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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第58章 ギルド同盟編

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第1118話 ギルド同盟 ――挨拶――

 <<草原のおてんば娘(トム・ボーイ)>>というギルドより冒険部に持ち込まれたギルド同盟の誘い。それを受けたカイト達は、同じく申し出を受けていた大鎧とそのサブマスターであるイミナという女性と偶然遭遇し、そのまま今回の主催者である<<草原のおてんば娘(トム・ボーイ)>>のギルドマスター・エルーシャとサブマスター・ランの二人と挨拶を交わしていた。


「申し訳ありません。彼女が<<草原のおてんば娘(トム・ボーイ)>>のギルドマスター・エルーシャです」

「はっじめまして! エルーシャって言います! エルって呼んでね! よろしくね!」


 ぶいっ、とエルーシャが先程のお淑やかさはどこへやら、という具合で快活な笑顔を浮かべる。どうやらランにソレイユが居るのだから、とやらされたのだろう。元気印と言うのが相応しい様な少女だった。


「ソレイユ・マクガイア!」

「「いぇい!」」


 どうやら、先程の一幕で何か通じ合う物が出来ていたらしい。ソレイユとエルーシャはハイタッチで応ずる。


「やれやれ・・・おーい、まだ居るんだが?」

「姉さん・・・お客様はまだいらっしゃいますよ」

「あ、ごめんなさい。えっと、貴方は?」

「うむ・・・」


 エルの促しを受けて、ティナが名を名乗る。そうして更に大鎧とイミナが名乗った後、ようやくギルド同士のやり取りが始まる事となった。


「まぁ、とりあえず・・・兎にも角にも来てくださり感謝します」

「いや・・・ウチもウチの利益で参加しているだけだ。気にしてくれるな」

「そう言って頂ければ」


 ランがカイトの社交辞令に感謝の意を示す。とりあえずは、まだお互いに信頼関係を構築出来ていない。今回はその信頼関係を構築するための機会だ。


「とりあえず、ウチはこの面子が参加する」

「かしこまりました・・・にしても、珍しい人選と思うのですが・・・」

「ま、そこはそれと思ってくれ。数日前も言ったがソラが寝込んでてな。どうにも雨の中でしか出ない魔物の毒を受けてたらしい。幸い、軽症だったから薬飲んで耐性作って、でなんとかという所なんだが・・・どちらにせよもう数日は動けん」

「それは・・・とりあえずご無事でなにより、と」


 カイトからもたらされたソラの情報にランがとりあえずの慰めを述べる。彼の読みではソラが来る事になっていたというのは、数日前に彼から述べられていた事だ。


「とはいえ、わかりました。とりあえず我々が人選で何か言う事は出来ませんし、そちらが信頼なさっているというのであれば問題はありません」

「ああ、そうしてくれると助かる」


 カイトがランの言葉に感謝を示す。ティナは一応幹部ではあるが、サブマスターというわけではない。そこらを汲んでくれたのであれば、謝意の一つも示すべきだろう。と、そうしてカイトが頭を下げた所で軍の兵士の声が聞こえてきた。


「ランテリジャさん! いらっしゃったらお返事を!」

「はい!・・・私はとりあえずこれにて」

「ああ」


 どうやら、出発が近づいていた為一度点呼の状況等を確認するつもりだったのだろう。今回は依頼はギルド同盟のお試しということで同盟関係者に関してはエルーシャの<<草原のおてんば娘(トム・ボーイ)>>が一括で管理する事になっており、依頼の引受人であるランがちょくちょく呼び出される事になっていたようだ。

 カイトとしては面倒が無いので非常に助かる話である。と、その一方でエルーシャはそのままそこに残留していたため、カイトが問いかける。


「・・・あんたは良いのか?」

「え? ああ、私? 私はいーの。お飾りだし」

「ふーん・・・そう言えば姉さん、と言っていたが姉弟なのか?」


 カイトはランの発言を思い出して問いかける。ランは彼女の事を姉さん、と呼んでいた。それが単に年上なのでそう呼んでいるのかはわからないが、少なくとも親しげな印象はある。


「ああ、そうね。そうなるわね」

「そうなる?」

「異母よ異母。まぁ、双子だから異母というのも変なんだけど」

「ふむ・・・」


 カイトはエルーシャの言葉に少しだけ思考を巡らせる。この話をきちんと噛み砕くのなら、どうやら双子の姉妹で一人の男性に嫁いだという事なのだろう。別にこの世界なのでそういうことがあっても不思議はない。カイトとて<<黒白の双子姫>>を同時に迎え入れている。

