第1117話 ギルド同盟 ――お試し――
ギルド<<草原のおてんば娘>>のサブマスターのランテリジャという男の誘いを受けて、ギルド同盟の締結の為のお試しの依頼を受ける事になった冒険部一同。
その中で、この合同演習にも近い依頼に出る事になったのはカイト、ティナ、ソレイユというなんというか何と戦うつもりだ、という三人組だった。
「けほ・・・ワリィ。そっち任せた」
「ああ。お前はしっかり休んどけ」
「おう」
ランの来訪から二日後。出発の前にカイトはソラの所へと見舞いに来ていた。というわけでここ数日何があったか語ったわけであるが、まだそのソラは寝込んだままだった。
どうやら彼は気付かなかったらしいのだが、雨の中で戦った魔物から何らかの毒を貰っていたらしい。風邪で寝込んでしまったのは、そこらが併発した様子だった。天候が悪く気付けなかったのだろう。
幸い毒は別に致死性の物ではないし多少だったので問題は無いらしいのだが、発覚した以上はしっかり休め、とドクターストップが掛かってしまったのであった。毒が抜けきる明日までは安静にして寝ている事、と言われていた。
とは言え、熱はもう下がっているし、当人は時折咳をしているものの至って元気である。とは言え、これもまた仕事である。
「じゃあ、行ってくる」
「おーう」
カイトはソラの見送りを背に、その場を後にする。そうして下へ下りると、そこではティナとソレイユ、日向、伊勢の四人組が待っていた。後半二人は今回は少女形態ではなく、本来の魔物形態だ。と言っても勿論、小さい状態だ。
「うーん・・・何と戦うつもりなんだろうな、オレら」
「うむ・・・それは非常に疑問じゃのう」
カイトの問いかけにティナも僅かな苦笑を滲ませる。大戦のエースが三人も揃っているのだ。しかも構成が牽制力と殲滅力に長けた後衛に突破力に長けた前衛という超オフェンス仕様である。それでいて、射程距離は最低でもキロ単位というぶっ飛び具合だ。大凡国が相手であってもひとたまりもないだろう。
「さて、まぁ・・・それじゃあ行きますかね」
とりあえずは仕事だ。カイト達はそう言うと、歩き出す。今回の依頼の依頼人は当たり前だがランではなく公爵軍だ。なので彼らと共に行動する事になっている。
ということで、集合場所はマクスウェル近郊にある軍基地だった。と、軍基地に向かったわけであるが、出入り口についてはほぼほぼ顔パスだった。
「・・・おや、カイト殿。どうされました?」
「ああ、少々依頼・・・と言うかほら、第一中央方面軍が北部の魔物討伐の依頼を出していたでしょう? 少々所要でそれに参加する事になったので・・・」
「ああ、なるほど。お疲れ様です」
カイトの話を聞いた基地の門番は笑って一度敬礼してカイトを先へと通す。そうしてしばらく移動した所で、特徴的な大鎧を発見した。どうやらカイト達の少し前に入っていたようだ。流石に今回は任務だ。大鎧に違和感は無い。
「見つけやすくて助かるな、その大鎧は」
『・・・』
「相変わらずだんまりね。で、その横の女性はあんたの所のサブマスターか? この間見た顔だし、揃いの白い鎧を着ているようだが・・・」
カイトは大鎧の横に居たこちらも騎士の格好の女性へと問いかける。女性は20代中頃から後半という所。三十路には達していないだろう。ショートカットの緑髪の女性だった。
彼女は若干胡乱げな顔――馴れ馴れしいと思ったらしい――をしていたが、こういうのは若干親しげにこちらから行くべきだろう、とカイトは判断していた。
それに曲がりなりにも同盟を組もうと言うのだ。お試しとランは言っていたが、これは一応は前向きな集まりだ。過度に馴れ馴れしいのも駄目だろうが、曲りなりにも一度は背中を預けあった以上は親しもうとしないのも駄目だろう。
『私の補佐をしている女性だ』
「イミナ・サラミスだ。ミステリオン様の補佐官を務めている」
「カイト・天音だ。知っての通り日本人だ。こっちはオレの相方だ」
「ユスティーナじゃ。と言っても余は日本人ではなくアメリカンじゃがのう」
