った。


「えへへー。にぃのお膝げっと! この大きさは久しぶりー」

「やれやれ・・・」


 カイトはティナを退けさせておいて己の膝の上に乗ったソレイユにため息を吐く。久しぶり、というように実はカイトとソレイユはティナと出会うよりも遥かに前に出会っている。一時期は共に旅もしていた。一時戦乱に飲まれてフロドとはぐれてしまった彼女と旅をした事があったのだ。その彼女をフロドの所まで送り届けたのが、フロドとカイトらの出会いだった。


「・・・にぃとこうやってお風呂入るの、ホントに久しぶりー・・・にぃにぃも誘えばよかった」

「流石にお目付け役二人が同時に来ちゃ駄目だろ」

「わかってまーす」


 ソレイユはニコニコと無邪気な笑顔でカイトの言葉に頷いた。彼女らだってあの頃よりも成長している。それぐらいわかっていた。わかっていたが、懐かしいものは仕方がない。


「はぁ・・・」


 カイトはソレイユを膝の上に乗せ、桶に乗ってプカプカと浮かぶ日向を撫ぜながら星を見上げる。裸の少女らに囲まれている状況ではあるが、流石の彼も性欲が湧く様な状況ではなかった。


「良い星だ・・・」

「森から見る星も、草原から見る星も、にぃの膝の上から見る星も変わんないねー」

「そうじゃのう・・・」


 のんびりとして、穏やかな雰囲気が五人の間で流れていく。そうして、しばらくの間一同は一緒に揃って星空を眺めながらお風呂に入る事になるのだった。




 さて、明けて翌日。この日も朝から魔物の討伐任務であるが、場所は移動する事になっていた。というわけで、カイトは飛空艇に乗り込んでいた。


「次は更に北東か」


 カイトはランから与えられた地図を見ながら、次の作戦を考える。とりあえず昨日の戦いで今組んでいる面子の癖等は把握した。戦いそのものに問題はない。とは言え、問題がないわけではない。


「ここらは・・・少し街道が近いな。そこらに注意しておくか・・・」


 街道が近いのなら、無闇矢鱈に打ち込めば流れ弾でキャラバン等が通りかかった時に問題だ。故にそこには注意して戦うべきだろう。


「敵の質と数は昨日と同じと想定して・・・」


 カイトは地図と自分達の持つ情報を組み合わせて、攻略手順を考える。ここら、本来ならばエルーシャがやるべき事なのかもしれないが、彼女が前線向きの性格なので仕方がない。

 ランからもそこらは依頼されているし、こういうのは向き不向きが大きい。安全性等を考慮すれば、カイトがやるしかないのだろう。と、そんな所にティナが声を掛けた。


「・・・随分と様になってきたのう」

「ん?」

「ふむ。ほれ、昨夜お主が余も知らぬ頃の姿を取ったのでのう。ふと懐かしんでおったが・・・随分と見違えたもんじゃとな。理知的になった、とは思わぬが余裕が出たというべきなんじゃろうのう。男として、一層味が出ておるなと思うたのよ」


 ティナが何処か慈愛に満ちた表情でカイトの横に腰掛ける。幸いカイトが戦略等を考えているとあって、一緒に居たエルーシャ達はこちらに注意を払っていない。こんな会話をしても問題がなかった。


「思えば、付き合いも長いもんじゃのう。もう10年か。いや、そろそろ20年にもなろうか」

「まだ15年も経過してねぇよ・・・いや、それは超えたか? こっちで10年ちょい、むこうで3年と少し・・・ギリギリまだか。まぁ、地球換算だと50年近くあるけどな」


 カイトはティナと出会った日の事を思い出して思わず笑いがこみ上げた。あの時は、自分に定められた因果も知らずただがむしゃらに走っていた。思えば本当に遠くまで歩いたものだった。


「そうか。まだその程度か」


 こてん、とティナがカイトの肩にもたれかかる。そうして、彼女は今だからこそ語れる事を口にした。


「最初出会った当時はなんじゃこのガキはと思うたもんじゃが・・・うむ。変われば変わるもんじゃのう」

「そうか? オレは元々物凄い綺麗な奴だ、と思ってたけどな。もし一目惚れってのがあるなら、オレにとってはお前が初めてだったのかもな」

「む・・・当然じゃろう。余じゃからな」


 カイトの賞賛にティナはわずかに呆気にとられるも、どこか自信満々に笑ってその賞賛を受け入れる。彼女とて自分が並外れた美貌を持ち合わせている事は把握している。それ故、卑下も謙遜もない。