 とは言え、そこでそこそこ高貴な身分かつ家出している姉弟となると、数は限られる。そして曲がりなりにもここはカイトの領地。己の配下の者達の大凡は理解している。


「・・・ふむ」


 どうやら、カイトは大凡を理解したようだ。そう言えば、と聞いた事があった気がしたのである。というのも、似たことをやった奴がおり、そこから気になって調べたのであった。

 似たことをやった奴、というのはメルである。ぶっちゃけてしまえば彼女と似たような理由で家出したのが、このエルーシャだ。

 とは言え、勿論色々と違う。こちらはどちらかと結婚が嫌、というよりも弱いやつと結婚させられるのが嫌、という話だ。家が家なので結婚そのものに文句は無いらしい。

 家出の魂胆は自分より強い奴に会いに行く、だそうだ。なので家から与えられた婚約者は自分で蹴っ飛ばして――勿論、物理的に――出て来たらしい。こちらはきちんと、嫌な事は嫌と言える性質なのであった。まぁ、それが良いかどうかは別である。


「・・・なるほどね。王女アルビダか」

「「「「?」」」

「ああ、なるほどのう・・・」


 エルーシャ達が首を傾げ、唯一理解したティナが即座に頷いた。とまぁ、それは地球を知ればこそ分かるわけで、カイト達が語らなければ誰もわからない。というわけで、カイトは大凡をスルーさせる事にする。


「ああ、気にするな。あんたを見て、そう思い出しただけだ」

「? まぁ、いいけど・・・」


 幸いと言って良いのか、どうやらエルーシャは細かい事を気にしない事にしているようだ。なので彼女はカイトがスルーしたのを受けて、自分もスルーする事にしたらしい。というわけで、別の事を問いかける。それは彼女らしさの滲んだ問いかけだった。


「それで? どうするの?」

「何が?」

「とりあえず討伐任務なんでしょ? そっちの武器よ武器」

「あ、ああ。それか。オレが刀、こいつが魔術、ソレイユは知っての通り弓。こっちのお姉さんは知らん。大鎧は多分大剣・・・だよな?」


 カイトは一応念のため大鎧へと確認をとっておく。ここらの武器の把握はギルドマスターとしてではなく、一緒に行動する冒険者として必須の確認事項だ。大雑把なエルーシャとて確認は忘れない。

 なお、大鎧は無言だったが、どこか同意する様な気配があった。というわけで、唯一カイトに知らないと明言されたイミナが己の武器を明言する。


「私は・・・この拳だ。一応腰の剣も使えなくはないが、これは万が一の切り札と思っておいてくれ」

『彼女の腕は保証する』

「そう・・・じゃあ、ちょっと失礼して良い?」

「・・・受けよう」


 カイトは一瞬だけ、ばちっ、という音がエルーシャとイミナの間で響いた様な気がした。そうして、イミナが何かを理解した次の瞬間。両者の間で拳が交わった。


「・・・良い腕だ」

「そっちもっ・・・結構力込めてるんだけどっ・・・!」


 数度の交わりの後、エルーシャが拳を強く押し込むのに対してイミナがそれをしっかりと受け止めて離さない。とは言え、それで十分だったようだ。しばらくしてエルーシャの腕から力が抜けた。


「・・・ふぅ。ありがと」

「いや、こちらも丁度よい準備運動になってくれた」


 ぱんっ、と拳と手のひらを合わせて頭を下げたエルーシャに対して、イミナもまた頭を下げる。どうやら、エルーシャの側もイミナの側もお互いの実力に納得が出来たようだ。と、そのタイミングで少し遠くからランの声が響いてきた。


「姉さん! また別の方が来られたから来てください!」

「あ、はーい! じゃあ、また後でね」


 エルーシャはそういうと、駆け足にランの所へと移動する。その一方、彼女の拳を受け止めたイミナが少しだけ賞賛を口にする。


「中々、良い腕でした」

『・・・そうか』

「力だけかと思ったら、きちんとひねりも加えてたねー」


 イミナに続けてソレイユも彼女の言葉に同意する。そしてこれはカイトもティナも同意する。どうやら、おてんば娘が趣味でやっているだけとは言い難いようだ。しっかりと技術も備わっているらしい。


「天性の才能だろう。一撃必殺が主体だな」

「に対して・・・お主は足が主体か」

「・・・見切ったのか?」


 イミナが少し驚きを露わにする。魔術師で近接戦闘、それも拳で戦う者の拳の応酬を見切れる者は珍しい。驚いても無理はない。


「まぁのう。運動神経は良い方じゃし、それぐらいはのう」

「そうか。ああ、足技を主体とした戦い方だ」


 どうやらイミナは見切られた以上は、と隠すこと無く明かす事にしたようだ。数度の応酬で実はイミナは数回蹴りを繰り出しており、エルーシャもまた蹴りを交えていた。そこから、違いを見抜いていたのである。なお、エルーシャのスカートの中身は残念ながら短パンであった。気にはしているらしい。


