表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第58章 ギルド同盟編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1131/3932

第1113話 雨の日の冒険部

 今日から新章スタートです。

 『天覇繚乱祭(てんはりょうらんさい)』の予選大会から、数日。事件はとりあえずの解決を見た事を受けて、カイトはマクスウェルへと帰還して普通に冒険者としての活動を行っていた。行っていたわけなのであるが、今日の彼は少しだけアンニュイだった。


「あー・・・外出たくないなー・・・」

「うむ・・・余も出たくない・・・」


 カイトとティナは揃って外を見ながらため息を吐いた。今日の天気は朝から雨。それも先程からは土砂降りと言って良い雨であった。と、そんなわけなので帰還した面子がこうなったのは、ある意味当然の流れだったのだろう。


「さっびっー! へっくしゅ、らぁ!」

「たっだいまー・・・」

「・・・戻しました」

「・・・」


 ソラ、アル、ルーファウス、アリスの四人がびしょ濡れになりながら執務室へと帰還する。どうやら、雨に打たれたようだ。今日中にどうしてもやらねばならない依頼が突発で入ってきて、この四人が丁度手隙きだったので出ていたのである。

 この様子だと依頼を遂行している最中のどこかで戦闘が避けられず、雨に打たれたというわけなのだろう。そして残念ながら今日は雨という事もあり、結構気温が低い。なので身体を冷やしたらしいソラはしきりにくしゃみをしていた。


「へっぷしゅ!・・・あー・・・」

「あはは。お疲れ。聞いたが、大変だったな」

「ああ・・・っと、カイト、悪いけどこれ頼んで良いか? 一応俺達が行こうか、とも思ったんだけど、やっぱこのずぶ濡れの格好で入っちゃ拙いと思ってさ。先にこっちに来たんだよ」


 ソラはそう言うと、カイトへと少し大きめの保存容器を差し出した。この中に保存されている物を手に入れに行っていたのである。


「ああ、わかった。あー・・・風呂は湧いてるはずだから、入ってこい」

「ありがとうございます・・・くちゅん・・・うぅ・・・寒い・・・」


 カイトの許可にアリスが非常に有難そうな顔で礼を述べる。そうして、可愛らしいくしゃみをした彼女の後に他の面子も続いて歩いて行く。目的地は勿論、お風呂である。

 体調管理も冒険者の仕事だ。雨に濡れたのであれば、濡れた身体を温めてやる必要があった。そしてそれを見送り、カイトは保存容器を片手に立ち上がった。


「ティナ、しばらく任せる。オレは出てくる」

「うむ。気を付けてな」

「街の中だって」


 カイトは笑いながらティナの言葉に手を振って外に出る。外は相変わらずの土砂降りだったが、大精霊の力を借りられる彼には問題無い。傘を中心として、雨が入り込まない様に特殊な結界を展開しておく。


「さて・・・確か北町の医院だったな」


 カイトはソラが残していった依頼書のメモを片手に、依頼人の所へと少し急ぎ足で歩いていく。医院、という事なので中身はとある薬草だった。そうして、カイトは目的の病院を見つけると、従業員用の出入り口の扉をノックした。


『はい、なんでしょうか? 急患などでしたら、表口へお回りください』

「あ、ギルド冒険部の者です。依頼の品を届けにまいりました」

『ああ、少々お待ちください』


 扉の先で動く音がして、扉の鍵が開く音がする。そうして、扉が開いて看護師の女性が姿を表した。どうやら話は通っていたようだ。


「中へどうぞ」

「ありがとうございます・・・傘は・・・」

「傘はそこの傘立てに立て掛けてください」


 カイトは看護師の言葉に従って、傘を傘立てに立てておく。どうやら扉の先は事務室らしき部屋に繋がったらしい。看護師以外にも事務員らしい姿がちらほらと見受けられた。そうして中へと招き入れてもらった彼は、案内された所にあった机の上に保存容器を置いた。


「こちらが依頼の品になります」

「ありがとうございます。少々、お待ち下さい。今先生が参りますから・・・」


 看護師はカイトの言葉に礼を言うと同時。事務室に一人の医者らしい白衣の人物が小走りに現れた。


「ああ、良かった。これが?」

「はい。依頼の品になります」


 カイトの言葉を受けた医者が保存容器の蓋を開ける。そうして、特殊な手袋をして中に入っていたひと束の薬草を取り出した。


「・・・あぁ、良かった。これだよ、これ・・・はぁ、助かった」


 医者はそういうなり、安堵したのか大きくため息を吐いた。その薬草の束は、横の看護師が用意していたまた別の特殊な容器の中に入れていた。そうして、何らかの溶液の抽出を開始した容器を横目に、カイトへと感謝を述べた。


「いやぁ、ありがとう。これでなんとか明日のオペには間に合うよ。これはある種の麻酔薬の原料でね。事前テストで患者さんには別の物を試してたんだけど、念のために行った今朝の最後の検査で唐突にアレルギー反応が出てねぇ・・・でも病状からオペは伸ばせないから、これを大急ぎで取りに行って貰ったんだよ。今日の夜までには抽出を終わらせておかないと、冷ましたり色々とするのに明日に間に合わなくてね。君たちの所に駆け込ませてもらった、というわけなんだ」