「ははは・・・ま、知れば知るほどかわいい奴、と思えてきたけどな。お前は昔からかわいいよ」

「どういう意味じゃ、それは?」

「内緒」


 カイトはティナの額に口付けする。過去世が見えて、彼女との出会いを思い出した。それ故、彼にはもう一人の己の抱くティナに対する愛おしさが理解出来た。とは言え、そんな唐突とも思えるカイトの行動にティナは首を傾げるばかりだ。


「む?」

「あはは。お前は今はそれで良いんだ。のんびり、オレに手でも握られておけばな」

「むぅ・・・まぁ、別に構わんが・・・」


 自分としても手を握ってもらえているのは悪い気はしない。というわけで文句はないのであるが、何か釈然としない物があるのも事実らしい。と、そんなカイトが唐突にティナを膝の上に乗せた。


「む?」

「・・・はぁ・・・」

「なんじゃ、いきなり。発情でもしたか?」


 ただ己を抱き寄せて抱きしめるだけのカイトにティナが少しだけ恥ずかしげな様子を見せる。流石に恥ずかしいらしいので即座に魔術で隠蔽を施していた様子だった。まぁ、拒んだりしないあたり、嬉しい事は嬉しいのだろう。


「んー・・・何人子供欲しい、とか聞いといてみる」

「む? とりあえず二人は頑張りたいのう」

「お前、そう言えば前からずっとそう言ってるよな。それ、なんで?」


 ふと疑問に思ったのでカイトがティナへと問いかけてみる。常々、彼女は最低でも二人は子供が欲しい、と言っていたのだ。別にそれぐらい養える甲斐性も地位もあるので別にカイトも問題はないが、何故かはわからなかった。それに、ティナがそう言えば、と語りだした。


「ふむ・・・そう言えば考えた事はなかったのう。余は孤児じゃからのう・・・やはり過ごす中で兄弟姉妹のおった者たちを見て羨ましくはあった。兄弟姉妹というものに憧れておるのやもしれん」

「なるほどね・・・ま、それは追々。こういうのは授かりもの、っていうだろ?」

「そうじゃのう・・・あ、と言っても流石に今からは駄目じゃぞ」


 ティナが慌ててカイトを制止する。こういう所で良く流れで襲われるのが、常なのだ。流石に今日は拙いだろうという判断であった。


「あっははは。まぁ、惚れた女抱き寄せて性欲が無いとは言わねぇけどな・・・うん。ずっと、一緒だからな・・・」

「・・・プロポーズを唐突に受けたくはないぞ。いくらなんでもこの状況での不意打ちは卑怯じゃ。覚悟ぐらいはさせんか」

「ん?」


 カイトは一瞬、自分が出した言葉だと理解が出来ていなかった。本当に心の奥底から出て来た言葉だったらしい。その一方でティナは顔が真っ赤だった。流石にここまで素直に耳元で愛を囁かれては彼女でも恥ずかしかった。


「・・・ああ、今のはオレが言ったのか」

「・・・すまん。少しだけこちらを向くでないぞ」

「さて、どうしよっかなー」


 心の奥底からこぼれ落ちた本心の言葉だと理解したらしく、ただでさえ真っ赤になっていた顔をさらに真っ赤にしたティナがプルプルと震える。相当に嬉しかったようだ。彼女とて女。惚れた男に愛の言葉を囁かれて嬉しくないはずがない。

 おそらく、その頬は緩みきっているだろう。カイトとしてはここで彼女の顔を覗いてやってもよかったが、それより今はただ、抱きしめたかった。


(・・・<<蒼の巫女>>か・・・そんなの関係ねぇよな・・・お前はずっと・・・)


 嬉しさで小刻みに震えるティナを抱きながら、カイトは遠い過去を、『もう一人のカイト』が得た思い出を思い出した。そしてだからこそ、この手を放すつもりはなかった。

 彼女と地球で出会った一人の少女は、彼らにとって特別だった。過去世に纏わる凡そを理解したその日、そう心の底から誓ったのだ。


(今までは始まってさえいなかった。ずっと、待たせた。だからもう待たせもしないし、焦らしもしないさ)


 カイトの右の瞳が真紅に染まる。おそらく、『もう一人のカイト』と想いを完全に同じくしたからだろう。身体への負担は一切存在していなかった。そうして本来のあるべき己になったカイトはしばらくの間、その手の中に愛おしい女を懐き続ける事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。久しぶりにティナとイチャイチャ。

 次回予告:第1121話『星空の下で』

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