「なるほどのう。道理ではあるのう。いくら言おうと大剣。一撃の振り抜きの速度には優れぬ。優れた使い手故にフォローが要らぬのではなく、優れた使い手なればこそフォローを置く。良い人選じゃのう」

「かたじけない」


 ティナの尊大ながらもしっかりとした評価にイミナが感謝の意を示す。どうやら、その通りだったのだろう。


「さて・・・どの程度の奴らが居るのやら・・・」


 カイトは何人も居る有象無象の冒険者達を観察する。ギルドの規模と冒険者の実力は比例しない。クオン達と冒険部なぞその筆頭だ。10人規模でランクSが大量にいるギルドもあるし、逆もまた然りである。


「ま、お互い頑張ろうぜ」


 カイトは大鎧にそう告げる。そうして、彼らも隊列に加わるべく、再び歩き出す事になるのだった。




 さて、そうして始まったギルド同盟の試験運用であるが、これは音頭を取ったのが<<草原のおてんば娘(トム・ボーイ)>>であった事もあり基本的にカイトが何かをする必要はなかった。

 というわけで、カイトがやる事はしいて言えばランの指示に従う、という事だけだ。船頭多くして船山に登る、というのも困るのだからこれで良い。


「というわけでカイトさん方は我々と共に同行をお願いします」

「結局、そうなるわけね」

「あはは・・・やはり実力で分けねば連携が取れませんからね」


 ランはカイトの言葉に軽く笑うしかない。挨拶の折には聞いていなかったのであるが、エルーシャはどうやらランクAの冒険者だそうだ。対するランはランクとしてはCであるが、実際には事務方の役割が強い。良くも悪くも補佐官という所なのだろう。前線での戦闘はあまり考えていない様子だった。そんな彼は更に続けた。


「兎にも角にも冒険者の部隊ではお二人と姉さんが最前線で切り開き、他の面子で雑魚を掃討する様な形で」

「あいよ・・・方、ということはソレイユとティナも同行で良いのか?」

「はい、構いません。流石にティナさんは兎も角、ソレイユさんには私が何か言えるわけではないので・・・」


 ランは相変わらずカイトの背中にへばりついているソレイユへと僅かに視線を送る。彼女は至っていつも通りであるが、やはり八大の看板を背負うソレイユだ。格が違うのである。ランが何かを言える立場ではなかった。


「じゃあ、いつも通りやってるね」

「そのようにお願いします」


 ソレイユの言葉にランが頭を下げる。いつも通り、ということはランにも大体想像が出来る。なら、そうしてもらうのが一番彼としても都合が良かった。というわけで、指示を貰ったカイト達はとりあえず己の割り当てられた部隊へと移動する事にする。


「ということで移動したんですが」

「むぅ・・・なんというか代わり映えしない面子じゃのう」

「周りから見ればどこをどう捉えても変わった集団としか言い得んのだが・・・」


 カイトとティナの言葉に同じく激戦区に配置される事になっていたイミナが小声でツッコミを入れる。どうやら、彼女も大鎧の大鎧については変に思われる事は理解しているらしい。


「そこはそれ。気にしてても始まらない。全員ここまでたどり着いているのなら、服装一つにも意味がある。変だ、と思うのならまだまだだということだろう」

『・・・その通りだろう。わけもなく変なか・・・』

「ああ、自分が浮いてるってわかってはいたわけな」


 大鎧が思わず口を止めたのに、カイトが半分笑いながらツッコミを入れる。どうやら大鎧自身も自分が浮いている印象はあったらしい。そうして、動かないながらも中身の人物が非常に落ち込んだ様な雰囲気を醸し出す。


『・・・』

「あぁ! ミステリオン様! しょ、しょうがないとおわかり頂いてるのですから、そう落ち込まないでください!」


 イミナが大慌てで大鎧へと慰めの言葉を掛ける。どうやら、大鎧も好き好んで鎧を着込んでいるのではないのだろう。一悶着有ったようだ。


「やれやれ・・・こりゃ、楽しい旅になりそうだ」


 大鎧の意外な一面にカイトが思わず楽しげな笑みを浮かべる。どうやら面倒な軋轢ややり取りを考え無いで良い面白い旅になりそうだ、と思ったのだ。そうして、カイト達は今回の依頼の任務地へと赴く事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1119話『草原のおてんば娘』

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