カイトの促しを受けたティナがイミナと挨拶を交わす。と、そこで二人は違和感を得る事になった。
「ああ、そうか。ありがとう」
「・・・?」
カイトとティナが少しだけ、首を傾げる。イミナは何ら疑問無くスルーしていたが、普通に食いつくだろう所に単語に疑問を得ていなかったのだ。そんな二人の訝しんだ様子に、イミナも気付いた。
「どうした?」
「いや・・・今まで普通、こいつがアメリカンと言ったら疑問持たれてたからな。知ってたのか?」
「ん? あ、ああ、いや。すまない。気付かなかった」
イミナは少し慌てた様子でカイトの言葉に首を振る。まぁ、それならそれで良いか、とカイトもティナも考える事にする。疑問は確かに無いではないが、敢えて突っ込む必要はない。そして突っ込まれたくは無いらしい。イミナが即座に話題の転換を図った。
「それで、ティナ殿はどういう武器を使われる?」
「む。うむ、余は基本は魔術師じゃ。それも超遠距離型の、じゃのう」
「そうか。それは頼りにさせてもらおう・・・えっと・・・それで聞いておきたいのだが、そちらは?」
イミナはそう言うと、ソレイユへと視線を向ける。まぁ、これに疑問はない。カイトとしてもこんな場にこんな少女が居れば疑問に思う。
「なんだ、言ってなかったのか?」
『・・・言っていた。が、そこまでとは思っていなかった』
「ああ、まぁ、そりゃそうか。ハーフリングと知ってる奴も少ないもんな・・・こいつはうちに出向してきている」
「ソレイユでーす!」
「だ」
カイトは元気よく手を挙げて挨拶したソレイユの自己紹介に肩を竦める。何時もどこでも変わらなかった。初見の者が相手でも、である。
「ああ、貴殿が・・・頼りにさせて頂く」
「あんまり頼りにしないでね? 弓兵ちゃんズ居ないから」
「・・・そう言えば一緒ではないな」
「色々と根回し云々であるんだよ。で、彼女だけってわけで・・・ここらは口止めされているからあまり突っ込んでくれるな」
「そうか」
カイトの発言にイミナは素直に納得して頷いた。少しぐらいはわかっているらしい。ここはランの所とは違い大鎧がしっかりとしていて、イミナと言う女性が武闘派なのだろう。どこか脳筋に近い性質が感じられた。
「まぁ、あまりだべってても仕方がない。集合ポイントへ向かおう」
「ん、ああ、そうだな」
カイトの言葉にイミナが頷いて、それに従って歩いて行く。ここで待たせる必要はどこにも無いし、会話がしたいのなら後でも大丈夫なのだ。そうして、しばらく歩いた所でラン達と合流する。大凡20名ぐらい、という所だろう。
「カイトさん。ミステリオンさん。この度は来てくださりありがとうございます」
ランがカイト達一同へと頭を下げる。今回、彼ら<<草原のおてんば娘>>がカイトらを招待した形だ。故に取りまとめも彼らになっていた。ここらの面倒事はその後の利益等を考えた時、先行投資として引き受けるべきものと言えるだろう。
「いや、今回は誘ってくれて感謝する。オレの後ろの二人・・・一人背中にへばりついてるのを合わせて、それがウチからのだ。頭の上のと横のはオレのペットと思ってくれ」
「はい。ソレイユ・マクガイアさんですね? お初、お目にかかります」
「はじめまして」
カイトの背中にへばりついている一人ことソレイユ――歩くのがダルくなったとの事――がカイトの背から降りて、優雅にスカートの裾を持ち上げて挨拶する。ここに来るまでの道中にカイトに少し茶化されて出来る事を示したかったらしい。後々ドヤ顔をしていた。
「ありがとうございます・・・えっと、すいません。その、他の皆さんの挨拶に入る前に、ウチのギルドマスターを・・・えーっと・・・」
ランは全員の挨拶に入る前に自分の所のギルドマスターを探す。偶然カイトが来た時には一緒に居なかっただけで、本来こういった挨拶はギルドマスターが行うべき事だ。そうして、少ししてどうやら見付かったらしい。一度だけ一礼して少し急ぎ足に去っていった。
「<<草原のおてんば娘>>、ねぇ・・・おてんば娘というぐらいだから、トップは女かな」