 医者はどうやら安心したからか、詳しく依頼の裏を語ってくれる。まぁ、そういうわけなのでソラ達がこの雨の中を大急ぎで出ていく事になったのである。流石に人の命が掛かっては仕方がない。そしてその分、特急の依頼ということで割増で料金は貰っている。文句も無かった。


「いえ、自分は単なる使いでして・・・礼はもし今度彼らが来た時にでも言ってあげてください」

「ん?」


 カイトの言葉に医者は改めてカイトの様子を観察する。依頼そのものはこの病院の事務員が出したわけなのだが、それ故誰が遂行したのかは彼らは知らないのだ。とは言え、確かにそう言われると可怪しいと思える点があった。


「そう言えば・・・濡れていないね」

「ええ。取りに行った奴は別に居るんですが、唐突にこの雨でしょう? びしょ濡れの上に泥だらけになって、これで病院に入るのは駄目だろう、と私に頼んだ、というわけです」

「ああ、そういう・・・それは気を遣わせてしまったね。ありがとう、とそこも含めて礼を言っておいてくれ」

「わかりました。では、失礼します」

「ああ、ありがとう。次も頼むよ」


 カイトは医者の言葉を背に、裏口から外に出る。外は相変わらずの土砂降りの雨だ。こんな日はこんな急な依頼でも無い限り、滅多に依頼人は来ない。

 依頼人とて人だ。今回の様なよほどの急ぎならまだしも、土砂降りの雨の中をわざわざ移動したいとは思わない。そして大半の依頼は一日二日遅れてもなんとかなる物が殆どだ。

 ここは異世界エネフィア。地球ではない。何らかの事情で遅れが出る事は良くある事だ。大抵の場合は多少の日程の余裕は持たせている。


「さて・・・とりあえず今日はのんびり修行するだけでオッケーかね」


 カイトは土砂降りの雨を見ながら、そう考える。流石にソラ達の様に急ぎの依頼が入るのなら話は別だが、そうでないのなら特段依頼に出る必要はない。冒険者の依頼の大半は戦闘ありきのお話だ。そして戦いになれば、気候は気にすべき要素となる。足場の悪い中で魔物と戦いたくはないだろう。

 雨なので本日は臨時休業、という冒険者はかなり多かった。勿論、依頼を受けないだけで鍛錬をしている者が大半なので、厳密には臨時休業とも言い切れないだろう。


「今日はどこもかしこもあまり活発ではなさそうだな・・・」


 この雨だ。仕方がない、とカイトは考える。馬車にしても竜車にしても土砂降りの中では動けない。そうなると、人の往来も少なくなる。そしてそうなると、依頼も減る。討伐の依頼は討伐対象が確認されなければ発令されないからだ。

 その分雨後の筍とばかりに雨上がりには依頼が増える――冒険者が活動しない所為で魔物が増える為――が、それも明日や明後日からだろう。


「ふむ・・・そういや、雨の中を出歩くのは久しぶりか。なら、少しホームの周りを歩いても良いかもな・・・」


 カイトは暇である事もあり、そんなどうでも良い事を思いつく。暇なのは事実だし、今日は強いて依頼に出る必要もない。というわけで、彼は気まぐれにギルドホームの外周部を歩いてみる事にする。

 と、そんな気まぐれを起こしたからか、運良く丁度竜舎から出て来たらしい瑞樹と出会った。ここにはレイアが居るわけで、雨が降ろうと槍が降ろうと彼女は毎日ここに来る。


「あら、カイトさん。出ていたんですの?」

「ああ、瑞樹か・・・入るか?」

「あら・・・では、遠慮なく」


 丁度傘をさす所だったらしい瑞樹であったが、カイトの差し出してくれたスペースに有難く入らせて貰う事にする。僅かな時間であるが、相合傘というのも乙なものだろう。


「レイア、雨の中は散歩してくれませんわね・・・」

「あはは」


 ため息混じりの瑞樹の言葉にカイトは笑う。レイアはどうやら雨が嫌いらしく、あまり動き回ろうとしない様子だった。勿論、突発で依頼が入っても渋る事は多い。

 なので雨の日は瑞樹・レイア組による救援任務もお休みだった。そしてレイアが渋る以上、竜騎士である瑞樹も雨の中では大半の鍛錬はできなくなる。雨と彼女は天敵に近いのかもしれない。梅雨の時期はすでに通り過ぎているが、来年は要注意だろう。


「まぁでも、日向みたいにうろちょろと雨の中動くのは・・・駄目だって何回言った、お前。お前ら今女の子形態あるんだから、下手すると風邪引くぞ? お前らの治療どうすれば良いかわかってない事が多いんだから、注意しろ」

『・・・ごめんなさい・・・』

「あはは」


 雨の中合羽も着ずに外を楽しげに飛んでいた――日向は雨が好きらしい――日向を回収したカイトを見て、今度は瑞樹が笑う。そうして、カイトが取り出したタオルで日向は身体を拭う。幸い鱗があるので濡れたりすることは問題はないだろうが、気化熱で冷えかねない。注意はすべきだろう。