「情報屋より情報は得ておらんのか?」
「今回はな」
ティナの問いかけにカイトが頷いた。少々の思惑があり、あまりラン達の事は仕入れていなかったのだ。
「あまり得ていても不思議に思われる、か。余らは表向き同業他社に興味を抱いてはおらんからのう」
「ああ。故に敢えて椿でストップさせておいた。微妙な差に気付ける力量があると厄介だ。知恵だけは、誰もが同じ土俵に立っちまうからな」
「ふむ・・・まぁ、もし万が一ではそれでも寄越されるじゃろうから、それもない所を見ると問題はないということなのじゃろうな。あれらがお主の思考が読めぬはずがない」
ティナはカイトの思惑を考え、更にはサリアの思惑を把握する。もし迂闊な事を起こせば掣肘するのが、サリア率いるヴィクトル商会だ。彼女らにとってカイトは最大の看板だ。なるべく完璧にしておきたいのが彼女の考えだ。
そして情報屋は大半が情報屋ギルド、即ち彼女の配下だ。ランが情報屋から手に入れられる情報は全て、彼女も手に入れている。それは即ち、カイトも手に入れられる事に他ならない。
故に、これが何らかの策略であればカイトがストップしても教えに来る。それが無いということは逆説的に問題が無いと明言している様なものだったのである。
「そういうこと」
「なら、今回はこれが最良か。まぁ、強いて隠しておるわけでもなかろう。自ずと理解出来よう」
「そしてそこらぐらいは、相手も見てきているだろう、だろ?」
「うむ、良かろう」
カイトの発言にティナが満足気に頷いた。カイトはソラに戦略を教えているが、そのカイトの策略を鍛えているのは彼女だ。きちんと答え合わせはしてやる必要があった。と、その会話を横から聞いていたイミナが少しだけ驚いていた。
「・・・か、賢いのだな・・・」
「ん? ああ、こいつか。こいつ、なにげにオレ以上の戦略の知恵を持っているからな」
「どや」
カイトの賞賛にティナが胸を張る。ここら、ランに聞かれたくないのであってイミナや大鎧はどうでも良い。が、そういうわけではなかった。
「いや・・・二人共なのだが・・・」
『イミナはもう少し知恵を付けてください・・・』
「も、申し訳ありません・・・」
大鎧の苦言にイミナが小さくなって謝罪する。大鎧の口調が何時もと違うのは身内へ向けた苦言故に、ということなのだろう。中身の人物はもしかしたらイミナより年下か、丁寧な言葉づかいを心掛けている人物なのかもしれない。と、そんな話をしているとランが再び戻ってきた。横には一人の少女が一緒だった。
「お待たせしました。彼女が、<<草原のおてんば娘>>のギルドマスターになります」
「はじめまして、皆さん。ギルド<<草原のおてんば娘>>ギルドマスター・エルーシャと申します。ソレイユ様もこの度はありがとうございます」
エルーシャ。そう名乗った少女はぺこり、と頭を下げる。これで裾の広いスカートを履いていればそれを持ち上げていただろうほどにしっかりとした挨拶だった。と、そんな応対にソレイユもまた、淑女の如くに振る舞った。
「ありがとうございます。ギルド<<森の小人>>ソレイユ・マクガイアです」
「「・・・」」
二人の間に妙な沈黙が舞い降りる。なお、カイトはこうなるだろうなー、と思っていたので別に不思議には思っていない。
「にぃー! やっぱりこれ面倒!」
「うっきゃー!! やっぱこれ無理! 虫唾走る!」
「「やれやれ・・・」」
カイトとランが同時に首を振る。そしてお互いに顔を見合わせ、同じ事を思った事を把握した。
「ソレイユ。オレが悪かった。もういつも通りでいいぞ」
「姉さん。挨拶は良く出来ました。だからもう結構ですよ」
「「はぁー・・・」」
カイトとランの言葉にエルーシャとソレイユが深い溜息を吐いて安堵する。どうせこうなるだろうな、とはお互いがお互いに分かっていたようだ。そうして、ようやく本格的な挨拶が開始される事になるのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回予告:第1118話『ギルド同盟』