「少し狭いですわね」

「ん? ああ、でもこうすりゃ、まだマシだろ」

「っ・・・」


 日向が入った分狭くなったスペースを受けて少し詰め寄ったカイトに、瑞樹が思わず照れた様に頬を染める。ここら、相変わらず恥ずかしげもなくやるのはカイトのある意味での悪癖という所だろう。そうして、しばらく三人は話しながら歩いていき、ギルドホームの入り口にたどり着いた。


「ああ、もうお終いですわね」

「そうか。少し残念だが・・・こういうのは滅多に無いからこそ良いのかもな」

「・・・そうですわね。こういうのは天候に恵まれればこそ、乙なものというわけなのでしょう。ソラさんには悪いですけれども」


 カイトの言葉に名残惜しそうにしていた瑞樹が微笑んだ。確かに、彼女の言う通りだ。ソラは天候に恵まれなかったと言えるわけだが、逆に彼女は天候に恵まれたと言える。全ては、物の取り方次第なのだろう。


「それはそうだな・・・まぁ、ここも何時になく静かだな」


 カイトは傘を傘立てに置いてギルドホームの入り口に立つが、今日は雨だからかどことなく静けさがあった。やはり雨になると活動しない者達は多い為、仕方がないので地下の修練場で鍛錬をしていたりするのが大半なのだろう。魔術師はここぞとばかりに図書館や書庫に篭って魔術の勉強をしていたりもする。

 依頼を受けようとする者でごった返すホームの玄関ホールが静かなのも仕方がない。と、そんな玄関ホールにて、カイトはソレイユを発見する。彼女はホールに設置された椅子に座ってつまらなそうに足をぶらぶらしていた。


「お? 珍しいな、お前がここに居るのは」

「あ、にぃ! 瑞樹!」


 暇そうにしていたソレイユであるが、カイトを見つけるなり満面の笑みを浮かべる。とは言え、この様子から見てカイトを待っていたわけではないだろう。偶然、カイトと出会った感じだ。


「暇ー。雨だと狙撃し難いからお仕事もないー」

「あー・・・」

「そうなんですの?」

「指、滑るの。で、ツルッと。雨の日だけは体調云々とは別にしてお仕事出来ません」


 ソレイユは瑞樹の問いかけにどこかお姉さんぶって解説を行う。お姉さんぶって、というが実際には遥かに年上だ。なので本来は、これが正しい。が、どうしても見た目と性格の問題で色々と難あり、であった。


「にぃにぃとか由利とかだと力が強いから大丈夫なんだけどねー。私じゃあ無理なのです」

「はぁ・・・」


 瑞樹はソレイユの言葉にそういうものなのか、と納得しておく事にする。思い出せば確かに由利も雨の中はやり難いというような感じの発言をしていたらしく、納得は出来たようだ。どちらにせよレイアが雨の中を好まないので、瑞樹・由利のタッグも雨の日はお休みである。なのでこの面でも問題は無かったのだろう。


「あれ・・・でもそうなると、なぜここにいたんですの?」

「ユリィもどっか行っちゃったー」


 ソレイユは不満げに口を尖らせる。基本、フロドとソレイユは仲の良い兄妹であるが、依頼以外で一緒に行動する事は稀だ。それ故彼女はカイトの近辺だとカイトやユリィと一緒に居る事が多いわけで、カイトが出かけたのでユリィの所へ、と思ったらしいがそのユリィがどこかへ行ってしまったのだろう。と、それに驚いたのはカイトの方だ。


「あいつが? あいつ、雨の中に出掛ける程活動的な奴じゃないだろ? まさか学園で急用か?」

「ううん? ホームの中だよ。ちょっとのっぴきならない事態かもだから、出掛けてくるって」

「うん?」


 ソレイユから聞いたユリィの行動にカイトが首を傾げる。基本、彼女は大事な事でカイトに隠し事はしない。特に冒険部関連になると隠す事はしない。それなのに独自で行動するというのは、非常に珍しかった。


「・・・んー・・・」


 カイトはどうするべきか少しだけ考える。が、答えはすぐに出た。


「ま、あいつに任せるか」

「良いんですの?」

「相棒、だからな。あいつが語らずに動いてるって事はつまり、今は語れないって思ってるって事だ。なら、オレはそれを信じて待つさ。そこまで切羽詰った様子は無かったんだろ?」

「うん」


 カイトの問いかけにソレイユが頷いた。であれば、迷う必要なぞ皆無である。


「じゃ、問題ない。あいつがマジでやばくなったらオレにも分かる。が、そうじゃないのなら、大丈夫さ」


 カイトはそう言うと、歩き始める。一応書類仕事はまだ残っているし、出ている間に何かがあったかもしれない。一応、顔は出しておくべきだろう。そうして、彼は瑞樹とソレイユと共に、執務室へと戻っていく事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1114話『秋空の冒険部』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